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第十九話 天王寺 光流の憂鬱。
しおりを挟む「よお!ちょー久しぶりだな我が子よ!」
「……」
「全く……そんな恐い顔して~
せっかくお父さんが帰ってきたんだから少しくらい喜んでくれてもいいと思うけどな」
「何で……帰ってきたんだよ」
「そりゃあ……俺ん家だもん」
二月初旬。ひょうきんな態度に、満面の笑みを張り付けて俺達の父親、天王寺 涼介(てんのうじ りょうすけ)が帰ってきた。
俺の表情は俄然険しいままだ。
父は昔からこうだ……人の気も知らないで、自分勝手にある日ひょっこり帰ってくる。
―――結希をあんな目に遭わせといて、大変なことになった時一番に逃げ出したくせに……
本当によくこの態度で帰ってこれるなと思う。
……勿論皮肉たっぷりだが。
すると父はヘラヘラとした態度で
「おい、光流そんなことより……結希はどこだ?もう何年も会ってないんだ。久しぶりに会いたいんだよ」
「てめえっ……!」
俺は体の奥から何かこみ上げてくるものを感じた。
そして、無意識に自分の親に掴みかかっていた。
「あ痛っ!……そんなに怒るなよ光流。俺達は親子だろ?」
「………っ!お前なんか!」
平常心を保てなくなりそうだった俺は掴んでいた胸ぐらを突き飛ばすようにして放す。
相も変わらず悪びれもしないこの態度……気にくわない。
それに、父が昔のまま帰ってきたことで、俺は思い出してしまっていた。
―――結希が壊れてしまったあの事件を……。
思い出すと、またあの頃の怒りが甦ってくる。
同時に、血液がどんどん上昇してくるのを感じる。
体は熱を帯びてきた。
そして俺は心のそこからこう思った。
……『絶対許さねえ』
俺は怒りに身を任せることにした。
「……お兄!もういいよ!」
「……っ結希!出てくるなって言っただろ!」
「おっ♪結希~!久しぶり」
俺があまりの怒りに父に向かって大きく拳を振りかぶっていたのとほぼ同時だろうか
……結希が、出てきてしまった。
きっとどこかで見ていて、少し頭に血が上りすぎていた俺を止めてくれたのだろう……。
(血が上りすぎていたといっても、別に俺は壁倒立をしているわけではない……)
お陰で少し落ち着いた俺は、結希にヒラヒラと手を振る親父を睨みつける。
……完全に肉親に対する目付きではない。
「お兄……もういいんだよ。私はもうパリピったから」
「結希、お前がされたことは割りきれるようなことじゃないだろ!許すことなんてない!
……あと、お前が出てくると数少ないシリアス回がギャグ回に……じゃなくてこいつの思うままだろうが!」
結希、どうしてお前は言い間違えてまでこいつを許せるんだ!
今、俺は怒りのせいか、プロレスラーの覆面を被って出てきた結希に突っ込みたいという思いよりも、疑問の念の方が大きかった。
まあ、結希は事件を割りきるどころか、テンション振りきれてパリピってるみたいだが……。
俺は結希が許しても許さない。
結希が超絶馬鹿非人類生命体になったのはこいつのせいなんだ……。
「お父さんも……もう帰ってよ」
「おいおい……水くさいこというなよ~、親子だろ?あんなことになったのも俺だけのせいってわけじゃないんだし」
「……黙れよ」
「お前だってあの時何もしなかったじゃないか」
「黙れ!」
「そうだよ!お兄は何も悪くない!夫妻だよ!(※夫妻×無罪〇)」
「黙れ!」
語らねばなるまい、あの話を。
この話は八年も前に遡る……。
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