妹の馬鹿さが既に恐怖の域に達している!?

筒猫

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第十八話 馬鹿妹でも恋がしたい!

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 「お兄……実は私は普通の人間じゃないのかもしれない」

 「そうだな」

 「普段は普通の女子中学生、しかしそれは菓子の姿!かくしてその本当の姿は!
(※普段は普通の女子中学生、しかしそれは仮の姿!かくしてその本当の姿は!)」

 「普通ではないけどな」

 「この水泳した歯科医に×を与えるペテン師、又の名を【沢木与えし者ケンドーオブジャンプメイト】!
(※この衰退した世界に罰を与える天使、又の名を【裁き与えし者エンドオブジャッチメント】!)」

 「ああ……」

  若葉が来てから数日が過ぎ、父親の襲来という嵐が来る前の静けさのような、いつも通りのある日のことだ。
 一月から二月に変わろうとしているこの時期の寒さがまた一段とパワーアップしたのに比例するように………俺の妹の馬鹿さもパワーアップしてしまった。

 見ての通り、中二病にかかってしまったのだ。

 ことの発端は、昨日結希が俺の部屋にあるライトノベルに興味を持ってしまったことだ。
 そして、よりによって結希がハマってしまったのは『世界を導く我が審判マイジャッチメント』という中二病作品。
 内容は、ごく普通の高校生の神谷 夜一かみや よいちがある日、神から自分がいざというときに世界を正すための天使だということを告げられ、天使として悪魔や堕天使と戦いながら、波乱の生活を送るというもので、「ここまで中二病を貫かれると、逆に面白い」と人気を集めている。
 よりによってこの作品に結希がハマってしまうとは……。

 しかも夜一になりきろうとして、全くなりきれていないのが逆に、馬鹿世界チャンピオンである結希の本領を発揮している。

 俺の目の前にいる結希は、これでもかというくらいに身体中に包帯を巻き、右手に封印どころかミイラのようになっていて、黒いコートがきたかったのだろうが、なかったらしく黒いビニール袋を身に付けている。
さながらハロウィーンの仮装のようだ。
 
 ……ハロウィーンは終わったぞ、結希。

 加えて、日常会話でさえおぼつかない結希には難しい単語を並べる中二病の話し方はいつにも増して難しいようで、もう混沌カオスな言葉になっている。
俺はあの小説を読んだことがあるから大体で察することが出来るが、読んだことない人が聞けば頭の上にハテナマークが軽く百は浮かぶだろう……。
……これを突っ込むには相当な気力が必要になるだろうな。

 でも、なんだかモヤモヤするし、一応突っ込んでおくか……


 水泳した歯科医に×ってなんだ!泳ぐくらいいいだろ!?
あとペテン師って言っちゃってるし!天使とは程遠いよ!
っていうかどんな立場で×つけてるんだ!先生か!先生なのか!?
ジャンプメイトって!明らかに特定の漫画しか読みませんよ的なあれか!?そうなのか!?
あと………沢木って誰だあああああっ!?
 以下ry

 しかし、このようにものすごく突っ込み燃費が悪い。
一つの突っ込みで表情が死んできた。

 俺は中二病ポーズではなく戦隊もののポーズをとっている結希を確認し、悟った。

 流石にこれは一人では凌げない……。

 俺は、増援を呼ぶことにした。

 ********

 「……で、私ですか。何だか最近お兄さんの便利屋さんみたいになってきてません?」

 「いやいや美香ちゃん、そ、そんな訳ないじゃないか!……っていうか、俺の周りで頼れる人なんて本当に情けない話だけど年下の美香ちゃんしかいないんだよ………いつもごめんね」

 「全く、そんな悲しそうな顔で言わないで下さいよ……怒れなくなるじゃないですか」

 またまた美香ちゃんに来てもらった。
 俺以外でまともに結希を相手に出来る生物は美香ちゃんしかいないだろう。 
 しかし、俺は年下の、しかも女の子に頼るしかない自分が悲しくなる。
 すると、美香ちゃんに気づいた覚醒結希は、物凄くイキイキとした様子でダッシュしてきた。

 「ふふ……よくきたな!我が点滴、ミカエル!
(※ふふ……よくきたな!我が宿敵、ミカエル!)」

 「まだ天敵と間違えてた方がよかったよ!」

 「えと……お、お兄さん。これは……どうなってるんですか?」

 あまり中二病の知識がない美香ちゃんには少し衝撃的だったようで、美香ちゃんは
口をポカンと開けて何か不思議なものをみるかのように結希を見ている……いや、実際結希が不思議なのだろうが。

 すると、流石の美香ちゃんも今の結希は見るに耐えなかったのか、駆け寄っていって包帯だらけの結希の肩を揺さぶる。

 「ねえ!いつも変だけど今日はいつにも増して変だよ?どうしたの結希!いつもの受け入れられる程度の馬鹿の結希に戻ってよおおお!無理だよ!こんな痛々しい親友見たくないよおおお!」

 「ふっ……これは我が真の姿なのだ……人間の娘よ」

 「何言ってるのかわかんないいいいっ!」

 美香ちゃんは今の結希が本当に受け入れられないのかいつもとは違い、錯乱している。
 いつものスルーの面影はない……

 ……あれ?増援呼んだ意味なくね?
 っていうか悪化してね?

 「結うううう希いいいいっ!戻ってええ!」

 「私の近くに寄るんじゃない!我が【下田の稼働ケープオブホース】により死んでしまうぞ!
(※私の近くに寄るんじゃない!我が【力の波動ウェーブオブフォース】により死んでしまうぞ!)」

 ……ああ、何だろう。なんだかとても面倒なことになった気がする。

 俺は二人から目を背けて一度大きく深呼吸をする。

 とりあえず


 ……下田って誰だああああああああっ!

 と、俺は大きく心の中で叫んだ。



 ※結希は次の日には元に戻りました。
 
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