妹の馬鹿さが既に恐怖の域に達している!?

筒猫

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第五話 Re:妹から始まる苦労生活。

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 「お兄!……えーと、お兄!」

 「用がないなら話しかけるな!……ったく」

 「あれ?お兄なんか今日機嫌悪い?……どうかしたの?この骨でカルシウム摂る?」

 結希は漫画でしか見ないような、犬がくわえて走る用みたいな骨を差し出してくる。
……いや、しゃぶらないぞ。そんな期待の目で見るな。

 まあ、強いていうなら常に妹のせいで機嫌は悪いが、今日は結希の言うとおり少し機嫌が悪い。
 いつものように家のソファーという定位置にいる俺だが、実は今日学校で、とても重要なことに気づいてしまったのだ。
 
 ……俺、このまま妹に構ってばっかりだと、一生結婚はおろか、彼女すら出来ない可能性がある。

 薄々気づいてはいたのだ。
この非自立生命体いもうとは俺が面倒を一生見なくてはいけなくなる。
そんな気はしていたが、それでも彼女が出来ないなんてはっきり言って嫌だ。

 そもそも何で真剣に物思いにふけっている兄の目の前ででんぐり返りを披露し始めるような妹のために俺の人生を捧げなければいけないんだ!

 そりゃあ俺だって彼女欲しいし、出来たらイチャイチャしてみたいよ!?

 何だか途端にやるせない気持ちになった俺は一人になりたくなった。
 でんぐり返りから後ろ回りになった妹は放っておいて、俺は二階の俺の部屋へ向かうことにする。
そして部屋に入るとそのままベッドに倒れ混んだ……。

 妹イラナイ彼女ホシイ。

 俺がこんな考えになった原因は今日の学校でのことが起因している……。

 ******

 その日の朝、俺はうさぎ跳をして登校する妹を複雑な顔で連れていく美香ちゃんに託し、俺が通う羽ノ野高校の1ー1の教室へとたどり着いた。
 もう朝から疲れまくっている。
主に、いやほぼ結希のせいで……。
 そんな俺は教室に着くやいなや即行自分の席に突っ伏した。

 「うわっ!天王寺どうした?聴覚、視覚を奪われた状態でサンドバッグにされたあとみたいな顔して!」

 ……どんな顔だ。っていうかどんな例えだ。すごい拷問方法だな。

 寝る準備をしていた俺に話しかけてきたのは、俺と親友と友達の中間位の間柄である布忍 瞬ぬのせ しゅんだ。
 こいつは俺の妹には到底及ばないが、相当な馬鹿で、能天気で天然なところがあるが、基本的にいいヤツだ。
そして、爽やかフェイスに運動神経抜群でモテる部分は大変嫌いだ。

 とりあえず今日は疲れているので関わらないで欲しいの顔をしておく。
こいつとは腐れ縁みたいなもので中学校からずっと同じクラスだ。

……きっと感じ取ってくれるだろう。

 「そう言えば昨日のお笑いみた?」

 ……当然通じない。分かってはいた。

 空気を読まないことに定評のある瞬が場の空気なんて察してくれる訳がない。
 ここはきちんと言葉にしなければ伝わらないようだ。
 俺は気だるげに答える。

 「……瞬。俺は昨晩も今朝も結希に振り回されて疲れてるんだ。
……頼む、放っといてくれ」

 「ああっ!あの面白いお前の妹な!」

 「ちっとも面白くないわ!」

 おっと、ついつい大声を出してしまった。
『結希を面白い』とは……本当に面白いことを言ってくれたものだ。
 1度瞬も結希の兄になってみればいいんじゃないだろうか?
……きっと大変な目……に?
いや、多分遭わないか。意気投合して馬鹿兄妹誕生で終了っぽいな。
 
 と、その後も軽い談笑をしていた俺たちのところへ可愛らしい女子が近づいてくる。

 ……瞬の彼女の古市 莉奈ふるいち りなだ。

 控えめな性格の大和撫子と言った感じの清楚な子で、俺もかつて憧れた時期があった。
俺が初めてこの子に会ったとき「これが女子か!」と衝撃を受けたものだ。
 近づいてきた莉奈は顔を真っ赤にして瞬に話しかける。
目の焦点が合っていないところがまた、彼女の純情を表しているといっても過言ではないだろう。

 「あの……ね、布忍くん。今日、実はお弁当二つ作ってて、昼休み一緒に食べてくれない、かな?」

 「えっ、いや俺は別に、良いけど……」

 「うん、ありがとう。じゃあまた昼休みね……」

 「おう、昼休みな」

 この二人はいつもこんな感じで付き合ってからも、漫画のような甘酸っぱい距離感で恋愛している。
……結構派手目に爆発してくれないかな。

 いや、俺だって妹さえいなければ彼女だってきっと……?

 妹さえいなければ?

 *****

 ……と、こういった具合で俺は現在、
妹にばかり構っていていいものかと悩んでいるのだ。
すると、ドタドタといううるさい足音が聞こえたと同時だろうか?
俺の部屋のドアが開く。
……やはり結希だ。
手には何か、何とも形容しがたい気持ち悪い何かを持っている。

 「はい!これお兄に!私の手作りクッキー!」

 クッキー?この生命の破滅をもたらしそうな物体が?
 
 妹はそれを少し遠慮がちに手渡してきた。

 ……いやいや無理無理食えない!兄の命が刈り取られてしまう!

 「お兄今日何か怒ってたから許してほしくて……」

 上目遣いという美少女特権を乱用する結希。
……しかし、上目ではなくそれは白目だぞ、結希。

 俺は、こんなにも純粋?いや、馬鹿な妹を放っておくつもりだったのか?

 「……ふっ」

……妹さえいなければなんて考えても無駄なことはもう考えないでおこう。

―――大事なのは結希とどうやって向き合うかだよな……。

 俺は無言で差し出してきたクッキーを食べた。

 ……ん?これは案外いけ

 バタッ

 「あれ?お兄!お兄いいいいっ!?」

 俺が目覚めるのは数時間後の話。

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