精霊の加護

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精霊の加護157 王教トップ会談

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精霊の加護
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№157 王教トップ会談

 国境の町ミュンヒェーの女領主、アーデルハイド・ミュンヒェーは、王太子殿下率いる俺たち一行を、わざわざ大手門まで出迎えに来ていた。

 俺たち一行は、そのまま領主館に案内された。俺と精霊たち、わが妻たち、ガキンチョ5人組、教国への外交使節団は一緒。護衛の騎士団員たちは控室に詰めており、帝国謀反貴族の子息子女9名は別室で厳重な監視下に置かれている。
 ハイジの方は、ハイジの隣にクララ、そしてその隣にジーク。ヴォルは護衛の立場で控えていた。

「王太子殿下、よくお出で下されました。」
「うむ。出迎え大儀。」
「殿下、わらわの世継を紹介いたしたく。」
「うむ。苦しゅうない。」
「わが世継、クラーラでござりまする。」
「王太子殿下、お初にお目に掛かります。アーデルハイド・ミュンヒェーが末子、クラーラ・アーデルハイドでござりまする。」
「末子の女子に継がせるのかるのか?」
「はい。クラーラが一番魔術に長けておりますゆえ。『森の大魔女』と言われておるわらわにちなんで『森の小魔女』と呼ばれておりまする。」
「ほう。魔術師とな。」
「はい。金属魔法の雷を得意としておりまする。」
「なるほど、氷の大魔女に、雷の小魔女か。ところでミュンヒェー卿には嫡男がおらなんだかな?」

「おお、よくご存知でござりまするな。これなるが長男のジークフリードでござりまする。分別者ゆえ、クラーラの宰相を務めさせまする。斧を得物とする戦士でござりまする。」
「ほう。戦士で宰相か。」
「ジークフリードでございます。以前、王都での子弟披露目の儀の際にお目に掛かりました。」
「左様か。」あ、このリアクション。覚えてないな、殿下は。笑
「それともうひとり、次男がおりますが、粗忽な未熟者ゆえ、兵役で鍛え直しておりまする。」ハイジはこの場の護衛をしているヴォルのことを紹介する気はないようだ。しかしヴォルは顔色ひとつ変えずに、護衛の任に徹している。以前、ラスプ村に来たときも分別があったので、大分、性根を入れ替えたと見える。

「お、ヴォルじゃないか。」俺はヴォルに声を掛けた。ギョッとするヴォル。
「これは、スピリタス候。その節はお世話になりました。」
 ん?と言う顔で俺を見る殿下。
「殿下、ハイジの次男のヴォルです。ハイジが俺の侯爵就任祝いにラスプ村へ来てくれたんですが、その際の先触れの隊長を任されていました。
 な、ハイジ。」
「殿下、ヴォルは護衛の任務中ゆえ、紹介は後刻と思っておりましたが、ゲオルク様にご紹介頂きました通り、次男のヴォルフガングでござります。護衛を任せておりまする。」
「殿下、ヴォルフガング・ミュンヒェーであります。」と言って敬礼しただけだった。場を弁えてるのな。
「左様か。励めよ。」
「はっ。」

「ところで殿下、昨日、先触れの鳩便が参りましたが、教国の一行が到着するのは明日の予定でござりまする。教皇以下、かなりの人数のようでござりまする。」
「左様か。では明日は晩餐会の準備をな。ミュンヒェー卿、世話を掛ける。」
「ははっ。光栄でござりまする。」

 殿下は、明日が晩餐会って言ったのに、今夜も晩餐会と言ってもおかしくない豪華な料理が並んだ。ハイジめ、相当気合入ってやがる。苦笑

 ハイジの左隣は殿下、その隣は俺、俺のまわりに精霊たち。ハイジの右隣はクララ、ジーク。ヴォルはいない。さっきの紹介のときもそうだが、ヴォルはまだ許されてないのな。
 ガキンチョ5人組と、わが妻たちは、それぞれ同じテーブル。ハイジの重臣たちも、別のテーブルで参加していたが、情夫3人はいない。まぁ、情夫だしな。

「ゲオルク様には、本当にお世話になっておりまする。」
「ふむ。東部公から聞き及んだのだが、ミュンヒェー卿はゲオルクの一番寄子になったとか。」
「はい。ゲオルク様には大恩がござりますれば。」
「大恩とな?」
「両親の仇討ちでござりまする。本懐を遂げさせて頂きました。」
「はて?犯罪奴隷にしたと言う報告を受けておったが、討ち果たしたのか?」
「いえ、終生犯罪奴隷として罪を償わせまする。生かしておいても、十分本懐を遂げたのでござりまするよ。」
「ゲオルク、どう言うことだ?」
「はい、殿下。帝国へ圧力を掛けるためにひと芝居打ったではございませんか。」
「そなたのやった焚刑のことか?」
「そうです。あれで、連中は地獄の苦しみを味わいましたからね。」
「なるほどな。」

 ハイジの両親の先代ミュンヒェー伯夫妻は、20年以上前、王国に対して敵対政策を取っていた前教皇の放った刺客により暗殺されたのだ。当時まだ10代後半だったハイジは、ひとり娘と言うことでミュンヒェー辺境伯の家督を継ぎ、人には言えない苦労も、たくさんして来た。
 俺が、精霊魔法で教国へ威嚇攻撃をしたことで、俺は「精霊を従え、自在に操る神の使徒様。」と教国の民から誤解された。これにより、反王国政策を取っていた前教皇は、神の意思を解さぬ偽教皇と言うレッテルを貼られて、一気に失脚したのだ。
 親王国派の新教皇は、20年以上前の先代ミュンヒェー伯夫妻暗殺の首謀者として前教皇とその取り巻き、そして連座した者として70名近くを捕らえた。
 おそらく「神のご意思」と言う大義名分の下、拷問やら、証拠のでっち上げやら、偽の証言やらで、反対勢力を一掃したものと、俺は睨んでいる。

 前教皇とその取り巻きは、俺の指示を受けたハイジの下知で、教都の民衆を前に、焚刑に処されたのだ。もっともその間、裏ではヒールやら、リペアやらの回復呪文を掛けまくっていたがな。
 前教皇たちは、焚刑と言う地獄の苦しみの中、大火傷は負ったものの、回復魔法で癒され、現在は犯罪奴隷として終身刑に服している。

 そんな話が続き、晩餐会並みの夕餉が終わって、俺たちはあてがわれた部屋に引き上げた。
 ハイジの館だしな、遠慮することはない。その晩、発情期のトーラと生で致してから、リーゼとジュヌも美味しく頂いた。と言うか、俺が頂かれたと言うべきか。笑

 で、翌朝。
「ゲオルク様、昨夜はお盛んでござりましたな。」ハイジが朝っぱらからいきなりぶっ込んでき来た。苦笑
「そっちもな。」俺もやり返す。
「ふふふ。ところで回復魔法やバフの魔法は使っていませんでしょうな。」
「ああ。『回復魔法やバフ魔法を使ってのまぐわいは命を縮める元凶。』と言う、『閨中心得』の戒めを肝に銘じているよ。
 それにさ、四十八手も参考になってるんだ。ほんとにいい本くれたよな。ありがとな。」
 この「閨中心得」は、ハイジの愛読書で、写本を贈られたのだが、実に重宝している。笑
「それはようござりました。わらわも毎夜、情夫どもといろいろ試しおりまする。」情夫ども・・って…。閨の相手は複数形がスタンダードかよ。相変わらずだなぁ。ま、俺もだけど。笑

 昼餉を摂った後に、新教皇一行がミュンヒェーに到着して、早速、会見の場が設えられた。ここに、王国皇太子と教国新教皇の歴史的会談が成立したのだ。
「殿下、教皇様です。」俺が紹介すると、
「教皇猊下、よくお出で下された。余が、トレホス王国皇太子ミカエル・パリセイユ・トレホスである。お見知りおき願いたい。」
「ミカエル殿下、お出迎え、ありがとうございます。私が神聖ニュシト教国教皇、オスマン13世です。」
 へぇー、新教皇様は、オスマン13世って名前だったのか。なんか今更だけどな。ずーと教皇様って呼んでたから、名前は知らんかった。苦笑

 それから殿下と教皇様は会議室に移動して、俺とアイチャも呼ばれた。もちろん俺には精霊たちがついて来てるけどな。
 その精霊たちに、教皇様以下教国の一行は、恭しく最敬礼をしている。教国の人たちから見ると、精霊たちは神の眷属なのだ。

 会議室では、王国サイドは殿下と俺、そして外交使節団の役人。教国サイドは、教皇様とアイチャ、俺と面識がある教皇様側近の神官たち。
 ハイジは政務でいない。わが妻たちもあてがわれた部屋に戻って行った。

 殿下が切り出した。
「この度は、帝国謀反貴族の子息子女をお引き受け頂き、忝い。イゴール帝からも、よろしくお礼を伝えて欲しいと承っておる。」
「イゴール帝は慈悲深いお方ですね。謀反貴族家の子息子女であれば、処刑されるのが常ですが、特赦でご助命なされるとは。
 使徒様のお計らいですかな?」
「教皇様、違いますよ。イゴール帝から助命したいと相談されて、教皇様のお慈悲におすがりしたんです。」
「お慈悲だなんてそんな。善行のお手伝いをするのは聖職者の務め。もちろん、使徒様の御依頼ゆえ、私に否やはありません。」
「帝国は、特赦の子息子女9名を保護、養育して頂くにあたり、ひとり年間大金貨5枚の喜捨を致すとのこと。この条件でよろしいかな?」
「過分なご喜捨、イゴール帝に感謝いたします。」
「では、向こう5年分として、大白金貨2枚、白金貨2枚、大金貨5枚を、イゴール陛下より預かって来ておるので、お改め頂きたい。」
 殿下のこの言葉を聞いて、役人がすすーっと袱紗に包んだ現ナマを教皇様に差し出した。
 教皇様は袱紗には見向きもせず、お付きの神官たちに眼で合図すると、神官たちは袱紗を開いて中を確認し、受取証を書いた。

「さて、教皇猊下、今後の王教同盟のあり方について確認したいのだが、現状のままでよろしいか?」
「使徒様の御心のままに。」え?俺?
「教国としての要望はないのだろうか。こちらの希望との間に差があれば、すり合わせて行きたいのだが?」
「使徒様の御心のままに。」
「ではゲオルク。現状のままでいいか?」
「え?俺が答えるんですか?」
「猊下はそなたに一任しておると申されているではないか。」いやいやいやいや。
「殿下、一任ではございません。御心のままにと申しました。一任するでは、こちらが使徒様と対等になってしまいます。われらは、精霊神様の僕。そして精霊神様の化身たる使徒様の僕。使徒様の申されることに否やはないのです。」
「猊下、相すまぬ。余の言葉が足りなんだ。
 ゲオルク、猊下の思し召しだ。王教同盟についてのそなたの存念を述べよ。」
「待って下さい。俺は教国の現状を知りませんので、おいそれとは口にできませんよ。
 教皇様、ご希望を聞かせ下さい。」

「さればでございますな。使徒様の御命令ゆえ、お答え致します。現在の王教関係は、王国が盟主的立場ではありますが、教国を尊重してくれていますので、満足しております。今後もこの関係を続けて行ければと思います。
 将来的にも、教国を属国として扱うことがないとありがたいです。」
「だそうです。殿下。」
「もちろんそれは約束しよう。わが王家では子々孫々まで『王国は盟主なれども主君に非ず。』と申し伝えおくことを約束する。」
「それはありがたいことですな。それと、教王同盟に基づく交易の活性化、人材交流などを、今以上に盛んにして頂きたいです。」
「もちろんそれは、こちらも希望するところ。また、交易では王都経由での教国と帝国の交易や人材交流もいかがであろうか?そのためには、教帝同盟を結んで頂きたいのだが。教皇猊下、いかがかな。」
「使徒様の御心のままに。」またかよ!
「では殿下にお答えするにあたり、教国の希望をお聞かせ下さい。」
「さればでござりまするな…。」

 ずっとこんな感じのやり取りが続いたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/12/18

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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