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精霊の加護103 格の違い
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精霊の加護
Zu-Y
№103 格の違い
~~ゲオルク学校目線・西府~~
西府からバレンシーへ向けてスピリタス一行が出発した2日後の夕刻、ゲオルク学校は依頼を達成できないまま、とぼとぼと重い足取りで、リャビーセ村から西府ギルドに帰還した。
「なぁ、ホルヘ。これって俺たちはクエスト失敗になるのかな?」
「いや、クレイジーウルフが現れないんだから討伐しようがないよ。そこはギルドへ報告するさ。」
「だよな。失敗って言われたら納得できねーよ。」
「そうよね。失敗にされたら確かに納得いかないわ。ところで、師匠たちはギルドにいないようね。まだ帰ってないのかしら?」
「リャビーセ村でも会わなかったし、師匠たちもクレイジーウルフが見付からなくて、捜し回ってるのよ。」
「きっとそうよね。そしたら、今回の勝負は引分けかしらね?」
「案外さ、俺たちが着く前に師匠たちが全部狩り終えてたりしてな。」
「アル、いくら師匠でも流石にそれはないさ。」
「そうよ、ホルヘの言う通りよ。もし師匠たちが全部を狩り終えてたら、師匠たちはギルドにいるはずでしょ?」
「いやいや、俺たちを待ち切れずに出発してるかもしれないぜ。」
「何言ってんのよ。賭けの結果比べが残ってるじゃないの。」
「ま、俺たちゃ坊主だから、1頭でも仕留められてたら負けだけどな。」
ゲオルク学校の面々は雁首揃えて受付に行って、クエストを達成できなかったことを報告したのだが…、
「クレイジーウルフが1頭も現れなくてな、狩りようがなかったんだ。こういう場合は失敗扱いなのか?」
「このクエストなら共同で受けたスピリタスの皆さんが3日前に達成報告してますから、皆さんも達成扱いですよ。」
「まじか?でも3日前ってクエストを受けた次の日ってことだよな?」
「はい。クエスト受けた翌日の昼過ぎに52頭の討伐報告ですから、それ以来、ギルド内はその噂で持ち切りですよ。」
「「「「「えー!52ー?」」」」」
「うふふ。最初に聞いた人はみんなそのリアクションですなんですよね。もうスピリタス伝説で語り継がれますよ。」
「「「「「…。」」」」」
「あ、そうそう、皆さんにゲオルクさんから手紙と金貨5枚を預かってます。」
「「「「「え?」」」」」
~~ゲオルクからの手紙~~
親愛なる弟子諸君
ようやく帰って来たか?どうせクレイジーウルフは1匹も狩れずに坊主なのだろうな。
それはそうだ。俺が精霊たちに魔力の一斉放出をさせて、残っていたクレイジーウルフのはぐれ個体をすべて追い払ったからな。
俺たちは馬車だったから、クエストを受けたその日の昼にリャビーセ村に着いた。リャビーセ村が近付いたところで、俺たちは精霊たちを索敵に出し、6つの巣穴を見付けた。
夜行性のクレイジーウルフは、昼は巣穴で寝ているから、6つの巣穴のすべてを各個撃破だな。順に精霊魔法で奇襲し、52頭を一網打尽にしてやったのさ。
要するに6群で52頭を、お前たちがリャビーセ村に徒歩で向かっている最中に狩り終えていたと言う訳だな。
15倍のハンデがあったから、お前らに4頭狩られたら俺たちの負けだ。もう群れは残ってなかったから、残りは群れに属さないはぐれ個体だけだ。それを精霊たちに魔力を一斉放出させて追い払った。精霊たちの威嚇で逃げ去ったはぐれ個体どもは、当分の間、リャビーセ村には寄り付かないだろう。
ホルヘは上手く俺からハンデを引き出したが、俺はいくらでもハンデをくれてやるつもりだった。0は何倍しても0だからな。ハナからお前らを坊主に追い込む計画だったのさ。
ずるいとか言うなよ。勝負とはこういうものだ。
今回のお前らの敗因はもう分かるよな。馬車を使わなかったことだ。俺を相手に、俺に工作する時間を、半日も与えたのがお前らの敗因だよ。
無駄遣いをせずに節約するマチルダとレベッカとルイーザの心掛けはいい。しかしな、必要な出費を削ってはダメだ。それは節約とは言わない。
お前らが徒歩にするか馬車にするか相談していたときに、ホルヘが俺に半日遅れたくないから馬車がいいと言ってたな。それからアルが疲れるから馬車にしようとも言っていた。
今回は、あれが正解だ。
いいか?馬車を使って半日で行けば、午後を休んでクレイジーウルフが活動する夜には、討伐行動を起こすことができる。それを徒歩で1日掛けて移動したら、疲れを取るためにその晩は休まなければならない。そこに1日の差ができる。
お前らだけで受けたクエストならそれでもいいが、俺たちと成果を競っていた訳だから、1日の出遅れは致命的だ。
俺たちがクレイジーウルフを一網打尽にしていなくても、俺たちが先にどんどん狩れば狩る程、お前らが狩れる群れは確実に減るんだ。お前らはそこを甘く考えていた訳だ。
それとな、15倍につられてひと群狩れば勝ちだと油断していただろ?あの油断を誘うのが、俺が倍率をホルヘの言い値で上げた真の理由だ。ひと群狩れば勝ち。確かにその通りだが、俺はそこを逆手に取って、お前らを坊主に追い込んだ。1頭も狩らせなきゃ、俺たちの勝ちだからな。
それからホルヘ。皆の意見で決めるのもいいが、リーダーなら大事なところは自分で決断しろ。皆に意見を聞くのは、お前が決断から逃げていると言うことと変わりない。意見が割れたらそれこそまとまらなくなるぞ。
今回の教訓だ。しっかり覚えとけ。
節約は大事だが、必要なときは迷わずドンと使え。
勝負のときに出足で負けたら勝負にも負ける。
ここ一番はリーダーが責任を持って決断しろ。
俺たちはちょっとした任務があるから、今日西府を発つ。どうせ明後日にならなきゃ帰って来ないお前らを待つのは時間の無駄だからな。
それとクレイジーウルフ52頭がかなりの稼ぎになったから、祝儀としてひとり金貨1枚をやる。Dランクへの昇格祝いだ。上手いもんでも食って次の日のクエストに備えろ。
じゃあ達者でな。そのうちまた会えるだろうよ。
まだまだ未熟な弟子諸君の師匠 ゲオルク
~~ゲオルク学校・西府~~
「参ったな。俺はリーダー失格だな。」
「そんなことはないわよ。」
「そうよ、ホルヘは十分にやってるわ。」
「まさか、アルの予想通りだったなんてね。私たち、まるで子供扱いよね。」
「いや、ありゃ冗談で言ってたんだ。まさか俺たちを坊主にする作戦だったとはな。ちくしょう完全に、師匠に出し抜かれちまった。」
「だなー。俺たち、師匠の掌で踊らされてた訳だ。なんだかなー、格の違いを見せ付けられたって気がするよ。」
そこへどやどやと、役人の集団が入って来た。
「ゲオルク・スピリタス卿はいませんか?」
「ひょっとして王都のお役人様ですか?」受付嬢が声を掛けた。
「いかにも。スピリタス卿はどちらにいらっしゃるのだ?」
「ご伝言を承っております。『先に行く。早く追い付け。来なければ置いて行く。』とのことです。」
「いつ発たれたのだ?」
「一昨日ですね。明日にはバレンシーに着くと思いますよ。」
「なんと言うことだ!」
「なあ、役人さん。護衛はいるのか?バレンシーに行くなら護衛があった方がいいぞ。つい数日前、あんたらが捜しているスピリタス卿がこの辺りでクレイジーウルフを52頭も狩ったんだぜ。」アルが役人たちに交渉を始めた。
「クレイジーウルフがそんなに?西府の近くなのにか?」
「ああ、リャビーセ村では牛が10頭近く襲われる被害が出てるぜ。」
「「「「「…。」」」」」
「よかったら俺たちを護衛に雇わないか?俺たちはスピリタス卿の弟子なんだよ。普段はスピリタス卿を師匠と呼ばせてもらってるんだ。」
「真か?」
「ああ。俺たちのパーティ名はゲオルク学校。師匠が…じゃなかった、スピリタス卿が、貴族様になられる前からの弟子でさ、師匠の名前をパーティ名に頂戴するくらい、師匠には目を掛けてもらってるんだよ。
おい、ホルヘ。こちらのお役人さんに師匠からの手紙を見せてやんな。」
「おう。」ホルヘが役人にゲオルクからの手紙を渡した。役人が眼を通す。
「間違いない。スピリタス卿の手蹟だ。」
「護衛料はひとり金貨1枚でいいぜ。俺たちゃ5人パーティだから金貨5枚な。」
「法外な。」
「何が『法外な。』だよ。この先はキングシンバも出るぞ。それに、俺たちは師匠…じゃなかった、ゲオルク卿からも、一緒にクエストをこなした分け前として、これから金貨5枚を頂くとこなんだぜ。」
「なんと!」
「師匠とクレイジーウルフを狩る勝負をしてな、まぁコテンパンに負けちまったが、健闘を称えてくれた師匠が、ギルドに祝儀として金貨5枚を預けて行ってくれたんだよ。嘘だと思うんなら、受付で聞いてみな。」
「分かった。ゲオルク卿と力比べをするほどの手練れなら、確かに金貨5枚は安いかもしれんな。」
「じゃあ決まりな。俺は狂戦士のアルフォンソ。アルと呼んでくれ。こいつがリーダーのホルヘ。軽歩兵だ。あと、剣士のマチルダ、魔術師のレベッカ、神官のルイーザだ。師匠の足元にも及ばないけどよ、皆、そこそこやるぜ。よろしくな。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
「アル、あんた見直したわ。」マチルダがアルを見て言った。
「まぁな、俺はやるときゃやる男だぜ。」
「そうやってすぐ調子に乗らなきゃ、そこそこカッコいいのにね。そう言うところがまだまだガキなのよ。少しは師匠を見習いなさい。」
「ちぇっ。なんだよ。」
ホルヘとレベッカとルイーザが爆笑した。
アルが珍しく機転を利かせて、役人たちに護衛としてゲオルク学校を売り込み、金貨5枚で護衛契約を結んだ翌日の夕方、ゲオルクたちは国境の町バレンシーに到着したのだった。
~~ゲオルク目線・国境の町バレンシー~~
「主様、今宵こそは子種を所望じゃ。一昨日から満月前後の発情期じゃと言うに、旅先ゆえ我慢せねばならなかったからの。」
「おう。」ドーラからの妖しい誘いを受けて、今宵のむふふな展開に思いを馳せ、テンションが上がる俺。
ドーラは龍人の形態を取っているが、その正体はエンシェントドラゴンなので、満月とその前後の3日間だけ、発情期に入る。
スピリタスのルールで、旅先や野営中は、まわりを警戒して、むふふな展開はなしなのであるが、長距離移動を終えて、町の宿屋に入った晩に限って、夫婦の営みが解禁される。まあ大概はお口でなのだが…。
昨日が満月だったので、今日が発情期の最終日。ドーラはそれを言っているのだ。
俺たちはバレンシーの領主館を訪ねた。
「やはりゲオルクどのでしたか!王国の外交馬車が町に入って来たと言うので、もしやと思っていました。いよいよ帝国へ、本格的な圧力を掛けに行くのですな?」
「サルバドールどの。久しいな。誤解しないで欲しいが、帝国へは同盟を締結に行くのだ。」
「おや、属国にしに行く。の間違いでは?」バレンシー辺境伯である、サルバドール・バレンシーはニヤリと笑った。
「殿下は敢えて王帝同盟と仰っている。先頃結んだ王教同盟に続き、この同盟がまとまれば、その後は、我が国の仲立ちで教国と帝国も同盟させ、王教帝三国同盟に持って行くおつもりだと、俺は見ている。」
「殿下は大陸を同盟で統一するおつもりですか。なんとも壮大な計画ですな。
そうそう、伯爵へのご昇進、おめでとうございます。とんとん拍子で、羨ましい限りですな。」
「まあその分、殿下にはこき使われてるがね。」
「ところで、随行の役人たちはいないのですかな?」
「王都でチンタラしてるので置いて来た。今頃泡を食って追い掛けて来てるんじゃないかな?数日待って来なければ俺たちだけで行くよ。」
「ふふふ。やはり。」
「やはり?」
「殿下から鳩便が来ましてな。『ゲオルクどのがそう言うから、随行する役人が到着するまでバレンシーに留め置け。』とのご命令なのです。」
「ちっ。やられた。」殿下に先を読まれたか。
「まあまあ、先立ってご来訪頂いたときの分も合わせて、歓待させて頂きます。それと、ご滞在は宿屋ではなく、当家の客間にして頂きますぞ。よろしいですな。」
「殿下の差し金では、俺たちが先発しては、サルバドールどのにご迷惑をお掛けするな。サルバドールどの、世話になる。」
「では客間にご案内させましょう。」
辺境伯と伯爵では辺境伯が立場は上なのだが、先立っての訪問で精霊魔法の威力を見せ付けて以来、サルバドールどのは俺に敬語を使う様になった。俺はため口だがな。
サルバドールどのへの挨拶を終え、俺は辺境伯館の客間に通された。そこそこの広さだ。
精霊たちが『『『『『『『『お風呂ー。』』』』』』』』と騒いで、浴室に案内してもらうと、なかなか立派なものだった。精霊たちはすっかりご機嫌である。
ちなみにわが妻たちも一緒に入浴したのだが、ドーラがマイドラゴンを見て舌なめずりをしていた。苦笑
夕餉はサルバドールどのに招かれて、盛大な宴となった。そこでサルバドールどのの正室と嫡男を紹介された。
そしてその晩、発情期のドーラとひとつになり、残りの妻たちにはお口でご奉仕してもらったのだった。もちろん俺も指と舌を駆使したけどな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/8/14
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№103 格の違い
~~ゲオルク学校目線・西府~~
西府からバレンシーへ向けてスピリタス一行が出発した2日後の夕刻、ゲオルク学校は依頼を達成できないまま、とぼとぼと重い足取りで、リャビーセ村から西府ギルドに帰還した。
「なぁ、ホルヘ。これって俺たちはクエスト失敗になるのかな?」
「いや、クレイジーウルフが現れないんだから討伐しようがないよ。そこはギルドへ報告するさ。」
「だよな。失敗って言われたら納得できねーよ。」
「そうよね。失敗にされたら確かに納得いかないわ。ところで、師匠たちはギルドにいないようね。まだ帰ってないのかしら?」
「リャビーセ村でも会わなかったし、師匠たちもクレイジーウルフが見付からなくて、捜し回ってるのよ。」
「きっとそうよね。そしたら、今回の勝負は引分けかしらね?」
「案外さ、俺たちが着く前に師匠たちが全部狩り終えてたりしてな。」
「アル、いくら師匠でも流石にそれはないさ。」
「そうよ、ホルヘの言う通りよ。もし師匠たちが全部を狩り終えてたら、師匠たちはギルドにいるはずでしょ?」
「いやいや、俺たちを待ち切れずに出発してるかもしれないぜ。」
「何言ってんのよ。賭けの結果比べが残ってるじゃないの。」
「ま、俺たちゃ坊主だから、1頭でも仕留められてたら負けだけどな。」
ゲオルク学校の面々は雁首揃えて受付に行って、クエストを達成できなかったことを報告したのだが…、
「クレイジーウルフが1頭も現れなくてな、狩りようがなかったんだ。こういう場合は失敗扱いなのか?」
「このクエストなら共同で受けたスピリタスの皆さんが3日前に達成報告してますから、皆さんも達成扱いですよ。」
「まじか?でも3日前ってクエストを受けた次の日ってことだよな?」
「はい。クエスト受けた翌日の昼過ぎに52頭の討伐報告ですから、それ以来、ギルド内はその噂で持ち切りですよ。」
「「「「「えー!52ー?」」」」」
「うふふ。最初に聞いた人はみんなそのリアクションですなんですよね。もうスピリタス伝説で語り継がれますよ。」
「「「「「…。」」」」」
「あ、そうそう、皆さんにゲオルクさんから手紙と金貨5枚を預かってます。」
「「「「「え?」」」」」
~~ゲオルクからの手紙~~
親愛なる弟子諸君
ようやく帰って来たか?どうせクレイジーウルフは1匹も狩れずに坊主なのだろうな。
それはそうだ。俺が精霊たちに魔力の一斉放出をさせて、残っていたクレイジーウルフのはぐれ個体をすべて追い払ったからな。
俺たちは馬車だったから、クエストを受けたその日の昼にリャビーセ村に着いた。リャビーセ村が近付いたところで、俺たちは精霊たちを索敵に出し、6つの巣穴を見付けた。
夜行性のクレイジーウルフは、昼は巣穴で寝ているから、6つの巣穴のすべてを各個撃破だな。順に精霊魔法で奇襲し、52頭を一網打尽にしてやったのさ。
要するに6群で52頭を、お前たちがリャビーセ村に徒歩で向かっている最中に狩り終えていたと言う訳だな。
15倍のハンデがあったから、お前らに4頭狩られたら俺たちの負けだ。もう群れは残ってなかったから、残りは群れに属さないはぐれ個体だけだ。それを精霊たちに魔力を一斉放出させて追い払った。精霊たちの威嚇で逃げ去ったはぐれ個体どもは、当分の間、リャビーセ村には寄り付かないだろう。
ホルヘは上手く俺からハンデを引き出したが、俺はいくらでもハンデをくれてやるつもりだった。0は何倍しても0だからな。ハナからお前らを坊主に追い込む計画だったのさ。
ずるいとか言うなよ。勝負とはこういうものだ。
今回のお前らの敗因はもう分かるよな。馬車を使わなかったことだ。俺を相手に、俺に工作する時間を、半日も与えたのがお前らの敗因だよ。
無駄遣いをせずに節約するマチルダとレベッカとルイーザの心掛けはいい。しかしな、必要な出費を削ってはダメだ。それは節約とは言わない。
お前らが徒歩にするか馬車にするか相談していたときに、ホルヘが俺に半日遅れたくないから馬車がいいと言ってたな。それからアルが疲れるから馬車にしようとも言っていた。
今回は、あれが正解だ。
いいか?馬車を使って半日で行けば、午後を休んでクレイジーウルフが活動する夜には、討伐行動を起こすことができる。それを徒歩で1日掛けて移動したら、疲れを取るためにその晩は休まなければならない。そこに1日の差ができる。
お前らだけで受けたクエストならそれでもいいが、俺たちと成果を競っていた訳だから、1日の出遅れは致命的だ。
俺たちがクレイジーウルフを一網打尽にしていなくても、俺たちが先にどんどん狩れば狩る程、お前らが狩れる群れは確実に減るんだ。お前らはそこを甘く考えていた訳だ。
それとな、15倍につられてひと群狩れば勝ちだと油断していただろ?あの油断を誘うのが、俺が倍率をホルヘの言い値で上げた真の理由だ。ひと群狩れば勝ち。確かにその通りだが、俺はそこを逆手に取って、お前らを坊主に追い込んだ。1頭も狩らせなきゃ、俺たちの勝ちだからな。
それからホルヘ。皆の意見で決めるのもいいが、リーダーなら大事なところは自分で決断しろ。皆に意見を聞くのは、お前が決断から逃げていると言うことと変わりない。意見が割れたらそれこそまとまらなくなるぞ。
今回の教訓だ。しっかり覚えとけ。
節約は大事だが、必要なときは迷わずドンと使え。
勝負のときに出足で負けたら勝負にも負ける。
ここ一番はリーダーが責任を持って決断しろ。
俺たちはちょっとした任務があるから、今日西府を発つ。どうせ明後日にならなきゃ帰って来ないお前らを待つのは時間の無駄だからな。
それとクレイジーウルフ52頭がかなりの稼ぎになったから、祝儀としてひとり金貨1枚をやる。Dランクへの昇格祝いだ。上手いもんでも食って次の日のクエストに備えろ。
じゃあ達者でな。そのうちまた会えるだろうよ。
まだまだ未熟な弟子諸君の師匠 ゲオルク
~~ゲオルク学校・西府~~
「参ったな。俺はリーダー失格だな。」
「そんなことはないわよ。」
「そうよ、ホルヘは十分にやってるわ。」
「まさか、アルの予想通りだったなんてね。私たち、まるで子供扱いよね。」
「いや、ありゃ冗談で言ってたんだ。まさか俺たちを坊主にする作戦だったとはな。ちくしょう完全に、師匠に出し抜かれちまった。」
「だなー。俺たち、師匠の掌で踊らされてた訳だ。なんだかなー、格の違いを見せ付けられたって気がするよ。」
そこへどやどやと、役人の集団が入って来た。
「ゲオルク・スピリタス卿はいませんか?」
「ひょっとして王都のお役人様ですか?」受付嬢が声を掛けた。
「いかにも。スピリタス卿はどちらにいらっしゃるのだ?」
「ご伝言を承っております。『先に行く。早く追い付け。来なければ置いて行く。』とのことです。」
「いつ発たれたのだ?」
「一昨日ですね。明日にはバレンシーに着くと思いますよ。」
「なんと言うことだ!」
「なあ、役人さん。護衛はいるのか?バレンシーに行くなら護衛があった方がいいぞ。つい数日前、あんたらが捜しているスピリタス卿がこの辺りでクレイジーウルフを52頭も狩ったんだぜ。」アルが役人たちに交渉を始めた。
「クレイジーウルフがそんなに?西府の近くなのにか?」
「ああ、リャビーセ村では牛が10頭近く襲われる被害が出てるぜ。」
「「「「「…。」」」」」
「よかったら俺たちを護衛に雇わないか?俺たちはスピリタス卿の弟子なんだよ。普段はスピリタス卿を師匠と呼ばせてもらってるんだ。」
「真か?」
「ああ。俺たちのパーティ名はゲオルク学校。師匠が…じゃなかった、スピリタス卿が、貴族様になられる前からの弟子でさ、師匠の名前をパーティ名に頂戴するくらい、師匠には目を掛けてもらってるんだよ。
おい、ホルヘ。こちらのお役人さんに師匠からの手紙を見せてやんな。」
「おう。」ホルヘが役人にゲオルクからの手紙を渡した。役人が眼を通す。
「間違いない。スピリタス卿の手蹟だ。」
「護衛料はひとり金貨1枚でいいぜ。俺たちゃ5人パーティだから金貨5枚な。」
「法外な。」
「何が『法外な。』だよ。この先はキングシンバも出るぞ。それに、俺たちは師匠…じゃなかった、ゲオルク卿からも、一緒にクエストをこなした分け前として、これから金貨5枚を頂くとこなんだぜ。」
「なんと!」
「師匠とクレイジーウルフを狩る勝負をしてな、まぁコテンパンに負けちまったが、健闘を称えてくれた師匠が、ギルドに祝儀として金貨5枚を預けて行ってくれたんだよ。嘘だと思うんなら、受付で聞いてみな。」
「分かった。ゲオルク卿と力比べをするほどの手練れなら、確かに金貨5枚は安いかもしれんな。」
「じゃあ決まりな。俺は狂戦士のアルフォンソ。アルと呼んでくれ。こいつがリーダーのホルヘ。軽歩兵だ。あと、剣士のマチルダ、魔術師のレベッカ、神官のルイーザだ。師匠の足元にも及ばないけどよ、皆、そこそこやるぜ。よろしくな。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
「アル、あんた見直したわ。」マチルダがアルを見て言った。
「まぁな、俺はやるときゃやる男だぜ。」
「そうやってすぐ調子に乗らなきゃ、そこそこカッコいいのにね。そう言うところがまだまだガキなのよ。少しは師匠を見習いなさい。」
「ちぇっ。なんだよ。」
ホルヘとレベッカとルイーザが爆笑した。
アルが珍しく機転を利かせて、役人たちに護衛としてゲオルク学校を売り込み、金貨5枚で護衛契約を結んだ翌日の夕方、ゲオルクたちは国境の町バレンシーに到着したのだった。
~~ゲオルク目線・国境の町バレンシー~~
「主様、今宵こそは子種を所望じゃ。一昨日から満月前後の発情期じゃと言うに、旅先ゆえ我慢せねばならなかったからの。」
「おう。」ドーラからの妖しい誘いを受けて、今宵のむふふな展開に思いを馳せ、テンションが上がる俺。
ドーラは龍人の形態を取っているが、その正体はエンシェントドラゴンなので、満月とその前後の3日間だけ、発情期に入る。
スピリタスのルールで、旅先や野営中は、まわりを警戒して、むふふな展開はなしなのであるが、長距離移動を終えて、町の宿屋に入った晩に限って、夫婦の営みが解禁される。まあ大概はお口でなのだが…。
昨日が満月だったので、今日が発情期の最終日。ドーラはそれを言っているのだ。
俺たちはバレンシーの領主館を訪ねた。
「やはりゲオルクどのでしたか!王国の外交馬車が町に入って来たと言うので、もしやと思っていました。いよいよ帝国へ、本格的な圧力を掛けに行くのですな?」
「サルバドールどの。久しいな。誤解しないで欲しいが、帝国へは同盟を締結に行くのだ。」
「おや、属国にしに行く。の間違いでは?」バレンシー辺境伯である、サルバドール・バレンシーはニヤリと笑った。
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「殿下は大陸を同盟で統一するおつもりですか。なんとも壮大な計画ですな。
そうそう、伯爵へのご昇進、おめでとうございます。とんとん拍子で、羨ましい限りですな。」
「まあその分、殿下にはこき使われてるがね。」
「ところで、随行の役人たちはいないのですかな?」
「王都でチンタラしてるので置いて来た。今頃泡を食って追い掛けて来てるんじゃないかな?数日待って来なければ俺たちだけで行くよ。」
「ふふふ。やはり。」
「やはり?」
「殿下から鳩便が来ましてな。『ゲオルクどのがそう言うから、随行する役人が到着するまでバレンシーに留め置け。』とのご命令なのです。」
「ちっ。やられた。」殿下に先を読まれたか。
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「殿下の差し金では、俺たちが先発しては、サルバドールどのにご迷惑をお掛けするな。サルバドールどの、世話になる。」
「では客間にご案内させましょう。」
辺境伯と伯爵では辺境伯が立場は上なのだが、先立っての訪問で精霊魔法の威力を見せ付けて以来、サルバドールどのは俺に敬語を使う様になった。俺はため口だがな。
サルバドールどのへの挨拶を終え、俺は辺境伯館の客間に通された。そこそこの広さだ。
精霊たちが『『『『『『『『お風呂ー。』』』』』』』』と騒いで、浴室に案内してもらうと、なかなか立派なものだった。精霊たちはすっかりご機嫌である。
ちなみにわが妻たちも一緒に入浴したのだが、ドーラがマイドラゴンを見て舌なめずりをしていた。苦笑
夕餉はサルバドールどのに招かれて、盛大な宴となった。そこでサルバドールどのの正室と嫡男を紹介された。
そしてその晩、発情期のドーラとひとつになり、残りの妻たちにはお口でご奉仕してもらったのだった。もちろん俺も指と舌を駆使したけどな。
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設定を更新しました。R4/8/14
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
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※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
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