精霊の加護

Zu-Y

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精霊の加護090 停戦と和解

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精霊の加護
Zu-Y

№90 停戦と和解

 ドーラを伴ってヴァーに帰還した。ってか、ヴァーを出発後、程なくしてドーラと遭遇したので、帰るのはすぐだった。

 城壁の見張台から、俺たちがドーラを撃墜して拘束し、そのまま生け捕りにしたのが、一部始終見えていたらしい。
 一時的な仲間にしたのだから、生け捕りと言うのは当てはまらない気もするが、俺たちのやり取りが、城壁の見張台にいた衛兵からは聞き取れないはずだから、まぁ仕方あるまい。
 ドーラが、エンシェントドラゴンから龍人に姿を変えて、俺に跪いて首を垂れたのだから、遠目には降伏したと映ろうな。
 そしてそのままドーラを伴ってヴァーに帰還したのだから、生け捕りにして来たと解釈されよう。

 そのまま冒険者ギルドに直行すると、ギルマスと大司教が出迎えてくれた。
「ああ、使徒様。何と言うご活躍で。これも神の思し召し。」
「わがギルドの面目を守って頂き、誠にありがたく。」
 ふたりとも大袈裟じゃん?
「おのれ、エンシェントドラゴン。これまでの暴虐の数々、しっかり償ってもらうぞ。」ギルマスがドーラに敵意をむき出しにした。
 俺はすかさず、ギルマスとドーラの間に割って入る。

「ドーラにも言い分がある。」
「「え?」」ギルマスと大司教が呆気に取られた。
「龍族の仲間を大勢殺されたそうだ。しかしこちらも龍族による犠牲が多数出ている。犠牲はお互い様。ドーラには、これ以上不毛な争いはやめて、矛を収めよと申した。ドーラは思うところもあろうが、今後の争いをなくすべく停戦に同意した。高潔なエンシェントドラゴンゆえ誓約は守ろう。あとはヴァーの民が停戦を受け入れればよい。」
「そんな。」「…。」ギルマスは異を唱え、大司教は沈黙した。

 ギルマスも大司教もすぐには納得がいくまい。もちろんヴァーの民もだ。しかしな、ドーラは同意したのだ。そして被害が、お互い様であることは、紛れもない事実だ。
 現にヴァーでは、ドラゴンの素材を使った武器や防具が、堂々と取引されているのだから。

 そこへ受付嬢が報酬の大金貨3枚を持って来た。
「使徒様、報酬の大金貨3枚です。」
「それはヴァーの町に寄付する。復興の足しにしてくれ。」
「「なんと。」」ギルマスと大司教が感嘆の声を上げた。
「それとな、夕刻、町の中央広場に民を集めよ。俺が直接、龍族との停戦を説く。」
「承知しました。」大司教が同意した。ギルマスもそれに倣ったが、明らかに渋々と言う感じだ。

「それからギルドは、今後一切、ドラゴンの素材を求める依頼を仲介するな。」
「そんな。」ギルマスが絶句した。
「ほう、龍族をまとめるエンシェントドラゴンが、俺の諭しに同意して矛を収めると言うのに、ギルドはまだ龍族に戦いを仕掛ける気か。」
「え?いや、その…。」
「俺の裁定が気に入らぬと言うのだな。ならば、この町を灰燼に帰してやろうか?」場の空気は一瞬にして凍てついた。
「ギルマスどの、お控えなされ。使徒様に逆らうおつもりか?」大司教が俺に寝返った。のかな?あるいは俺に逆らう気は毛頭なかったかだ。
「いえ。」ギルマスは俯く。

「ギルマス、ドラゴンの素材を求める依頼を取り次いで来たギルドの全責任を負って辞任せよ。そしてヴァーを去れ。」
「そんな。」ギルマスが青くなった。
「この期に及んで逡巡するそなたは、今後、龍族と共存する道を選ぶヴァーの町のギルマスとしてはふさわしくない人材だ。」
「使徒様の御心に従い、ドラゴンの素材についての依頼は二度と取り次ぎませぬゆえ、辞任についてはどうか御慈悲を。」
「ならん。我が裁定に不服を唱え、停戦を逡巡したそなたは信用できぬ。明日にはヴァーを去るがいい。さもなくば、俺に敵対したと見做す。」
「そんな。明日中の退去など無理です。」
「最後通牒だ。龍族とのいざこざの全責任を負ってヴァーから消えよ。あるいは、本当に消えるか?」このひと言でギルマスは引きつり、観念した。
 おっと、大司教や、受付嬢を始めとしたギルド職員も引きつっている。君らには何もしないよ。
「分かりました。御意に従います。」か細く呟くギルマスに、ギルド内はシーンと静まり返っていた。

 で、夕刻の中央広場。大勢の民がいい塩梅に集まっている。
 教会の大司教が切り出した。
「皆の者、これより使徒様よりお言葉を賜る。心して聞くように。」
 シーンとなる群衆。

「俺はトレホス王国の精霊魔術師、ゲオルクス・ピリタス子爵だ。今日、これなる女神様方と、わが精霊たちとともに、エンシェントドラゴンの攻撃を防いだのは、すでに存じていような?」
「お~~~!」×多。と大歓声が起きた。それを制して静まるのを待つと再び群衆はシーンとなった。

「さて、エンシェントドラゴンがヴァーを襲撃した理由であるが、それはわれわれ人間のドラゴン狩りに対する報復だ。この中には、ドラゴンの装備を身に付けておる者もいよう?その装備は、武器商人、防具商人などが、ギルドを介してドラゴン狩りを依頼して手に入れたものだ。」
 シーンとしたまま聞き入る群衆。
「もちろん、人々を襲うドラゴンを討伐した上でのことなら文句は言わぬ。しかし、ドラゴン装備を得るために、無害なドラゴンを狩ったのも事実。
 考えても見よ、美しく長い髪を得る。ただそれだけのために、そなたらの娘や恋人が殺められたらどう感じるか?」
 ここでいったん間を置く。

「それが、エンシェントドラゴンがヴァーを襲い続けた理由だ。
 一方で、エンシェントドラゴンによるヴァーへの度重なる襲撃で建物が崩壊し、多くの犠牲者が出た。遺族の者は多くの悲しみを味わっている。
 よいか、もはや答えは出ている。不毛な争いに、矛を収めるときが来たのだ。
 俺はエンシェントドラゴンに不毛な争いをやめるように諭した。これまでの恨みを晴らすのをやめ、これからの恨みを生じさせないために、矛を収めよと申したのだ。
 エンシェントドラゴンは、多くの同族が殺められたにも拘わらず、停戦に同意した。こちらが仕掛けない限り、エンシェントドラゴンに、再びヴァーが襲われることはない。
 身内や恋人が襲撃の犠牲となったそなたらにも、思うところはあろう。しかし敢えて言う。不幸をここまでで止めるために、さらなる不幸に見舞われないために、ここで矛を収めよ。そしてドラゴンの装備を求めるな。今後、ギルドは無害なドラゴンを狩る依頼は一切受け付けぬ。」
 再び間を置く。

 頷く者、天を仰ぐ者、拳を握りしめる者、涙を流す者、これらは賛同もしくは、渋々ながらも同意とみてよかろう。一方で、不貞腐れる者、睨み付けて来る者、舌打ちをする者も、少数ながらいた。こいつらは反対な訳だな。

「これらは神の使徒である俺の命令だ。依頼ではない。命令だ。俺の意に背けば、神の鉄槌により、ヴァーは一夜にして灰燼に帰すと心得よ。」
 打ち合わせ通り、このタイミングで俺の後ろに控える精霊たちが、魔力放出による無言の威圧を行った。この威圧は、群衆から見れば俺から発せられたと感じるであろう。
 群衆のほとんどは、立っていられなくなって跪き、過呼吸や、失神や、中には失禁するものまで出たので、ソルとジュヌがエリアヒールを掛けた。

 群衆が平静を取り戻したところで俺は続けた。
「度重なるヴァー襲撃の責任を取って、エンシェントドラゴンは、龍人に身を変え、俺に従って償いの旅に出る。よって、ドラゴン狩りの仲介をしたギルドにも責任を取らせる。ギルマスを更迭し、ヴァーから追放する。」
 群衆からどよめきが起きた。

 群衆が静まるのを待って、俺が締めくくった。
「以上だ。これにて解散せよ。」

 俺の演説が終わると、威圧のために魔力を半ば放出した精霊たちが魔力の補給に来た。このタイミングでのべろちゅー8連発では、さすがに威厳も減ったくれもぶっ飛んじまったと思ったが、ぜんぜん違った。と言うか180度違った。
 群衆からは、俺の演説に、精霊たちが祝福を行ったと解釈されたのだ。つまり、使徒様のご意向は、正真正銘、精霊神様の思召しである。と言うことだ。笑

 余談だが、この演説で、使徒様は慈悲深く苛烈と言う評判が、ヴァーを駆け巡る。いやいや、慈悲深いと苛烈って真逆じゃね?右向け左ってか?まぁ分からんでもないがな。苦笑
 幸か不幸かこの噂に、さらに尾鰭端鰭が付いて、帝国に伝わって、帝国に恐慌を引き起こしたと言うから、正しく瓢箪から駒?

 一方、王国内では、いくらなんでもそれはデタラメだってんで、まったく相手にされなかったとか。笑
 なお、恐慌を引き起こした帝国は、これを境に本格的に王国からの従属要求を受け入れる方向で動き出すのだが、それをゲオルクが知るのはもうしばらく後のこと。

 さて、教会の宿坊に戻ってわが妻たちの御機嫌を取るぞ。このケアが円満の秘訣なのだ。コツは変に繕わずに正直に話すこと。これが一番。

「わが君、ひとつ聞きたい。ドーラはわが君を種馬としか見ていないようだが、それでも受け入れたのはなぜなのだ?」
「あ、それ?まあ、あの場で否定して拗れてさ、その場でもう一度エンシェントドラゴンに戻られたらやばいかなって。ドーラは、一旦龍人になってツリの拘束から逃れてたからねぇ。」
「なんと、その手があったのじゃな。わらわは思い付かなんだわ。」と言ってドーラは笑っている。
「それとさ、種馬云々は、龍族と人属の考え方の違いもあるだろうしねぇ。それにこれから惚れてくれるかもしれないしなぁ。」
「主様、それならば、わらわはすでに主様に惚れておるぞ。龍族は強きに異性に惚れるのじゃ。」
「そうであったのか。それでは私の先程の発言は軽率であった。ドーラ、許されよ。」
「よいのじゃ。気にしておらぬ。」

「それにさ、最初に体の関係からってのもありかなと。」てか、わが妻たちみんなそうじゃね?
「なんだい、じゃあお前さんはドーラの体が目当てなのかい?」
「正直に言うとそれもあるよ。皆に引けを取らず美人だし、メロンボールも匹敵してるしねぇ。あの胸でぱふぱふされてぇって思っちゃったねぇ。」
「呆れた。1ミリも否定しませんのね?」
「ダーリンらしいちゃ、らしいか。僕、とんだ男に惚れちゃったなぁ。」
「皆のことは心から愛してるからね。」
「抜け抜けと言うわねぇ。」

「ところで主様、お連れの方々は女神様なのか?わらわには人にしか見えぬのだが。」
「いや、私たちは人間よ。ドーラはなんでそのような思い違いをしたのかしら。」
「主様が民衆に対して、わらわの攻撃を、女神様と精霊で防いだと申しておったゆえなのじゃが。」
「ああ、あれはですね、教国の方々がわたくしたちを女神ではないかと誤解してらっしゃるので、旦那様が、ご自身の発言に重みを加えるためにそう仰ったのですわ。いわゆるはったりですわね。」
「ジュヌ、確かにそれもあるけどさ、俺にとっては、皆は女神様だからね。」
「わー、なにそれ。ダーリン、お調子もん。ウケるー。」
「いやいや、マジで言ってるんだけど。」
「あなた、おだてても駄目よ。どうせ、ぱふぱふ狙いなのよね?」
「ぱふぱふとな?先程主様もそう申しておったな。」
「そうか、ドーラはぱふぱふを知らなかったねぇ。どれ、一丁伝授してあげようかねぇ。」

 ドーラがぱふぱふデビューしたので、ぱふぱふ6連発だった。極楽、極楽。

 なお、その後スイッチの入ったドーラが、
「主様、子種を所望。」
などと言って、迫って来たのだが、わが妻たちの手前、
「まだ早い!少なくともそれなりに愛を育んでからだ。」
と言って、我慢した。
 もっともわが妻たちとは、愛を育む前にやっちゃったんだけどね。

 このひと言に対して、わが妻たちが妙にウケている。
「よく言うわね。」「ですわね。」「出会ったその日だったじゃないか。」
「まぁお持ち帰りはこちらがしたがな。」
「僕はお持ち帰りじゃないよ。もともとうちに泊まってたからね。」
「いや、俺の中ではひと目惚れと言う愛が育っていたんだよ。」

 結局、今日は我慢したけど、ドーラにも早いうちに手を出そうっと。

 …と思っていたら、ドーラが夜這いに来たよ。なんか気持ちよくて目が覚めたら、ドーラがマイドラゴンを嫐ってやんの。
「おい、何やってる?」
「同族に…もごもご…ご挨拶じゃ。」しゃぶりながら言うなよ。
「同族って…。」
「主様は…れろれろ…かわいい…ちゅーちゅー…龍族を…ちゅぱちゅぱ…お持ちなのじゃな。じゅるるっ。」うー、やばい。気持ちよ過ぎる。てか、さり気なく言われた『かわいい』にちょっと傷付く。ふん、俺は回数で勝負だ!見てろよ、何度でもひぃひぃ言わせてやる。

 ブチッ、ボン、カチリ!
 はい、すみません。ここで理性が飛んでスイッチが入りました。そのまま5回戦こなしました。

 マイドラゴンがドーラに完全に懐いてしまったのは言うまでもなかろう。

 早いうちに手を出そうとは思ったが、まさかその日のうちにそうなるなんてな。いや、俺が手を出されたんだよな。ま、どっちでもいいけど。
 しかも龍人…、でも普通の人と全然変わらなかったよ。ちょっと大柄なくらいか。あと角があるくらいか。

 わが妻たちにバレてるよなぁ。ドーラの奴、いい声出してたもんなぁ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/7/17

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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