精霊の加護

Zu-Y

文字の大きさ
上 下
80 / 183

精霊の加護077 夜伽

しおりを挟む
精霊の加護
Zu-Y

№77 夜伽

 教国の国境砦をふたつとも、跡形もなく壊滅させて来たその夜、俺たちの宿屋に来客があった。ミュンヒェー辺境伯の長女で末娘のクラーラ・ミュンヒェーである。
 もちろん夜なので、護衛の国境警備兵数名を連れて来ていた。

 ロビーに面会に出ると、クララがさっと立って深々とお辞儀した。
「先程は母が調子に乗り、ゲオルク様を御不快にさせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした。」
「ああ、そのことならもういいよ。」
「精霊様やお仲間の皆様は?」
「ん?部屋にいるけど…。」

「ゲオルク様に折り入ってご相談したいことがございます。ここでは護衛の者たちの目もありますので、お部屋にお邪魔してよろしいでしょうか?」
「部屋はちょっとなぁ。」精霊たちが素っ裸でふわふわしてるからあらぬ誤解を受けるに決まっている。精霊たちは衣類を嫌うから、部屋では素っ裸を容認しているのだ。
「どうかお願いします。」必死の懇願に俺は折れた。
「精霊たちが、自由にしてるんだ。驚かないでくれよ。」
「もちろんです。」

 護衛をロビーに残したまま、クララを俺と精霊たちの部屋に案内すると、部屋に入るなり、
「ええ~?」と言って真っ赤になって俯くクララ。まぁ仕方ないよな。
「精霊たちは衣類が嫌いでね、いつも部屋ではこうなんだ。驚かせて悪かったな。」
「いえ。こちらこそ驚かないと申し上げましたのに、驚いてしまいまして申し訳ありませんでした。」
「まぁ、適当に座って。で、相談って何?」
「はい。母上の御申し付けで、ゲオルク様の夜伽に参りました。」

「は?クララ、自分が何を言ってるのか、分かってる?」
「詳しくは存知ませんが、ゲオルク様にそうお伝えしてすべてをお任せすればよいと、母上から申し付かっております。」
「いや、それは無理でしょ。そもそもクララって未成年だよね?」クララの見てくれは第三形態の精霊たちと大差ない少女+αだ。
「はい。14歳です。母上からは、夜伽が叶わなければ、跡目は継がせぬと言われましたので、夜伽をさせて頂かないと困るのです。」
「はぁ?なんだそれ。」

「私は、これでもミュンヒェー辺境伯家の一員です。兄ふたりは残念ながら魔法の才に乏しいので、私が辺境伯家を継いで、教国の脅威から領民たちを守らなくてはなりません。ですから跡目を継げないと困るのです。」
「なるほどねぇ。で、その様子だと夜伽の意味をよく知らないまま、ここへ来たって訳か?」
「はい。でもゲオルク様がご存知ゆえ、問題ないと母上が仰いました。」
 なるほどね。さて、どうしたもんか?

 俺はツリに向けて舌を出し、レロレロと上下に動かした、魔力補給に来ないかと言う合図だ。
 ツリがふわふわとやって来て、ぶっちゅーっ、ちゅーちゅーと、濃厚なキスを始めた。そして緑色に輝く。魔力が満タンになった。
 クララに見せ付けるようにツリを抱えつつ、あちこちを撫でてやる。ツリはキャハハと嬌声を上げた。流石ツリ、俺の裏の意図までしっかり理解している。
「ゲオルク様、その、そういうことは…。」真っ赤になって俯き、声が消え入りそうだ。
「クララ、お前は俺にこう言うことをされに来たのだぞ。」それはそう言いつつ、ツリを解放した。
「え?」

「クララ、ハイジが情夫たちと、夜な夜な大人の秘めごとをしているのは知っているな?夜伽と言うのはあれだ。」
「え?ええー!」驚くクララ。
「ハイジは、クララに大人の秘めごとを、俺と行えと申し付けたのだ。そこんとこ、クララはきちんと理解しているか?」
「そんな…、嘘です。」
「嘘なものか。俺にすべてを任せろ言われて来たのだろう?」
「それは、そうですが…。」
「つまり身を任せろと言う意味だぞ。
 でもな、安心しろ。それに対する俺の答えはノーだ。その理由は、クララが未成年であること、そして俺には婚約者がいることだ。
 ハイジはその点については実に奔放なようだが、普通、夜伽と言うものは夫婦間や恋人同士で行うもので、クララと俺のような、単なる知り合い程度では行わない。」

「でも…それでは、私は辺境伯家を継げなくなってしまいます。」
「では、このまま俺に、クララの初めてを摘み取らせるつもりか?」
「それは…。」俯くクララ。必死に考えを巡らせているのだろう。可哀想に。では助け舟を出してやるか。
「要はクララが、俺と夜伽をせずとも辺境伯家を継げればいいのだろう?」
「え?…あ、はい。」
「今宵ハイジはどこにいる?」
「館におります。」
「館はどこにある?」
「詰所に隣接しています。」

 俺は、2階にある部屋の窓を開けて、クララに確認した。
「クララ、館はあれだな?」
「はい。」
「フィア、あの館の真上にでかい花火をな。クレ、同時に地震で館を半壊させろ。標的は館だけだ。詰所には被害を出すなよ。」
『『はーい。』』
 ヒュールルルルル、ドッガーン。と、同時に遠目からでも分かる程、館が揺れて館は半壊した。
「ゲオルク様、何と言うことをなさるのですか!」
「うん、それでいい。クララ、そなたが今、俺の怒りを鎮めた。」
「え?」

『ゲオルクー、お腹すいたー。』『フィアも、ご飯ー。』
 クレとフィアに濃厚なキスで魔力を補給し、ふたりがそれぞれ輝いた。
 俺は両腕でふたりを抱えたまま、あちらやこちらへのスキンシップを繰り返す。やはり俺の裏の意図を理解しているふたりも、キャッキャと嬌声を上げた。クララがまた真っ赤になって俯く。

「しつこいハイジに怒った俺が、領主館に攻撃を仕掛けたので、クララが必死になって俺を止めたんだ。いいな。」
「でも。」
「これ以上俺にちょっかいを出すと、領主館を教国の国境砦のようにしてやると、ハイジに伝えてくれ。」
「承知しました。」
「では、護衛とともに館に戻るがいい。クララが俺に追い返されたのは、ハイジのせいだからな。」クレとフィアがふわふわと離れて行った。

 翌朝、朝餉の席でお姉様方に昨夜の出来事を話すと、
「それで外が騒がしかったんですのね。」
「しかしゲオルクどのも容赦ないな。少々やり過ぎたのではないか?」
「追手が来なきゃいいけどなー。ゲオっち、大丈夫?」
「奴らも馬鹿じゃない。わざわざ全滅しに来るもんか。」
「それもそうね。」

 宿屋を発つとき、宿屋の主人から、昨日の騒ぎでハイジがケガをしたらしいと言うことを聞いた。流石にちょっとやり過ぎたか。
 俺たちは出発の挨拶がてら、ハイジを見舞うことにした。ジュヌさんに回復魔法を掛けてもらうためだ。

 レンタル馬車に乗って領主館に行くと、半壊した館で国境警備兵たちが忙しく後片付けをしていた。
 片付けの指揮を執っていたジークに状況を聞くと、昨日の一件でハイジは軽傷を負ったらしい。ハイジのケガはひどいものではないが、倒れて来る家具からハイジを庇った3人の情夫が皆骨折したそうだ。
「情夫3人から庇われたってことは、4Pでもしてたのか?」と聞くと、ジークが黙って眼を逸らした。あらら、図星のようだ。苦笑
 まったくあの女領主ときたら…。娘を夜伽に出しておきながら、自分は何をやってるんだか。本当に自由奔放だな。苦笑

 ジークから、ハイジは医務室にいると聞き、ヴォルが医務室まで案内してくれた。
 ヴォルは、ビーチェさんと眼を合わそうともしない。昨日コテンパンにやられたのが相当堪えてるようだ。笑

 医務室に着くと、案内してくれたヴォルは逃げるように去って行き、ハイジはベッドで上半身を起こしつつも、ベッドにもたれ掛かっていた。
 横にクララが付いている。ハイジの世話をしているようだ。
「帰るので挨拶に来た。ハイジ、ケガの具合はどうだ?」
「これはゲオルク様。わざわざのお運び、痛み入りまする。わらわは大したケガではござりませぬ。」
「ジュヌさん、頼む。」ジュヌさんが回復魔法のリペアを掛けて、ハイジの軽傷は完全に癒えた。
「おお、これは相すまぬ。礼を申すぞ。」ハイジがジュヌさんに頭を下げた。

「情夫3人は骨折したと聞いたが?」
「わらわを庇ってくれましての。
 そなた、済まぬがその者たちの治療も頼めぬだろうか?」
「よろしいですわ。」
「それとゲオルク様、申し訳ありませんでした。わらわが浅はかでした。」
「そうだな、未成年の娘を夜伽に出すなどもっての外だ。その娘に、領主館が助けられたこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ。」
「はい。ゲオルクどのの御配慮、身に沁みましてござります。」あれ、ひと芝居打ったの、分かっているのかな?

「まぁ、いずれにせよクララはよくやったよ。領主館があの程度の被害で済んだのはクララが必死に俺を止めたからだ。」
「はい。末娘ゆえ、ヴォルはまだしもジークを差し置いて跡目を継がすには、余程の手柄が必要と考えておりました。身を犠牲にさせれば、十分な理由になろうかと思うて夜伽に出しましたが、そのせいでわらわはゲオルク様のご不興を買ってしまいました。クララはそのわらわの尻拭いをしてくれた訳です。本当によくやってくれました。申し分ない大手柄です。わらわの自慢の娘です。」
「母上、勿体ないお言葉です。」クララが涙ぐんだ。

「それに万が一、俺の子を宿せば切り札になるとでも思ったか。」
「はい。ゲオルク様は何もかもお見通しで。」
「まぁ、そんなことせずとも、俺の助けが必要になったらいつでも言って来い。」
「え?それは真でしょうや?」
「ああ。お前のことは結構気に入っている。それにクララのこともな。ふたりとも一途にミュンヒェーとその領民のことを考えている。いい領主と跡継ぎだ。ミュンヒェーは安泰だな。」
「嬉しいことを。」ハイジとクララの眼に涙が光った。
「ではハイジ、これにてな。傷は治ったが、今日はしっかり休めよ。
 クララ、情夫どもの所に案内せよ。」

 それからジュヌさんが骨折している情夫3人にリペアを掛けて骨折を治し、俺たちは帰路に就いたのだった。

 目指すはラスプ村経由で東府、そして王都だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/19

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...