精霊の加護

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精霊の加護073 ラスプ村へ

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精霊の加護
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№73 ラスプ村へ

 スピリタスは、俺、お姉様方、精霊たちで、合わせて13人の一行である。流石に行商馬車には乗り切れない。そしてスノウとナイトもいるし。
 ラスプ村の後は、国境の町ミュンヒェーにも行かなきゃならんしな。

 つー訳で、レンタル馬車を借りることにした。

 最近はスノウもナイトも前より成長して来て、体ががっちりできて来ているので、スノウには重装備を外したベスさんが、ナイトにはリシッチャ島の往復ですっかり馴染んだビーチェさんが乗って、レンタル馬車について来つつ、陸上で人を乗せる練習を始めた。
 スノウやナイトが疲れないように、騎乗の時間はそう長くはしない。ただし、これから少しずつ騎乗時間を伸ばして行く。

 ちなみに、スノウは俺も乗せてくれるが、他のお姉様方は乗せない。
 スノウによると、ほんとはベスさんしか乗せないのだが、俺は群れ=スピリタスの長で、さらにベスさんのつがいだから、特別に乗せてもいいのだそうだ。
 俺がスピリタスの長って訳ではないし、番いと言う表現には若干の抵抗はあるが…。
 一方、ナイトは、誰でも乗せてくれる。ナイトによると、女性は大歓迎、男はなるべくパスだが、俺は群れの長だから、百歩譲って乗せてもいいのだそうだ。苦笑

 東府を出て3日後、ラスプ村に帰省した。レンタル馬車をそのまま自宅前に着けて、
「ただいまー。」と自宅に声を掛けると、弟のアルベルトが出て来た。
「あー、ゲオ兄だー。あれぇ、ツリとクレはお姉ちゃんになってるー。」ふむ、アルと会ったときは、ツリとクレは第一形態だったのに、第三形態になったツリとクレを一発で見抜くとは、流石、俺の弟。

『『アルー。』』と言ってツリとクレが、交互にアルを抱き抱えた。アルは精霊を見る能力があるので、精霊たちが普通に接するのだ。
 なお、アルはどさくさに紛れてちゅーをしていた。わが弟よ、なかなかやるな。
 その後、アルは他の精霊たちにも順に抱き抱えられ、すぐに仲良くなった。ここでもちゅーをしている。女誑しの素質ありと見た。笑

「あれー、皆、光らないなー。」なるほどね。そう言うことか。
 アルと初めて会ったとき、俺がキスで魔力補給をしたツリとクレが光り、アルは完全にスイッチが入っていたんだっけ。
 それを再現しようとしただけか。アル、疑ってすまん。笑

「ゲオ兄、このおばちゃんたち、誰?」何気ないひと言ではあるが、お姉様方の胸を深く抉る、子供の無邪気な爆弾投下。いや、その破壊力は爆弾ではなく、原爆である。
「アル、おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんだろ?」
「えー、お姉ちゃんはツリたちだよー。」
「ツリたちもお姉ちゃんだけど、このお姉ちゃんたちもお姉ちゃんだからな。」
「うん、分かったー。大っきなお姉ちゃんだねー。」何とかその場を収めたが、お姉様方は切なそうに苦笑いをしている。お姉様方のメンタルHPは、一気にレッドゾーンまで落ち込んでしまったに違いない。苦笑

「あらまぁ、ゲオルクじゃないの。あんた、ほんとにいつもいつもいきなりよねぇ。」母さんが家から顔を出した。
「あ、母さんただいま。これ、東府の土産な。」
「あら、ありがと。それとお帰り。ところで、そちらのお嬢さんたちは?」
「俺の婚約者。紹介しに来た。」
「あらまぁ、それはそれは。ゲオルクの母よ。よろしくね。」
「「「「「初めまして。」」」」」とお姉様方が返す。なんとかアルの原爆投下のダメージから回復しつつあるようだ。

「あなたー、ゲオルクがお嫁さんを連れて来たわよー。」と、母さんが家の中に声を掛けると、
「なんだと?」と言って父さんも出て来た。
「おお?皆、別嬪だな。ゲオルク、どの娘が嫁だ?」
「全員。」
「「は?」」両親が絶句する。
「俺さぁ、騎士爵になったんで、重婚罪の適用外なんだよ。」
「「はぁ~?」」

 とにかく入れってんで、自宅へお姉様方と精霊たちを招き入れる。
 その前に、精霊魔法で土壁の囲いを作り、牧草を生やして、レンタル馬車の曳馬とスノウとナイトを放牧した。これには父さんも母さんも唖然としていた。笑

 俺は居間で寛ぎ、改めて全員を紹介した。
「父さん、母さん、紹介するよ。冒険者仲間で、俺と結婚することになった、リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさん、ベスさん、ビーチェさん。」
「お前なぁ、こんな別嬪ばっかり5人もとは…。呆れてものも言えん。」
 父さんが文句を言ってる横で、アルは精霊たちとすっかり打ち解けて戯れている。お姉さんたちにあやされる幼児だ。笑

 それから俺は、前回帰省してからこれまでのことを語った。
 神父さんの紹介で、東府教会経由で東府魔法学院に行き、精霊魔法の解析に協力したこと。
 東府でリーゼさんとスピリタスを結成し、王都でジュヌさん、西府でカルメンさんをスピリタスに加えたこと。
 仕事の引継ぎがあった3人に先行して北府に入り、ベスさんと出会い、仲間に加えたこと。
 精霊を探して、北部火山地区でフィア、北部氷山地区でチルと契約し、ユニコーンのスノウを仲間にしたこと。
 南府から緊急指名依頼が来て、俺だけ南府に先行し、ビーチェさんと出会って仲間にしたこと。
 工作により南部湾で魔力切れを起こしてたワラを救出して契約したこと。

 東府に戻って、大司教様とルードビッヒ先任教授に工作の事実を相談し、そのまま東部公爵様に報告したこと。
 そこでスピリタスが東府公爵様お抱えとなったこと。
 南部のリシッチャ島でウィンと契約し、ペガサスのナイトを仲間にしたこと。
 この帰りに工作員を捕縛したこと。
 工作員を王都に護送すると、そのまま東部公爵様から王太子殿下に引き合わされ、王太子殿下直属の精霊魔術師になったこと。

 北部鉱山地区でメタを仲間にしたこと。
 その往復で雪崩の被害を精霊魔法で復旧し、大きな盗賊団を壊滅させたら、Aランク相当になったこと。
 王都で国王陛下に謁見し、騎士爵を得たこと。
 そのままお姉様方にプロポーズして婚約したこと。
 お姉様方の実家を巡って挨拶を済ませ、そして今日、両親と神父様に、お姉様方を紹介するために帰省したこと。

「とまぁ、こんな感じかな。」
「途方もない話だな。俺なんか、東部公爵様を遠くからお見掛けしたのが、何度かあるくらいだぞ。」
「そうよねぇ。ましてや国王陛下や王太子殿下なんて雲の上のお人だわ。大体私なんか、中部にすら行ったことないもの。」
「それからさ、内示の段階なんだけど、俺、そのうちラスプ村の領主になるらしいんだよ。」
「「はぁ~?」」

「俺もよく分かんないんだけどさ、殿下からそう言われたんだよね。でも領主としてのこまごまとした仕事は、東部公爵様がお役人を派遣してくれるらしくてさ、俺がこの村から得た税収の半分を東部公爵様に納めるんだよ。だから実質的に、俺と東部公爵様でラスプ村からの税収を折半ってことだね。
 ここはもともと東部公爵様の直轄地だから、東部公爵様からは『税収が倍になるように工夫せよ。そうすれば余の腹は痛まぬ。』と言われたんだよね。」

「おい、ゲオルク。まさか俺にもっと狩りをしろと言うんじゃねぇよな。必要以上に狩っても森が荒れるだけだぞ。」
「そんなことは言わないよ。父さんは十分に稼いで税金もたんまり納めてるものな。まぁ、今ある村の農地を改良して収穫量を上げるところから始めるつもりだよ。あとは、キノコ畑かな。」
「なんだ、そりゃ?」

「キノコってさ、種類ごとに特定の木の根元に生えるじゃない?だからキノコが生える木の種類ごとに樹木畑を作ってさ、キノコを生やすんだよ。」
「お前なぁ、その樹木畑ができるまでに何年掛かると思ってんだよ。」
「父さん、そんなの精霊魔法で一瞬じゃないか。」
「マジか?だったらキノコなんて面倒臭ぇこと言ってねぇで、材木を出荷すりゃあいいじゃねぇかよ。」
「ダメだよ。材木を大量消費するのは東府みたいな大都市だろ?ラスプ村からだと運賃が嵩んで商売にならないよ。それにさ、樹木の出荷は東府の近くのブレメン村が村を上げてでやってるから、今から新規参入したって、地理的にもブランド力でもブレメン村には、到底太刀打ちできないよ。」

「なるほどなぁ。しかしよ、キノコってのは地味過ぎねぇか?ぶっちゃけ、売れるのかよ。」
「売れるよ。東府じゃぁ、トリュフダケやパインダケは高級食材だぜ。」
「え?高級食材なのか?あれが?1年中はないけどよ、旬になりゃぁ、森でいくらでも採れるだろう?」
「いくらでもってのは大袈裟だよ。トリュフダケやパインダケは条件が揃わないと生えないしさ、しかも生えるのは旬だけだからさ、それで貴重なんだよ。」
「なるほどなぁ。」

「それにさ、シイキノコなんかは出汁も取れるし、シメジノコ、ナメコノコ、マシュルムコ、エリンギノコ、エノキノコ、マイキノコなんかは、手頃な食材としてコンスタントに売れてるぜ。」
「ふーん、なるほどねぇ。ところでゲオルクよ、お前さぁ、冒険者だったよな?なんかよ、まるで商人じゃねぇか?」
「いや、どうせなら、領地の開発に苦心する領主って言ってよ。」
「わははは。お前なぁ、領主って柄かよ。
 なぁ、ヒルダ。」
「そうよねぇ。うふふふ。」
 父さんも、母さんも爆笑した。
 お姉様方も釣られて笑っている。ま、いいけどね。

 しかし、この俺のアイディアは、本格的に実用化され、キノコ栽培は、ラスプ村の主要産業となって行く。
 ラスプ村がキノコの村として、国中に名を轟かせるのは、そう遠くない将来だが、それは後日譚。

「じゃあよ、近況も聞いたとこで、皆で乾杯しようや。ところでゲオルクよ、そのー、あれだ。精霊たちに頼んでくれんか?」
「何をさ?」
「ほら、こないだ帰って来たとき、パッパと作ったろう?」
「だから何をさ。」
「呑むんだからツマミに決まってるだろうが。枝豆だよ、枝豆。」
「あー、そう言うことか。」

 父さんは枝豆の塩茹でが大好物である。以前帰省したときにツリとクレが枝豆を一気に育ててくれたのに、しっかり味を占めた訳ね。
「ツリ、クレ、頼む。」『『ラジャー。』』
 俺はツリとクレを連れて、裏の畑に行った。当然だが、他の精霊たちも皆、ついて来る訳だが、そうなると、当然アルも精霊たちについて来る。笑
 お姉様方は、家の中で、父さんと母さんと話していて、とてもいい感じだ。

 クレが畑の土を耕して、ツリが畑一面にダイズを育てると、
「うぉー、しゅげー。」と、アルが飛び跳ねながら畑のまわりを走りまわっている。完全にスイッチが入った。笑
 収穫も、クレが畑の土をもごもごやって、株を抜きやすくした。
「できたよー。」と家の中に声を掛けると、
「え?もうできたのか?」と、父さんが出て来て、畑を見るなり「おお!」と感嘆の声を上げ、すぐに収穫を始めた。
 父さんは、前回の精霊魔法を使って収穫したところを見てないから、やっぱ驚くよな。

 俺と父さんで枝豆の収穫を終えると、母さんが台所で、大釜に湯を沸かしていた。もちろん塩茹での準備だ。
 その後、収穫した株から皆で実をむしり取って、母さんが大釜で塩茹でにした。父さんの好物の、枝豆の塩茹での完成である。俺も大好きだけどね。

 改めて皆で乾杯した。もちろんヴァイツェンでだ。ちなみにアルはミルクだけどね。それからお姉様方がそれぞれの素性を語り、父さんと母さんは、うんうんと聞いていた。横で精霊たちがアルの子守をしてくれている。笑

 夜遅くまで楽しい宴は続いたのだった。

 翌日、俺はお姉様方と精霊たちを連れて神父さんのところに挨拶に行った。
「おお、ゲオルクじゃないか。お帰り。」
「神父さん、ご無沙汰してます。」俺は大金貨1枚を寄進して、お姉様方を紹介した。
「おお、ゲオルク。またこんなに寄進をしてくれるのか。いつもすまんのう。」
「いえいえ、神父さんにはそれ以上の御恩がありますから。」

 俺は10才のときに、尋常ではない魔力量があると分かり、村から大魔術師の誕生かと村中の期待を背負って東府に行ったのだが、魔力量が放出できないと判明して失意の中で帰郷をした。
 そのとき、この村の連中は俺を詐欺師扱いしたのだが、家族以外で唯一庇ってくれたのが、神父さんだったのだ。

「それにしても、皆、別嬪じゃの。」
「はい。」と、俺は素直に答えることにしている。
 仮に謙遜して「そんなことないですよ。」などと言ったら、却って嫌味になるではないか。それに、お姉様方の機嫌を損ねかねないしな。

「ところで、大司教様からの手紙で知っとるぞ。随分あちこちで活躍しとるようじゃの。」
「活躍してるのは俺じゃなくて、精霊たちですよ。ほんとに精霊魔法は凄いです。」
 それから俺は、前回帰省してからこれまでのことを語った。

「神父さんのお陰で、東府魔法学院とのわだかまりも解けました。」俺は神父さんに、主席教授直属特別研究員の東府魔法学院身分証を見せた。
「うん、うん。それはよかったのう。ゲオルクのお陰で、精霊魔法や精霊魔術師についての新たな大発見が続いておるの。後世のためにも、大いに役立つじゃろ。」
「大司教様にもお世話になりっ放しです。」さらに大司教直属助祭の東府教会身分証も見せた。
「ほう。それがあればどこの教会でも泊めてくれようの。」
「はい。旅先で何度も助けられました。それと、必ず教会の一番偉い方が面会してくれます。」
「そうなろうの。ところで、今夜はうちに泊まるかの?」
「ははは。流石にそれは。」俺は笑ってごまかした。

「ところで神父さん。俺は、殿下と東部公爵様より、この村の領主になるようにとの内示を受けました。」
「なんと!ゲオルクがこの村を治めるのかの?」
「いえ。俺にそんな能力はありませんよ。東部公爵様がお役人を派遣して下さるとのことです。」
「うーむ、そうなると村長はお役御免じゃの。ならば、村長にも話しておかなければなるまいて。」
「え?なんで村長さんがお役御免になるんですか?」
「そりゃそうじゃろ。村長を置いてたのはここが東部公爵様の直轄地だったからじゃぞ。村長が村から税を集めて、まとめて納税しとったのじゃ。
 ゲオルクが領主になったら、その任はゲオルクが負うことになる。しかし、実際はゲオルクの代わりに東部公爵様からお役人が来るようじゃが、いずれにせよ、村長は要らなくなるじゃろ?」

 その後、俺は神父さんと連れ立って、お姉様方と精霊たちも一緒に、教会から村長宅へ行った。
 村長宅では、村長が直々に出迎えてくれたのだが、何か顔が引きつっている。どうしたんだろ?
 客間に通されて、お姉様方を紹介した後、精霊たちを紹介すると村長がいきなり床に這い蹲った。
「精霊様、いつぞやは大変無礼なことを申しまして、誠に申し訳ございませんでした。ゲオルクの家族には指一本触れませんのでどうかお許し下さい。」

 ん?…あー、あれか。すっかり忘れてたけど、前回帰省したとき、村への寄付を断ったら、村長が「お前の家族はこの村で過ごすんだぞ。」と脅しまがいのことを言って来たので「精霊が村長のそのセリフを聞いていて、カンカンに怒ってる。」と逆に村長を脅してやったんだっけ。
 脅すだけだと効果が薄いから、二度と俺に逆らわないように、村長宅の納屋を精霊魔法で潰してやったんだが、それが相当堪えたようだ。村長は精霊の怒りに触れたと信じてるから、この精霊たちへの土下座対応になった訳だ。苦笑

「村長、そんなことはいいから座ってくれんかの?大事な話があるんじゃ。」神父さんが、テンパってる村長を座らせて、俺が領主になる内示を受けたことを話してくれた。村長はまさに寝耳に水、豆鉄砲を食らった鳩のような顔になって、
「神父さん、わしはどうなるのだ?」
「村長、気の毒じゃが、領主様が赴任されるのなら、村長は廃止じゃな。その心積りで準備しておいてくれ。」
「そんな。」

「徴税の仕事には、東部公爵様がお役人を派遣して下さると言うので、お願いしました。その他、村の運営に関わる諸々のことは、お役人では分からないでしょうし、引き続き俺の代官として、村長さんにお願いできますか?」
「と言うことは、わしがゲオルクの代官になると言うことか?」
「そうなりますね。もしそれが不服なら他の人材を探しますので、俺はどちらでも構いませんが。」
「うぬぬ。もし代官を引き受けなければわしはどうなるのだ?」
「一村民じゃよ。当たり前ではないか。」神父さんが言いにくいことをはっきり言って、村長に引導を渡してくれた。

「分かった。ゲオルク。引き受けよう。」村長は苦虫を嚙み締めたような顔をしている。
 まぁ、本音では大いに不服なのは分かる。他の村民だって俺が領主と聞いたら似たような反応をするだろうしな。

「よろしくお願いしますね。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/6/5

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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