精霊の加護

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精霊の加護071 殿下へ報告、そして東府へ

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精霊の加護
Zu-Y

№71 殿下へ報告、そして東府へ

 翌日になって、午前中に精霊たちを連れて王宮へ出仕した。
 昨日のうちに出仕を知らせておいたので、すぐに殿下の執務室に通され、殿下と4公爵様と宰相様に首尾の報告をした。

「…とまぁ、こんな具合です。」
「そうか、随分控えめな報告ではないか?」と殿下が言った。
「はぁ、別に控えめに報告したつもりはございませんが?」
「バレンシー辺境伯からな、そなたの派遣に対する礼と、活躍ぶりの報告が来ているのだ。懸案だった帝国側の砦を2つとも跡形もなく粉砕したそうではないか?帝国の国境警備軍もすべて敗走させたそうだな。今なら国境の帝国領を切り取り放題だが、そなたから言われた通り、本当に見逃していいのかと問い合わせて来ている。」
「殿下、実は、バレンシー辺境伯からは、余にも同様の問い合わせが来ております。」と西部公爵様。

「はぁ、こっちの話をきちんと聞いていたんですかねぇ。バレンシー辺境伯様には、殿下の本心は、戦ではなく、戦わず屈服させることゆえ、下手に侵略して相手方を意固地にさせるより、静観して恩を売るようにと申しました。」
「なんだ、そこまでゲオルクが丁寧に説明しているのに、それでも兵を出させろと言って来てるのか?先が見えぬ男よな。」
「それにこちらがこのまま静観すれば、砦を破壊したのはこちらの仕業ではないと言い張れますしね。」
「西部公、その辺を丁寧にな。あの猪武者に言い含めてくれぬか?」
「承知仕りました。」

「ところで殿下。帝国の動向はいかがですか?」
「まだだな。国境砦の敗走兵が、ようやく帝国の首都、モスコペテブルに辿り着いたぐらいであろうか。さてさて、王国の仕業という尻尾は掴ませておらぬから、王国への強硬派がどう出るかが楽しみよな。いずれにしてもゲオルク、よくやったぞ。上々の首尾だ。」
「ありがとうございます。」

「で、これからは東部か?」
「はい。」
「では、教国に対しても同様の揺さ振りを掛けてもらおうか?」
「え?教国は下手に出ていたのでは?」
「確かに下手には出ているがな、下手に出つつ、引き伸ばしておるのだ。少々手痛い催促をしてやらねばなるまいよ。」
「承知しました。」

「それとな、内々のことだが、父上がそなたに領地をお考えだ。」
「そんな!俺に内政なんかできませんよ。それに領主なんて柄じゃないですし。」
「ああ、心配せずともそこは東部公が手伝ってくれようぞ。な、東部公。」
「はい、殿下。
 ゲオルクよ、領主と言ってもな、わが直轄地の村をひとつ与えるに過ぎん。そこの税収をそなたと余で折半するだけよ。役人はこちらで出す。よって、そなたがその村の生産量を倍増してくれれば、余の懐は痛まぬ。せいぜいその村の生産量を上げてくれ。」
「はぁ。で、それはどこの村で?」
「そなたの故郷、ラスプ村よ。」
「えーーーーー!」俺があの村の領主ってか?

 俺は殿下の執務室を辞し、控室に戻って三の姫殿下にご都合を伺った。すぐ応接室に通された。例によって侍女たちもぞろぞろ来ている。
「三の姫殿下、ご機嫌麗しゅうございます。」
『『『『『『『ちわー。』』』』』』』っと精霊たちが気軽に手を振る。三の姫殿下も手を振って来た。
 それを見て侍女たちがしかめっ面をしている。この程度ではしたないとでも言うのだろうか?はっきり言って、こいつらウザい。高慢ちきな鼻をへし折りたい。

「ゲオルクどの、いらっしゃいませ。
 まぁ、精霊たちは大きくなりましたのね!」
『『『『『『『マリー、元気ー?』』』』』』』少女+αの第三形態になった精霊たちが、少女のマリーを取り囲んで、キャッキャと戯れている。和むー。

「これは西府のお土産です。」
「まぁ、ありがとうございます。ゲオルクどの、早速ですが、この間はどちらへいらしてましたの?」
 三の姫殿下が眼をキラキラさせて聞いて来た。三の姫殿下は、当たり前だが深窓の御令嬢。王宮の外になどめったに出られない。よって俺の冒険話を聞きたがるのだ。
 それと、前回は来訪の挨拶に対して「大儀。」だったが、今回は「いらっしゃいませ。」だ。多少は親密度が増したかな。
「はい。西部に言って来ました。西府と、国境の町バレンシーです。」カルメンさんのご両親に挨拶して来たのは内緒。笑

 それから俺は三の姫殿下に、西府へ行った話をした。
 特に、ゲオルク学校の連中の話には、いたく興味をお示しだった。もちろん内容によってはオブラートにくるみまくりだけどね。例えば、
「俺が精霊たちと部屋にいるときに、女子3人が『皆で夕餉に行くよ。』と誘いに来たのですが、精霊たちが俺を困らそうとして、悪戯を仕掛けたんですよ。そしたら3人はそれを真に受けてしまいまして、それから拗ねてしまったのです。」てな具合だ。

「ほんとに旅は楽しそう。その者たちが羨ましいです。それにしてもゲオルクどのを困らせるって、精霊たちはどんな悪戯をしたのです?」
「俺が返事をできないようにして、それはもういろいろと、ないことないこと言うのです。」俺は笑ってお茶を濁した。
「それを仰るなら、あることないこと、じゃなくて?
 それにしても、その3人の、精霊たちへの無礼な振舞いはよくありませんわね。ゲオルクどのが罰を与えたのも当然です。」
「まぁ、少しばかり甘えてたんでしょうな。所詮あいつらはまだ子供なのですよ。」

「子供…。はぁ、わたくしも早く大人になりたいですわ。」
「まぁまぁ、そう焦らずに。そう言えば、パーティ仲間たちから、いろいろ聞いて参ったのですが、女性らしいお体に成長するには、牛乳をお飲みになるとよろしいようですよ。」
「まぁ、ミルクですか?あれは赤子の飲み物と思っておりましたが。」
「そうですね。でも牛乳を出すところを考えれば…。」
「ゲオルクどのっ!」×多。侍女たちが一斉に反応した。そう言う話はするなってか?

「そなたたちは何を怒っているの?」三の姫殿下が侍女たちに無邪気に尋ねた。
「いえ。ゲオルクどのがあまりにも無礼なお話をするものですから。」
「あら?どこが無礼だったの?ゲオルクどのは、大人っぽく成長したいと言う私の希望が叶うように、わざわざ調べて来て下さったのよ。」
「侍女どのたちは何かやましいことでもお考えなのかもしれませんね。」そりゃイジってみたくなるよ。笑
「ゲオルクどのっ!」×多。キッと睨んで来た。当然スルー。

「それからですね、遺伝もあるようなのです。一の姫殿下も二の姫殿下も、女性として非常に魅力的ですから、三の姫殿下も十分期待できるかと。」
「まぁ。」うれしそうに微笑む三の姫殿下。
「それともうひとつ、極秘の裏技があるのですが、それは流石にまだお早いかと…。」
「ゲオルクどのっ!」×多。流石にこの話題はスレスレか?笑

「そなたたち、先程からうるさくてよ。いい加減になさいな。」
「はっ。申し訳ありませぬ。
 しかし、ゲオルクどの。それ以上はお控え下さい。」
「ほう、そう仰るということは、侍女どのたちも極秘の裏技をご存知と見えますな。ふむ、なるほどなるほど。」
 俺は遠慮なく、ひとりずつの胸を見回してやった。お姉様方には遠く及ばないがまぁそれなりにはある。
「なんですかその眼は。」「いやらしい。」「汚らわしい。」といって、全員が胸の前で両腕を交差した。笑
 三の姫殿下はキョトンとしている。まだ早いか。笑

「三の姫殿下、侍女どのたちは、極秘の裏技をご存知ですぞ。実際にその裏技を用いておるようです。詳しくは、男の俺から申し上げるより、女性同士の方がよろしかろうと思います。今夜にでもじっくり侍女どのたちの体験談をお聞きになって下さい。」
「ひ、姫様に何ということを申されるのです!」
「まぁまぁ、そんなに子供扱いしなくてもよろしいでしょう?今宵じっくりと教えて差し上げて下さいな。
 おっとこんな時間か。三の姫殿下、そろそろおいとま致します。また参りますね。」

 高慢ちきな侍女どもに思いっ切り爆弾を投下してやった。三の姫殿下の興味津々な視線を受けて、侍女どもは物凄く困った顔をしている。ざまぁみろ。笑
「ぜひまたいらしてね。」
「はい。また参りますよ。では。」
『『『『『『『バイバーイ。』』』』』』』

 宿屋に戻ると、お姉様方と夕餉に繰り出した。
 王都最後の夜だってんで、今日は奮発して王都料理のフルコースだ。王都料理はソースが命で、美食を追求した繊細な料理である。そしてワインがよく合う。
 第三形態になった精霊たちは、少しだけ呑むようになったが、俺からの口移しでないと呑まない。口移しはなかなかこっ恥ずかしいのだが、今日の店は個室だったので助かった。

 夕餉を頂きながら、今日の王宮での話を、お姉様方に報告した。
 殿下から申し付かった、教国への揺さぶりについての話題になると、
「どの町にするんですの?」
「ラスプ村から一番近い国境の町だと、ミュンヒェーかな。」
「そうね、ミュンヒェーよね。ラスプ村からだと馬車で2日ってとこかしらね。」
「そうするとやはり東府でレンタル馬車を借りて行くのかい?」
「そうだね、里帰りのときにいっつも使っている行商馬車には、この人数だとちょっと乗れないだろうからね。その行商馬車は、村や町を巡るから、ミュンヒェーにも行くんだけどさ。」
「なるほどな。しかしレンタル馬車の方が、私たちのペースで行けるゆえ、却っていいのではないか。」

 それからもうひとつ。
「あとさぁ、故郷のラスプ村の領主になるっぽい。」
「凄いじゃない!」リーゼさんが真っ先に食い付いた。
「領主って言ってもさ、諸々のことは東部公爵様のところのお役人がやってくれてさ、納められた税を折半にするんだって。だから俺は村の生産量を上げて、税収を増やしてくれって、東部公爵様に言われたよ。」
「なるほどな。生産量が上がって税収が2倍になれば、東部公の懐は痛まぬ訳だ。しかし、なかなかそう上手くは行かぬのだがな。」ベスさんは伯爵家の姫様だから、領地経営のことも知っている。いろいろ相談しよう。

 その後、三の姫殿下との面会の報告では、高慢ちきな侍女たちを少しイジってやった話をした。
「ゲオルクさん、それはちょっとやり過ぎたかもしれませんわよ。」
「そうね。侍女たちは敵に回さない方が良かったかもしれないわ。」
「敵に回したつもりはないんだけどな。もともと突っ掛かって来たのは向こうだし、突っ掛かって来たらこっちは大人しくしてねぇぞって警告のつもりだったんだよ。」
「ゲオっちの気持ちも分からなくはないけどさぁ、根に持たれちゃったかもよ。」
「そうかな。じゃぁ、次に行くときは手土産でも買って行くか。」
「そうだね、それが無難だろうさ。」
「侍女どのたちに手土産か…。」ん?ベスさん、何か言いたいのかな?

 夕餉を終えて宿屋に戻ると、今夜は呑み会はなしだそうで、部屋に戻った。
 当然、いつものごとく精霊たちは衣服を脱ぎ散らかし、裸で浮いている。晩酌用に手に入れて来たシャンパンは、半分以上を口移しで精霊たちに与えることになった。苦笑

 翌日、昼の定期馬車で東府に向けて発った。スノウとナイトは定期馬車の後をついて来る。そして数日後、東府へ到着した。

 東府では、東府教会の大司教様と、東府魔法学院のルードビッヒ教授にご挨拶に行かなければならない。リーゼさんの実家への挨拶はその後だ。
 俺たちは厩の充実した宿屋を取って、一旦解散し、俺は精霊たちを連れて東府教会へと赴いた。
 教会でお祈りしていくばくかの献金をした後、司祭に、東府教会大司教直属助祭の身分証を提示して、大司教様への取次ぎを頼んだ。
 以前、身分証を提示しないで取次を頼んで、司祭に断られ、そのことを大司教様に言ったら、最初に身分証を提示しなかった俺が悪いと窘められたことがあったからだ。

 すんなり取り次いでもらえて、大司教様の執務室に通された。
「ゲオルク、久しぶりだね。随分活躍しているようじゃないか。それに精霊たちも増えたし成長もしているね。第三形態かな。」
「はい。お久しゅうございます。」俺は大司教様に手土産を渡した。

 俺は、前回東府を出てからのことを語った。
 南部のリシッチャ島に行って風の精霊のウィンと契約したこと。
 そのときペガサスのナイトを仲間にしたこと。
 その帰りにワラを無力化した工作員一行と出くわし捕縛したこと。
 工作員を王都に護送し、東部公爵様の推挙で王太子殿下直属となったこと。
 北部鉱山地区で金属の精霊メタと契約したこと。
 その往路では、雪崩で不通になった街道を精霊魔法で復旧したこと。
 復路では大規模な盗賊団を一網打尽にしたこと。
 その功で、Aランク相当になり、国王陛下に拝謁して、王家付精霊魔術師と騎士爵になったこと。
 お姉様方と婚約したので、南部リシッチャ島ラクシーサ、王都近郊シャンパ村、北部火山地区湯の町バース、西府近郊リャビーセ村と、順にお姉様方の実家に挨拶して、最後に東部に来たこと。
 なお、国境の町バレンシーでの工作活動は、極秘任務なので伏せた。
「それは大したものだ。ところで、しばらく教会に逗留するかね?」
「いえ、東府の行き付けの宿屋を取りました。」
「なるほど、新婚さんに教会は少し居辛いかな?」
「ええ。正直言うとそれもあります。」
「なるほど。狼狽えずにスパッと答えるとは、些細なことでは動じぬ胆力も、なかなかに練れて来たようだね。」
「恐れ入ります。」

 その後、魔法学院のルードビッヒ教授を訪ねた。
「ゲオルク、久しぶりであるな。おお、7名に増えておる。皆、第三形態だな。」
「はい。ご無沙汰しております。」俺は教授に手土産と一緒に報告書を渡した。
 教授は手土産には目もくれず、報告書に目を通す。相変わらずブレない。

「これは、形態進化の様子をまとめたものか?詳細な記録だ。実に素晴らしい。おお、なんと、属性ごとの精霊魔法の数々もあるではないか。それに威力の分析。なるほど、矢に属性を纏わせることもできるのか。ん?これは上限解放の法則か!素晴らしい!」
 教授は報告書にのめり込んで行く。

「なんと、第三形態になると精霊は酒を呑むようになるのか。ほう、口移しでか。しかも酒に魔力増強の効果がある可能性?何だこれは。思いもよらぬ可能性だな。
 ふむふむ。精霊の性格は悪戯好き?このような分析記録は今までにない。実に興味深い。精霊への魔力の供給量の記載はないな。」
「すみません。供給する魔力量については、減った気がしないので測定のしようがありませんでした。」
「まぁ焦らずともこれからいくらでも測定できる。それに報告書の内容についての検証も必要だ。ゲオルク、早速、明日から一緒に研究をしようぞ!」

「待って下さい。教授。実はですね、この度婚約しまして、その…実家への報告があるのです。それと王太子殿下からの御用で、国境へ行かねばなりません。それが終わってからと言うことでよろしいでしょうか?」
「なんと、それは仕方ないな。その代わり、それらの用事が終わったらしっかり研究に付き合ってくれよ。」
「はい。」
 それから俺は、大司教様にも語った、前回東府から出てからのことを報告した。

「そう言えば、吸魔の羽衣を送ってくれて助かったぞ。実に興味深い素材だ。
 数日前に分かったことだが、吸魔の羽衣の素材は教国産だ。しかも織布技術には帝国独特のものが使われておる。両国の合作か、あるいは、両国の技術者が協力しておる多国籍なギルドの可能性も捨てがたいな。」
「武器ギルドとかですか?」
「左様。すでに東部公爵様には、早馬便で報告してある。」なるほど、この情報は俺と入れ違いか。殿下へ帝国への工作成功のご報告をしに行った際には、東部公爵様は何も仰ってなかったからな。
「しかし早かったですね。」
「なんの。南府魔法学院から貴重なデータを貰っていたからな。一からの研究ならもっと時間が掛かったであろうよ。それに王都魔法学院の研究者との情報交換も非常に有意義であった。やはり知識は皆で共有すべきものなのだ。」
 うん。教授、まったくブレない。

 俺は魔法学院を辞し、宿屋へ帰った。お姉様方と合流して行きつけのレストランに繰り出す。
 久しぶりの東府料理だ。
 豚の脛肉をビールで煮込んだアイスバイン、ボイルやソテーのソーセージ各種、ジャガイモ料理は千切りポテトを固めて上げたロスティや蒸かしてすりつぶしてチーズを和えたマッシュポテト、酢漬けニシンに、酢漬けキャベツのザワークラウト。
 どれもこれもビールによく合う。特に俺がこよなく愛する酵母入り小麦ビールのヴァイツェンとの相性は抜群だ。
 精霊たちにヴァイツェンを口移しで呑ませると『美味しい。』と言って光っていた。まあ、光ったのは魔力が満タンのせいだがな。

 夕餉を堪能した後、宿屋に帰ると俺はそのままベッドにダイブ。
『ゲオルクー、お風呂ー』『お風呂ー。』『ねー、お風呂ー。』とせがむ精霊たちを放置して、そのままベッドで寝入ってしまったのだった。

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設定を更新しました。R4/6/5

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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