精霊の加護

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精霊の加護070 別行動

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精霊の加護
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№70 別行動

 翌朝、俺はわざと寝坊した。ゲオルク学校と鉢合わせしないためにな。

 そして起きて行くと、ゲオルク学校の連中は出発した後だった。お姉様方は普通に起きて来ていて、一部始終を見届けたそうだ。

 やはり3人はゴネて泣きまくり、
「そう言うところが師匠を怒らせたって分からないのか!」と、アルフォンソに一喝されたらしい。項垂れる3人にアルフォンソは、
「師匠はな、起きて来たときに俺たちがいたら金輪際縁切りだ。って言ったんだぞ。いい加減分別しろよ。それとも師匠に縁を切られたいのか?」
と言って、3人を納得させた。ホルヘの出る幕はなかったそうだ。
「ふむ。アルフォンソの奴、最後にちょっとはましな仕事をしたようだな。」

 それから俺たちはバレンシー辺境伯邸に挨拶をしに行って、ぜひ歓待したいというのを固辞し、昼には国境の町バレンシーを発った。ゲオルク学校から遅れること半日だ。

 ギルドで聞くと、ゲオルク学校は、手頃なクエストを受けて行ったらしい。
 そう言えば、西府ギルドで受けたクエストのうち、ワイルドブルの群れを追い払うというクエストが残ってたっけ。依頼を出してきたラマガン村は、道がちょっと外れるから往路ではやらずに、復路に回したんだよな。
 俺たちは、ちょっと道を外れてワイルドブルの被害に遭ってるラマガン村に向かった。

 ラマガン村に着くと、見慣れた馬車がある。ゲオルク学校の連中も寄ってたんだな。
 村長が出迎えてくれて、
「わざわざお運び頂いて申し訳ありませんが、先程、他の冒険者パーティに追い払って頂きました。」
「それはよかった。もう日が暮れるので、村の一画で野営させてもらいたいんだが、いいかな?」
「もちろんですよ。」

「あ、師匠!」ホルヘが最初に気付いて近付いて来た。
「ホルヘ、群れのボスを仕留めたか?」
「え?仕留めてませんけど。」
「じゃぁ明日になったら戻って来るぞ。」
「え?」
「ワイルドブルの群れはな、ボスがやられたら逃げるが、ボスが健在なら戻って来るんだよ。そんなことも知らんのか?」
「すみません、勉強不足で。」

「明日は俺たちがやる。お前らは見とけ。」と言いながら、もう行けと、仕草で示した。
「はい。」シュンとして帰って行くホルヘ。
「「「「あ、師匠!」」」」ホルヘと入れ替わりに、残り4人が俺に気付いて駆け寄って来ようとしたが、俺はあっちに行けという仕草だけして背を向けた。こいつらの顔は、当分見たくない。

 女子3人はメソメソと泣き出したようだが、これが俺をイラつかせるってのは分かっているのだろうか?拗ねたり泣いたりするのはマジムカつく。面と向かって反抗して来る方がまだマシだ。その方が気概があっていい。
「おい、メソメソしてると余計師匠に嫌われるぞ。」と、アルフォンソが3人を慰めている。アルフォンソの奴、分かって来たじゃねぇか。

 当然今回の野営の準備は、ゲオルク学校とは別。
 馬車のまわりに土壁をせり上がらせ、馬たちを一画に集めて、牧草を生やさせ、馬たちを解放した。
 水を出し、火を熾し、野菜をさっと育てて、冷凍保管していた肉と一緒にぶつ切りにして鍋の中にぶち込む。
 牧草を生やさせ、土窯で囲って外から炙り、干し草にして簡易干し草ベッドを6個作った。
 石を固めて浴槽を作り、そこに水を溜め、水を湯に沸かして、大きな簡易風呂をひとつ作った。今宵は、別行動のゲオルク学校を呼ばないので、混浴なのだ。むふふ。これだけでも奴らと距離を置いてよかったというものだ。
 これらの作業を精霊たちの手を借りてちゃっちゃとこなした。

 ゲオルク学校の連中は、少し離れた場所で野営している。夕餉は干し肉とパンを齧っている。まぁノーマルな野営飯だな。風呂はないし、寝床も馬車の荷台で毛布にくるまるだけだ。
 精霊たちのお陰で如何に快適な野営ができていたか、思い知るがいい。

 混浴のつもりが、先に精霊たちと入らされて、俺のむふふな目論見は見事外されてしまった。泣
 第三形態になった精霊たちは、胸が少しだけ膨らみ、ウエストはややくびれている。少女と女の中間。
 これだとやはり、宿屋などの公共の場所で、男湯に連れて入るのはアウトかなぁ。かといって精霊たちがお姉様方と入る訳ないしなぁ。
 それにツンと突き出た頂。今の薄い生地だと簡易ブラを付けさせても透けそうな感じだよなぁ。しかし本格的に衣類とか、絶対嫌がるだろうし。

 夕餉では楽しく鍋を囲んだが、当然、万が一に備えて酒はなし。皆、いつも通りがっつり食べた。

 夕餉の後は、お姉様方のお風呂タイム。俺は諦めずに、
「お背中流しましょうかー?」と入って行ったのだが、追い返された。ちえっ。近くにあいつらがいるせいだ。

 翌日、朝から警戒していると案の定、再びワイルドブルの群れがやって来た。
 ラマガン村の畑の作物を食いに来たのだ。群れの規模は15頭。ワイルドブルの群れとしては小さい。だからこそ本来の生息地から追われて来たのかもしれない。大規模な他の群れとの縄張り争いに負けて。

 よしやるか。思い知らせてやる。
「ツリ。」『はーい。』
 ワイルドブルが狙って来た作物から蔓がシュルシュルと伸び出し、ひときわ大型のボスの他、それに次ぐ№2、№3の個体を雁字搦めにした。
「「「ブンモオーーーー!」」」と鳴き叫んで暴れている3頭だが、ツリの精霊魔法にコントロールされた蔓は容赦なく3頭を締め付ける。

 一方で、カルメンさんからのバフを受けたお姉様方が群れの中に突撃して行った。トップ3が手も足も出ないのを目の当たりに見た残る12頭は、統制の取れない敗走に移ったが、カルメンさんのデバフが襲い、逃げ足が落ちた。

 そこへビーチェさんが自慢の異国の大刀で、ベスさんが騎士団の長槍で襲い掛かり、それぞれ1頭ずつを瞬時に屠った。さらにカルメンさんが棘の鞭で1頭の脚を捕らえて引きずり倒し、そこへジュヌさんの短槍が襲い掛かった。リーゼさんもウインドカッターで1頭を仕留めた。

 結局、ほんの短時間でお姉様方はワイルドブル4頭を楽々と仕留めたのである。
「「「ブ…モ…。」」」蔓に捕獲された3頭は身動き取れないままどんどん締め上げられ、口から泡を吹いて倒れたので、トドメを刺してやる。ツリが3頭仕留めた訳だ。合計7頭。15頭の群れは一気に半分の8頭に減った。
 しかもボスを失ってバラバラに逃げたので、群れとしては解散だ。はぐれて単独行動になったワイルドブルはさほど脅威ではない。

 俺たちは7頭の獲物を解体して魔石を取り出し、チルに冷凍させて、4頭分の肉を村に寄付した。受けた損害に対する見舞だ。村長は大層喜んでいた。

 それから残り3頭のうち1頭分の肉と、7個ある魔石の3つをゲオルク学校に分け与えた。
 ゲオルク学校は固辞したが、このクエストはスピリタスとゲオルク学校の共同受注なので、前日にゲオルク学校が群れをいったん追い払った分も共同作戦と考えれば、妥当な配分だと言って受け取らせた。

 ちなみに、この交渉はすべてリーダーのホルヘと行った。アルフォンソは弁えて遠慮していたが、マチルダ、レベッカ、ルイーザの3人はしつこく詫びて来たので、無視するのも煩わしくなり、
「いいか、悪くもない精霊たちがわざわざ詫びを入れてくれたのに、拗ねてそれを無視したお前らは、精霊魔術師の俺を無視したのと一緒だ。詫びを入れるならDランクになってからにしろ。それまで話し掛けて来るな。」
と言って黙らせた。

 その後、西府に着くまで、ゲオルク学校とは互いに視認できる範囲にはいたが、完全に別行動だった。

 西府でクエスト報告やら素材買取やらを済ませると、ゲオルク学校の連中は、全員Eランクに上がった。
 ほんとは一緒に祝ってやりたいが、今は残念ながら、見掛け上は絶縁中なので、Dランクになって許してやるときに、まとめて祝ってやろう。

 それから俺たちは定期馬車で王都に向かったのだが、ゲオルク学校の連中がこっそり見送りに来ていた。
 なお、こいつらの詫びを受け入れることになるのは、そんなに先じゃなかった。まぁ、改心して頑張ったんだろうな。笑

 数日掛けて定期馬車は王都に着いた。いつもの宿屋を押さえると、お姉様方にせかされて王宮御用達の仕立屋へ。

 ウエディングドレスは、縫製行程が仕上がっていて、お姉様方は早速試着した。俺のたっての希望は、お姉様方の巨乳を強調するための、胸元に大きく切れ込むデザインだ。さて、出来栄えは…。
 おおお~!実に素晴らしい仕上がりではないか!リーゼさんは紺碧、ジュヌさんは山吹、カルメンさんは純白、ベスさんは漆黒、ビーチェさんは深紅。胸元V字の深い切り込みが、お姉様方の妖艶な大人の魅力を十二分に引き出している。
 俺はあのV字の切り込みに顔を埋めるのを想像し、むふふなご機嫌状態となってしまった。

 これから最終段階の装飾に入る。装飾とは、仕立て上がったドレスを宝石で飾り立てる行程だ。しかし俺は、敢えて装飾を最小に抑える方向で注文した。
 決して装飾品をケチった訳ではない。
 このドレスは、お姉様方のボンキュボンなボディラインを引き立てさせるための物だ。つまりドレスの装飾品が目立ってはいけないのだ。主役はあくまでもお姉様方。よって、装飾は最低限の物でよい。
 お姉様方も俺の意見に賛同してくれている。
 俺は悦に入りつつ、お姉様方とスタッフのやり取りを、遠目から眺めていた。

 実はこの装飾を抑える手法は、縫製職人の縫製技術を前面に押し出すことになる。ゆえに、縫製職人の琴線を大いに刺激した。
 そして服飾業界での評価は、スピリタス調を任されれば、その縫製職人は超一流。と言うことになって行くのだが、これは後日譚。

 それから王都に繰り出して、夕餉を摂った。王都で何度か来た居酒屋に入ると、店のマスターが注文を取りに来た。
「お客さん、飲み物何にする?今なら、シャンパンがあるよ。」
「シャンパンって?」もしかしてジュヌさんの実家の新商品?
「え?知らないの?最近人気が出て来てるシャンパワイナリーの新商品でさ、辛口の白ワインにきつめの炭酸を利かせてるんだ。シュワシュワののど越しが人気なんだけどさ、キンキンに冷やすとこれがまた数段旨くなるんだよ。よく冷えてるのがあるけど、お勧めだよ。」
「じゃぁそれ。6人だから3本貰おうか。」
「料理は?」
「今日のおすすめを適当に。」
「はいよっ。」

「シャンパンか。シュザンヌさん、もう商品化したんだな。」
「レノーのアイディアのおかげですわね。」
「ん?ふたりはシャンパンのことを知ってるのか?」
「実は、シャンパワイナリーは、わたくしの実家ですの。」
「「「「え?」」」」と驚く残り4人のお姉様方に、俺とジュヌさんは、ジュヌさんの実家に挨拶に行ったときのことを語った。

 ジュヌさんの故郷のシャンパ村に行くときに、シャンパ村からワインを納品に来た馬車の帰りに乗せてもらったこと。
 その納品担当はレノーさんと言い、乗車賃を取らず、その金でシャンパワインを買ってくれと言ったこと。
 シャンパ村への道中、レノーさんはシャンパワイナリーの良さを散々宣伝していたこと。
 レノーさんの見立てでは、ワイン杜氏の親方=ジュヌさんの御父上の仕込みの腕前と、ブドウ農場主=ジュヌさんの御母上の育成技術と、シャンパ村の水によって、シャンパワインの品質が最上級に保たれており、これを売り込む経営者=ジュヌさんの姉上が商売上手で、シャンパワイナリーが右肩上がりに成長していること。
 ついでにレノーさんはジュヌさんの姉上のシュザンヌさんに惚れていること。
 シャンパ村に着いてから、ジュヌさんがシャンパワイナリーの娘と知り、レノーさんは大層驚いていたこと。
 ジュヌさんが、レノーさんに、シュザンヌさんの性格から口説き方をアドバイスしたこと。
 レノーさんは、その日のうちにシュザンヌさんへのプロポーズを実行したこと。
 翌日、開発最終段階のシャンパンの試飲で、レノーさんが、これはキンキンに冷やすともっと旨いと言って、チルに冷やしてもらって再度、皆で試飲したこと。
 キンキンに冷したシャンパンは物凄く旨くて、皆がレノーさんに一目置いたこと。

「ふーん、ドラマだねぇ。あたしゃ好きだよ。こういう話はさ。」
「それでふたりはどうなったのよ。レノーさんのプロポーズは上手く行ったのかしら?」
「さぁ、姉様は考えてみると言ってましたが、その後のことは分かりませんわ。」
「ふむ。シャンパンがこれだけ旨いのだから、上手く行ってる気がするな。」
「そうだといいわね。」

 俺たちは料理とシャンパンを心行くまで堪能した。
 精霊たちもシャンパンが気に入ったようで、俺からの口移しで何度も呑んだのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/5/29

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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