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精霊の加護062 ジュヌさんを下さい
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精霊の加護
Zu-Y
№62 ジュヌさんを下さい
王太子殿下に残れと言われたので、俺は王太子殿下の執務室にいる。
もちろん俺のまわりには精霊たちが、殿下の取り巻きには侍従たちもいるが、侍従は心得たもので、気配を消して空気の様になっている。
一方、俺の精霊たちはと言うとどこ吹く風で、べたべたと俺にまとわり付きつつ、気ままにキャッキャと戯れている。今更であるが…。
「殿下、お話と言うのは?」
「ゲオルク、余は確かに好きにせよと申したがな、それでも王宮内だぞ。限度と言うものがある。少しは自重せよ。」
「はて、俺は何か粗相をしでかしたでしょうか?」
「惚けるな。昨日の晩のことだ。最後は嫌がるバース伯爵の二の姫まで手籠めにしたそうではないか。」
「ああ、そのことで。あれはベスさんもノリノリでしたので、まぁそう言うプレイと言うことでご容赦下さい。」
「なんだと?」
「あの侍女ふたりですよね。俺たちを勝手に監視して、殿下にご注進などと出過ぎた真似をしていたようなので、殿下にご注進する際に赤面するような痴態を、わざと演じてやろうと思いましてね。
で、どうでした?あのふたりは淡々とご注進したんですか?それとも、多少は赤面してました?」
「ちっ。この痴れ者が。
まぁ悪く思うな。王宮内に泊まる者の中によからぬ企みをする者がいるとも限らんのでな、監視は必ず付けているのだ。」
「それくらいご用心なさっていて安心しました。それよりもあの侍女たちの報告の様子はどんなでしたか?その反応によっては…。」
「もうよい。」ムッとした殿下にこの話を打ち切られてしまった。苦笑
「ところでゲオルク、この後はどうするのだ?東部公との約束通り、そなたには自由な行動裁量権を与えているがな、そなたの提案にほぼ沿う形で帝国と教国には詰問使を遣わした。もし交渉が拗れて奴らが敵対の気配を示す様なら、そなたを国境に派遣して、奴らを少々威嚇して来てもらいたいのだ。」
南部湾で、吸魔の羽衣によってワラを無力化した工作員どもを、リシッチャ島でウィンと契約した直後に捕縛した。その中に、帝国出身、教国出身と自白させた者がひとりずついたので、両国に真偽を質す形で圧力を掛けている。
この方針を、王太子殿下は俺の提案と仰ったが、実は東部公爵様のお知恵で、それを俺が代弁しただけなのだ。
「この後は、数日は王都かその周辺にいて、それから北部の湯の街バースに行きます。その後は王都経由で西府、そしてまた王都経由で東府、さらに東部のラスプ村へ行きます。」
「随分目まぐるしく動くのだな。」
「はい。実は婚約者たちの実家に挨拶回りをして、最後に俺の両親に皆を会わせようかと思ってます。」
「そうか、では移動する度に、鳩便で報告をせよ。」
「はい。」
「ところでマリーの印象はどうだった?」
「どうと言われましても、子供にしか見られませんよ。いきなり嫌いだと言われたときは面食らいましたけどね。」
「ああ、あれには余も驚いたわ。まぁしかし、マリーは最後にはお前のことを気に入った様だぞ。」
「どうですかね。最初の嫌いだに比べれば、後半は多少ましになったようですが。その程度じゃないですか?」
「まぁ、王都に来たら王宮に顔を出して、相手をしてやってくれ。」
「子守ですか?それならまぁいいですけど。」
「子守ではない。婚約者としてだ。」
「何とかなりませんか?」
「側室を認めたではないか。それで我慢せよ。まったく、普通は王女の婚約者になったらもっと喜ぶものぞ。」
「子供は守備範囲の外なんですよ。」
「10年もすれば大人になる。」
「ただ大人になってもですねぇ。」
「すでに嫁ぎ先が決まっている上の妹ふたりは、どちらも巨乳だぞ。」
「分かりました。お相手します。」
「なんだ、チョロいな。もうちょっと抵抗せんか。」
俺は王太子殿下の執務室から解放され、お姉様方と王宮を出て、王都内に宿を取った。
翌日、俺とジュヌさんはふたりで、王都近くのジュヌさんの故郷、シャンパ村へ向かった。ジュヌさんのご両親とお姉さんに挨拶するためだ。
もちろん精霊たちも俺に付いて来ている。他のお姉様方は一緒に王都を楽しむそうだ。
シャンパ村へは徒歩では1日で行けるが、たまたまシャンパ村に帰る馬車があったので乗せてもらった。なんでも、シャンパ村のシャンパワイナリーから、ワインを納品した帰りなのだそうだ。
シャンパ村への定期馬車はないが、シャンパ村のワイナリーからは定期的にワイン納品の馬車が来ており、納品した帰りの馬車に乗せてもらえばいいとジュヌさんが教えてくれた。流石、地元である。よく知っている。
大きな商会にはワイン納品の馬車が何台も来る。ジュヌさんが、ワインを納品に来ていた馬車の中から、シャンパ村の馬車をすぐに見付けた。
「こちらはシャンパ村からの馬車ですわね?シャンパ村に行きたいのですけど、わたくしとこの殿方と子供たちを乗せて行ってもらえますでしょうか?」
「おう、いいよ。」
「おいくらですの?」
「別についでだから要らねぇよ。何ならその金で、うちのワインを買ってくんな。旨ぇぜ。」と笑って手を振っている。
なんか物凄くいい人っぽい。口調はぶっきら棒だけど。
馬車に乗せてくれた人はレノーさんといい、シャンパ村のシャンパワイナリーの納品担当だそうだ。勤めてまだ2年だと言う。最近ようやく納品をひとりで任されるようになったそうだ。
「で、おふたりさんはまた何でシャンパ村に?ワイナリーとブドウ畑しかねぇんだぜ。」
「俺たち結婚するんで、ジュヌさんのご両親へ報告に行くんですよ。」
「へー、そいつはおめでとさん。ジュヌさんはうちの村の出身なのか?しかしよぉ、ジュヌさんとは村で会ったことはねぇなぁ。ま、もっとも俺は村に来て2年目だけどよ。」
「そうですわね。わたくしは王都に出て長いですから。里帰りもここ数年してませんし。」
「ふーん、王都に出てった娘が久々に帰って来たら、婚約者を連れて来たってか?そりゃ男親は凹むんじゃねぇの?わっはっは。」
「わたくしのパパは、ワイン造りのことしか頭にないですから、その点は大丈夫ですわ。」
「マジ?そりゃまるでうちの親方みたいだな。まぁだからこそ親方のワインは飛び切りなんだけどよ。シャンパワインって聞いたことあるだろ?」
「ええ、まぁ。それなりに名が通って来てますわね。」
「おいおい、冗談言っちゃぁいけねえよ。それなりにどころかよ、ここんとこは王都で一番人気なんだぜ。なんでそんなに旨いか分かるかい?親方の酒造りの腕とよ、女将さんが丹精込めて育てたブドウとよ、あとは水だよ。シャンパ村はいい水が出るんだ。」
「へぇ、そうなの?酒造りの親方の奥さんが、原料のブドウを育ててるんだ?」
「そうなんだよ。あとはな、親方と女将さんの、えれぇ別嬪の娘さんがワイナリーを経営しているのさ。お嬢はな、王都のアカデミーで経営学を学んだとかの才女でよ、交渉も上手ぇ。納品のついでに何度か一緒に売り込みに行ったがもう凄ぇのなんって。
それにしてもなぁ、勿体ねぇよなぁ。あんなにいい女なのに、経営のことばっかで男に見向きもしねぇ。俺でよけりゃぁよ、喜んで貰ってやるんだがなぁ。」
「それならお口説きになればよろしいんじゃなくて?」
「何度もそれとなく口説いてるけど気付きゃしねぇ。」
「ああ、それはダメですわ。あの方にはそれとなくなんて通じませんもの。単刀直入に言ってごらんなさいな。」
「え?ジュヌさん、その人、知ってるの?」思わず会話に割り込んでしまった。
「ええ。よく知ってますわ。シャンパ村に着いたら、ゲオルクさんにも紹介しますわね。」
楽しい会話の道中で、馬車で半日の行程なのに、あっと言う間にシャンパ村に着いた。
「で、どこで降りるんだ?降りたい所に寄ってやるよ。」
「シャンパワイナリーまでお願いしますわ。」
「「え?」」期せずして俺とレノーさんがハモった。
「わたくしの実家ですの。」
「えー!」レノーさんがえらく驚いていた。俺もそこそこ驚いた。笑
シャンパワイナリーに着いて、馬車を降りるとき、ジュヌさんがレノーさんに言った。
「レノーさん、乗せて来て下さったお礼にいいことを教えて差し上げますわ。姉のシュザンヌは、ああ見えてロマンチストですの。白馬の王子様に憧れてますので、お口説きになるときは、それこそお恥ずかしい台詞を連呼してごらんなさいな。効果覿面ですわよ。」
「おう、ありがとな。試してみるよ。そっちも上手く行くといいな。」
それから俺たちは、ジュヌさんの自宅に行った。
家には家政婦しかいなくて、その家政婦は馴染みの人で、ジュヌさんの帰省に驚いていたが、ジュヌさんが俺を連れて来たことにさらに驚いていた。そして精霊たちにも大層驚いていた。
そのままジュヌさんの家族の帰りを居間で待つことになった。
最初に帰って来たのは、杜氏をしてると言うジュヌさんの御父上だった。いきなりハードル高ぇ。汗
ジュヌさんが御父上に紹介してくれたので、俺はすかさず王都の手土産を渡して、挨拶をした。
「お義父さん、この度、ジュヌさんと結婚させて頂くゲオルクです。」
「ああ。俺はオーギュストだ。」と言った切り、居間から出て行ってしまった。
えらく不機嫌のようだが、ジュヌさんによるといつもこんな感じらしい。なお、精霊たちのことはほとんど気にしていなかった。
しばらくすると、オーギュストさんが赤ワインを数本持って来た。それぞれをグラスに注いで、
「お前、どれが好みだ?」って言われてもワインなんて分かんねぇよ!とも言えず、取り敢えず呑むことにした。
ひとつ目は甘い。これはパス。ふたつ目はすっきりしていて呑みやすい。なかなかいい。3つ目は渋みが効いてるが、どっしりとした存在感がある。これに比べるとすっきりしていると思ったふたつ目は軽薄な印象になる。4つ目は渋みがきつ過ぎてエグい。俺はパス。
「3つ目ですね。」
「どうしてだ?」
「一番旨かったからですね。」オーギュストさんがきょとんとしている。こんな答えじゃまずかったか?
「4つ目のは古酒だ。年代物で一番値が張る。」
「高かろうが何だろうが、渋みがきつくて俺はパスですね。」
「最近は2つ目が流行だ。」
「最初はすっきりしてていいと思ったんですがね、3つ目を呑んだ後は軽薄な印象に変わりました。」
「うむ。3つ目は、今シーズンの俺のワインだ。」オーギュストさんは、ちょっとドヤ顔だ。笑
「そうなんですか?俺はワインにはそんなに詳しくないんですが、3番目のが一番旨かったですよ。」
「お前は迷わず俺のワインを選んだ。なかなかいい舌をしてるぞ。気に入った。遠慮せずもっと呑め。」
それから俺とジュヌさんとオーギュストさんの3人での呑みになった。オーギュストさんがワインのうんちくを延々と語っているのだが、これが意外と面白い。俺とジュヌさんは聞き役に徹した。
しばらくして、農場長をしていると言うジュヌさんの御母上が帰って来た。
「あら、ジュヌ。いつ帰ったのよ。何年ぶり?」
「ママ、紹介しますわ。婚約者のゲオルクさん。」
「初めまして。ゲオルクです。この度、ジュヌさんと結婚させて頂くことになりました。」俺は自己紹介した。
「あらぁ、おめでとう。ジュヌが先に嫁くのね。私はセシールよ。で、この子たちは?」
「俺と契約している精霊たちです。」
「精霊?」
俺は精霊たちのことをかいつまんで説明したが、オーギュストさんもセシールさんも半信半疑だった。
そして4人呑みになった。オーギュストさんとセシールさんでブドウの品質についての熱い語り合いとなり、俺とジュヌさんはこのときも聞き役に徹した。このふたりはいつもこうらしい。笑
最後にワイナリーを経営しているジュヌさんの姉上が帰って来た。
「ちょっと、パパ、ママ、聞いてよ。レノーにいきなり結婚を申し込まれたわ。お付き合いじゃなくていきなりプロポーズなのよ。
あら、ジュヌ。お帰りなさい。久しぶりね。こちらの方は?」
「あ、この度、ジュヌさんと結婚させて頂くことになったゲオルクです。」
「え?ジュヌ、あなた結婚するの?」
「ええ。」
「あ、ゲオルクさん、ごめんなさい。私は姉のシュザンヌよ。よろしくね。」
で、ここで改めて精霊たちも紹介して、王家付精霊魔術師であることや騎士爵であることを明かした。3人は大層驚いていたが、ジュヌさんの婚約者として認めてくれた。
そして改めて5人での呑みになると、シュザンヌさんからレノーさんの話が蒸し返された。
「でね、レノーなんだけどいきなりプロポーズなのよ。ちょっとガサツな人かと思ってたけど、思いの丈をロマンチックに語るのね。あんなことを言う人だとは思わなかったわ。」なるほど、さっきジュヌさんが言ってた通りだ。
「で、姉様はどうなんですの?」
「そうねぇ。レノーのことはそう言う風には見ていなかったけど、ぶっきら棒な割には優しくてよく気が付くのよね。嫌いじゃないわ。」
「実は、わたくしたち、ここに来るまで王都からレノーさんの馬車に乗せて頂きましたの。レノーさんったら、乗車賃を取らないんですのよ。お小遣いにすればいいのに。『ついでだからいい。何ならその金でうちのワインを買ってくれ。』ですって。」
「あいつはうちのワインが好きだからな。」オーギュストさんがにやけている。
「うちのワインと言うより、パパのワインに惚れこんでますわ。それとその材料のママのブドウと、シャンパ村の水にもね。まるで自慢話でしたわ。」
「シュザンヌさんの商才も褒めてましたよ。もちろんそのときは、ジュヌさんがこちらのご家族とは知らずに熱弁してましたから、間違いなく本心でしょうね。」
「レノーなら少々ガサツだけど、誠実な人だからいいんじゃないかしら?
それにシュザンヌ、あなたもう30でしょう。そろそろ本気で考えないとね。それからジュヌに先を越されなくて済むわよ。まぁだからと言って焦って決める必要はないけれど。」
「うーん、そうねぇ。ちょっと本気で考えてみるわ。」
その後もジュヌさん一家との呑みは続いた。
翌日はまず、シャンパワイナリーのブドウ畑を見せてもらった。特にセシールさんが手がけている一画のブドウの木に勢いを感じる。ツリに見てもらうと、やはりブドウの木の勢いが非常にいいそうだ。何でも土との相性がいいらしい。
クレに土を見てもらうと、土を構成する鉱物の粒子と、肥料の含有量と、土に含まれる空気と水の塩梅が非常にいいらしく、根が張りやすいのだそうだ。
ワラに水脈も見てもらったが、地下の伏流水が豊富で、その水に含まれるミネラルも多いとのことだった。
セシールさんは、品種改良も行っていて、俺が気に入った3番目の赤ワインは、セシールさんが開発した品種で造っており、今は、辛口の白ワインに合う品種を開発しているそうだ。
次にワイナリーの醸造工場に行った。ここは杜氏のオーギュストさんの領分だ。
昨日呑ませてもらったいい塩梅に渋みの利いた赤ワインの他にも、辛口の白ワインに炭酸を入れたスパークリングワインを開発しているそうだ。
ビールのシュワシュワをワインにも。と言うシュザンヌさんの発想にオーギュストさんが乗って、試行錯誤の結果、辛口の白ワインが、炭酸との相性が最もいいと言う結論に至ったらしい。試飲させてもらったが、確かに旨かった。
昨日のこともあるのか、テイスティングにはレノーさんも呼ばれており、レノーさんは、面白い視点から決定的な意見を言った。
「旨い。でもこれはキンキンに冷やせばもっと旨くなる。グラスに氷を入れたら融けて薄まるからダメだな。瓶ごと冷やしておいて呑むのがいいんじゃないか?」
「チル、頼む。」『はーい。』チルに瓶ごと冷やしてもらうと、
「別物じゃないか!」ひと口呑んだオーギュストさんが驚き、
「うそ、数段美味しいわ。」とシュザンヌさんが絶句し、
「おう、これだ。予想した通りの味とのど越しだな。」とレノーさんはご満悦だった。
オーギュストさんとシュザンヌさんが、絶句したまま、まじまじとレノーさんを見つめている。レノーさんの株が一気に上がったな。笑
後日譚だが、辛口白ワインの炭酸は、シャンパ村の特産品のシャンパンとして一世を風靡し、シャンパワイナリーをトップブランドに押し上げて行くことになる。
午後、俺とジュヌさんと精霊たちは、レノーさんに送られて王都に戻り、皆と合流した。
お姉様方は、王都の休日を満喫したようで、すっかりご機嫌だった。
ひと休みしてから、皆で夕餉に繰り出そう。明日から北部へ向かうから、王都の中部料理ともしばらくお別れだな。
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設定を更新しました。R4/5/15
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№62 ジュヌさんを下さい
王太子殿下に残れと言われたので、俺は王太子殿下の執務室にいる。
もちろん俺のまわりには精霊たちが、殿下の取り巻きには侍従たちもいるが、侍従は心得たもので、気配を消して空気の様になっている。
一方、俺の精霊たちはと言うとどこ吹く風で、べたべたと俺にまとわり付きつつ、気ままにキャッキャと戯れている。今更であるが…。
「殿下、お話と言うのは?」
「ゲオルク、余は確かに好きにせよと申したがな、それでも王宮内だぞ。限度と言うものがある。少しは自重せよ。」
「はて、俺は何か粗相をしでかしたでしょうか?」
「惚けるな。昨日の晩のことだ。最後は嫌がるバース伯爵の二の姫まで手籠めにしたそうではないか。」
「ああ、そのことで。あれはベスさんもノリノリでしたので、まぁそう言うプレイと言うことでご容赦下さい。」
「なんだと?」
「あの侍女ふたりですよね。俺たちを勝手に監視して、殿下にご注進などと出過ぎた真似をしていたようなので、殿下にご注進する際に赤面するような痴態を、わざと演じてやろうと思いましてね。
で、どうでした?あのふたりは淡々とご注進したんですか?それとも、多少は赤面してました?」
「ちっ。この痴れ者が。
まぁ悪く思うな。王宮内に泊まる者の中によからぬ企みをする者がいるとも限らんのでな、監視は必ず付けているのだ。」
「それくらいご用心なさっていて安心しました。それよりもあの侍女たちの報告の様子はどんなでしたか?その反応によっては…。」
「もうよい。」ムッとした殿下にこの話を打ち切られてしまった。苦笑
「ところでゲオルク、この後はどうするのだ?東部公との約束通り、そなたには自由な行動裁量権を与えているがな、そなたの提案にほぼ沿う形で帝国と教国には詰問使を遣わした。もし交渉が拗れて奴らが敵対の気配を示す様なら、そなたを国境に派遣して、奴らを少々威嚇して来てもらいたいのだ。」
南部湾で、吸魔の羽衣によってワラを無力化した工作員どもを、リシッチャ島でウィンと契約した直後に捕縛した。その中に、帝国出身、教国出身と自白させた者がひとりずついたので、両国に真偽を質す形で圧力を掛けている。
この方針を、王太子殿下は俺の提案と仰ったが、実は東部公爵様のお知恵で、それを俺が代弁しただけなのだ。
「この後は、数日は王都かその周辺にいて、それから北部の湯の街バースに行きます。その後は王都経由で西府、そしてまた王都経由で東府、さらに東部のラスプ村へ行きます。」
「随分目まぐるしく動くのだな。」
「はい。実は婚約者たちの実家に挨拶回りをして、最後に俺の両親に皆を会わせようかと思ってます。」
「そうか、では移動する度に、鳩便で報告をせよ。」
「はい。」
「ところでマリーの印象はどうだった?」
「どうと言われましても、子供にしか見られませんよ。いきなり嫌いだと言われたときは面食らいましたけどね。」
「ああ、あれには余も驚いたわ。まぁしかし、マリーは最後にはお前のことを気に入った様だぞ。」
「どうですかね。最初の嫌いだに比べれば、後半は多少ましになったようですが。その程度じゃないですか?」
「まぁ、王都に来たら王宮に顔を出して、相手をしてやってくれ。」
「子守ですか?それならまぁいいですけど。」
「子守ではない。婚約者としてだ。」
「何とかなりませんか?」
「側室を認めたではないか。それで我慢せよ。まったく、普通は王女の婚約者になったらもっと喜ぶものぞ。」
「子供は守備範囲の外なんですよ。」
「10年もすれば大人になる。」
「ただ大人になってもですねぇ。」
「すでに嫁ぎ先が決まっている上の妹ふたりは、どちらも巨乳だぞ。」
「分かりました。お相手します。」
「なんだ、チョロいな。もうちょっと抵抗せんか。」
俺は王太子殿下の執務室から解放され、お姉様方と王宮を出て、王都内に宿を取った。
翌日、俺とジュヌさんはふたりで、王都近くのジュヌさんの故郷、シャンパ村へ向かった。ジュヌさんのご両親とお姉さんに挨拶するためだ。
もちろん精霊たちも俺に付いて来ている。他のお姉様方は一緒に王都を楽しむそうだ。
シャンパ村へは徒歩では1日で行けるが、たまたまシャンパ村に帰る馬車があったので乗せてもらった。なんでも、シャンパ村のシャンパワイナリーから、ワインを納品した帰りなのだそうだ。
シャンパ村への定期馬車はないが、シャンパ村のワイナリーからは定期的にワイン納品の馬車が来ており、納品した帰りの馬車に乗せてもらえばいいとジュヌさんが教えてくれた。流石、地元である。よく知っている。
大きな商会にはワイン納品の馬車が何台も来る。ジュヌさんが、ワインを納品に来ていた馬車の中から、シャンパ村の馬車をすぐに見付けた。
「こちらはシャンパ村からの馬車ですわね?シャンパ村に行きたいのですけど、わたくしとこの殿方と子供たちを乗せて行ってもらえますでしょうか?」
「おう、いいよ。」
「おいくらですの?」
「別についでだから要らねぇよ。何ならその金で、うちのワインを買ってくんな。旨ぇぜ。」と笑って手を振っている。
なんか物凄くいい人っぽい。口調はぶっきら棒だけど。
馬車に乗せてくれた人はレノーさんといい、シャンパ村のシャンパワイナリーの納品担当だそうだ。勤めてまだ2年だと言う。最近ようやく納品をひとりで任されるようになったそうだ。
「で、おふたりさんはまた何でシャンパ村に?ワイナリーとブドウ畑しかねぇんだぜ。」
「俺たち結婚するんで、ジュヌさんのご両親へ報告に行くんですよ。」
「へー、そいつはおめでとさん。ジュヌさんはうちの村の出身なのか?しかしよぉ、ジュヌさんとは村で会ったことはねぇなぁ。ま、もっとも俺は村に来て2年目だけどよ。」
「そうですわね。わたくしは王都に出て長いですから。里帰りもここ数年してませんし。」
「ふーん、王都に出てった娘が久々に帰って来たら、婚約者を連れて来たってか?そりゃ男親は凹むんじゃねぇの?わっはっは。」
「わたくしのパパは、ワイン造りのことしか頭にないですから、その点は大丈夫ですわ。」
「マジ?そりゃまるでうちの親方みたいだな。まぁだからこそ親方のワインは飛び切りなんだけどよ。シャンパワインって聞いたことあるだろ?」
「ええ、まぁ。それなりに名が通って来てますわね。」
「おいおい、冗談言っちゃぁいけねえよ。それなりにどころかよ、ここんとこは王都で一番人気なんだぜ。なんでそんなに旨いか分かるかい?親方の酒造りの腕とよ、女将さんが丹精込めて育てたブドウとよ、あとは水だよ。シャンパ村はいい水が出るんだ。」
「へぇ、そうなの?酒造りの親方の奥さんが、原料のブドウを育ててるんだ?」
「そうなんだよ。あとはな、親方と女将さんの、えれぇ別嬪の娘さんがワイナリーを経営しているのさ。お嬢はな、王都のアカデミーで経営学を学んだとかの才女でよ、交渉も上手ぇ。納品のついでに何度か一緒に売り込みに行ったがもう凄ぇのなんって。
それにしてもなぁ、勿体ねぇよなぁ。あんなにいい女なのに、経営のことばっかで男に見向きもしねぇ。俺でよけりゃぁよ、喜んで貰ってやるんだがなぁ。」
「それならお口説きになればよろしいんじゃなくて?」
「何度もそれとなく口説いてるけど気付きゃしねぇ。」
「ああ、それはダメですわ。あの方にはそれとなくなんて通じませんもの。単刀直入に言ってごらんなさいな。」
「え?ジュヌさん、その人、知ってるの?」思わず会話に割り込んでしまった。
「ええ。よく知ってますわ。シャンパ村に着いたら、ゲオルクさんにも紹介しますわね。」
楽しい会話の道中で、馬車で半日の行程なのに、あっと言う間にシャンパ村に着いた。
「で、どこで降りるんだ?降りたい所に寄ってやるよ。」
「シャンパワイナリーまでお願いしますわ。」
「「え?」」期せずして俺とレノーさんがハモった。
「わたくしの実家ですの。」
「えー!」レノーさんがえらく驚いていた。俺もそこそこ驚いた。笑
シャンパワイナリーに着いて、馬車を降りるとき、ジュヌさんがレノーさんに言った。
「レノーさん、乗せて来て下さったお礼にいいことを教えて差し上げますわ。姉のシュザンヌは、ああ見えてロマンチストですの。白馬の王子様に憧れてますので、お口説きになるときは、それこそお恥ずかしい台詞を連呼してごらんなさいな。効果覿面ですわよ。」
「おう、ありがとな。試してみるよ。そっちも上手く行くといいな。」
それから俺たちは、ジュヌさんの自宅に行った。
家には家政婦しかいなくて、その家政婦は馴染みの人で、ジュヌさんの帰省に驚いていたが、ジュヌさんが俺を連れて来たことにさらに驚いていた。そして精霊たちにも大層驚いていた。
そのままジュヌさんの家族の帰りを居間で待つことになった。
最初に帰って来たのは、杜氏をしてると言うジュヌさんの御父上だった。いきなりハードル高ぇ。汗
ジュヌさんが御父上に紹介してくれたので、俺はすかさず王都の手土産を渡して、挨拶をした。
「お義父さん、この度、ジュヌさんと結婚させて頂くゲオルクです。」
「ああ。俺はオーギュストだ。」と言った切り、居間から出て行ってしまった。
えらく不機嫌のようだが、ジュヌさんによるといつもこんな感じらしい。なお、精霊たちのことはほとんど気にしていなかった。
しばらくすると、オーギュストさんが赤ワインを数本持って来た。それぞれをグラスに注いで、
「お前、どれが好みだ?」って言われてもワインなんて分かんねぇよ!とも言えず、取り敢えず呑むことにした。
ひとつ目は甘い。これはパス。ふたつ目はすっきりしていて呑みやすい。なかなかいい。3つ目は渋みが効いてるが、どっしりとした存在感がある。これに比べるとすっきりしていると思ったふたつ目は軽薄な印象になる。4つ目は渋みがきつ過ぎてエグい。俺はパス。
「3つ目ですね。」
「どうしてだ?」
「一番旨かったからですね。」オーギュストさんがきょとんとしている。こんな答えじゃまずかったか?
「4つ目のは古酒だ。年代物で一番値が張る。」
「高かろうが何だろうが、渋みがきつくて俺はパスですね。」
「最近は2つ目が流行だ。」
「最初はすっきりしてていいと思ったんですがね、3つ目を呑んだ後は軽薄な印象に変わりました。」
「うむ。3つ目は、今シーズンの俺のワインだ。」オーギュストさんは、ちょっとドヤ顔だ。笑
「そうなんですか?俺はワインにはそんなに詳しくないんですが、3番目のが一番旨かったですよ。」
「お前は迷わず俺のワインを選んだ。なかなかいい舌をしてるぞ。気に入った。遠慮せずもっと呑め。」
それから俺とジュヌさんとオーギュストさんの3人での呑みになった。オーギュストさんがワインのうんちくを延々と語っているのだが、これが意外と面白い。俺とジュヌさんは聞き役に徹した。
しばらくして、農場長をしていると言うジュヌさんの御母上が帰って来た。
「あら、ジュヌ。いつ帰ったのよ。何年ぶり?」
「ママ、紹介しますわ。婚約者のゲオルクさん。」
「初めまして。ゲオルクです。この度、ジュヌさんと結婚させて頂くことになりました。」俺は自己紹介した。
「あらぁ、おめでとう。ジュヌが先に嫁くのね。私はセシールよ。で、この子たちは?」
「俺と契約している精霊たちです。」
「精霊?」
俺は精霊たちのことをかいつまんで説明したが、オーギュストさんもセシールさんも半信半疑だった。
そして4人呑みになった。オーギュストさんとセシールさんでブドウの品質についての熱い語り合いとなり、俺とジュヌさんはこのときも聞き役に徹した。このふたりはいつもこうらしい。笑
最後にワイナリーを経営しているジュヌさんの姉上が帰って来た。
「ちょっと、パパ、ママ、聞いてよ。レノーにいきなり結婚を申し込まれたわ。お付き合いじゃなくていきなりプロポーズなのよ。
あら、ジュヌ。お帰りなさい。久しぶりね。こちらの方は?」
「あ、この度、ジュヌさんと結婚させて頂くことになったゲオルクです。」
「え?ジュヌ、あなた結婚するの?」
「ええ。」
「あ、ゲオルクさん、ごめんなさい。私は姉のシュザンヌよ。よろしくね。」
で、ここで改めて精霊たちも紹介して、王家付精霊魔術師であることや騎士爵であることを明かした。3人は大層驚いていたが、ジュヌさんの婚約者として認めてくれた。
そして改めて5人での呑みになると、シュザンヌさんからレノーさんの話が蒸し返された。
「でね、レノーなんだけどいきなりプロポーズなのよ。ちょっとガサツな人かと思ってたけど、思いの丈をロマンチックに語るのね。あんなことを言う人だとは思わなかったわ。」なるほど、さっきジュヌさんが言ってた通りだ。
「で、姉様はどうなんですの?」
「そうねぇ。レノーのことはそう言う風には見ていなかったけど、ぶっきら棒な割には優しくてよく気が付くのよね。嫌いじゃないわ。」
「実は、わたくしたち、ここに来るまで王都からレノーさんの馬車に乗せて頂きましたの。レノーさんったら、乗車賃を取らないんですのよ。お小遣いにすればいいのに。『ついでだからいい。何ならその金でうちのワインを買ってくれ。』ですって。」
「あいつはうちのワインが好きだからな。」オーギュストさんがにやけている。
「うちのワインと言うより、パパのワインに惚れこんでますわ。それとその材料のママのブドウと、シャンパ村の水にもね。まるで自慢話でしたわ。」
「シュザンヌさんの商才も褒めてましたよ。もちろんそのときは、ジュヌさんがこちらのご家族とは知らずに熱弁してましたから、間違いなく本心でしょうね。」
「レノーなら少々ガサツだけど、誠実な人だからいいんじゃないかしら?
それにシュザンヌ、あなたもう30でしょう。そろそろ本気で考えないとね。それからジュヌに先を越されなくて済むわよ。まぁだからと言って焦って決める必要はないけれど。」
「うーん、そうねぇ。ちょっと本気で考えてみるわ。」
その後もジュヌさん一家との呑みは続いた。
翌日はまず、シャンパワイナリーのブドウ畑を見せてもらった。特にセシールさんが手がけている一画のブドウの木に勢いを感じる。ツリに見てもらうと、やはりブドウの木の勢いが非常にいいそうだ。何でも土との相性がいいらしい。
クレに土を見てもらうと、土を構成する鉱物の粒子と、肥料の含有量と、土に含まれる空気と水の塩梅が非常にいいらしく、根が張りやすいのだそうだ。
ワラに水脈も見てもらったが、地下の伏流水が豊富で、その水に含まれるミネラルも多いとのことだった。
セシールさんは、品種改良も行っていて、俺が気に入った3番目の赤ワインは、セシールさんが開発した品種で造っており、今は、辛口の白ワインに合う品種を開発しているそうだ。
次にワイナリーの醸造工場に行った。ここは杜氏のオーギュストさんの領分だ。
昨日呑ませてもらったいい塩梅に渋みの利いた赤ワインの他にも、辛口の白ワインに炭酸を入れたスパークリングワインを開発しているそうだ。
ビールのシュワシュワをワインにも。と言うシュザンヌさんの発想にオーギュストさんが乗って、試行錯誤の結果、辛口の白ワインが、炭酸との相性が最もいいと言う結論に至ったらしい。試飲させてもらったが、確かに旨かった。
昨日のこともあるのか、テイスティングにはレノーさんも呼ばれており、レノーさんは、面白い視点から決定的な意見を言った。
「旨い。でもこれはキンキンに冷やせばもっと旨くなる。グラスに氷を入れたら融けて薄まるからダメだな。瓶ごと冷やしておいて呑むのがいいんじゃないか?」
「チル、頼む。」『はーい。』チルに瓶ごと冷やしてもらうと、
「別物じゃないか!」ひと口呑んだオーギュストさんが驚き、
「うそ、数段美味しいわ。」とシュザンヌさんが絶句し、
「おう、これだ。予想した通りの味とのど越しだな。」とレノーさんはご満悦だった。
オーギュストさんとシュザンヌさんが、絶句したまま、まじまじとレノーさんを見つめている。レノーさんの株が一気に上がったな。笑
後日譚だが、辛口白ワインの炭酸は、シャンパ村の特産品のシャンパンとして一世を風靡し、シャンパワイナリーをトップブランドに押し上げて行くことになる。
午後、俺とジュヌさんと精霊たちは、レノーさんに送られて王都に戻り、皆と合流した。
お姉様方は、王都の休日を満喫したようで、すっかりご機嫌だった。
ひと休みしてから、皆で夕餉に繰り出そう。明日から北部へ向かうから、王都の中部料理ともしばらくお別れだな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/5/15
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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