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精霊の加護048 南府へ帰還
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精霊の加護
Zu-Y
№48 南府へ帰還
ポリーナに着くと、双子山へ出発する前に使った宿屋で、再び部屋を取った。ポーターの家は宿屋の近くで、宿屋の主人とは幼馴染だった。世間は狭い!
宿の主人に事情を話し、捕虜の4人は拘束したまま納屋にぶち込んだ。
宿屋の部屋割りはいつもの通りで、俺と精霊たち、そしてお姉様方。
宿屋ではお姉様方に、先に旅の疲れを落としてもらい、俺はもうひと仕事、残っている。最後の仕事をしに、ポリーナギルドへ向かうと、精霊たちは俺に付いて来た。
ポリーナのギルドへ行って、工作員捕獲の情報を、鳩便で王都におられる東部公爵様宛に送ったのだ。
鳩便はすぐ出された。ポリーナから、ラクシーサ、南府、王都へと引き継がれ、2~3日中には王都におられる東部公爵様へ届くだろう。
ギルドでは、風の谷で狩った魔獣の素材や魔石も換金した。金貨1枚でちょっとした小遣いになったので、町で皆に何か買うことにした。
宿に戻って精霊たちと宿屋の風呂で旅の汚れを落とし、ひと息ついた。その後、お姉様方の女子部屋にお呼ばれしてそのまま宴会となった。宴会ではこの後の確認である。
まずは、ラクシーサの衛兵詰所に賊4人を引き渡し、南府へ護送。その護送にあたっては、俺たちスピリタスが同行することになるだろう。護送と言ってもほとんど船旅なのだが。笑
南府ではリシッチャ亭を定宿として、リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさん、ベスさんが、南府の魔法学院、教会、騎士団で修行。ビーチェさんはラクシーサの実家へ戻って修行。俺は、南府に賊4人を護送した後、王都経由で北部の鉱山エリアに行き、金属の特大精霊を探す。
「なるべく早く金属の精霊と契約して迎えに来るからね。」
「私たちも修行を頑張るわね。私は中級攻撃魔法をすべてマスターしたいわね。」
「わたくしも、中級回復魔法のコンプリートが目標ですわ。」
「あたしゃ、中級支援魔法の制覇だね。教会と魔法学院をはしごするよ。」
「私は中級盾スキルと中級槍スキルの完全網羅だ。乗馬スキルはスノウがもう少し大きくなってからだな。」
「最近スノウは大きくなって来たし、もうそろそろ乗れるんじゃない?」
ベスさんの愛馬スノウは作戦中に事故死したが、霊獣ユニコーンとして転生した。転生してからおよそ1年なので、まだ馬体が十分育っていないが、日々成長している。
「いや、重装備の私を乗せるのはまだだな。」なるほどな。ベスさんは、タンクを担う重騎士のため、装備が重装備なのだ。
「僕は、中級刀術スキルをすべて身に着けて、できれば上級刀術スキルにも手を伸ばしたい。最終的には免許皆伝になるのが目標なんだ。」
「皆がそうなるの、楽しみにしてるよ。でもさ、そうしたらスピリタスは凄いパーティになるね。」
「今でも凄いですわよ。今回だって、ウィンとの契約と言い、賊の捕縛と言い、大手柄ですわ。」
「ほとんどゲオっちの活躍だけどね。」
「そうね。私たちもゲオルク君に近付かないと。」
「ところでゲオルクどの、大活躍のご褒美を差し上げねばならぬな。何を所望されるか?」
「どうせぱふぱふに決まっているさ。なぁ、ゲオルク。」
「はいっ!」
「よし、いい返事だ。」
それから俺は10個の生メロンボールを堪能したのだった。
翌日俺たちは半日掛けてラクシーサに戻り、またビーチェさんの実家に御厄介になった。
「ママー、ただいまー。」
「お帰り、ビーチェ。
皆さんもお帰りなさい。」ビーチェさんの御母上が出迎えてくれた。
「またお世話になります。」
「もちろん構わないわよ。遠慮しないでね。あらー、精霊ひとりと馬も1頭増えたわね。あら?この馬、ペガサスじゃないかしら?」
「え?ママ、翼を隠してるのに分かるの?」
「もちろん。僕が風の谷のポリーナ出身なの、忘れたのかしら?」
「あ、そうだった。てへっ。」
「ポリーナでは、風の谷に生息するペガサスは身近なのよ。醸し出す雰囲気で、普通の馬との違いは一目瞭然ね。」
その夜、皆で囲む夕餉は賑やかだった。
「それにしてもなぁ、この数日で精霊にペガサスを捕まえて来るたぁ、大したもんだ。なぁ、ゲオルクよぉ。」
ビーチェさんがしばらく実家で修行すると聞いて、ピエトロさんはすっかりご機嫌である。当然、酒も進む。リシッチャ島産の蒸留酒グラッパを、グイグイと呷っている。グラッパはブランデーの一種だ。
「もう、パパったら、そのセリフ、何度目だよー。酔っ払ってんじゃないの?」
「そりゃ酒呑みゃ酔うわなぁ。そんなのはあた棒でぇ。」
「じゃぁ、姉貴はしばらくうちに残って修行するんだな?」
「うん、中級刀術スキルは全部覚えたいね。あとできれば上級も。」
「姉貴なら中級スキルはすぐだろうけど、いくら姉貴でも上級スキルはすぐには会得できないと思うぜ。」
「そうだろうね。それでもできるとこまでやるさ。」
「皆さんは明日、南府へ立つのね?」エンマさんが聞いて来た。
「はい。仲間たちは南府でしばらく修行し、俺は精霊を探しに北部へ向かいます。」
「僕も南府までは見送りがてら付いて行くんだ。南府で叔父さんに皆の宿泊を頼まないとね。」
「ビーチェ、マルコには俺が紹介状を書いてやるから、おめぇは南府に行かねぇでもいいだろう?」
「まぁまぁ、皆としばしの別れを惜しんで来るよ。」
「どうせゲオルクとだろうがよぉ。」
「すみませんねぇ、お義父さん。」
「ゲオルク、てめぇ、気易くお義父さんと呼ぶんじゃねぇって言ってるだろ。ピエトロさんと呼べ!」
「僕のことはエンマさんじゃなくて、お義母さんと呼んでいいわよ。」
「エンマ、てめぇ。」
「ふふん。」エンマさんはピエトロさんを軽くいなして相手にしない。笑
賑やかな夜は過ぎて行く。
翌日の昼過ぎ、西回りの特急定期船に乗船した。船室はお姉様方がシングルで、俺と精霊たちでデラックスダブル。スノウとナイトは馬房デッキだ。
俺は今、ベスさんと一緒に、馬房デッキで馬たちの世話をしている。
『船で行くのか?僕は空を飛んで行けるぞ。』ナイトから念話が来た。やや不満気である。
「船にも慣れといてくれよ。」俺はナイトの鼻面をポンポンと撫でた。
『まぁいいけどさ。』
『今まではひとりで寂しかったからナイトがいると嬉しい。』スノウがナイスフォロー。
『僕もスノウと一緒で嬉しいよ。』スノウのひと言でナイトはすっかりご機嫌になった。まったく牡馬は単純である。笑
さて、船旅だからベッドにゴロンでのんびり行くか。
『ゲオルクー、脱いでいい?』
「ああ、船室の中ならいいぞ。でも裸で船室の外に出るなよ。」
『『『『『『わーい。』』』』』』
衣類が嫌いな精霊たちは、早速衣類を脱ぎ捨てて、船室の中を思い思いに漂っている。ツリの緑、クレの橙、フィアの赤、チルの藍、ワラの青、ウィンの紫。6色の光が船内を彩る。とても美しい。が、少し物足りない。ここにあと黄色が欲しい。金属の精霊の黄色だ。それで虹色コンプリートだ。
精霊たちは時々べろちゅーで魔力を補給しに来る。第一形態の幼児や第二形態の少女ではまったくそそらないが、第五形態の大人の体になるのが秘かに楽しみである。願わくば皆、お姉様方のようなメロンボールに育って欲しい。
精霊たちは、契約者の俺から魔力を得るが、魔力は体液に溶け込んでいるため、体液を得やすいように、契約者の好む性別を取る。もし俺が女かあるいはゲイなら、精霊たちは男の形態を採っていたそうだ。
性別がいつでも変えられるなら、成長段階も変えられないか聞いてみたが、それは無理なのだそうだ。結局精霊たちを育てるには精霊魔法を使いまくるのが一番であるが、今のところ、なかなか派手に精霊魔法を使う機会には恵まれていない。
とにかく、北部鉱山エリアで、残る金属の精霊を見付けて契約すれば、一段落である。そしたら東府魔法学院のルードビッヒ教授のもと、精霊魔法の研究対象として、精霊魔法を毎日ぶっ放すことになるだろう。
さて、ワラを襲った工作員4人であるが、予想通り、俺たちと一緒のこの船で、南府へ護送されることになった。
囚人4人には、ラクシーサの衛兵8人が同行している。囚人たちは衛兵の厳重な監視下で、手枷足枷で数珠繋ぎのまま、大部屋に収容されている。なお、スピリタスは、囚人4人の護送の護衛を兼ねている。
もっともこの大型船を海上で襲撃などできるはずもないのだが。
「ゲオルクどの、おられるか?」
「はい。」
ドアをノックする音に顔を出すとラクシーサ衛兵隊の隊長だった。
「隊長さん、どうしました?」
「うむ。囚人を尋問しているのだがな、4人とも王国の武器商人の手下だと言うのだ。ゲオルクどのの報告では、魔術師は帝国、精霊士は教国と言う話だったが?」
「そうですか。捕獲した現場ではそのように供述したのですが…。」
「決してゲオルクどのを疑う訳ではないのだが、拷問によりそのように供述させられたと言うのだ。」
「拷問?俺がですか?身体検査はしましたか?どこかに痣でもありました?」
「いや、調べておらん。」
「では素っ裸にひん剥いて調べて下さい。それで俺が拷問したかが分かるはずですよ。こちらの取り調べを撹乱するのが目的じゃないですかね。
それに、帝国と教国が裏で手を結んで、王国の武器商人を巻き込んでいたともなれば、重大事案です。隊長、あなた、囚人の戯言を真に受けて、この可能性を見過ごしたら、後でとんでもないことになりますよ。」
「うむ、そうだな。」
「奴らが水の精霊を陥れて無力化した1ヶ月間、リヴァイアサンが南部湾に侵入して南部がどれだけ酷い目に遭ったか、もう忘れたんですか?」
「いや、相すまぬ。」
「衛兵なら適当に言い包められると高を括ってるんじゃないですか?リシッチャ島の衛兵も舐められたものですね。」
「うぬ、許せぬ。」隊長が血相を変えた。ちょろい。
「ならばしっかり尋問して下さい。嘘偽りを吐かせぬようにね。」
「ゲオルクどの、時間を取らせてすまなかったな。ご助言、感謝する。」
その後、大部屋からは悲鳴が聞こえて来た。くわばらくわばら。
翌日の昼前に、特急定期船はヴァジェノに着いた。ヴァジェノは、南部西岸エリアの中心の港町で、螺鈿工芸品の一大産地である。俺たちはヴァジェノに寄港している間、港に下りてヴァジェノの特産品を見て回った。
俺はお姉様方に、ヴァジェノの特産品である螺鈿で作った髪留をプレゼントした。
当たり前だがただの髪留ではない。お姉様方それぞれに合った能力上昇補正が付与されている。リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風。
流石に俺は髪留という訳にはいかないので、集中の能力上昇補正が着いたバッヂにした。
結局、今回の南部巡りで、真珠のネックレス、珊瑚のブレスレット、螺鈿の髪留またはバッヂと、俺たちは能力上昇補正を付加した装備品を3つ手に入れた。相乗効果もあって、今後の戦闘に大いに役立つだろう。
夕刻にヴァジェノを出航した特急定期船は翌日の午前中に南府へと到着した。
俺たちは、衛兵と囚人の一行と一緒に、南府の近衛隊詰所に向かう。
「ゲオルクどの、やはり貴殿の申された通り、魔術師は帝国、精霊士は教国であると白状致した。護衛のふたりは王国の裏組織の武器商人の配下であるゆえ、武器商人どもには徹底的に制裁を加えねばならぬ。」
衛兵に連行されている囚人たちを見ると、魔術師と精霊士は顔が倍ぐらいに腫れ上がっており、護衛のふたりは明らかに怯えている。衛兵隊の連中は随分派手にやったんだな。
「おい、お前ら、随分男前になったじゃないか。」魔術師と精霊士に話し掛けたのだが、
「「…。」」返事は返って来なかった。
『ゲオルクが、聞いている。答えろ。』ワラがムッとしてふたりに絡んだ。
「すみません。」「勘弁して下さい。」
「お前ら、手を出した相手が悪かったな。ま、そういう命令をお前らに出した祖国を恨むこった。素直に王国に協力して、反省の意を示すことだ。余計な主張は身を亡ぼすぜ。」
「「…はい。」」
さて、南府近衛隊詰所に囚人4人を引き渡したし、リシッチャ亭に行くとするか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/4/10
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№48 南府へ帰還
ポリーナに着くと、双子山へ出発する前に使った宿屋で、再び部屋を取った。ポーターの家は宿屋の近くで、宿屋の主人とは幼馴染だった。世間は狭い!
宿の主人に事情を話し、捕虜の4人は拘束したまま納屋にぶち込んだ。
宿屋の部屋割りはいつもの通りで、俺と精霊たち、そしてお姉様方。
宿屋ではお姉様方に、先に旅の疲れを落としてもらい、俺はもうひと仕事、残っている。最後の仕事をしに、ポリーナギルドへ向かうと、精霊たちは俺に付いて来た。
ポリーナのギルドへ行って、工作員捕獲の情報を、鳩便で王都におられる東部公爵様宛に送ったのだ。
鳩便はすぐ出された。ポリーナから、ラクシーサ、南府、王都へと引き継がれ、2~3日中には王都におられる東部公爵様へ届くだろう。
ギルドでは、風の谷で狩った魔獣の素材や魔石も換金した。金貨1枚でちょっとした小遣いになったので、町で皆に何か買うことにした。
宿に戻って精霊たちと宿屋の風呂で旅の汚れを落とし、ひと息ついた。その後、お姉様方の女子部屋にお呼ばれしてそのまま宴会となった。宴会ではこの後の確認である。
まずは、ラクシーサの衛兵詰所に賊4人を引き渡し、南府へ護送。その護送にあたっては、俺たちスピリタスが同行することになるだろう。護送と言ってもほとんど船旅なのだが。笑
南府ではリシッチャ亭を定宿として、リーゼさん、ジュヌさん、カルメンさん、ベスさんが、南府の魔法学院、教会、騎士団で修行。ビーチェさんはラクシーサの実家へ戻って修行。俺は、南府に賊4人を護送した後、王都経由で北部の鉱山エリアに行き、金属の特大精霊を探す。
「なるべく早く金属の精霊と契約して迎えに来るからね。」
「私たちも修行を頑張るわね。私は中級攻撃魔法をすべてマスターしたいわね。」
「わたくしも、中級回復魔法のコンプリートが目標ですわ。」
「あたしゃ、中級支援魔法の制覇だね。教会と魔法学院をはしごするよ。」
「私は中級盾スキルと中級槍スキルの完全網羅だ。乗馬スキルはスノウがもう少し大きくなってからだな。」
「最近スノウは大きくなって来たし、もうそろそろ乗れるんじゃない?」
ベスさんの愛馬スノウは作戦中に事故死したが、霊獣ユニコーンとして転生した。転生してからおよそ1年なので、まだ馬体が十分育っていないが、日々成長している。
「いや、重装備の私を乗せるのはまだだな。」なるほどな。ベスさんは、タンクを担う重騎士のため、装備が重装備なのだ。
「僕は、中級刀術スキルをすべて身に着けて、できれば上級刀術スキルにも手を伸ばしたい。最終的には免許皆伝になるのが目標なんだ。」
「皆がそうなるの、楽しみにしてるよ。でもさ、そうしたらスピリタスは凄いパーティになるね。」
「今でも凄いですわよ。今回だって、ウィンとの契約と言い、賊の捕縛と言い、大手柄ですわ。」
「ほとんどゲオっちの活躍だけどね。」
「そうね。私たちもゲオルク君に近付かないと。」
「ところでゲオルクどの、大活躍のご褒美を差し上げねばならぬな。何を所望されるか?」
「どうせぱふぱふに決まっているさ。なぁ、ゲオルク。」
「はいっ!」
「よし、いい返事だ。」
それから俺は10個の生メロンボールを堪能したのだった。
翌日俺たちは半日掛けてラクシーサに戻り、またビーチェさんの実家に御厄介になった。
「ママー、ただいまー。」
「お帰り、ビーチェ。
皆さんもお帰りなさい。」ビーチェさんの御母上が出迎えてくれた。
「またお世話になります。」
「もちろん構わないわよ。遠慮しないでね。あらー、精霊ひとりと馬も1頭増えたわね。あら?この馬、ペガサスじゃないかしら?」
「え?ママ、翼を隠してるのに分かるの?」
「もちろん。僕が風の谷のポリーナ出身なの、忘れたのかしら?」
「あ、そうだった。てへっ。」
「ポリーナでは、風の谷に生息するペガサスは身近なのよ。醸し出す雰囲気で、普通の馬との違いは一目瞭然ね。」
その夜、皆で囲む夕餉は賑やかだった。
「それにしてもなぁ、この数日で精霊にペガサスを捕まえて来るたぁ、大したもんだ。なぁ、ゲオルクよぉ。」
ビーチェさんがしばらく実家で修行すると聞いて、ピエトロさんはすっかりご機嫌である。当然、酒も進む。リシッチャ島産の蒸留酒グラッパを、グイグイと呷っている。グラッパはブランデーの一種だ。
「もう、パパったら、そのセリフ、何度目だよー。酔っ払ってんじゃないの?」
「そりゃ酒呑みゃ酔うわなぁ。そんなのはあた棒でぇ。」
「じゃぁ、姉貴はしばらくうちに残って修行するんだな?」
「うん、中級刀術スキルは全部覚えたいね。あとできれば上級も。」
「姉貴なら中級スキルはすぐだろうけど、いくら姉貴でも上級スキルはすぐには会得できないと思うぜ。」
「そうだろうね。それでもできるとこまでやるさ。」
「皆さんは明日、南府へ立つのね?」エンマさんが聞いて来た。
「はい。仲間たちは南府でしばらく修行し、俺は精霊を探しに北部へ向かいます。」
「僕も南府までは見送りがてら付いて行くんだ。南府で叔父さんに皆の宿泊を頼まないとね。」
「ビーチェ、マルコには俺が紹介状を書いてやるから、おめぇは南府に行かねぇでもいいだろう?」
「まぁまぁ、皆としばしの別れを惜しんで来るよ。」
「どうせゲオルクとだろうがよぉ。」
「すみませんねぇ、お義父さん。」
「ゲオルク、てめぇ、気易くお義父さんと呼ぶんじゃねぇって言ってるだろ。ピエトロさんと呼べ!」
「僕のことはエンマさんじゃなくて、お義母さんと呼んでいいわよ。」
「エンマ、てめぇ。」
「ふふん。」エンマさんはピエトロさんを軽くいなして相手にしない。笑
賑やかな夜は過ぎて行く。
翌日の昼過ぎ、西回りの特急定期船に乗船した。船室はお姉様方がシングルで、俺と精霊たちでデラックスダブル。スノウとナイトは馬房デッキだ。
俺は今、ベスさんと一緒に、馬房デッキで馬たちの世話をしている。
『船で行くのか?僕は空を飛んで行けるぞ。』ナイトから念話が来た。やや不満気である。
「船にも慣れといてくれよ。」俺はナイトの鼻面をポンポンと撫でた。
『まぁいいけどさ。』
『今まではひとりで寂しかったからナイトがいると嬉しい。』スノウがナイスフォロー。
『僕もスノウと一緒で嬉しいよ。』スノウのひと言でナイトはすっかりご機嫌になった。まったく牡馬は単純である。笑
さて、船旅だからベッドにゴロンでのんびり行くか。
『ゲオルクー、脱いでいい?』
「ああ、船室の中ならいいぞ。でも裸で船室の外に出るなよ。」
『『『『『『わーい。』』』』』』
衣類が嫌いな精霊たちは、早速衣類を脱ぎ捨てて、船室の中を思い思いに漂っている。ツリの緑、クレの橙、フィアの赤、チルの藍、ワラの青、ウィンの紫。6色の光が船内を彩る。とても美しい。が、少し物足りない。ここにあと黄色が欲しい。金属の精霊の黄色だ。それで虹色コンプリートだ。
精霊たちは時々べろちゅーで魔力を補給しに来る。第一形態の幼児や第二形態の少女ではまったくそそらないが、第五形態の大人の体になるのが秘かに楽しみである。願わくば皆、お姉様方のようなメロンボールに育って欲しい。
精霊たちは、契約者の俺から魔力を得るが、魔力は体液に溶け込んでいるため、体液を得やすいように、契約者の好む性別を取る。もし俺が女かあるいはゲイなら、精霊たちは男の形態を採っていたそうだ。
性別がいつでも変えられるなら、成長段階も変えられないか聞いてみたが、それは無理なのだそうだ。結局精霊たちを育てるには精霊魔法を使いまくるのが一番であるが、今のところ、なかなか派手に精霊魔法を使う機会には恵まれていない。
とにかく、北部鉱山エリアで、残る金属の精霊を見付けて契約すれば、一段落である。そしたら東府魔法学院のルードビッヒ教授のもと、精霊魔法の研究対象として、精霊魔法を毎日ぶっ放すことになるだろう。
さて、ワラを襲った工作員4人であるが、予想通り、俺たちと一緒のこの船で、南府へ護送されることになった。
囚人4人には、ラクシーサの衛兵8人が同行している。囚人たちは衛兵の厳重な監視下で、手枷足枷で数珠繋ぎのまま、大部屋に収容されている。なお、スピリタスは、囚人4人の護送の護衛を兼ねている。
もっともこの大型船を海上で襲撃などできるはずもないのだが。
「ゲオルクどの、おられるか?」
「はい。」
ドアをノックする音に顔を出すとラクシーサ衛兵隊の隊長だった。
「隊長さん、どうしました?」
「うむ。囚人を尋問しているのだがな、4人とも王国の武器商人の手下だと言うのだ。ゲオルクどのの報告では、魔術師は帝国、精霊士は教国と言う話だったが?」
「そうですか。捕獲した現場ではそのように供述したのですが…。」
「決してゲオルクどのを疑う訳ではないのだが、拷問によりそのように供述させられたと言うのだ。」
「拷問?俺がですか?身体検査はしましたか?どこかに痣でもありました?」
「いや、調べておらん。」
「では素っ裸にひん剥いて調べて下さい。それで俺が拷問したかが分かるはずですよ。こちらの取り調べを撹乱するのが目的じゃないですかね。
それに、帝国と教国が裏で手を結んで、王国の武器商人を巻き込んでいたともなれば、重大事案です。隊長、あなた、囚人の戯言を真に受けて、この可能性を見過ごしたら、後でとんでもないことになりますよ。」
「うむ、そうだな。」
「奴らが水の精霊を陥れて無力化した1ヶ月間、リヴァイアサンが南部湾に侵入して南部がどれだけ酷い目に遭ったか、もう忘れたんですか?」
「いや、相すまぬ。」
「衛兵なら適当に言い包められると高を括ってるんじゃないですか?リシッチャ島の衛兵も舐められたものですね。」
「うぬ、許せぬ。」隊長が血相を変えた。ちょろい。
「ならばしっかり尋問して下さい。嘘偽りを吐かせぬようにね。」
「ゲオルクどの、時間を取らせてすまなかったな。ご助言、感謝する。」
その後、大部屋からは悲鳴が聞こえて来た。くわばらくわばら。
翌日の昼前に、特急定期船はヴァジェノに着いた。ヴァジェノは、南部西岸エリアの中心の港町で、螺鈿工芸品の一大産地である。俺たちはヴァジェノに寄港している間、港に下りてヴァジェノの特産品を見て回った。
俺はお姉様方に、ヴァジェノの特産品である螺鈿で作った髪留をプレゼントした。
当たり前だがただの髪留ではない。お姉様方それぞれに合った能力上昇補正が付与されている。リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風。
流石に俺は髪留という訳にはいかないので、集中の能力上昇補正が着いたバッヂにした。
結局、今回の南部巡りで、真珠のネックレス、珊瑚のブレスレット、螺鈿の髪留またはバッヂと、俺たちは能力上昇補正を付加した装備品を3つ手に入れた。相乗効果もあって、今後の戦闘に大いに役立つだろう。
夕刻にヴァジェノを出航した特急定期船は翌日の午前中に南府へと到着した。
俺たちは、衛兵と囚人の一行と一緒に、南府の近衛隊詰所に向かう。
「ゲオルクどの、やはり貴殿の申された通り、魔術師は帝国、精霊士は教国であると白状致した。護衛のふたりは王国の裏組織の武器商人の配下であるゆえ、武器商人どもには徹底的に制裁を加えねばならぬ。」
衛兵に連行されている囚人たちを見ると、魔術師と精霊士は顔が倍ぐらいに腫れ上がっており、護衛のふたりは明らかに怯えている。衛兵隊の連中は随分派手にやったんだな。
「おい、お前ら、随分男前になったじゃないか。」魔術師と精霊士に話し掛けたのだが、
「「…。」」返事は返って来なかった。
『ゲオルクが、聞いている。答えろ。』ワラがムッとしてふたりに絡んだ。
「すみません。」「勘弁して下さい。」
「お前ら、手を出した相手が悪かったな。ま、そういう命令をお前らに出した祖国を恨むこった。素直に王国に協力して、反省の意を示すことだ。余計な主張は身を亡ぼすぜ。」
「「…はい。」」
さて、南府近衛隊詰所に囚人4人を引き渡したし、リシッチャ亭に行くとするか。
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設定を更新しました。R4/4/10
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
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