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精霊の加護035 ビーチェさんのスピリタス加入
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精霊の加護
Zu-Y
№35 ビーチェさんのスピリタス加入
「おい、ビーチェ、今日からうちに泊まるゲオルクだ。すまねぇが、面倒見てやってくんな。」え?ビーチェ?
「はーい、って、あれー、ゲオっちじゃん。今日からうちに来る客ってゲオっちだったんだ?」
「いや俺も驚いたよ。」
「なんだ?ゲオルクはビーチェと知り合いなのか?てめぇ、話が違うじゃねぇかよ。叩き出すぞ、コラ。」
「いや、冒険者ギルドでテンプレ野郎3人に絡まれてたとこを、ビーチェさんに助けてもらったんですよ。」
「はん?てめぇ、女に助けられたって、どこまでへなちょこなんだよ。だから20歳にもなって童貞なんだよ。このヘタレが。わはははは。」
「ちょっとマルコさん。ビーチェさんの前でデタラメ言わないで下さいよ!」
「何がデタラメだぁ?おめぇが白状したんじゃねぇかよ。」
「え?ゲオっち、童貞なの?」ビーチェの顔に期待が見て取れる。おっとこれは誤解したか?マルコさん、グッジョブ!
「えっとー…。」と言って視線を逸らすと、ビーチェの顔が緩んだ。よっしゃ、これで完全に誤解したぞ。ふふふ、今夜、食われてやる!ちなみに南部の女に対しては童貞なのだ。
「ちょっと叔父さん、僕の友達なんだからイジメないでよね。」
「お、おうよ。」おっと、マルコさんが引いたぞ。なるほど力関係が見えて来たな。
ビーチェさん>マルコさん、女将さん>マルコさん、は確定だな。あとは、ビーチェさんと女将さんか。これはどっちが上でもいいけどな。
ビーチェさんに俺の部屋まで案内してもらった。2階で湾を真正面に見る最高のロケーションだ。日が暮れて星が出たら星見酒とか最高なんじゃね?
「この子たちはゲオっちと一緒の部屋でいいの?」今夜のことを考えてるな?まぁ、そうなったら精霊たちは気を利かしてくれるから平気なんだけどね。笑
「うん。一緒に寝ないと不安がるからね。」
女心に気付かない振りが、童貞を装うときには効果的なんだよねー。
「それにしても人見知りの子供たちはゲオっちにべったりなんだねっ。」
「まぁね。」
『ゲオルクー、お風呂行こー。』『『『お風呂ー。』』』
「あ、ビーチェさん、お風呂沸いてる?」
「もちろん。大浴場に案内するよ。海が近いから塩分を含んでるけど、一応、温泉なんだからねっ!」
「マジか!」『『『『温泉ー。』』』』テンション上がるわー。精霊たちも一気にテンション上がった。笑
大浴場は男湯と女湯に分かれてた。意外と本格的な宿屋なのな。
貸切だから、俺たちで独泉だ。
男湯で4人とも丁寧に洗ってやるとキャッキャとくすぐったがっていた。精霊たち全員を洗ってやった俺は、ゆっくり温泉に浸かって疲れを落とす。湯に身を沈めながら今日のことを思い返した。それにしても水の特大精霊のことが気に掛かる。
やっぱり精霊が暴走するなんてあり得ないよな。そうなるとこの海の荒れの原因は魔獣と言うことになる。魔獣が湾内に侵入して来たってことは水の特大精霊が不在ってことか?でもなー、他の場所から精霊を連れ出してるのに、その場所は平穏だから、まわりにいる精霊たちが後を引き継ぐってことだよな。
だとすると水の精霊に何があって、弱っていることもあり得るか。
塩分を含んでる温泉だと保温効果が抜群のはず。風呂から上がって、部屋の窓縁で涼みながら、海に念話を送るが返事はない。
いないのかとも思ったが、絶対にいて、助けを求めてると言う気がする。あたりにいる小さな精霊たちが、案じているのが伝わって来る。水の特大精霊は、何かしらのトラブルに巻き込まれているに違いない。
ここじゃ遠いんだな。明日は船をチャーターして沖で念話を送ってみよう。
そうこうしてる間に夕餉時となった。夕餉を摂りに食堂に行く。
食堂は、宿泊客以外のレストランを兼ねている。宿泊は俺だけだから、満員近いこの客は皆、食事目当てだ。いや、冒険者ばかりだからビーチェさん目当てか?なるほど、マルコさんが過剰に警戒するだけのことはある。
「ご注文は?」ビーチェさんが注文を取りに来た。
「ここの名物は、マルコさんの島料理と女将さんの本土料理なんだよね。」
「そうよ。よく知ってるわね。ゲオっち、なかなかやるじゃん。どこで情報仕入れて来たのよ?」
「ギルマスから聞いたんだよ。じゃあ、俺はマルコさん自慢の島料理コースがいいな。子供たちは食べないからひとり分でね。」
ビーチェさんが「それで正解。」とひと言残し、ウインクして仕事に戻って行った。
ちなみにマルコさんの島料理は、確かに旨かった。堪能した。
夕餉の途中に、例のテンプレ3人組が現れた。
俺と目が合うと3人とも旧知の知り合いのように、「「「よっ!」」」と気軽に挨拶して来て、そのまま案内された席に座った。確かに、ビーチェさんの言った通り、こいつらに悪気はなかったっぽい。笑
夕餉を堪能した俺は、部屋に戻ってこの夜は早めにベッドに入った。間を空けず精霊たちは衣類を脱ぎ捨て、ツリとクレは両隣に潜り込んで来て、フィアは胸の上、チルは腹の上にそれぞれ寝そべった。いつものことだ。笑
夜も寝静まったころ、ヒュンヒュンと空気を切る音がして眼が覚めた。なんだろ?窓から外を覗くと、ビーチェさんが庭で一心不乱に剣を振るっていた。細く鋭い刀身が切れ味を物語っている。おそらくあの剣は異国から来た刀と言う業物に違いない。
しばらく眺めていたが、流れるような動きが華麗で素早い。これはかなりの実力者だな。正直驚いた。
俺は部屋を出て庭に降りて行った。
「ビーチェさん、精が出るね。」
「!」
「それは刀術かな?」
「ゲオっち、刀術を知ってるんだ?」
「異国から伝わった細身の大刀の技でしょ。大剣みたくぶん回すんじゃなくて、素早く斬撃するんだよね?」
「へー、よく知ってるじゃん。」
「実はさ、俺のこの弓も異国から伝わったのなんだよね。だから異国の武器のことは多少知ってるんだよ。」
「へぇ。その弓は普通の弓とどう違うの?」
「左手で弓を持ったとき、矢は弓の左に番えるのが普通なんだけど、俺の弓は逆で矢を右に番えるんだよ。それとさ、弦は親指以外の4本の指で引くのが普通なんだけど、この弓は親指1本で弦を引くんだ。人差指と中指は、弦を引かずに親指に添えて補助に使うんだよ。」
「へぇ。変わってるね。」
「この弓は、その細身の大刀と同じ異国から伝わったものなんだよ。」
「ゲオっち、物知りだね。僕の刀を見ると、細くて貧弱な剣と言う奴が多いけどね。」
「剣術と刀術は、剣の使い方が違うんだよ。切る以外にぶん殴ったりもする剣術に対して、素早く切ることだけに特化した刀術。刀術には流れるような素早い動きが要求されるでしょ?刀術は華麗だよね。」
「ゲオっち、そこ、分かるんだ!」
「まぁね。でもさ、それだけの腕があるならビーチェさんは冒険者でも十分通用するでしょ?」
「それがさぁ…。」
ビーチェさんはこれまでのことを教えてくれた。
実家に刀術が伝わっているので、幼少の頃から刀術に親しんだこと。
幼い頃から刀術の才覚を現し、刀術スキルも順調に取得したこと。
15歳で成人すると刀剣士として冒険者登録したこと。
ところが、魔力量が極端に少なくて刀術スキルを連続して発動できず、戦闘中に魔力切れを起こしたこと。
このため、冒険者としてはFランクが限界だったこと。
20歳で冒険者を諦め、一族でありながら刀術を修めずに漁師になり、さらに料理人に転身して、南府で店を開いていた叔父を頼って、リシッチャ島から南府に出て来たこと。
叔父の店の看板娘となって今に至ること。
俺も今までのことを話した。
子供の頃から精霊が見られたこと。
10歳の魔力測定で桁違いの魔力があることが分かったこと。
魔術師を目指して東府魔法学院に通ったが、魔力を放出できないことが分かって早々に除籍になったこと。
失意のまま帰った村では詐欺師扱いされたこと。
それを神父さんが庇ってくれたこと。
いじけてる俺を狩人の父さんが見かねて弓矢の技を教えてくれたこと。
それがハマって射手になったこと。
狩りの最中に森でツリに会って親友になったこと。
ツリと一緒に旅に出たかったが、ツリが俺と契約できる状態じゃなかったため、俺が先に冒険者になって旅に出たこと。
数か月前にクレと西部で出会って契約し、そのまま、東部の郷里の村に帰ってツリとも契約したこと。
村の神父さんの勧めで、東府魔法学院で精霊についての研究に協力したこと。
新たな精霊と契約するために、パーティを結成して北部に行き、フィアとチルと契約したこと。
北府で南府からの指名クエストを聞いて南府に駆け付けて来たこと。
「ゲオっちも山あり谷ありだねぇ。でも念願の精霊魔術師になれてよかったじゃん。僕は冒険者を諦めちゃったからなぁ。ここの看板娘も楽しいけどね、やっぱ冒険者やってたかったなぁ。」
「ビーチェさん、魔力量いくつ?」
「ゲオっち、女の子にその質問は、年を聞くくらい無神経だぞ。でもまぁゲオっちには年も知られちゃったし、教えてもいいか。100しかないんだ。」
「皆、ビーチェさんの魔力量と潜在能力見て。」
精霊たちがふわふわと浮いてビーチェさんのまわりをまわった。
「精霊ってホントだったんだ。僕、今の今まで半信半疑だったんだよ。」
『魔力は200ー。』『潜在能力は4000ー。』
『ゲオルクの魔力の匂いはしないー。』『しなーい。』
「え?200って僕の魔力、増えてる。ってか倍!それに潜在能力4000って?」
「魔力切れを起こすと体の防衛反応で魔力量が増えるんだよ。潜在能力は魔力を増やすことができる上限だね。
ねぇ、ビーチェさん、今も冒険者をやりたいんだよね?やりたいことやれば?」
「でもさぁ、魔力不足でスキルをほとんど使えないSアタッカーなんて、どこのパーティにも入れないよ。魔力切れの危険があるからソロも無理だしね。」
「潜在能力が4000なんだから魔力量を増やせばスキルをいくらでも使えるようになるって。
それとさ、俺のパーティだけど、Sアタッカーがいないんだ。ビーチェさん、どうかな?」
「え?僕をパーティに誘ってくれるの?」
「ビーチェさんはこうやってずっと努力してる人だからね、間違いないと思うし、俺がフォローするよ。」
「ゲオっち…。」
ビーチェさんが抱き付いて来て、そのまま大人のキスをされ、押し倒された。おっと、いきなり急展開だ。ここはなすがままにされよう。これも作戦!
「いきなりごめんね、嬉し過ぎて昂っちゃった。それに鍛錬の後だから、汗臭かったよね。ほんとごめん。」
「いや、凄くよかった。それにとってもいい匂い。」
「えへへ。ゲオっち、優しいね。ねぇ、これから汗流しに行くけど、ゲオっち、一緒に来る?」ビーチェさんの眼が怪しく光った。ぶんぶんと頷く俺。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
それから大浴場の女湯に連れて行かれた。
「なんで女湯?」
「ゲオっちは、僕に男湯に入れって言うの?それにさ、男湯だと叔父さんと出くわす可能性があるでしょ。こっちなら出くわしても義叔母さんだからね。」
「なるほどー、頭いいな。」
それから風呂場であんなことやこんなことをされた。俺も可能な限りおどおどしながら、ビーチェさんの指示に従っていろいろやった。ここで暴走してはダメだ!と心に戒めて。笑
お風呂プレーを堪能した後、いよいよ俺の部屋に移った。真剣勝負の始まりだ。もちろん初回だけはなすがままにされた。我慢した分、2回目以降は一気に逆襲だ!その夜、俺たちは都合5回戦をこなした。
マイドラゴンがビーチェさんに完全に懐いてしまったのは言うまでもなかろう。
翌朝、ビーチェさんと同じベッドで目覚めた。すぐに、精霊たちに頼んでビーチェさんの魔力量を測ってもらった。
『魔力は1200ー。』『潜在能力は4000ー。』
『ゲオルクの魔力の匂いがするー。』『するー。』
やはりな。200×5=1000の上昇だ。
「なんで?僕、どうしちゃったの?」魔力量のあまりの増加に戸惑うビーチェさん。
「実はさ、魔力量を上げる方法なんだけど、魔力切れを起こす以外にも、魔力が満タンのときに外から魔力を注入するって方法もあるんだよ。」
「魔力の注入?」
「魔力は体液に含まれてるんだよね。俺、魔力量が桁外れに多いからさ、体液の魔力も濃くてね。1回すると200上げられるんだ。昨日5回したから1000上がった訳。」
「つまり、ゲオっちとする度に魔力量が上がるんだね。」
「そうだね。」
「えへへ、もう1回しよっ!」ビーチェさんが抱き付いて来た。
結局、今朝は3回戦行って、ビーチェさんの魔力を1800まで上げた。
好事魔多し。とはよく言ったものだ。ビーチェさんとの3回戦で、かなり遅い朝餉に行くと、マルコさんが真っ赤な顔して仁王立ちになっていた。コメカミの血管が浮いている。ひと目で怒っているのが分かる。なんて分かり易いんだ!
「ゲオルク、なんか俺に言うことがありやしねぇか?」
「いやー、ビーチェさんとなるようになっちゃいました。」
「てめぇ、よくも抜け抜けと。」
「昨日は思い付かなかったんですがね、夜中のビーチェさんの特訓を見ちゃいまして、華麗な剣筋なんで俺のパーティに誘ったんですよ。」
「おい、何の話をしてやがる?」
「だから経緯ですよ。パーティに誘ったら、冒険者に未練があったビーチェさんが大喜びしまして、そのままふたりで盛り上がってしまって、今まで知らなかった南部の女を教えてもらいました。この展開は、昨日はまったく思い付きませんでしたねぇ。」
「てめぇ、今、南部の女を教えてもらったと抜かしやがったな?童貞ってのは嘘か?」
「はぁ。マルコさんがそのように誤解してたようですが、とても楽しそうだったので別に誤解を解かなくてもいいかなーと。」
「僕も変だと思ったんだよ。初回はたどたどしいからさ、ほんとかなって思ったけどさ、2回目から本気出したでしょ?でもよかったよー。」
「おい、ビーチェ、俺の前でそんなことを言うんじゃねぇ。兄貴に申し訳なくって顔向けできねぇじゃねぇか。」
「そんなこともないと思うんですよね。ビーチェさんにいい相手を見付けてやったぞって、兄貴さんに言えばいいんじゃないですか?」
「なんだと?…いや、待てよ。それもありか?うーん。」
考え込むマルコさんを見て、また品のいい女将さんが、見掛けによらない豪快な爆笑をした。これでその場が一気に和み、いつの間にか丸く収まった。
昨日と言い今日と言い、爆笑だけで場を収めるとは、女将さん、只者じゃないな。
遅い朝餉の後、ビーチェさんとギルドに行って、ビーチェさんの冒険者資格の復活手続きと、スピリタス加入の手続きをした。
異国の大刀、異国の小刀、革の軽鎧、鉄のヘルメット、鉄のガントレット、革のシューズ。冒険者装備をしたビーチェさんは、雰囲気が違う。
まわりの冒険者は騒然となり、ビーチェさんに質問が殺到した。
「ビーチェ、その格好…。」
「似あう?」
「リシッチャ亭は辞めるのか?」
「辞めないよ。」
「なんでいきなり冒険者に?」
「実は僕、前から冒険者だったんだよ。」
「こいつとはどう言う関係だ?」
「ご想像にお任せしまーす。」
すべての質問に対し、さっと澱みなく笑顔で答えて、黙らせてしまった。
「じゃぁもういい?ゲオっち行こー。」と言いながら俺に腕を絡ませてさっとギルドを出るビーチェさん。
たった今、出て来たギルドの中では、嘆く声やら悲鳴やら罵り声やらが木霊していた。笑
ちょっと雰囲気が違う気もしたけど、やっぱりいつものビーチェさんだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/3/13
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№35 ビーチェさんのスピリタス加入
「おい、ビーチェ、今日からうちに泊まるゲオルクだ。すまねぇが、面倒見てやってくんな。」え?ビーチェ?
「はーい、って、あれー、ゲオっちじゃん。今日からうちに来る客ってゲオっちだったんだ?」
「いや俺も驚いたよ。」
「なんだ?ゲオルクはビーチェと知り合いなのか?てめぇ、話が違うじゃねぇかよ。叩き出すぞ、コラ。」
「いや、冒険者ギルドでテンプレ野郎3人に絡まれてたとこを、ビーチェさんに助けてもらったんですよ。」
「はん?てめぇ、女に助けられたって、どこまでへなちょこなんだよ。だから20歳にもなって童貞なんだよ。このヘタレが。わはははは。」
「ちょっとマルコさん。ビーチェさんの前でデタラメ言わないで下さいよ!」
「何がデタラメだぁ?おめぇが白状したんじゃねぇかよ。」
「え?ゲオっち、童貞なの?」ビーチェの顔に期待が見て取れる。おっとこれは誤解したか?マルコさん、グッジョブ!
「えっとー…。」と言って視線を逸らすと、ビーチェの顔が緩んだ。よっしゃ、これで完全に誤解したぞ。ふふふ、今夜、食われてやる!ちなみに南部の女に対しては童貞なのだ。
「ちょっと叔父さん、僕の友達なんだからイジメないでよね。」
「お、おうよ。」おっと、マルコさんが引いたぞ。なるほど力関係が見えて来たな。
ビーチェさん>マルコさん、女将さん>マルコさん、は確定だな。あとは、ビーチェさんと女将さんか。これはどっちが上でもいいけどな。
ビーチェさんに俺の部屋まで案内してもらった。2階で湾を真正面に見る最高のロケーションだ。日が暮れて星が出たら星見酒とか最高なんじゃね?
「この子たちはゲオっちと一緒の部屋でいいの?」今夜のことを考えてるな?まぁ、そうなったら精霊たちは気を利かしてくれるから平気なんだけどね。笑
「うん。一緒に寝ないと不安がるからね。」
女心に気付かない振りが、童貞を装うときには効果的なんだよねー。
「それにしても人見知りの子供たちはゲオっちにべったりなんだねっ。」
「まぁね。」
『ゲオルクー、お風呂行こー。』『『『お風呂ー。』』』
「あ、ビーチェさん、お風呂沸いてる?」
「もちろん。大浴場に案内するよ。海が近いから塩分を含んでるけど、一応、温泉なんだからねっ!」
「マジか!」『『『『温泉ー。』』』』テンション上がるわー。精霊たちも一気にテンション上がった。笑
大浴場は男湯と女湯に分かれてた。意外と本格的な宿屋なのな。
貸切だから、俺たちで独泉だ。
男湯で4人とも丁寧に洗ってやるとキャッキャとくすぐったがっていた。精霊たち全員を洗ってやった俺は、ゆっくり温泉に浸かって疲れを落とす。湯に身を沈めながら今日のことを思い返した。それにしても水の特大精霊のことが気に掛かる。
やっぱり精霊が暴走するなんてあり得ないよな。そうなるとこの海の荒れの原因は魔獣と言うことになる。魔獣が湾内に侵入して来たってことは水の特大精霊が不在ってことか?でもなー、他の場所から精霊を連れ出してるのに、その場所は平穏だから、まわりにいる精霊たちが後を引き継ぐってことだよな。
だとすると水の精霊に何があって、弱っていることもあり得るか。
塩分を含んでる温泉だと保温効果が抜群のはず。風呂から上がって、部屋の窓縁で涼みながら、海に念話を送るが返事はない。
いないのかとも思ったが、絶対にいて、助けを求めてると言う気がする。あたりにいる小さな精霊たちが、案じているのが伝わって来る。水の特大精霊は、何かしらのトラブルに巻き込まれているに違いない。
ここじゃ遠いんだな。明日は船をチャーターして沖で念話を送ってみよう。
そうこうしてる間に夕餉時となった。夕餉を摂りに食堂に行く。
食堂は、宿泊客以外のレストランを兼ねている。宿泊は俺だけだから、満員近いこの客は皆、食事目当てだ。いや、冒険者ばかりだからビーチェさん目当てか?なるほど、マルコさんが過剰に警戒するだけのことはある。
「ご注文は?」ビーチェさんが注文を取りに来た。
「ここの名物は、マルコさんの島料理と女将さんの本土料理なんだよね。」
「そうよ。よく知ってるわね。ゲオっち、なかなかやるじゃん。どこで情報仕入れて来たのよ?」
「ギルマスから聞いたんだよ。じゃあ、俺はマルコさん自慢の島料理コースがいいな。子供たちは食べないからひとり分でね。」
ビーチェさんが「それで正解。」とひと言残し、ウインクして仕事に戻って行った。
ちなみにマルコさんの島料理は、確かに旨かった。堪能した。
夕餉の途中に、例のテンプレ3人組が現れた。
俺と目が合うと3人とも旧知の知り合いのように、「「「よっ!」」」と気軽に挨拶して来て、そのまま案内された席に座った。確かに、ビーチェさんの言った通り、こいつらに悪気はなかったっぽい。笑
夕餉を堪能した俺は、部屋に戻ってこの夜は早めにベッドに入った。間を空けず精霊たちは衣類を脱ぎ捨て、ツリとクレは両隣に潜り込んで来て、フィアは胸の上、チルは腹の上にそれぞれ寝そべった。いつものことだ。笑
夜も寝静まったころ、ヒュンヒュンと空気を切る音がして眼が覚めた。なんだろ?窓から外を覗くと、ビーチェさんが庭で一心不乱に剣を振るっていた。細く鋭い刀身が切れ味を物語っている。おそらくあの剣は異国から来た刀と言う業物に違いない。
しばらく眺めていたが、流れるような動きが華麗で素早い。これはかなりの実力者だな。正直驚いた。
俺は部屋を出て庭に降りて行った。
「ビーチェさん、精が出るね。」
「!」
「それは刀術かな?」
「ゲオっち、刀術を知ってるんだ?」
「異国から伝わった細身の大刀の技でしょ。大剣みたくぶん回すんじゃなくて、素早く斬撃するんだよね?」
「へー、よく知ってるじゃん。」
「実はさ、俺のこの弓も異国から伝わったのなんだよね。だから異国の武器のことは多少知ってるんだよ。」
「へぇ。その弓は普通の弓とどう違うの?」
「左手で弓を持ったとき、矢は弓の左に番えるのが普通なんだけど、俺の弓は逆で矢を右に番えるんだよ。それとさ、弦は親指以外の4本の指で引くのが普通なんだけど、この弓は親指1本で弦を引くんだ。人差指と中指は、弦を引かずに親指に添えて補助に使うんだよ。」
「へぇ。変わってるね。」
「この弓は、その細身の大刀と同じ異国から伝わったものなんだよ。」
「ゲオっち、物知りだね。僕の刀を見ると、細くて貧弱な剣と言う奴が多いけどね。」
「剣術と刀術は、剣の使い方が違うんだよ。切る以外にぶん殴ったりもする剣術に対して、素早く切ることだけに特化した刀術。刀術には流れるような素早い動きが要求されるでしょ?刀術は華麗だよね。」
「ゲオっち、そこ、分かるんだ!」
「まぁね。でもさ、それだけの腕があるならビーチェさんは冒険者でも十分通用するでしょ?」
「それがさぁ…。」
ビーチェさんはこれまでのことを教えてくれた。
実家に刀術が伝わっているので、幼少の頃から刀術に親しんだこと。
幼い頃から刀術の才覚を現し、刀術スキルも順調に取得したこと。
15歳で成人すると刀剣士として冒険者登録したこと。
ところが、魔力量が極端に少なくて刀術スキルを連続して発動できず、戦闘中に魔力切れを起こしたこと。
このため、冒険者としてはFランクが限界だったこと。
20歳で冒険者を諦め、一族でありながら刀術を修めずに漁師になり、さらに料理人に転身して、南府で店を開いていた叔父を頼って、リシッチャ島から南府に出て来たこと。
叔父の店の看板娘となって今に至ること。
俺も今までのことを話した。
子供の頃から精霊が見られたこと。
10歳の魔力測定で桁違いの魔力があることが分かったこと。
魔術師を目指して東府魔法学院に通ったが、魔力を放出できないことが分かって早々に除籍になったこと。
失意のまま帰った村では詐欺師扱いされたこと。
それを神父さんが庇ってくれたこと。
いじけてる俺を狩人の父さんが見かねて弓矢の技を教えてくれたこと。
それがハマって射手になったこと。
狩りの最中に森でツリに会って親友になったこと。
ツリと一緒に旅に出たかったが、ツリが俺と契約できる状態じゃなかったため、俺が先に冒険者になって旅に出たこと。
数か月前にクレと西部で出会って契約し、そのまま、東部の郷里の村に帰ってツリとも契約したこと。
村の神父さんの勧めで、東府魔法学院で精霊についての研究に協力したこと。
新たな精霊と契約するために、パーティを結成して北部に行き、フィアとチルと契約したこと。
北府で南府からの指名クエストを聞いて南府に駆け付けて来たこと。
「ゲオっちも山あり谷ありだねぇ。でも念願の精霊魔術師になれてよかったじゃん。僕は冒険者を諦めちゃったからなぁ。ここの看板娘も楽しいけどね、やっぱ冒険者やってたかったなぁ。」
「ビーチェさん、魔力量いくつ?」
「ゲオっち、女の子にその質問は、年を聞くくらい無神経だぞ。でもまぁゲオっちには年も知られちゃったし、教えてもいいか。100しかないんだ。」
「皆、ビーチェさんの魔力量と潜在能力見て。」
精霊たちがふわふわと浮いてビーチェさんのまわりをまわった。
「精霊ってホントだったんだ。僕、今の今まで半信半疑だったんだよ。」
『魔力は200ー。』『潜在能力は4000ー。』
『ゲオルクの魔力の匂いはしないー。』『しなーい。』
「え?200って僕の魔力、増えてる。ってか倍!それに潜在能力4000って?」
「魔力切れを起こすと体の防衛反応で魔力量が増えるんだよ。潜在能力は魔力を増やすことができる上限だね。
ねぇ、ビーチェさん、今も冒険者をやりたいんだよね?やりたいことやれば?」
「でもさぁ、魔力不足でスキルをほとんど使えないSアタッカーなんて、どこのパーティにも入れないよ。魔力切れの危険があるからソロも無理だしね。」
「潜在能力が4000なんだから魔力量を増やせばスキルをいくらでも使えるようになるって。
それとさ、俺のパーティだけど、Sアタッカーがいないんだ。ビーチェさん、どうかな?」
「え?僕をパーティに誘ってくれるの?」
「ビーチェさんはこうやってずっと努力してる人だからね、間違いないと思うし、俺がフォローするよ。」
「ゲオっち…。」
ビーチェさんが抱き付いて来て、そのまま大人のキスをされ、押し倒された。おっと、いきなり急展開だ。ここはなすがままにされよう。これも作戦!
「いきなりごめんね、嬉し過ぎて昂っちゃった。それに鍛錬の後だから、汗臭かったよね。ほんとごめん。」
「いや、凄くよかった。それにとってもいい匂い。」
「えへへ。ゲオっち、優しいね。ねぇ、これから汗流しに行くけど、ゲオっち、一緒に来る?」ビーチェさんの眼が怪しく光った。ぶんぶんと頷く俺。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
それから大浴場の女湯に連れて行かれた。
「なんで女湯?」
「ゲオっちは、僕に男湯に入れって言うの?それにさ、男湯だと叔父さんと出くわす可能性があるでしょ。こっちなら出くわしても義叔母さんだからね。」
「なるほどー、頭いいな。」
それから風呂場であんなことやこんなことをされた。俺も可能な限りおどおどしながら、ビーチェさんの指示に従っていろいろやった。ここで暴走してはダメだ!と心に戒めて。笑
お風呂プレーを堪能した後、いよいよ俺の部屋に移った。真剣勝負の始まりだ。もちろん初回だけはなすがままにされた。我慢した分、2回目以降は一気に逆襲だ!その夜、俺たちは都合5回戦をこなした。
マイドラゴンがビーチェさんに完全に懐いてしまったのは言うまでもなかろう。
翌朝、ビーチェさんと同じベッドで目覚めた。すぐに、精霊たちに頼んでビーチェさんの魔力量を測ってもらった。
『魔力は1200ー。』『潜在能力は4000ー。』
『ゲオルクの魔力の匂いがするー。』『するー。』
やはりな。200×5=1000の上昇だ。
「なんで?僕、どうしちゃったの?」魔力量のあまりの増加に戸惑うビーチェさん。
「実はさ、魔力量を上げる方法なんだけど、魔力切れを起こす以外にも、魔力が満タンのときに外から魔力を注入するって方法もあるんだよ。」
「魔力の注入?」
「魔力は体液に含まれてるんだよね。俺、魔力量が桁外れに多いからさ、体液の魔力も濃くてね。1回すると200上げられるんだ。昨日5回したから1000上がった訳。」
「つまり、ゲオっちとする度に魔力量が上がるんだね。」
「そうだね。」
「えへへ、もう1回しよっ!」ビーチェさんが抱き付いて来た。
結局、今朝は3回戦行って、ビーチェさんの魔力を1800まで上げた。
好事魔多し。とはよく言ったものだ。ビーチェさんとの3回戦で、かなり遅い朝餉に行くと、マルコさんが真っ赤な顔して仁王立ちになっていた。コメカミの血管が浮いている。ひと目で怒っているのが分かる。なんて分かり易いんだ!
「ゲオルク、なんか俺に言うことがありやしねぇか?」
「いやー、ビーチェさんとなるようになっちゃいました。」
「てめぇ、よくも抜け抜けと。」
「昨日は思い付かなかったんですがね、夜中のビーチェさんの特訓を見ちゃいまして、華麗な剣筋なんで俺のパーティに誘ったんですよ。」
「おい、何の話をしてやがる?」
「だから経緯ですよ。パーティに誘ったら、冒険者に未練があったビーチェさんが大喜びしまして、そのままふたりで盛り上がってしまって、今まで知らなかった南部の女を教えてもらいました。この展開は、昨日はまったく思い付きませんでしたねぇ。」
「てめぇ、今、南部の女を教えてもらったと抜かしやがったな?童貞ってのは嘘か?」
「はぁ。マルコさんがそのように誤解してたようですが、とても楽しそうだったので別に誤解を解かなくてもいいかなーと。」
「僕も変だと思ったんだよ。初回はたどたどしいからさ、ほんとかなって思ったけどさ、2回目から本気出したでしょ?でもよかったよー。」
「おい、ビーチェ、俺の前でそんなことを言うんじゃねぇ。兄貴に申し訳なくって顔向けできねぇじゃねぇか。」
「そんなこともないと思うんですよね。ビーチェさんにいい相手を見付けてやったぞって、兄貴さんに言えばいいんじゃないですか?」
「なんだと?…いや、待てよ。それもありか?うーん。」
考え込むマルコさんを見て、また品のいい女将さんが、見掛けによらない豪快な爆笑をした。これでその場が一気に和み、いつの間にか丸く収まった。
昨日と言い今日と言い、爆笑だけで場を収めるとは、女将さん、只者じゃないな。
遅い朝餉の後、ビーチェさんとギルドに行って、ビーチェさんの冒険者資格の復活手続きと、スピリタス加入の手続きをした。
異国の大刀、異国の小刀、革の軽鎧、鉄のヘルメット、鉄のガントレット、革のシューズ。冒険者装備をしたビーチェさんは、雰囲気が違う。
まわりの冒険者は騒然となり、ビーチェさんに質問が殺到した。
「ビーチェ、その格好…。」
「似あう?」
「リシッチャ亭は辞めるのか?」
「辞めないよ。」
「なんでいきなり冒険者に?」
「実は僕、前から冒険者だったんだよ。」
「こいつとはどう言う関係だ?」
「ご想像にお任せしまーす。」
すべての質問に対し、さっと澱みなく笑顔で答えて、黙らせてしまった。
「じゃぁもういい?ゲオっち行こー。」と言いながら俺に腕を絡ませてさっとギルドを出るビーチェさん。
たった今、出て来たギルドの中では、嘆く声やら悲鳴やら罵り声やらが木霊していた。笑
ちょっと雰囲気が違う気もしたけど、やっぱりいつものビーチェさんだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/3/13
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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