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精霊の加護030 ゲオルギウスとの再会
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精霊の加護
Zu-Y
№30 ゲオルギウスとの再会
翌日、ディバラの町でレンタル馬車を借りた。ラスゴーへ1日、セアリューへ1日、ハイランへ2日、それぞれの場所で2日とどまるとして6日、帰路に4日。取り敢えず2週間の契約だ。
馬の扱いは、魔力量が大幅にアップして騎馬スキルを存分に使えるようになった重騎士のベスさんの領分だ。しかし、ベスさんにずっと御者をさせる訳には行かないので、俺たちはベスさんから馬の扱いを教わった。
馬は無理やり言うことを聞かせようとするとそっぽを向くが、丁寧に的確な指示を与えると従順に言うことを聞く。例を挙げれば鞭の扱いだ。鞭でビシバシ叩くのではなく、ソフトに合図を送ると言うイメージだ。
俺はすっかり馬を操る技の魅力にはまってしまい、騎乗して自由自在に馬を操りたいと思うようにまでなっていた。
結局ディバラを出てから、ベスさんが直接御者をしていたのは、お手本を見せつつ俺たちにレクチャーをしてくれていた最初の30分だけで、その後は俺たちが交代しながらベスさんの監督下で御者の技を学んだ。
この日、ベスさんは1日中、初心者である俺たちの指導に徹してくれた。
ディバラの町でも寒かったが、さらに北に進んで、しかも標高が上がったラスゴー村は、一段と寒さが厳しかった。暦では秋の半ばだが、もはや初冬と言ってもいいくらいの気候だ。
ラスゴーの村は、特産品の麻痺によく効く薬草=特解痺草の取引に訪れる商人がいるため、そこそこの宿屋があった。俺たちはそこにチェックインして、宿屋の親父さんから特解痺草についての情報を聞いた。
ラスゴーの村では、近くの高原に、この高原でだけで採れる特解痺草が自生している。なぜかこの高原以外ではほとんど育たないそうで、仮に育っても麻痺を治す薬効が著しく低下するのだそうだ。
特解痺草は、北部の高原と言う寒い環境のためか、生育が非常に遅く、薬効成分が取れる根が十分育つまでに数年を要する。
ここでしか取れず、生育に年数が掛かるため、当然、貴重品となってしまう。このため、この高原にはこの薬草を密漁しに来る不届者が出て来る。特解痺草を特産品としているラスゴーでは、高原の監視小屋を建てて、村人が交代で宿直して密猟者に備えていたそうだが、2年ほど前から、住込みの冒険者パーティがその任を請け負っているとのことだった。
「親父さん、ひょっとしてそのパーティはゲオルギウスかな?」
「なんだ、お客さん、彼らと知り合いかい?」
「ああ。俺も一時期ゲオルギウスにいたんだよ。」
「そうかい。それじゃぁぜひ訪ねてやってくれよ。辺鄙な所だからな、きっと喜ぶだろうよ。」
「ところで、特解痺草がここでしか育たない理由を調べてみようか?もし分かれば高原まで行かなくてもこの村で栽培できるかもしれないよ。」
「え?そんなことできるのか?
おい、お前、村長を呼んで来てくれ。」
宿屋の親父さんは従業員のひとりに言い付けた。
宿での夕餉のときに村長さんが来て、結局、分かる範囲で調べてくれと言うことになった。夕餉は素朴な田舎料理でなかなか旨かった。
翌日は、ラスゴーの村からちょっこら1時間の所にある高原まで馬車で出掛けた。朝イチのせいもあるが、道端は霜が降りている。なだらかに続く傾斜を登って行くと、高原の監視小屋が見えて来た。いよいよゲオルギウスの皆と再会か。
「おい、お前らなんだ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。」
「おお!ジョルジュか?麻痺はもういいのか?」
「え?ゲオルクじゃないか!
ルナ、マイク、早く来い。ゲオルクが来たぞ。」
「え?ほんと?」「なんだって?」
どやどやとふたりも出て来た。
「ゲオルクー!久しぶりっ。元気にしてた?」あ、ルナだ!おお~育ってる!
「やぁ、ルナ、久しぶり。」
「ゲオルク、あんた今、失礼なこと考えたでしょ!」
「いや、育ったなーって思ったから失礼じゃないと思う。」
「ふん!どんなもんよ?」ルナが胸を突き出して来た。うちのお姉様方には到底敵わないが、十分に平均以上だ。
「おい、懐かしいなぁ。よくここが分かったな。」次はマイクだ。
「マイク、久しぶり。マイクの親父さんに聞いて来たんだよ。」マイクの親父さんは村で一番大きな湯治宿の主人で、リバプ村の村長さんだ。
「え?俺の村に行ったのか?」
「ああ。精霊婆さんにも会って来たよ。」
「精霊婆さん、相変わらず元気だっか?」
「村長さんを手こずらせてたぜ。」俺の返事に、マイクがニヤッと笑った。
「で、こちらの皆さんは?」ジョルジュが聞いて来た。
「ああ、今の俺の仲間。ゲオルギウスと合流できなかったんでパーティを立ち上げたんだ。」
「あれ?もしかしてリーゼさん?それにジュヌさん?」
「皆、お久しぶり。」「皆さん、お懐かしいですわ。」
「ほんとだわ。」ルナが驚き、マイクがルナに続く。
「やっぱりか!俺も似てるなーと思ったんだけどよ、まさかこんなとこで会うとは思わなかったからよ。
え!…まさか二の姫様で?」
「うむ。そなたがリバプの村長の末の息子だな。」
ゲオルギウスは、東府で活動する前は王都で活動してたから、東府の受付だったリーゼさんと王都の受付だったジュヌさんとは顔馴染みだ。そしてマイクの出身村のリバプのご領主様は、ベスさんの御父上のバース伯爵様だ。ベスさんは伯爵様の次女だから、マイクからするとご領主様の二の姫様と言うことになる。
俺は両方を互いに紹介した。もちろん精霊たちもだ。すると精霊達がルナに興味を示した。ルナは精霊を見る力がある。精霊たちからふわふわとルナに寄って行った。
『『『ごにょごにょ…。』』』あ、話し掛けた。
「はい。私はルナです!はい、はい…。」
精霊たちとルナの会話が終わると、目をキラキラさせたルナが振り向いて行った。
「ゲオルク!見てた?精霊たちが話し掛けてくれたわ。」ルナが感激している。涙腺崩壊寸前だ。
それから、俺たちは互いのことを語った。
まずは俺から。
ゲオルギウスと一旦別れて故郷のラスプ村に帰って木の精霊のツリとの契約を試みたが、ツリの実体化が不十分でできなかったこと。
仕方なくそのまま王都に直行したがゲオルギウスと合流できなかったこと。
王都でジュヌさんに出会ったこと。
しばらく待った後、暫定加入でエトワールに入ったこと。
王都では1年半活動したこと。
誤解からエトワールを脱退して西府に行き、カルメンさんと出会ったこと。
西府では主にソロで2年ちょっと活動したこと。
メインはソロだったがふた組の初心者パーティを面倒見たこと。
西府でのソロクエストの帰りに土の精霊のクレと出会ってそのまま契約し、精霊魔術師になったこと。
その後、再びラスプ村に戻ってツリと契約し、マルチの精霊魔術師になったこと。
ラスプ村の尊敬する神父さんの勧めで、東府で魔法学院に行き、精霊魔法の研究対象として協力したこと。
東府でリーゼさんと再会し、スピリタスを結成したこと。
王都でジュヌさんを、西府でカルメンさんをスピリタスに加えたこと。
それから北府に行ってベスさんと出会い、スピリタスに加えたこと。
バース経由でリバプ村に行き、火の精霊のフィアと契約したこと。
そこでゲオルギウスの近況と消息を聞いたこと。
ゲオルギウスを探してラスゴーに来たこと。
そしてこの後は、冷気の精霊を探しにセアリューに向かうこと。
と言うことを話した。
次はゲオルギウスの番。
ゲオルクと一旦東府で別れ、王都に向かう際に商隊の護衛クエストを受けたこと。
その途中で襲って来た魔物との戦闘で、ジョルジュがルナを庇って麻痺の呪いを受けたこと。
王都に到着してすぐに王都教会で解呪したが、解呪するまでの間に進行した麻痺が取れなかったこと。
マイクの故郷のリバプ村の温泉の効能に麻痺改善があったので、リバプで長期の湯治に入ったこと。
2年間の湯治で8割程度まで回復した頃、高級薬でめったに手に入らない特解痺草の産地のラスゴー村で、住込みの監視員を募集してると聞き、住込み監視業務を請け負って2年になること。
特解痺草の収穫量が少ないので、監視の報酬の特解痺薬が思ったように手に入らないこと。
それでもジョルジュの麻痺は9割方回復したこと。
と言うことだ。想像以上に、大変だったんだな。
「ゲオルク、本当にすまなかった。ジョルジュのことでいっぱいいっぱいでな、お前との合流のことは飛んでしまったんだ。俺の実家の温泉宿での湯治に入ってからようやく思い出してな、慌てて東府ギルドへお前宛の手紙を出したんだが、返信はなかった。」
「ごめんなさい。私も兄貴のことで頭がいっぱいで気が回らなかったわ。あの手紙は合流予定だった王都に出すべきだったわね。」
「そうだったんだ。そう言う事情じゃしょうがないよな。」俺はようやく合流できなかった経緯を知った。
「冒険者宛に来た手紙は受付を通さないから、私もゲオルク君へ手紙が来てたことは知らなかったわ。気付いてたら王都に転送してたのだけど。」リーゼさんもすまなさそうに言った。
「ところでさ、ラスゴーの村長さんから頼まれて来たんだけど、特解痺草がどうしてこの高原でしか育たないのか分かる範囲で調べることになってるんだよ。ちょっと調べていいかな?」
「どうやって調べるんだ?」ジョルジュが興味津々だ。
「秘密兵器を使うのさ。」
「なんだ、そりゃ?」
「ツリ、特解痺草はどんな土を好む?それからクレ、ここの高原の土の特徴って、何かある?」
ツリとクレは高原の上を飛んでいる。
ツリから緑のキラキラと、クレから橙のキラキラが、高原に降り注ぐ。やがて高原を飛び回っていたツリとクレが返って来た。
『ゲオルクー、特解痺草は、強いアルカリの土が好き。それと、ここはちょっと寒過ぎ。もうちょっと暖かくして上げるともっとよく育つ。』
『ゲオルクー、この高原の土の深い所には、消石灰がいっぱい。水はけは普通。』
そう言うことか!ここの土壌は消石灰のせいでアルカリなんだ。その環境に合わせて進化して来た特解痺草は、アルカリ土壌じゃないと育たない訳か。
つまり普通の土壌でも、消石灰を撒いてアルカリ土壌にして、温度を管理して暖かくしてやればよく育つのだな。
「よし次だ。ツリ、頼む。」ツリに特解痺草成長のイメージを送る。
『はーい。』
高原のいたる所で、特解痺草がぐんぐん伸びた。これにはゲオルギウスの3人が驚いた。
「クレ、頼む。」
『はーい。』イメージ通り、高原の土がモゴモゴ蠢いて、自生していた特解痺草が引っこ抜きやすくなった。もはや、ゲオルギウスの3人が絶句している。笑
「さあ、皆で収穫しようぜ。」
収穫後、ツリとクレに濃厚なべろちゅーをして魔力を補給した。するとフィアも便乗して来た。これは魔力補給だと言っておいたのだが、予想通り、ゲオルギウスの3人は若干引いている。特にルナの眼が白くて冷たい。泣
魔力補給後、すぐ特解痺草の種を再び成長させ、収穫すると言うサイクルを繰り返して、馬車いっぱいに数年物サイズの特解痺草の根を積み込んで、昼にはラスゴー村に戻った。
ラスゴー村では、10年分に相当する大豊作に村全体が歓喜に沸いた。
さらに、特解痺草のアルカリ土壌を好む性質と、高原の土壌が消石灰を多く含んでいるため、アルカリ土壌であることを村長に知らせた。論より証拠!村長を連れて村外れの空き地に行き、精霊魔法を使って特解痺草の畑を作って見せてやることにした。
フィアの火魔法で空き地の雑草を焼いた後、クレの土魔法で空き地に消石灰を多量に入れて耕し、ツリの木魔法で特解痺草を育てて収穫した。
村の空き地で採れた特解痺草の根が高品質であることを確認した村長は大喜びで、大金貨2枚と金貨5枚を謝礼にくれた。
「こんなにくれるのか?」
「もちろんだ!今日の大豊作ならば大金貨20枚は下らない。その1割で大金貨2枚だ。それと、村での栽培に道筋をつけてくれた情報に金貨5枚だ。」
「一気に出荷したら値崩れしないか?」
「特解痺薬に加工すれば保存も効くから大丈夫だ。それに特解痺草も特解痺薬も、需要はいくらでもある。」
「そうそう、それとな、特解痺草はもう少し暖かい方がよく育つようだ。畑を覆うハウスを作って温度管理してみると成長がよくなるんじゃないかな。」
「そうか、分かった。やってみる。何から何まですまんなぁ。あんたらは村の恩人だよ。」
謝礼はいつものルールで山分けだ。ひとり金貨4枚ずつと、パーティ会計に金貨5枚だ。俺たちの懐は、一気に温かくなった。
報酬とは別に、ジョルジュのために特解痺薬をたっぷりもらって、再び高原に向かった。高原の監視小屋で特解麻痺薬をジョルジュに飲ませると、ジョルジュの麻痺は全快した。これでゲオルギウス完全復活だ。
ジョルジュが全快したのを目の当たりにしたルナは号泣した。ジョルジュが麻痺状態になったのは、麻痺の呪いからルナを庇って身代わりに呪いを受けたためだったので、ルナは秘かにずっと責任を感じていたのだろう。
ジョルジュからも、ルナからも、マイクからも大層感謝されたが、俺の正直な本音を伝えた。
「俺がゲオルギウスから受けた恩は、こんなものじゃない。こちらこそ皆には感謝している。今の俺があるのはゲオルギウスのおかげだからな。」
俺はゲオルギウスの3人と固く握手した。俺はスピリタスで頑張るからゲオルギウスには戻らないが、ゲオルギウスで育ててもらった恩は、いつまでも忘れやしない。
完全復活したゲオルギウスは、この後、北府を拠点として大いに名を馳せる北部屈指の凄腕パーティに成長して行くのだが、それは後日譚。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/2/27
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№30 ゲオルギウスとの再会
翌日、ディバラの町でレンタル馬車を借りた。ラスゴーへ1日、セアリューへ1日、ハイランへ2日、それぞれの場所で2日とどまるとして6日、帰路に4日。取り敢えず2週間の契約だ。
馬の扱いは、魔力量が大幅にアップして騎馬スキルを存分に使えるようになった重騎士のベスさんの領分だ。しかし、ベスさんにずっと御者をさせる訳には行かないので、俺たちはベスさんから馬の扱いを教わった。
馬は無理やり言うことを聞かせようとするとそっぽを向くが、丁寧に的確な指示を与えると従順に言うことを聞く。例を挙げれば鞭の扱いだ。鞭でビシバシ叩くのではなく、ソフトに合図を送ると言うイメージだ。
俺はすっかり馬を操る技の魅力にはまってしまい、騎乗して自由自在に馬を操りたいと思うようにまでなっていた。
結局ディバラを出てから、ベスさんが直接御者をしていたのは、お手本を見せつつ俺たちにレクチャーをしてくれていた最初の30分だけで、その後は俺たちが交代しながらベスさんの監督下で御者の技を学んだ。
この日、ベスさんは1日中、初心者である俺たちの指導に徹してくれた。
ディバラの町でも寒かったが、さらに北に進んで、しかも標高が上がったラスゴー村は、一段と寒さが厳しかった。暦では秋の半ばだが、もはや初冬と言ってもいいくらいの気候だ。
ラスゴーの村は、特産品の麻痺によく効く薬草=特解痺草の取引に訪れる商人がいるため、そこそこの宿屋があった。俺たちはそこにチェックインして、宿屋の親父さんから特解痺草についての情報を聞いた。
ラスゴーの村では、近くの高原に、この高原でだけで採れる特解痺草が自生している。なぜかこの高原以外ではほとんど育たないそうで、仮に育っても麻痺を治す薬効が著しく低下するのだそうだ。
特解痺草は、北部の高原と言う寒い環境のためか、生育が非常に遅く、薬効成分が取れる根が十分育つまでに数年を要する。
ここでしか取れず、生育に年数が掛かるため、当然、貴重品となってしまう。このため、この高原にはこの薬草を密漁しに来る不届者が出て来る。特解痺草を特産品としているラスゴーでは、高原の監視小屋を建てて、村人が交代で宿直して密猟者に備えていたそうだが、2年ほど前から、住込みの冒険者パーティがその任を請け負っているとのことだった。
「親父さん、ひょっとしてそのパーティはゲオルギウスかな?」
「なんだ、お客さん、彼らと知り合いかい?」
「ああ。俺も一時期ゲオルギウスにいたんだよ。」
「そうかい。それじゃぁぜひ訪ねてやってくれよ。辺鄙な所だからな、きっと喜ぶだろうよ。」
「ところで、特解痺草がここでしか育たない理由を調べてみようか?もし分かれば高原まで行かなくてもこの村で栽培できるかもしれないよ。」
「え?そんなことできるのか?
おい、お前、村長を呼んで来てくれ。」
宿屋の親父さんは従業員のひとりに言い付けた。
宿での夕餉のときに村長さんが来て、結局、分かる範囲で調べてくれと言うことになった。夕餉は素朴な田舎料理でなかなか旨かった。
翌日は、ラスゴーの村からちょっこら1時間の所にある高原まで馬車で出掛けた。朝イチのせいもあるが、道端は霜が降りている。なだらかに続く傾斜を登って行くと、高原の監視小屋が見えて来た。いよいよゲオルギウスの皆と再会か。
「おい、お前らなんだ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ。」
「おお!ジョルジュか?麻痺はもういいのか?」
「え?ゲオルクじゃないか!
ルナ、マイク、早く来い。ゲオルクが来たぞ。」
「え?ほんと?」「なんだって?」
どやどやとふたりも出て来た。
「ゲオルクー!久しぶりっ。元気にしてた?」あ、ルナだ!おお~育ってる!
「やぁ、ルナ、久しぶり。」
「ゲオルク、あんた今、失礼なこと考えたでしょ!」
「いや、育ったなーって思ったから失礼じゃないと思う。」
「ふん!どんなもんよ?」ルナが胸を突き出して来た。うちのお姉様方には到底敵わないが、十分に平均以上だ。
「おい、懐かしいなぁ。よくここが分かったな。」次はマイクだ。
「マイク、久しぶり。マイクの親父さんに聞いて来たんだよ。」マイクの親父さんは村で一番大きな湯治宿の主人で、リバプ村の村長さんだ。
「え?俺の村に行ったのか?」
「ああ。精霊婆さんにも会って来たよ。」
「精霊婆さん、相変わらず元気だっか?」
「村長さんを手こずらせてたぜ。」俺の返事に、マイクがニヤッと笑った。
「で、こちらの皆さんは?」ジョルジュが聞いて来た。
「ああ、今の俺の仲間。ゲオルギウスと合流できなかったんでパーティを立ち上げたんだ。」
「あれ?もしかしてリーゼさん?それにジュヌさん?」
「皆、お久しぶり。」「皆さん、お懐かしいですわ。」
「ほんとだわ。」ルナが驚き、マイクがルナに続く。
「やっぱりか!俺も似てるなーと思ったんだけどよ、まさかこんなとこで会うとは思わなかったからよ。
え!…まさか二の姫様で?」
「うむ。そなたがリバプの村長の末の息子だな。」
ゲオルギウスは、東府で活動する前は王都で活動してたから、東府の受付だったリーゼさんと王都の受付だったジュヌさんとは顔馴染みだ。そしてマイクの出身村のリバプのご領主様は、ベスさんの御父上のバース伯爵様だ。ベスさんは伯爵様の次女だから、マイクからするとご領主様の二の姫様と言うことになる。
俺は両方を互いに紹介した。もちろん精霊たちもだ。すると精霊達がルナに興味を示した。ルナは精霊を見る力がある。精霊たちからふわふわとルナに寄って行った。
『『『ごにょごにょ…。』』』あ、話し掛けた。
「はい。私はルナです!はい、はい…。」
精霊たちとルナの会話が終わると、目をキラキラさせたルナが振り向いて行った。
「ゲオルク!見てた?精霊たちが話し掛けてくれたわ。」ルナが感激している。涙腺崩壊寸前だ。
それから、俺たちは互いのことを語った。
まずは俺から。
ゲオルギウスと一旦別れて故郷のラスプ村に帰って木の精霊のツリとの契約を試みたが、ツリの実体化が不十分でできなかったこと。
仕方なくそのまま王都に直行したがゲオルギウスと合流できなかったこと。
王都でジュヌさんに出会ったこと。
しばらく待った後、暫定加入でエトワールに入ったこと。
王都では1年半活動したこと。
誤解からエトワールを脱退して西府に行き、カルメンさんと出会ったこと。
西府では主にソロで2年ちょっと活動したこと。
メインはソロだったがふた組の初心者パーティを面倒見たこと。
西府でのソロクエストの帰りに土の精霊のクレと出会ってそのまま契約し、精霊魔術師になったこと。
その後、再びラスプ村に戻ってツリと契約し、マルチの精霊魔術師になったこと。
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東府でリーゼさんと再会し、スピリタスを結成したこと。
王都でジュヌさんを、西府でカルメンさんをスピリタスに加えたこと。
それから北府に行ってベスさんと出会い、スピリタスに加えたこと。
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と言うことを話した。
次はゲオルギウスの番。
ゲオルクと一旦東府で別れ、王都に向かう際に商隊の護衛クエストを受けたこと。
その途中で襲って来た魔物との戦闘で、ジョルジュがルナを庇って麻痺の呪いを受けたこと。
王都に到着してすぐに王都教会で解呪したが、解呪するまでの間に進行した麻痺が取れなかったこと。
マイクの故郷のリバプ村の温泉の効能に麻痺改善があったので、リバプで長期の湯治に入ったこと。
2年間の湯治で8割程度まで回復した頃、高級薬でめったに手に入らない特解痺草の産地のラスゴー村で、住込みの監視員を募集してると聞き、住込み監視業務を請け負って2年になること。
特解痺草の収穫量が少ないので、監視の報酬の特解痺薬が思ったように手に入らないこと。
それでもジョルジュの麻痺は9割方回復したこと。
と言うことだ。想像以上に、大変だったんだな。
「ゲオルク、本当にすまなかった。ジョルジュのことでいっぱいいっぱいでな、お前との合流のことは飛んでしまったんだ。俺の実家の温泉宿での湯治に入ってからようやく思い出してな、慌てて東府ギルドへお前宛の手紙を出したんだが、返信はなかった。」
「ごめんなさい。私も兄貴のことで頭がいっぱいで気が回らなかったわ。あの手紙は合流予定だった王都に出すべきだったわね。」
「そうだったんだ。そう言う事情じゃしょうがないよな。」俺はようやく合流できなかった経緯を知った。
「冒険者宛に来た手紙は受付を通さないから、私もゲオルク君へ手紙が来てたことは知らなかったわ。気付いてたら王都に転送してたのだけど。」リーゼさんもすまなさそうに言った。
「ところでさ、ラスゴーの村長さんから頼まれて来たんだけど、特解痺草がどうしてこの高原でしか育たないのか分かる範囲で調べることになってるんだよ。ちょっと調べていいかな?」
「どうやって調べるんだ?」ジョルジュが興味津々だ。
「秘密兵器を使うのさ。」
「なんだ、そりゃ?」
「ツリ、特解痺草はどんな土を好む?それからクレ、ここの高原の土の特徴って、何かある?」
ツリとクレは高原の上を飛んでいる。
ツリから緑のキラキラと、クレから橙のキラキラが、高原に降り注ぐ。やがて高原を飛び回っていたツリとクレが返って来た。
『ゲオルクー、特解痺草は、強いアルカリの土が好き。それと、ここはちょっと寒過ぎ。もうちょっと暖かくして上げるともっとよく育つ。』
『ゲオルクー、この高原の土の深い所には、消石灰がいっぱい。水はけは普通。』
そう言うことか!ここの土壌は消石灰のせいでアルカリなんだ。その環境に合わせて進化して来た特解痺草は、アルカリ土壌じゃないと育たない訳か。
つまり普通の土壌でも、消石灰を撒いてアルカリ土壌にして、温度を管理して暖かくしてやればよく育つのだな。
「よし次だ。ツリ、頼む。」ツリに特解痺草成長のイメージを送る。
『はーい。』
高原のいたる所で、特解痺草がぐんぐん伸びた。これにはゲオルギウスの3人が驚いた。
「クレ、頼む。」
『はーい。』イメージ通り、高原の土がモゴモゴ蠢いて、自生していた特解痺草が引っこ抜きやすくなった。もはや、ゲオルギウスの3人が絶句している。笑
「さあ、皆で収穫しようぜ。」
収穫後、ツリとクレに濃厚なべろちゅーをして魔力を補給した。するとフィアも便乗して来た。これは魔力補給だと言っておいたのだが、予想通り、ゲオルギウスの3人は若干引いている。特にルナの眼が白くて冷たい。泣
魔力補給後、すぐ特解痺草の種を再び成長させ、収穫すると言うサイクルを繰り返して、馬車いっぱいに数年物サイズの特解痺草の根を積み込んで、昼にはラスゴー村に戻った。
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さらに、特解痺草のアルカリ土壌を好む性質と、高原の土壌が消石灰を多く含んでいるため、アルカリ土壌であることを村長に知らせた。論より証拠!村長を連れて村外れの空き地に行き、精霊魔法を使って特解痺草の畑を作って見せてやることにした。
フィアの火魔法で空き地の雑草を焼いた後、クレの土魔法で空き地に消石灰を多量に入れて耕し、ツリの木魔法で特解痺草を育てて収穫した。
村の空き地で採れた特解痺草の根が高品質であることを確認した村長は大喜びで、大金貨2枚と金貨5枚を謝礼にくれた。
「こんなにくれるのか?」
「もちろんだ!今日の大豊作ならば大金貨20枚は下らない。その1割で大金貨2枚だ。それと、村での栽培に道筋をつけてくれた情報に金貨5枚だ。」
「一気に出荷したら値崩れしないか?」
「特解痺薬に加工すれば保存も効くから大丈夫だ。それに特解痺草も特解痺薬も、需要はいくらでもある。」
「そうそう、それとな、特解痺草はもう少し暖かい方がよく育つようだ。畑を覆うハウスを作って温度管理してみると成長がよくなるんじゃないかな。」
「そうか、分かった。やってみる。何から何まですまんなぁ。あんたらは村の恩人だよ。」
謝礼はいつものルールで山分けだ。ひとり金貨4枚ずつと、パーティ会計に金貨5枚だ。俺たちの懐は、一気に温かくなった。
報酬とは別に、ジョルジュのために特解痺薬をたっぷりもらって、再び高原に向かった。高原の監視小屋で特解麻痺薬をジョルジュに飲ませると、ジョルジュの麻痺は全快した。これでゲオルギウス完全復活だ。
ジョルジュが全快したのを目の当たりにしたルナは号泣した。ジョルジュが麻痺状態になったのは、麻痺の呪いからルナを庇って身代わりに呪いを受けたためだったので、ルナは秘かにずっと責任を感じていたのだろう。
ジョルジュからも、ルナからも、マイクからも大層感謝されたが、俺の正直な本音を伝えた。
「俺がゲオルギウスから受けた恩は、こんなものじゃない。こちらこそ皆には感謝している。今の俺があるのはゲオルギウスのおかげだからな。」
俺はゲオルギウスの3人と固く握手した。俺はスピリタスで頑張るからゲオルギウスには戻らないが、ゲオルギウスで育ててもらった恩は、いつまでも忘れやしない。
完全復活したゲオルギウスは、この後、北府を拠点として大いに名を馳せる北部屈指の凄腕パーティに成長して行くのだが、それは後日譚。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/2/27
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
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これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
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※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
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