精霊の加護

Zu-Y

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精霊の加護016 回想:ゲオルク学校

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精霊の加護
Zu-Y

№16 回想:ゲオルク学校

 西府に来て1年、この間俺はソロで活動していた。
 ソロでできるクエストは限られているが、報酬は総取りなので、割は悪くはない。と言うか、エトワールでいい様に搾取されてたときよりも遥かにいい。

 今日もまたギルドに来ている。なんかいいソロクエストはないか。

「もう、どうするのよ。明日が期限じゃない。違約金なんて払えないわよ。」
「だから今日中に達成すればいいだろーが!」
「私はこのクエストは格上だからやめようって言ったわよ。でもアルが平気平気って言って受けちゃったんじゃないの!」
「だから今日中にクリアすればいいんだろうが!」
「できるの?薬草代ばっかり嵩んでるじゃないの!」
 いかにもデビューしたてっぽい女の子と男の子が言い争っている。

「あのさ、格上のクエストって、何を受けたんだ?」俺は見かねて会話に割り込んだ。
「あの、ゴブリンの群れの駆除なんですけど、ちょっと数が多くて。」女の子が答える。
「多いって何匹?」
「10匹です。」全然多くねぇじゃんよ!

「ふたりのジョブは?」
「俺が狂戦士でこいつが剣士だ。」男の子が不機嫌に答える。
「ふたりともSアタッカーか。薬草代ばかり嵩むって言ってたけどヒーラーはいないんだな?」
「ああ。」
「バランスが悪いな。君らに必要なのはまずヒーラーだ。次に君らの援護をするLアタッカーだな。タンクやバッファーがいれば、なおバランスはよくなる。」
「そんなこたぁ、言われないでも分かってるよ。」男の子が食って掛かって来た。
「ほう。分かってるのか?だったらなぜ探さない?」
「なんだと?」

「君ら、初心者だろ?最初のクエストが上手く行ったんだよな。それで調子に乗って格上クエストを受けてクリアできない。それなら運頼りで突撃を繰り返すよりも、パーティの欠点を補う工夫をすべきだな。」
「でもこんな初心者と組んでくれる奴なんていないさ。いたとしてもとんでもない分け前を要求するだろ?」
「まぁそうだな。俺はEランクの射手でLアタッカーだが、報酬を3人で山分けって条件でいいぜ。どうする?」
「ほんとですか?」剣士の女の子は食い付いて来た。
「待てよ。分け前が減るじゃないか。」
「アル!何言ってるのよ。このままじゃ違約金でしょ!」

「なぁ、あんた、違約金も分担してくれるのか?」
「ゲオルクだ。俺はこのクエストを達成する気だから違約金を払う気はないな。それでももししくじったときのことを聞きたいんならイエスだ。1/3を払ってやるよ。」
「ええ?そんな。悪いですよ。助けてもらうのに。」
「おい君、悪いですよって、君はクエストを失敗する気なのか?」
「え?そう言うつもりで言ったんじゃぁ…。」
「だったら余計なことを言うな。」
「すみません。」

「で、一緒にやるなら名前を教えてくれ。」
「アルフォンソだ。アルと呼んでくれ。」
「マチルダです。」
「俺はゲオルク。よろしくな。」

 ぶっちゃけ、ちょろいクエストだった。
 巣の場所はすでに分かってるので直行し、俺が弓矢による奇襲で5匹を瞬時に仕留めた。そのあとふたりが突入して、アルが2匹、マチルダが3匹を仕留めた。もっともアルが仕留めた2匹のうちの1匹以外は、皆、俺の弓矢で手負いだったがな。

 クエスト達成の打ち上げで、マチルダの眼はハートマークになっており、そのせいでアルは明らかにイライラしていた。ふたりとも、すごく分かりやすい。笑
「ゲオルクさん、私たちのパーティに入って下さい。」マチルダが懇願して来る。
「え?マチルダ、何でだよ。」
「だって頼りになるもん。誰かさんと違って冷静だし。
 ゲオルクさん、どうですか?」
「俺は基本ソロなんでパス。まぁ、今回みたく手伝うのはいいけどな。」
「ええ~、そんなー。」マチルダはクネクネしている。かわいさアピールか。でもなー、色気が足りねぇ。笑

 一方で明らかにほっとしているアルフォンソ。ちょっと弄りたくなった。笑
「なぁ、アルとマチルダは同郷だよな?幼馴染って奴だろ?付き合ってるの?」
「え?」ちょっと嬉しそうなアルフォンソ。しかしだ。
「そんな訳ないですよ!」マチルダが容赦なくバサッと切る。
「おい、アル。頑張れよ。振り向かせろ。」
「べ、べ、べ、別に、俺だってそう言うんじゃないし。」そっぽを向くアルフォンソ。いいね、いいね。弄り甲斐があるねぇ。笑

「お前なぁ、正直にならないと、マチルダを誰かに掻っ攫われちゃうぞ。」
「ゲオルクさん、掻っ攫って下さい。」マチルダが俺の煽りに乗った。笑
「なっ!」
「ほれ、正直になれ。俺が掻っ攫う前に早く口説いてモノにしろ。」面白がって煽る俺。
「マチルダ、俺…。」アルフォンソがマジになり掛けたところで、
「はい終了~。時間切れでーす。」アルフォンソの出鼻をくじくマチルダ。マチルダの方が上手だな。笑

 ちなみにこのふたりのパーティはアルマチと言う。アルフォンソ&マチルダってことなんだろうが、何と安易なネーミングか!
 こいつらとはこの後もちょくちょく組んでクエストをこなした。

 それから2ヶ月が経過した。

 今日はソロクエストでキングシンバを狩りに来ている。
 草原の王者であるネコ科の大型猛獣なので、正面から対峙すると初級以下ではまず勝ち目はないが、俺は遠目から弓矢で仕留めるので、そんなに脅威とは思わない獲物だ。

「きゃー。」「いやー。」女の子の悲鳴が聞こえる。なんだ?賊にでも襲われたか?

 駆け付けると、3人がキングシンバ3頭に襲われていた。ひとり目は立っているが腕に噛み付かれている。ふたり目は倒されて脚を噛まれている。3人目は逃げようとしたところを後ろから派手に引っ掻かれて押し倒されたところだった。猶予ならん!

 ふたり目、3人目、ひとり目の順に襲っているキングシンバに矢を射掛けた。次々にキングシンバを射抜くと、キングシンバはこちらに向かって来た。だが、初撃が効いているようで、3頭とも肢を引きずっており、全力疾走とまでは行かない。
 矢継ぎ早に連射して、こちらに向かって来るキングシンバの急所を射抜き、先頭の1頭を倒すと、残り2頭は逃走を始めた。が、ろくに走れないのだからもう無理でしょ。追撃の矢を放ち、2頭目、3頭目も仕留めた。

 危機を排除したので、怪我をしている冒険者の救助に向かう。獲物の処理と回収は後まわしだ。
「おい、大丈夫か。」右腕から血を流している男の子が、
「俺は後でいいから仲間を先に見て下さい。」と言った。健気な奴だ。
 立てずに左の太腿を押さえている女の子は出血もひどい。横では、背中から右尻に掛けてを派手に引っ掻かれた女の子が、左脚をやられた女の子に必死にリペアを掛けている。

「見せてみろ。」
 ずたずたになったローブを引き剥がし、怪我の様子を見る。内股に噛み付かれていて出血がひどいが、大きな血管までは届いていない。もっとも届いてたらもう死んでるがな。血を拭き取って傷口を消毒すると、その女の子は悲鳴を上げた。
「我慢しろ。痛いのは生きてる証だ。こっちも剥ぐぞ。」
 俺はその子の下着も剥ぎ取って患部のまわりを広範囲に消毒し、ポーションを患部に掛けると同時に、飲ませた。ガーゼに化膿止めを塗り、
「これで押さえとけ。次を見るから包帯は後だ。
 次は君。背中を見せろ。」

 リペアを掛けてた女の子は腰から右尻に掛けて引っ掛かれており、結構な出血だった。自分もそこそこひどいのに、仲間にリペアを掛け続けていたのは大したものだ。
「四つん這いになれ。」
 ローブを引き剥がし、下着を下ろして患部付近の血を拭った。腰から右尻に掛けての引っ掻き傷を消毒すると、悲鳴は上げなかったが、苦悶の声を発した。この子にも、患部にポーションを掛けて、同時に飲ませた。
ガーゼに化膿止めを塗り、
「これで押さえとけ。次を見るから包帯は後だ。
 おい。最後だ。見せてみろ。」

 最初に話し掛けた男の子だ。右前腕の噛まれた傷は結構深い。その他に胸、右肩に引っ掻き傷がある。3人では一番ひどいケガだ。
 上半身を裸にして血を拭きとり、すべての傷口を消毒した。こいつは歯を食いしばって、うめき声すら上げない。いい根性をしている。こいつにもポーションを患部に掛けて飲ませた。ガーゼに化膿止めを塗り、包帯を巻いた。

 包帯を後回しにしたふたりにも包帯も巻いてやった。どちらもパイパンだったので、女の子自身がモロ見えだったが、緊急事態なのでそこには触れないでおく。

「君たち、これを腰に巻け。」
 下半身が顕わな女の子ふたりに大きめのタオルをそれぞれ渡すと、ふたりとも真っ赤になってすぐに巻いた。ようやく自分たちのあられもない姿に気が付いたようだ。笑
「それから君はこれを羽織れ。」上半身裸の男の子にマントを貸した。

「あの、ありがとうございました。お名前を伺っても?」
「人に名前を聞くときは自分から名乗れって教わらなかったか?」
「あ、すいません。俺、ホルヘって言います。軽歩兵です。この娘は魔術師のレベッカ、この娘は神官のルイーザです。」
 ふたりがぺこりと頭を下げる。シンクロしてる。

「俺はゲオルク、射手だ。君はホルヘか、同じ名前とは奇遇だな。」
 大地の人と言う意味のゲオルギウスは、方言で言い方が変わる。東部はゲオルク、西部はホルヘ。つまり同じ名前なのだ。ちなみに中部はジョルジュ、南部はジョルジオ、北部はジョージだ。

「ホルヘたちは初心者だよな?なんでまたキングシンバなんかと?」
「鹿狩りクエストをしてたんですが、奴らの縄張りに踏み込んじゃったみたいで…。」
「追うのに夢中になったか。初心者によくあるミスだ。ところで俺は獲物を回収して来るから、しばらく休んでろよ。一緒に西府まで帰ろう。」
 気にするといけないから一緒に帰ろうと言ったが、ようは送ってやると言うことだ。この状態だと、途中で襲われたらひとたまりもない。

 ホルヘは普通に歩ける。ルイーザは右尻の傷が痛むので、少し右脚を引きずっている。レベッカは左脚に体重を掛けられないので俺が右肩を貸した。そのうち馬車でも通れば乗せてもらおう。

 西府までのゆっくりとした道中で、3人の話をいろいろ聞いた。ホルヘはもちろん名前が示す通り西部出身、レベッカとルイーザは南部出身の双子。レベッカはセミロングボブで、ルイーザはポニーテールだから見分けは付くが、顔はクリソツ。まったく同じだ。笑
 3人は従兄妹同士で、それまでも西部と南部で行き来していたが、2年前に双子の一家が、ホルヘの村へ越して来てからは、同じ年で冒険者志望と言うこともあり、3人で仲良くやって来た。

 つい最近、3人で冒険者デビューしたそうだ。パーティ名は3人の名前の頭文字を取ってホレル。なんかこいつらも適当なネーミングだ。笑

 危険な目に遭ったのは今回が初めてだそうで、デビューして何回か無難にクエストをこなすと、無意識のうちに調子に乗って危ない目に遭う。今回は俺が通り掛らなかったら、間違いなく全滅だった。

 獲物の鹿を追ってキングシンバの縄張りに入り込み、奇襲を受けた訳だが、そのときは3人とも鹿を追うのに夢中で、周囲の警戒が疎かだったのだ。
 まずホルヘが気付いて、防御態勢をとるもあっさり突破され、レベッカ、ルイーザの順に襲われた。ホルヘの盾は粉砕され、武器を持つ右手に噛み付かれた。ホルヘからの警告でレベッカもルイーザも身構えたが、ふたりとも後衛のため、直接襲い掛かられると防御力は弱い。そこへ俺がタイミングよく駆け付けたそうだ。

「ホルヘの装備はタンクにしたら脆弱だな。タンクは自分だけじゃなく、パーティ全員を守らなきゃいかんから、盾はもっとしっかりしたものにしないとな。」
「はい。身に沁みました。」
「それからキングシンバの縄張りをしっかり押さえてたか?狩場の情報は有益だぞ。今回のキングシンバは討伐クエストが出てた訳だから、あそこら辺にいるのは情報として流れてた。ちゃんとチェックしとかないと、今回みたいな目に遭う。」
「「「はい。」」」

 途中、行商の馬車に乗っけてもらって西府にたどり着き、冒険者ギルドで報告した。俺はクエスト達成の他に、遭難パーティの救出として認定され、後日報奨金を貰った。ホルヘたちもキングシンバに襲われる前に、鹿1頭討伐していたので達成報告をしていた。要するに欲をかいた訳ね。

 半月後、ケガが癒えたホルヘたちの復帰クエストに付き合って、いい成果を上げたので、快気祝いを兼ねて一緒に呑んだ。
 最初は、命の恩人だからぜひ御馳走させてくれと言われたが、実入りの少ない初心者にゴチになる訳にも行かないので、割り勘じゃなきゃ嫌だと言って、結局割り勘で落ち着いた。

 最初は緊張していたホレルの面々だが、杯を重ねるうちに陽気になって来て、遠慮もなくなって来た。
「ねぇ。ゲオルクさん。治療してもらったときですけど、見ちゃいましたよね?」レベッカが意を決した感じで聞いて来た。
「ん?何をだ?」
「何をって!女の子に言わすんですか!」レベッカ、絡み酒か。
「ああ、治療に夢中になってたからな。どうだったかな。」惚けた。
「あ、惚けてますね。やっぱり見えたんだわ。お嫁に行けない。」ルイーザも絡んで来た。
「治療しない方がよかったのか?」
「「違いますよ!」」
「じゃぁ何なんだよ。」
「だって気になるじゃないですか。」
「女の子はそう言うもんなんですよ。」
「まあ見えたと言ったら見えたんだろうが、本当にあのときは治療に夢中だったからなぁ。じっくり拝んだ訳ではないのはほんとだぞ。」

「くくくっ…。」横でホルヘが笑いを噛み殺している。
「ホルヘ。何がおかしいんだ?」
「いえ、ふたりにはその、身体的特徴で気にしていることがありまして、探りを入れてるのは、それのことだと思います。」
「「ホルヘ!」」ふたりの口調がきつくなった!
「あ、そう言うことね。」ふたりはパイパンを気にしてるのか。
「もう、ゲオルクさんに分かっちゃったじゃないの!」
「もう本気でお嫁に行けない。」
「ホルヘ、今のは君が悪い。君がふたりを嫁にして一生面倒を見ろよ。」
「いや、ふたりは妹みたいなもんでして。」
「大丈夫、あと数年すればいい女になる。俺は年上が好みだから守備範囲の外だがな。」

「え?ゲオルクさん年上が好みなんですか?カルメンさんとか?」
「ああ、カルメンさんはいいな。モロにタイプだ。」
「ですよねー。あの大人の色気とか、たまんないですよねー。」
「おお、分かるか。」
「ちょっとふたりとも、何で私たちをそっちのけな訳?」
「そうよ!いい女ふたりを前にして、他の女の話なんて!」
「そのあたりがまだ子供だな。早くいい女になれよ。」
「「ゲオルクさん!」」
 ふたりはむくれて、ホルヘは爆笑していた。

 この後も、ホレルが本来の調子を取り戻すまで、しばらく一緒に組んで活動した。

 それからしばらくして、最初にホルヘたちが俺のことを師匠と呼びだし、その呼び方がアルマチにも伝わった。
 そこへ、カルメンさんがゲオルク学校などと言い出したために、アルフォンソとマチルダのパーティ、アルマチを一期生、ホルヘとレベッカとルイーザのパーティ、ホレルを二期生と、互いに呼び合うようになって、それがいつの間にか西府ギルド内に浸透してしまった。

 そして師匠とゲオルク学校と言う呼び方が西府で定着した頃、俺はDランクに昇格した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/1/23

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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