精霊の加護

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精霊の加護008 リーゼさんと大司教様との再会

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精霊の加護
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№8 リーゼさんと大司教様との再会

 翌日もゲオルギウスのメンバーと、クエストを受けて森に入った。魔獣化した木の討伐だ。何でも動物のように動き、人を襲うらしい。木の幹に魔物の顔があるので人面樹と言うそうだ。

 かなり手こずって、丸3日掛かったが、最終的には人面樹5体を討伐してクエスト達成だ。

 俺はクエストが、必ずしも1日で終わるとは限らないことを学んだ。その間は無収入だから、もし無収入期間が続けば、宿も追い出されて野宿になるし、それこそ飯も食えない。それなりの貯えも大事だ。

 このクエストの分け前の金貨1枚をもらって、リーゼさんを誘いに行ったが、あいにく先約があるとのことだった。でも翌日は空いてると言うので、約束した。
 明日のクエストは何が何でもその日のうちに仕上げねば。結局この日も、ゲオルギウスの皆で夕餉を一緒に食べた。

 翌日は大雨でクエスト中止。収入なしか。今夜はリーゼさんと食事だから、昼は節約しよう。部屋で休みながら弓矢の手入れをする。休息による回復も武器の手入れも冒険者の重要な務めだ。
 休息をないがしろにすると疲れが溜まるし、ひどいと体調を崩してしまう。武器の手入れを怠ると命に係わる。
 それに今夜は上手く行けばリーゼさんと楽しい夜だ。体力温存なのだ。

 リーゼさんの勤務終了を狙ってギルドに行き、一緒に夕餉に行った。リーゼさんお勧めのおしゃれな店で、とてもリーズナブルだ。俺の懐を計算してくれたのかもしれない。
 食事をしながら、順調に行った初クエストや、2回目のクエストで手こずったことを話したら楽しそうに聞いてくれた。

 食事の後、リーゼさんを家まで送って行った。
「リーゼさん、あの…。」
 リーゼさんは俺の口に1本だけ立てた人差指を当て、次の言葉を止めた。
「ふふふ、ゲオルク君。この先は君が一流の冒険者になってからよ。」
「え?でもこないだは…。」
「君、初めてだったでしょう?だからお姉さんが教えてあげたのよ。」
「…。」

「この後は恋人になってからよ。私の恋人になりたかったら一流の冒険者におなりなさい。」
「はい!」よし、頑張るぞ!一流の冒険者になってリーゼさんを恋人にする!
「やっぱり君は見込みがあるわ。」
「え?」
「あそこでがっかりする子はダメなのよ。見込みないわね。でも、君はよしやるぞって顔したものね。その気概を忘れないで。」
「はい!」
「素直でいい子ね。ご褒美よ。」
 ここでべろちゅーが来た。蕩ける俺…。
「じゃあね。頑張ってね。おやすみ。」
 行ってしまった。まったく敵わねーな。でもそのうち必ず!

~~現在・ゲオルク19歳~~

 東府の冒険者ギルドに来るのは3年半ぶりか。リーゼさん元気かな。ギルドに入ると、コソコソと会話が聞こえる。見たことのない連中だ。3年半ぶりだしな。
「なんだあいつ、子連れじゃねぇか?」
「あの肌の色は亜人だろ。奴隷かな?」
「首輪をつけてねぇから奴隷じゃねぇんじゃねぇか。」
 ほっとけ。両肩に乗ってるふたりをこれみよがしに撫ぜてやるとキャッキャと喜ぶ。

 そのまま受付にいくとお目当ての女性、リーゼさんはそこにいた。
「リーゼさん、お久しぶり。」
「え?ひょっとしてゲオルク君?」
「うん。」
「なんか逞しくなったわね。その子たちは?」
「俺の子なんだ。」
「え?」
「こっちの緑色の子がエルフとの子で、橙色の子がドワーフとの子なんだよ。」
「嘘?」
「はい、実は嘘。」俺は微笑んだ。
「何よ!お姉さんを揶揄うとは、えらくなったわね!」
「いや、ようやくDランクなんで、全然そんなレベルじゃないかな。」
「噂は聞いてるわよ。王都ではジュヌ、西府ではカルメンとよろしくやってたみたいね。」

 ジュヌさんは王都の冒険者ギルドの受付、カルメンさんは西府の冒険者ギルドの受付で、どちらも俺をかわいがってくれた。リーゼさんのように、美人で巨乳の肉食だ。

「リーゼさんはふたりと知り合いなんだ?」
「まあ、受付つながりね。年も同じだし。ギルドの会合のときは受付同士で食事に言ったりもするわ。つい先日のギルドの会合で、いろいろ聞いたわよ。」
「まぁ何と言うか、ふたりも初物食いがお好きなようで。」
「ふたりもって何よ。も、って!それにゲオルク君は初物じゃないじゃない。」
「ふたりがそう思ったようなのでね、そのように振舞ったんだよ。」
「ゲオルク君、擦れたわね。」
「えー、擦れてないよ。一途にリーゼさんを想ってるんだけどな。」
「嘘、仰い!」
「ほんとだよ。まだその資格がないから口説けないけどね。」
「資格?」
「Aランク。Aランクになれば一流の仲間入りだよね?」
「そうだけど、まだDランクでしょ。待ってられないわ。」
「これからスパート掛けるよ。」
「どうせジュヌやカルメンにもそう言ってるんでしょう?」
「どうだったかな。」
「躱し方も上手くなったわ。」リーゼさんは溜息をつく。
「ええ、想い人に躱されまくってるからね。」
「お上手ね。しばらく東府にいるの?」
「うん。魔法学院に行くんだ。いつまでいるかは分かんないけどね。」
「え?魔法学院?魔法が使えるようになったのかしら?」
「いや、相変わらず使えないよ。俺は魔力の放出ができないからね。」
「じゃぁ、なんで?」
「まぁ、いろいろと。それにここではちょっと。」
「そうね。」それ以上、突っ込んで聞いてこないのは流石だ。わきまえてる。

 ツリとクレが両肩から俺の髪の毛を弄り出した。まるで猿の毛づくろいみたいだ。髪がモシャモシャやられてる。
「しょうがねぇなぁ。」俺はふたりのなすがままにしていた。
「いいパパじゃない。」
「子煩悩な優良物件だけどどうかな?」
「Aランクになったら考えるわ。
 お嬢ちゃん達、お名前は?」
 ふたりは無言で俺の後ろに隠れた。

「ごめん、人見知りが激しいんだ。」
「あら、ごめんなさい。」
「じゃぁ、またそのうち来るね。」
「あら、今夜のお食事には誘ってくれないのかしら?」
「誘いたいけど、これから教会と魔法学院に行くので、今日は何時になるか分からないんだよね。落ち着いたら誘いに来るよ。」
 俺は冒険者ギルドを後にして、教会へ向かった。

 東府教会に行き、ラスプ村の神父さんの紹介状で大司教様への取次を頼んだ。すぐに通されて、大司教様が取り巻きの神官達を引き連れて来た。
「大司教様、その節はいろいろお世話になりました。」俺は深々と頭を下げる。
「よいよい。ゲオルク、大きくなったな。もう10年になるか…。」
「はい、あと半年で10年です。」
「御師様はお元気かな?」
「お元気ですよ。お年をまったく感じさせません。それと、神父さんから大司教様に、『体に気を付けてな。』とのことです。」
「あっはっは。御師様らしい。
 ところで、ゲオルク、随分変わったお子たちを連れているのだね。」
「はい。」
 大司教様はふたりをじっと見つめている。柔和だった表情がだんだんときつくなって来た。

「…なんと、…まさか?
 すみませんが皆さんはしばらく外して下さい。ゲオルクとふたりで話がしたいのです。」
 大司教様は取り巻きの神官達に退室を命じた。
「しかし大司教様。」
「構いません。ゲオルクは大丈夫です。私の師の紹介ですからね。それに以前、この教会で預かったこともあります。」
「分かりました。廊下に控えておりますので、何かありましたらすぐお呼び下さい。」
 取り巻きの神官達が出て行った。

 ふたりきりになると大司教様が切り出した。
「ゲオルク、そのお子たちはまさか精霊かな?」
「はい。」
「しかしなぜ私に見えるのだ?」
「俺と契約したからです。」
「しかしふたりいるではないか。」
「ふたりとも契約してます。」
「そんなはずはない。契約はひとりしかできないはずだ。」
「俺の魔力量のせいです。契約した精霊には契約者の魔力を供給し続けます。人よりちょっと多いくらいの魔力量では、精霊との契約を維持できません。相当多い者だけが精霊との契約を維持できます。私の魔力量はさらに多いので、複数の精霊と契約できます。大司教様もご存じの通り、私は、魔力量だけは桁違いですから。」
「うーん確かに。あのときは中玉を割ってしまったものな。」
「その節は本当に申し訳ありませんでした。」
「いや、よいのだよ。気にすることはない。」
「ありがとうございます。」

「そう言えば何年か前に、ギルドからゲオルクの魔力量の照会が来たが、ギルドで冒険者をやっていたのかな。」
「はい。15歳から1年程、東府で活動し、その後は、王都、西府と渡り歩きました。」
「そうか、そのときはなんで会いに来てくれなかったのかな?」
「いえ、何度か参りましたが、紹介状がなかったので大司教様には取次いでもらえませんでした。」
「そうだったのか。それはすまなかったね。
 ところで話を戻すが、精霊と契約したと言うことは、精霊魔法が使えるかな?」
「使えます。」
「見せてもらえるかな?」

「ツリ、ちょっとだけ、あの鉢植えの植物を大きくするぞ。」
『うん。』鉢の植物が倍の大きさに伸びた。ちょっとだけって言ったのに。
「なんと!こんなことが…奇跡だ。」
「クレ、ちょっとだけだぞ。軽く揺らしてくれ。」
『うん。』カタカタカタカタ…。大した揺れではないが、部屋の外で待機している神官達が地震だ、地震だと騒いでいる。
「まさか!信じられん。」

『お腹空いた。』『ご褒美。』
「大司教様、精霊たちに今使った魔力を供給しますので、ちょっと失礼します。」
 ふたりと交互にキスをするとふたりの体が緑色と橙色に光った。
「おお。」
「体液は魔力を含むのです。だから俺はキスで魔力の補充をしてます。このふたりが限界近くまで魔力を使って同時に補給しても、魔力が減った感覚はまったくありません。」

「いやはや、知らぬことばかりだ。」
「そうなのです。神父さんが『この情報は魔法学院に知らせて、共有せねばいかん。』と仰ったので、それで東府に来ました。」
「紹介状にも、ゲオルクを魔法学院へ取次いでくれと書いてあったのだよ。詳細はゲオルクの口上でと言うことだったが、これは歴史を覆すとんでもないことかもしれん。流石、御師様だ。何が大事かを分かっていらっしゃる!」
「俺は魔法学院にいい思い出はなかったので、最初は渋ったのですが『魔法学院には精霊魔法に関する情報があるから、その情報と交換すればいい。』と、神父さんに諭されまして、納得しました。」
「ゲオルク、よく分別したな。偉いぞ。情報交換の件は、私が必ず魔法学院に承諾させるから安心しておくれ。」

 大司教様がパンパンと手を叩くと、さっき廊下に出て行った神官のひとりが入って来た。
「大司教様、お呼びですか?」
「すみませんがすぐに魔法学院に使いを出して、ルードビッヒ教授に『大至急、教会までご足労を頂きたい。』と伝えて下さい。」
「承知しました。」
「教授がいらしたら、教授とゲオルクと私の3人で夕餉を摂ります。私の執務室に3人分の夕餉を用意させて下さい。それと会食中の執務室には、他の者は一切入れないように。
 それからゲオルクの部屋を用意して下さい。しばらく教会に逗留します。私の賓客ですからそのつもりで。」
「はい。分かりました。」
「では、ゲオルク、また後程。」
「はい。大司教様。」

 俺は部屋に案内された。10歳の時にあてがわれた部屋よりずっとよかった。もちろん教会だから贅沢品はなかったが、質素ながらもとても居心地のいい部屋だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

更新は火木土の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/541586735
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