射手の統領

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射手の統領167 和睦の…仲介?

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射手の統領
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№167 和睦の…仲介?

 またやっちまった…流石に昨夜は呑み過ぎた。
 朝餉の席では嫁たちの視線が痛かったが、スルーしてやり過ごした。

 朝餉の後、ニアのマタギ村の各集落の里長たちが、続々とここダトウの村営温泉宿にやって来た。
 なぜ里長たちが集まって来てるかと言うと、昨日のうちにダトウ集落の里長が、各集落に使いを出して、今日の朝イチで集まれと、各集落の里長たちに招集を掛けていたせいだった。もちろん里長の代表であるニアのマタギ村の村長も来ている。

「へば、山神様がお怒りの原因は、やっぱりあの開発だったべな。」
「んだで、あんげに無暗矢鱈と切り開いてはいかん、と言ったんだべ。それを欲集よくたかりのアタキの野郎どもがよぉ。」
「そんだ。おらだちは山神様から恵を頂いとっただに、ご神域である大森林を切り開けば、山神様がお怒りになるに決まってるべ。」

 コムが暴れた事情を話すと、ニア村の村長以下、各集落の里長たちは憤慨している。ちなみに里長たちの言う山神様とは、コム、つまり翠樹龍のことだ。

「まぁ、そう言う訳だからその大規模な開発はやめて、元の大森林に戻して欲しいのだ。」
「それは無論のことだべ。おらだちマタギは山神様の恵みなしには生きて行げねぇがらな。」
「でもよう、開発地域はもう山神様が元に戻してるべ。」
「それもそうだな。ならば再開発しないようにしてくれよ。」
「アタルさん、すまねが、アタキのギルドへ行って、再開発しねぇように言っでぐんねが?」村長が代表して依頼して来た。
「引き受けた。どうせ依頼達成の報告に行くからな。」

 で、アタキギルドのギルマスルームに来ている。翠樹龍の攻略達成を報告したら、ギルマスのハネジリが受付まですっ飛んで来て、すぐにギルマスルームに通されたのだ。
 ちなみに報告は俺ひとりで来ていた。アタキギルドの流邏石は俺しか持ってないからな。嫁たちには、ダトウの温泉でゆっくりしてもらっている。まぁ、昨日酔っ払った分の迷惑料ってとこかな。苦笑

「へば、翠樹龍を攻略したってのは、ほんとのことだべか?」
「ああ。」
 俺は、翠樹龍を攻略して俺の眷属とし、コムと名付けたことを語って、実際に緑に輝くコム鏑をハネジリに見せた。コムは鏑の中で龍の形態を取らないままだった。
「むむ。」コムが龍形態を取らないから、ハネジリとしては半信半疑なのだろう。
「知ってると思うが緑は翠樹龍の色だ。」
「だども…。」
『貴様が疑うのなら、この港町を樹海にして、証明してやろうか?』
「へ?」
「コム…翠樹龍からの念話だ。」
「ごめんしてけれぇー。」ハネジリがジャンピング土下座した。なんかこのシーン、三の島でも見たような気がする。笑
『ふん、小者めが。』コムはご機嫌斜めだ。苦笑

「でさ、ニアの大森林の騒動の真相なんだがな、コムが十数年寝ていた間に、コムの棲家のニアの大森林を、アタキの連中がかなり大規模に開発したそうじゃないか。」
「んだば、翠樹龍が暴れたのは開発のせいなんだべか?」
「コムは暴れてなんかいねぇよ。荒らされた縄張りを元にも戻しただけだ。ニア村の末端の集落が樹海に飲み込まれたのは、勢い余ってというところだな。」
「うーむ。」
「この開発にはニア村の連中も反対してたそうじゃないか。」
「だども…。」ハネジリめ、反論できねぇな。
「どうする?ニアの大森林の開発を諦めるか、アタキが樹海になるか、ふたつにひとつだぜ。」ハネジリの顔が引きつっている。

「分かっただ。開発をやめるべ。おらもよ、本音のとこじゃ、あの開発には反対だったべ。したども、土建屋やっでる町長が強引に話さ進めでな。これがら町長んとこさ行ぐだでよ、アタルも同行してぐんねが?」おっとハネジリの奴、寝返りやがった。笑

 で、町長宅に行ったのだが、開発には大きな利権が絡んでいると見えて、町長は開発中止の提案に激怒した。俺とハネジリは取り付く島もなく、追い返されたのだった。しかも、
「余所もんが口を挟むでねぇ。長生きできねぇべ。」とか、俺に向かって脅し文句も掛けて来やがったしよ。
 ちょっとぉ、町長さんって、まるでヤの付く人たちみたいじゃんよ。

 それですごすご引き上げたのかって?そんな訳ねぇに決まってるじゃん。どっちが長生きできねぇか、教えてやんよ。

 アタキの一等地にでんと構えた町長宅兼土建屋事務所に、俺が植撃矢を何本も射込んでやると、町長宅は樹海と化したのだった。
 これにはハネジリも絶句してたけどな。もちろんアタキの民も大騒ぎである。

 アタキの野次馬たちと一緒に、俺とハネジリも高みの見物をする中、土建屋の町長配下の職人さんたちが総動員され、夕方まで掛かって、ようやく町長宅の樹海の半分程を切り倒して取っ払ったのだが、そこに俺が再び植撃矢を数矢射込んでやると、町長宅はあっと言う間に樹海が再生され、悲鳴に似た声が上がった。笑

 いったんニア村のダトウ集落の温泉宿に戻って、温泉に浸かり、夕餉で嫁たちにアタキでの状況を報告した。
「…と言う訳でさ、土建屋のアタキの町長が、開発をやめるのを渋っただけじゃなく、脅しを掛けて来やがったんで、植撃矢で町長宅を樹海にしてやったんだよ。
 配下の連中を使って半日掛けて半分の木を切り倒したんで、最後にまた植撃矢を射込んで樹海に戻してやったけどな。」
「うっわー、相変わらずえげつない追い込み掛けるやん。」
「そうですわね。折角半日も掛けてやっとの思いで半分切り倒したのに、すぐに樹海に戻されては、心が折れますわ。」

「まぁね。あの町長にはさ、誰に喧嘩を売ったのかをしっかり分からせてやんねぇとな。詫び入れて来たら、またコムとの和睦を仲介してやるけどさ。」
「和睦の仲介なん?全面降伏させる気なんやないの?」
「いやいや、俺に脅しを掛けて来たことをしっかり詫びて、無理な開発に対する誠意を見せてくれれば矛を収めるさ。」
「誠意…ね…。どんな…誠意…かな…。サヤ…?」
「そうね。いくらふんだくる気なのよ?」
「いやいや、ふんだくるなんてそんな。
 とばっちりを食って樹海に飲まれたニア村の端っこの集落の、復興をタダでやらせるくらいかな。これは当然だろ?」
「まあそれくらいは妥当でござるな。」

 この夜はアキナとタヅナとむふふな夜を過ごした。
 今宵のアキナは、黒ぶち眼鏡の控えめな読書女子モード、興が乗ったタヅナが俺に付いて、ふたり掛りでアキナを攻め立てた。その後、俺がアキナ側に寝返ってふたり掛りでタヅナを攻め、タヅナが大いに乱れると言う展開。
 最後は、和睦したアキナ・タヅナ連合軍に、俺が蹂躙され、なすがままにされたのだった。もう最高!笑

 翌日、再び流邏石でアタキギルドに飛ぶと、受付でコム攻略の報酬で大金貨3枚を受け取り、俺はとうとうSSランクになった。それとシノブもSランク昇格だ。
 そう言う訳で、流邏矢の甲矢をアタキギルドに登録して、シノブを迎えに、一旦ダトウ集落の温泉宿に戻った。
「アタル兄やないの。」「忘れもんでもしたん?」
「シノブがSランクに上がったって言うんでさ、手続するのに迎えに来たんだよ。」
「えー?驚きでござる。まさか、Sランクに上がるとは…。」
「七神龍攻略は、評価の割がいいんだよ。」

 シノブの他に、山髙屋アタキ支店に寄りたいと言うアキナと、キノベ陸運アタキ営業所に顔を出したいと言うタヅナも一緒に、ハーネスで固定して、流邏矢で再びアタキギルドに飛んだ。

 ギルド前でアキナとタヅナと別れ、シノブを連れて再び受付へ行った。
「シノブさん、ゴールドカードを返納して下さい。」と受付嬢に言われ、シノブがゴールドカードを返納すると、代わりにSランクのプラチナカードが発行された。

 その後、ギルマスルームに通されたので、シノブを伴ってギルマスルームに行くと、ハネジリの他に、アタキの町長がいた。
 アタキの町長は、俺を見るとその場に土下座して、
「ごめんしてけれぇ」と詫びた。
「いったい、何の詫びだ?」
「昨日、アタル様に大変失礼なごとを言っちまったことだべ。開発は一切やめますで、堪忍して下せぇ。」

「まさか詫びて終わり?子供じゃないんだからさ、誠意を見せてくれよ。」
「これは申し訳ねごとで。」と言って、町長は懐から袱紗を取り出し、開いて見せた。大金貨1枚である。
 横でシノブがフッと笑った。いわゆる冷笑である。シノブー、分かってるじゃないの!
「なんなの?この端金は?」このひと言に町長とハネジリが顔面蒼白となった。
「お詫び…、の、つもりなんだども…?」恐る恐る答える町長。

「俺はいらないよ。」
「だどもそれではおらの気持ちが…。」
「ふうん、ならさ、お前が無理に進めた開発のとばっちりで樹海に飲まれたニア村の端っこの集落の家々な、あれらの再建をすべてお前んとこで責任もってやれや。」
「それはもちろん、責任もって格安でやらせて頂きますだ。」
「格安?何言ってんの。費用は全部お前んとこ持ちに決まってるだろ。それ以外に1軒に付き大金貨1枚の見舞金な。」
「そげなこと…。」
「じゃあ何か?お前の無謀な開発のとばっちりを受けて、家が樹海に飲まれて、泣く泣く避難生活をしている被害者に、さらに自宅の再建のための金を、自分で出せって言うのか?」

「だどもそんな金、ねぇべ。」
「アタキの一等地のお前の家、あれを売りぁいいじゃねぇか。その他にも、随分不動産を持ってるんだろ。」
「だども、開発はアタキのためを思ってのことだべ。」
「アタキのねぇ。お前の懐にも随分入って来るはずだったんだろうが。ニア村の反対を押し切って開発を強行したんだろ?」
「くっ…。だども…。」煮え切らねぇなぁ。
「町長さんよ、あんた、財産すべて吐き出してでもしっかり被害者の保証をしないと…、」
 これに続く最後のひと言は町長の耳元で囁いてやった。
「長生きできねぇべ。」
 最後のひと言は、昨日、こいつ自身から言われたひと言だ。町長はぶるぶると震え出し、半泣きで俺の条件を承諾したのだった。

 ニア村のダトウ集落に戻って、ダトウ集落の里長に、アタキ町長から引き出した補償の内容を伝えると、大変感謝された。
 このダトウ集落の里長からニア村の村長に、俺が勝ち取った補償の内容が伝えられ、翌日、俺とギルマスのハネジリの立会いの下、アタキの港町の町長とニア村の村長の間で、復興と補償についての契約書が交わされることになった。

 その晩は嫁会議なので、ひとり寂しく床に就き、翌日にアタキで契約書の取り交わしに立ち会うと、町長は被害にあった村人たちへの補償金を用意して来た。
 ダトウ集落にも4世帯が避難して来ていたが、ニア村全体で23世帯が避難していたので、1世帯に大金貨1枚ずつの見舞金で、大金貨23枚。白金貨2枚を超える出費だが、流石に町長はアタキの資産家だけのことはある。たった1日で工面して来やがった。

 素直に補償に応じて誠意を見せた町長のために、ニア村の、樹海に飲まれた端っこの集落を巡って、樹海の樹々の切り倒しと立て直す家々の材木の確保に、ノワとコムの力を借りて協力してやった。

 俺が、樹海に飲まれた家を建て直すための、材木確保に行くと言うことを聞き付けた避難家族の奥さん連中が、この辺りの名物のバター餅を作ってくれた。
 バター餅は餅にバター、卵黄、砂糖を練り込んだもので、何日も山に入って狩りを続けるマタギの携行食である。
 時間が経ってもバター餅は柔らかいままで固まらず、ひと口で食わないとびよーんと餅が伸びる。これが結構面白かったりする。笑
 味もほんのり甘く、バターの風味がいい塩梅で口の中に広がる。
 これいいじゃん。俺はかなり気に入った。

 この後、材木確保作業に数日を要し、ニアマタギ村のダトウ集落を発って帰路に着いたのは、契約書を交わしてから4日後のことだった。

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 毎週月曜22時に投稿します。

 以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073

 カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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