射手の統領

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射手の統領165 ニアのマタギ村到着

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射手の統領
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№165 ニアのマタギ村到着

 翌日の馬車での行程は困難を極めた。
 と言うのも、山道が翠樹龍の樹海に飲み込まれていたからだ。
 翠樹龍にバレないように移動する隠密行動は諦め、属性矢を駆使して道を切り開くしかなかったのだ。

 ライ鏑、ウズ鏑、シン鏑、レイ鏑、エン鏑、ノワ鏑を駆使して進行方向の樹海を排除したため、自然の気力回復では間に合わず、昨日仕留めたキラースパーダーのバラしたパーツや、今日の道中で狩った猪やら鹿やらを、片っ端から神龍鏑に吸収させた。

 ライたちはめったに食事をしない。属性矢を放つときに、矢に供給してくれた気力は、鏑の中で休んでいるときにまわりから吸収するからだ。当然このノーマルな気力回復法だと、回復のペースがゆっくりで、そこそこ使っても、大体ひと晩掛けたら元に戻る感じだ。
 一方、今回の様に、続け様に属性矢を放つときは、気力がどんどん目減りするので、まわりからの供給では間に合わない。その結果、食事を摂ることになる。食事と言っても、獲物を神龍鏑にかざすだけなんだけどな。
 獲物を神龍鏑にかざすと、神龍鏑が属性色に輝いて、その輝きに獲物が呼応し、白い光の粒子になって神龍鏑に吸収されて行く。これがライたちの食事方法だ。
 この方法だと、使った気力を一気に回復する。

 道を切り開くのに加えて、獲物を狩るのにもそれなりに時間を取られたので、今日の行程は遅々として進みが悪かった。
 ただ、不幸中の幸いと言うべきか、樹海に埋もれつつも、一応、道らしきものは残っていたので、道に迷うことはなかった。
 昨日の野営地から、尾根に沿ってジグザグに北に進み、しばらくしてから山を下って、行き会った支流の流れに沿って北に進むと、樹海の中に家屋が点在し出した。

「なぁ、ここってさ、村の一部じゃね?」何の気なしに、隣で式神を飛ばしていたキョウちゃんズに問い掛けると、
「せやね。でも人はおらんで。」
「避難しとるんちゃうやろか?」
「なるほど、避難か。十分考えられるな。村役場とかに避難してるのかな。」

 ニアのマタギ村はかなり広域で、今、横を流れている支流が、この先で合流するニアの河の流域に、いくつか広い河岸があり、そこがぞれぞれ集落となっている。
 支流に沿って、樹海を切り開きながら進むと、ようやくこの支流がニアの河に合流する場所に近付いた。

「アタル兄、この先に煙が見えるで。」
「山火事か?」
「いや、人がわざと焼いとるようや。」
「樹海の侵食に抵抗してるんでしょうね。」と言うアキナの見立て。なるほど、そうかもな。
「ちょっと先行して見て来るでござる。」
 シノブが昨日に引き続き、見張台から直接近くの樹に飛び移り、そのまま樹々の枝から枝へと、ピョンピョンと跳んで行ったのだった。フットワークいいし、あの身の軽さって、マジ凄ぇ。流石、上忍くノ一。

 しばらくしてシノブが帰って来た。
「やはり、村人総出で樹々を焼いてござった。この支流が別の支流に合流する所に大きい集落があるでござる。そこで、こちらに向かって樹々を焼いてござる。こちらから伸びて行く樹海を、焼いて食い止めているのでござる。」
「じゃあ、このまま下っても、あの燃えてる所を突っ切るか迂回しないと、集落には行けないってことか。」
「そうでござるが、アタルが諸々、殲滅すればよいでござらぬか。」
「「せやね。」」「そうですわね。」
「俺じゃなくて、ライたちのお陰なんだけれどもな。」なんかライたちの手柄を横取りするような気がしてそう言ったのだが、
『同じことよ。』『余らの力はアタルの力ぞ。』『誇るがいい。』『『『左様。』』』

「焼いている部分を迂回して、集落側に行ったのでござるが、私が現れたのを見て、村人たちは大層驚いてござった。アタキから救援物資を運んで来ていると伝えたら、大喜びでござった。」
「よし、もうひと息頑張ろうぜ。」

 夕方になって、ようやく大きめの集落近くに到着し、属性矢を駆使して辺り一帯の樹海を排除。すっかり丸坊主にしてやった。
 村に入ると、
「どなたか知らねども、助太刀、ありがとうごぜぇましただ。」
「俺はアタル、パーティはセプト。」
「アタル様と言うだか。ありがたや、ありがたや。」
「ありがたや、ありがたや。」×多。
 村人たちが拝んで来た。妙にハズい。
 さらに運んで来た物資を渡すと、村人たちは歓喜の渦に包まれた。物資が尽き掛けていたのだ。

 俺たちが着いたのは村役場のある集落ではないものの、ニアの中でも大きめの集落だった。
 あちこちに点在しているニアの集落のうち、端の集落は樹海に飲まれ、俺たちが、川沿いを北上して来た支流沿いの集落は、すべて樹海に飲まれたそうだ。今日の道中で見た集落とかだな。
 この集落が、樹海の南からの進出に抵抗している最前線な訳だ。

 俺たちが川沿いに沿って北上して来た支流は、この大きめの集落で北東から流れて来る別の支流と合流し、北北西に流れて行くが、この別の支流沿いは、まだ樹海に飲まれていないとのことだ。

 集落の里長宅で詳しい話を聞いた。
「おらだちの集落は、南がら伸びで来る樹海さ、抑えてっがよ、北東にもう少し行ったとごの集落では、北東から伸びて来る樹海さ、抑えてるだ。
 支援物資の一部は、その集落さ、運んでぐんねが?」
「おう、引き受けたぞ。」
「支援物資が届がねば、撤退すっとこだったども、お陰でまだ粘れるだ。」
「大変だな。」
「おらだちの村だがんな、大変だとは言ってられんべ。」

「ところでな、ニアにはダトウと言う秘湯があると聞いたのだが、そこはもう樹海に飲まれたか?
「それなら、さっき、物資の運搬を頼んだ北東に行ったとごの集落だでや。」
「お、そいつはちょうどいい。」
「おらだちは温泉どこではねぇげどな。」おっと里長、ちょっと棘がある言い方じゃんよ。まぁ分からんでもないけどな。

「別に秘湯温泉に浸かってゆっくりって訳じゃないぜ。戦勝の禊の儀式に使うんだよ。」
「え?戦勝の禊?」
「この樹海の原因は翠樹龍だろ?俺たちは翠樹龍を狩りに来たんだ。決戦前に清らかな湧き水で禊をして、身を清めるんだよ。温泉も湧き水だからな。」
「山神様を狩るって、そったらごと、無理だべ?」山神様と言うのは翠樹龍のことだ。ニア村は、山の森林から恩恵を得ているマタギの村だもんな。
「いいや、俺たちはすでに6体の神龍を狩っているからな。狩った神龍から得た力は、さっきあんたも見たろ?」
「えー?」
 里長はすっかり度肝を抜かれていた。笑

 この晩は、この集落に泊まることにした。そして明日はニアのダトウ集落に向かう。
 それにしても今日進んだ距離は、昨日の半分、通常の日の移動距離の1/3でしかなかった。樹海に飲まれた際の深刻さが分かる。

 村の中なので見張りは村人に任せ、俺たちは北斗号で寝た。
 北斗号のメイン車両には、セミダブルの二段ベッドが左右にあるので、セミダブルに詰めて寝れば、8人が寝られる。ベッドは8人の嫁たちに譲り、俺は通路で寝る。これで嫁たちのポイントを稼ぐのだ。くふふ。

 翌日、嫁たちのムンムンなフェロモンでいきり立ったマイドラゴンに起こされた。出番を主張して、ブイブイ言っている。やはり北斗号のメイン車両に全員で寝ると、こうなるのも無理はないかもしれない。
 しかし朝っぱらから嫁たちを襲う訳にも行かないので、そのままメイン車両の外に出て、清々しい朝の空気を深呼吸した。

 マイドラゴンは文句を言っていたが、手頃な木に的を掛けて、朝の鍛錬を行った。集中して射込んで行くうちに、マイドラゴンも収まった。
「今日はアキナの誕生日だから、夜にじっくりとな。」と念じたのが効いたのかもしれない。笑

 嫁たちが起きて来たので、アキナに、
「アキナ、誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「で、誕生日のプレゼントだ。」と言って、一昨日、山髙屋アタキ支店で購入したむふふなランジェリーを手渡すと、包み紙を開けてもいないのに、嫁たち全員からジト目が飛んで来た。中身、バレテーラ。

「どうせ例のアレやろ?」「せやね。えっちぃのに決もとるがな。」
「私のときから変わらんな。」最初にむふふなランジェリーを贈ったホサキのひと言に、その後、贈っているサヤ姉とサジ姉とキョウちゃんズが、うんうんと頷いている。
 実用的でいいじゃないか!早速今夜、活躍してもらうもんね。

 同じ村の別集落と言うこともあり、昨夜泊った集落を出ると、北東に1時間ちょっとで着いた。まだ昼前である。樹海に飲まれていない集落間の道路は、ちゃんと繋がっているのだ。
 ダトウの秘湯温泉がある集落は、昨日の集落よりは小さい。温泉宿は、村営の施設なのだそうで、さらに先の、樹海に飲まれた集落からの避難村民を収容していた。と言っても4世帯で20人ちょっとだけどな。
 救援物資を届けると、ここでも大層感謝された。

 集まっていた村人たちに、俺は切り出した。
「翠樹龍を攻略する前線基地として宿泊したい。ふた部屋程、借りれないだろうか?もちろん宿泊料は支払う。」
「いやいや、わざわざ助っ人に来てくれた恩人から、金は取れねぇべ。避難して来た村ん衆もタダで泊めてるだでよ。」
「いや、翠樹龍の攻略は朝廷からの依頼なんで、宿泊費は朝廷持ちだ。気にしないで受け取ってくれ。」と言ったら、
「へ?朝廷からの依頼?いやぁ魂消たな。おめだち何もんだ?」
「俺はアタル、パーティはセプト。」
「おお!おら、冒険者してっがら知ってんべ。セプトちゅうたら、濃紺の規格外だべな。あんたらがあの有名なセプトだべか!」
 なんかさらに輪を掛けて物凄い歓迎ムードになった。苦笑

 それから、村営温泉宿の食堂に場所を移して、村人たちから様々な情報を得た。
 まず、翠樹龍の棲家は、このダトウ集落の北にそびえるシンキチの山の山頂だそうだが、最近は棲家に戻ることはほとんどなく、ニアの大森林を縦横無尽に駆け巡り、先々でブレスを吐きまくるのだそうだ。
 翠樹龍がブレスを吐くと、ブレスに見舞われた一帯に樹木がぐんぐんと生え、すぐに樹海になってしまうとか。
 樹海となった樹々は1本1本切り倒していると時間が掛かり過ぎるため、もっぱら焼くしかないが、焼くとなると樹海に飲み込まれた集落の家々も燃えてしまう。しかし村人たちには他の選択肢はなく、泣く泣く集落ごと焼き払っているそうだ。

「大変だ。また山神様が現れただ。」村人が駆け込んで来て急を告げた。
「今度はどこだ?」
「昨日焼き払った一帯だ。あっと言う間に樹海に戻ってしまっただ。」
「皆の衆、すぐ行くべ。」「応!」×多。
 俺たちも付いて行くことにした。

 マジか!村営温泉宿を出ると、さっきまでなかった樹海がすぐそこまで再生されている。
「皆の衆、焼き払うべ。」「応!」×多。
「待て。」村人たちを、一旦止めた。

 俺は操龍弓を高く掲げた。七神龍の気配を感知することができるのだ。
 操龍弓で翠樹龍の気配を感知したものの、その気配はすでに遠い。さらにぐんぐん遠ざかって行くのが分かる。

 よしやってやる!
「皆、5倍だ。」
『『『『『『応!』』』』』』
 俺は6種類の5倍属性矢を次々と射放って、落雷、激流、地震、凍結、業火、竜巻で広範囲の樹海を一掃した。
 唖然となる村人たち。

 翠樹龍め、見てろよ。明日はお前の棲家のシンキチの山を丸坊主にしてやるからな。そのためにも今日中に、シンキチの山の山頂に流邏矢を登録して来よう。

 俺は温泉宿に北にそびえ立つシンキチの山の山頂を睨んでいた。

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 半年間、ふらふらしてしまいましたが、週1ペースで連載を再開します。毎週月曜22時に投稿します。

 以下の2作品も合わせてよろしくお願いします。
「精霊の加護」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
「母娘丼W」https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/265755073

 カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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