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射手の統領159 統領就任の打合せと折檻の真相
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射手の統領
Zu-Y
№159 統領就任の打合せと折檻の真相
やばい、気持ちいい。え?なんでマイドラゴンが俺に向かってホワイトブレスは吐くんだぁー!って、夢か?え?えー?
やられました、朝駆の奇襲。キョウちゃんズに。マイドラゴンは搾り取られてました。
「お前らなぁ。朝っぱらから…。」俺は半ば呆れつつボヤく。残り半分は…ご想像にお任せしまーす。苦笑
「何言うてんの?朝駆を食らうんは、油断してた証拠やで。」
「ホンマやで。でもドラちゃんは喜んどったけどな。」
俺はマイドラゴンに向かって、
「こら、甘えてんじゃねぇ。」
「グルルル。」あ、俺には牙を剥きやがった。
さて、起きるか。
宿屋の食堂で、皆で朝餉を摂りつつ、今日の段取りの確認。
「俺は、叔父貴どのたちと統領就任の儀式の打合せをしに、先にテンバに帰るよ。」
「私たちは、巴でクエストを受けるわ。」
「クエスト…終わったら…テンバに…帰る…。」
「危ないクエストは受けるなよ。」
「アタル、私たちなら大丈夫だ。心配には及ばぬ。」
「そうですね。でも、折角アタルが心配してくれたのですから、軽めのクエストにしておきます。」
このとき、この言い分を言葉通りに受け取った俺は、なんと浅はかだったことか。それをしばらく後に思い知ることになる。
嫁たちは、その類稀なる戦闘力を生かして、東都ギルドの塩漬けクエストを片っ端からこなして行き、セプトのサブパーティ『巴』の名を轟かせた。
そもそも、巴自体のパーティバランスが頗るいいのだ。
Sアタッカーの刀剣士サヤ姉、騎士タヅナ、Sアタッカー兼タンクの盾槍士ホサキ、Lアタッカーの射手アキナ、Lアタッカー兼ヒーラーの医薬士サジ姉、Lアタッカー兼バッファーの陰陽士サキョウとウキョウ。
しかも、全員飛び切りの美少女だと言うので、ギルド内の話題を掻っ攫っていたのである。冒険者の多くは男どもだ。当然、巴のメンバーは、ちやほやされるし、後で聞いたことだが、皆が何度も告られたりしていた。
告られる度に断るのが面倒になった嫁たちは、ギルド内で人妻であることを公言してしまい、しかも全員の夫が俺だと言うことで、冒険者どものヘイトが、俺ひとりに集中することになった。
ふざけるな。いい迷惑だ。何がヘイトだ。ただのやっかみだろう。
嫁たちの活躍に比例して、『濃紺の塩漬けマスター』とか『ギルドの救世主』とか、巴だけのふたつ名が、ギルド内に広まって行った。
その裏で俺は、『濃紺のお荷物』とか『ひとりだけ規格内』とか、どう見たってやっかみに起因する不名誉なふたつ名が、悪意を持って広められていたのだった。これを知るのは少し後のこと。
で、少々ブチ切れてしまい、ギルマスのタケクラに説教を食らう羽目になったけどな。
一方、俺はと言うと、統領就任に向けて、テンバで叔父貴たちと諸々の打合せをしていた。
「さればアタルよ、テンバで統領就任の儀式と披露目を行い、ガハマでは披露目のみでよいな。」
「ああ、それでいい。」
「テンバの統領就任式には、トノベどのとカナタどの、ヤクシどのとクリスどの、タテベどのとシルドどの、キノベどのとトウラクどの、山髙屋どのと専務どの、オミョシ西家のシエンどのとエイどの、シノベどのとクナイどの、エノベどのを呼ぶのだな。」
「ああ、それでいい。」
「オミョシ東家はいいのか?」
「シエンと敵対してるゆえ呼ばぬ。シエンに臣従すれば追加で呼んでもよい。」
「次ノ宮殿下はどうするのだ?」
「朝臣である俺の統領就任に、畏れ多くも次ノ宮殿下を呼べる訳がないだろう?その代わり、テンバでの就任式と披露目の直後に東都の帝居に飛んで、統領就任のご挨拶を今上帝陛下、帝太子殿下、次ノ宮殿下にして参る。」
「ところで、姉上たちはどうするのだ?」
「トノベどのとヤクシどのが、伯母御どのたちを許して、蟄居を解いておれば呼んでもよいが、蟄居中のままならば呼ばぬ。」
「しかし…。」
「二の叔父貴どの、冷静に考えてみよ。伯母御どのたちは他家へ嫁いだ身ぞ。嫁ぎ先で粗相をして蟄居させられておる者を、その家の許しもなく、こちらの披露目に呼ぶことなどできぬ。」
「理屈はその通りだが…。」
「三の叔父貴どの、理屈ではそうだが、情では呼びたいとの仰せか?」
「いかにも。」
「それは俺も同じぞ。しかしな、此度の伯母御どのたちの粗相はな、夫で当主たるトノベどのとヤクシどのの顔に泥を塗る真似をしたのだ。しかも伯母御どのたち本人の希望で尼寺に入っておるのだぞ。」
「その覚悟を汲んでだな、何とかならぬか?」
「末の叔父貴どの、俺の統領就任の披露目の様子ぐらいは、書き送ってやってもよい。それで手を打ってくれまいか?
あの伯母御どのたちに肩入れして、トノベどのやヤクシどのに不快な思いをさせるのは、二代に亘る親密な婚姻同盟に溝を作りかねない。そのような危険を冒すことはできぬ。もしそんなことをしたら、今は亡き親父どのにどやされるわ。」
これはしつこい叔父貴たちへのトドメだ。叔父貴たちは伯母御たちには頭は上がらぬが尊敬はしていない。一方、親父どののことは今でも尊敬している。
「そうだな。兄貴ならそう言うだろうな。」
「うむ、アタルの申す通りだ。われらが少々浅はかであった。流石、次期統領じゃ。」
「左様よな。姉貴たちには諦めてもらおう。」
やっぱりか!親父どのを話題に出したら叔父貴たちはあっさり転びやがった。笑
親父どのは我儘放題の伯母御たちには、特に厳しかったらしい。反抗した伯母御たちを、心底怖がらせるほどの徹底した折檻をしたと言うくらいだからな。その折檻の内容を一度聞いてみたいものだ。笑
「なぁ、叔父貴どのたち。親父どのは伯母御どのたちを折檻して黙らせたと言うではないか?そのときのことをご存知か?」3人がギョッとした。おっと、このリアクション、これはかなり詳しく知ってるな。
「アタル、その話をどこで聞いた?」
「動の伯母御から聞いて、静の伯母御も認めたのだが、ふたりとも、『折檻されて、大層恐ろしかった。』と言うのみで、詳しい内容については聞いておらぬ。」
叔父貴たち3人は互いに顔を見合わせて頷き合った。
「されば、アタルの統領就任にあたり、申し聞かせよう。あれはな、兄貴が統領就任後間もなくのことだった。
以前から姉貴たちふたりは、我儘放題やりたい放題だったのだがな、兄貴はその都度、姉貴たちふたりに説教しておった。
あるとき姉貴たちふたりが、説教する兄貴に『弟の分際で何を言う。』と開き直って反抗したのだ。」
「ちょうどそのとき俺たちはその場に居合わせていてな。姉貴たちの剣幕に、やばいと思ったのだがな。それ以上に、兄貴の表情がみるみる変わってな。主の座から立ち上がって姉貴たちふたりに近寄り、有無を言わさずふたりを思いっ切り張り飛ばしたのだ。
そしてな『われはユノベの統領ぞ。もはやそなたらの弟ではないわ。』と一喝したのだ。」
「姉貴たちは張り飛ばされて呆然自失よ。最初はな『女子に手を上げるとは何ごとぞ。』と言い返した姉貴たちであったが、兄貴はな『統領に逆らうは謀反人。謀反人には女子とて容赦はせぬわ。』と言って、姉貴たちに容赦なく往復ビンタを続けたのだ。
そのうち、兄貴の物凄い剣幕に恐れをなした姉貴たちが、泣き叫んで逃げ惑ったのだがな、姉貴たちの着物の裾を踏み、黒髪を引き据えてな、ひたすらビンタをかまし続けたのだ。もちろん、殴る蹴るは決してしなかったがな。
姉貴たちの両頬は腫れ上がり、鼻血は出ておるし、口の中も切ったと見えて口元から血も流しておった。」
「姉貴たちは大泣きしながら『お許しを、お許しを。』と繰り返しておったがな、兄貴はまったく容赦せず、徹底的に打ち据えた後、最後には脇差を抜いてな。」
「え?」おいおい、穏やかじゃねぇな。
「わしらもあのときは焦ったがの、兄貴の剣幕に腰が抜けて動けなんだわ。」
「で、親父どのはどうしたの?」
「姉貴たちふたりの自慢の長き黒髪を脇差でバッサリ切って、イガ栗頭にしてしもうた。そして『髪が伸びるまで尼寺に入っておれ!』と一喝したのだ。」
「姉貴たちふたりは抱き合ったままぶるぶる震え、声も出なんだ。余程恐ろしかったのだな、ふたりともその場で失禁しておったのだ。」
「ひでぇな。いくらなんでもそこまでやることはないだろ。しかしあの親父どのがそこまでやるかね?ちょっと信じられねぇな。」
「うむ、そのことよ。われらも後にも先にも、あんな兄貴を見たのは最初で最後だった。
後で兄貴に聞いたのだがな、あのときちょうどトノベどのとヤクシどのに姉貴たちを嫁がせて、婚姻同盟を結ぶ話が進んでいたのだ。『我儘放題やりたい放題のままでは、いずれトノベどのやヤクシどのに愛想をつかされて離縁されよう。さすれば婚姻同盟解消だけでは済まなくなり、両家との間にしこりが残る。そうならないために、徹底的に懲らしめた。』と、兄貴は言っておったわ。」
「その後、いつも一緒だった姉貴たちふたりは、兄貴によって別々の尼寺で蟄居させられてな、会話する相手もおらず、ひたすら読経と写経による反省の日々よ。
半年近く経ってようやく黒髪が肩口に掛かる程度の長さになり、尼寺を出て来たときにはな、ふたりともすっかりしおらしくなっておったわ。」
「蟄居を解かれた礼に姉貴ふたりが兄貴の元を訪れるとな、兄貴は『面を上げよ。』とは言わず、ふたりを平伏させたまま『動はトノベへ、静はヤクシへ、それぞれ嫁げ。嫁ぎ先で此度のような粗相を致せば、俺が乗り込んで次は黒髪ではなくそのそっ首を跳ね飛ばすゆえ、左様心得よ。下がれ。』と一方的に言ってな。姉貴たちは平伏したまま表座敷から出て行ったのだ。」
「その後、俺たち3人は、姉貴たちから『御屋形様はまだわらわたちのことをお怒りじゃ。御屋形様に取り成してたも。』と泣きながら頼まれたのだ。それ以来、姉貴たちは兄貴のことを『御屋形様』か『統領様』としか呼ばなくなったけどな。」
「で、叔父貴どのたちは親父どのに、伯母御どのたちのことを取り成したのか?」
「ああ、もちろん取り成したぞ。そしたら兄貴はな、『あのふたりを増長させぬためには俺は不機嫌を装い続けるしかない。大好きな姉貴たちを笑顔で嫁ぎ先に送り出したいのは山々だが、それができぬ。せめてそなたたちは、姉貴たちの味方になってやってくれ。』とな、涙を零しながら言うのだ。」
「われらは、不覚にももらい泣きよ。」
なるほど、それで叔父貴たちは伯母御たちに甘いのか。
「アタル、此度の粗相だがな、姉貴たちが頭を丸めて尼寺に行ったと言うことは、兄貴が生きていたらそっ首を跳ね飛ばされる程の粗相だと思っているからに他ならぬのだ。それゆえ、姉貴たちは心底反省しているに違いない。」
「なるほど、相分かった。されば俺は親父どのの方針を引き継ぎ、伯母御どのたちには、今後も強面で行くとしよう。叔父貴どのたちは、引き続き逃げ道の慰め役を頼む。よろしいか?」
「「「応。」」」
その後も、数日掛けて様々な段取りを詰め、就任式を半年後に行う様に決定した。統領に就任したら、早速、帝居渡りの儀の手配を始めねばな。
だからこそ統領就任までに、最後の七神龍、翠樹龍を攻略するのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/12/25
更新は月水金の週3日ペースでしたが、11月中旬にストックが尽きてしまい、1か月ちょっとの間、自転車操業で更新していました。
このため、後からの付け足しなど、修正改稿が増えてしまいました。
次週より、しばらく更新をお休みして、ストックを増やしてから再開いたします。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№159 統領就任の打合せと折檻の真相
やばい、気持ちいい。え?なんでマイドラゴンが俺に向かってホワイトブレスは吐くんだぁー!って、夢か?え?えー?
やられました、朝駆の奇襲。キョウちゃんズに。マイドラゴンは搾り取られてました。
「お前らなぁ。朝っぱらから…。」俺は半ば呆れつつボヤく。残り半分は…ご想像にお任せしまーす。苦笑
「何言うてんの?朝駆を食らうんは、油断してた証拠やで。」
「ホンマやで。でもドラちゃんは喜んどったけどな。」
俺はマイドラゴンに向かって、
「こら、甘えてんじゃねぇ。」
「グルルル。」あ、俺には牙を剥きやがった。
さて、起きるか。
宿屋の食堂で、皆で朝餉を摂りつつ、今日の段取りの確認。
「俺は、叔父貴どのたちと統領就任の儀式の打合せをしに、先にテンバに帰るよ。」
「私たちは、巴でクエストを受けるわ。」
「クエスト…終わったら…テンバに…帰る…。」
「危ないクエストは受けるなよ。」
「アタル、私たちなら大丈夫だ。心配には及ばぬ。」
「そうですね。でも、折角アタルが心配してくれたのですから、軽めのクエストにしておきます。」
このとき、この言い分を言葉通りに受け取った俺は、なんと浅はかだったことか。それをしばらく後に思い知ることになる。
嫁たちは、その類稀なる戦闘力を生かして、東都ギルドの塩漬けクエストを片っ端からこなして行き、セプトのサブパーティ『巴』の名を轟かせた。
そもそも、巴自体のパーティバランスが頗るいいのだ。
Sアタッカーの刀剣士サヤ姉、騎士タヅナ、Sアタッカー兼タンクの盾槍士ホサキ、Lアタッカーの射手アキナ、Lアタッカー兼ヒーラーの医薬士サジ姉、Lアタッカー兼バッファーの陰陽士サキョウとウキョウ。
しかも、全員飛び切りの美少女だと言うので、ギルド内の話題を掻っ攫っていたのである。冒険者の多くは男どもだ。当然、巴のメンバーは、ちやほやされるし、後で聞いたことだが、皆が何度も告られたりしていた。
告られる度に断るのが面倒になった嫁たちは、ギルド内で人妻であることを公言してしまい、しかも全員の夫が俺だと言うことで、冒険者どものヘイトが、俺ひとりに集中することになった。
ふざけるな。いい迷惑だ。何がヘイトだ。ただのやっかみだろう。
嫁たちの活躍に比例して、『濃紺の塩漬けマスター』とか『ギルドの救世主』とか、巴だけのふたつ名が、ギルド内に広まって行った。
その裏で俺は、『濃紺のお荷物』とか『ひとりだけ規格内』とか、どう見たってやっかみに起因する不名誉なふたつ名が、悪意を持って広められていたのだった。これを知るのは少し後のこと。
で、少々ブチ切れてしまい、ギルマスのタケクラに説教を食らう羽目になったけどな。
一方、俺はと言うと、統領就任に向けて、テンバで叔父貴たちと諸々の打合せをしていた。
「さればアタルよ、テンバで統領就任の儀式と披露目を行い、ガハマでは披露目のみでよいな。」
「ああ、それでいい。」
「テンバの統領就任式には、トノベどのとカナタどの、ヤクシどのとクリスどの、タテベどのとシルドどの、キノベどのとトウラクどの、山髙屋どのと専務どの、オミョシ西家のシエンどのとエイどの、シノベどのとクナイどの、エノベどのを呼ぶのだな。」
「ああ、それでいい。」
「オミョシ東家はいいのか?」
「シエンと敵対してるゆえ呼ばぬ。シエンに臣従すれば追加で呼んでもよい。」
「次ノ宮殿下はどうするのだ?」
「朝臣である俺の統領就任に、畏れ多くも次ノ宮殿下を呼べる訳がないだろう?その代わり、テンバでの就任式と披露目の直後に東都の帝居に飛んで、統領就任のご挨拶を今上帝陛下、帝太子殿下、次ノ宮殿下にして参る。」
「ところで、姉上たちはどうするのだ?」
「トノベどのとヤクシどのが、伯母御どのたちを許して、蟄居を解いておれば呼んでもよいが、蟄居中のままならば呼ばぬ。」
「しかし…。」
「二の叔父貴どの、冷静に考えてみよ。伯母御どのたちは他家へ嫁いだ身ぞ。嫁ぎ先で粗相をして蟄居させられておる者を、その家の許しもなく、こちらの披露目に呼ぶことなどできぬ。」
「理屈はその通りだが…。」
「三の叔父貴どの、理屈ではそうだが、情では呼びたいとの仰せか?」
「いかにも。」
「それは俺も同じぞ。しかしな、此度の伯母御どのたちの粗相はな、夫で当主たるトノベどのとヤクシどのの顔に泥を塗る真似をしたのだ。しかも伯母御どのたち本人の希望で尼寺に入っておるのだぞ。」
「その覚悟を汲んでだな、何とかならぬか?」
「末の叔父貴どの、俺の統領就任の披露目の様子ぐらいは、書き送ってやってもよい。それで手を打ってくれまいか?
あの伯母御どのたちに肩入れして、トノベどのやヤクシどのに不快な思いをさせるのは、二代に亘る親密な婚姻同盟に溝を作りかねない。そのような危険を冒すことはできぬ。もしそんなことをしたら、今は亡き親父どのにどやされるわ。」
これはしつこい叔父貴たちへのトドメだ。叔父貴たちは伯母御たちには頭は上がらぬが尊敬はしていない。一方、親父どののことは今でも尊敬している。
「そうだな。兄貴ならそう言うだろうな。」
「うむ、アタルの申す通りだ。われらが少々浅はかであった。流石、次期統領じゃ。」
「左様よな。姉貴たちには諦めてもらおう。」
やっぱりか!親父どのを話題に出したら叔父貴たちはあっさり転びやがった。笑
親父どのは我儘放題の伯母御たちには、特に厳しかったらしい。反抗した伯母御たちを、心底怖がらせるほどの徹底した折檻をしたと言うくらいだからな。その折檻の内容を一度聞いてみたいものだ。笑
「なぁ、叔父貴どのたち。親父どのは伯母御どのたちを折檻して黙らせたと言うではないか?そのときのことをご存知か?」3人がギョッとした。おっと、このリアクション、これはかなり詳しく知ってるな。
「アタル、その話をどこで聞いた?」
「動の伯母御から聞いて、静の伯母御も認めたのだが、ふたりとも、『折檻されて、大層恐ろしかった。』と言うのみで、詳しい内容については聞いておらぬ。」
叔父貴たち3人は互いに顔を見合わせて頷き合った。
「されば、アタルの統領就任にあたり、申し聞かせよう。あれはな、兄貴が統領就任後間もなくのことだった。
以前から姉貴たちふたりは、我儘放題やりたい放題だったのだがな、兄貴はその都度、姉貴たちふたりに説教しておった。
あるとき姉貴たちふたりが、説教する兄貴に『弟の分際で何を言う。』と開き直って反抗したのだ。」
「ちょうどそのとき俺たちはその場に居合わせていてな。姉貴たちの剣幕に、やばいと思ったのだがな。それ以上に、兄貴の表情がみるみる変わってな。主の座から立ち上がって姉貴たちふたりに近寄り、有無を言わさずふたりを思いっ切り張り飛ばしたのだ。
そしてな『われはユノベの統領ぞ。もはやそなたらの弟ではないわ。』と一喝したのだ。」
「姉貴たちは張り飛ばされて呆然自失よ。最初はな『女子に手を上げるとは何ごとぞ。』と言い返した姉貴たちであったが、兄貴はな『統領に逆らうは謀反人。謀反人には女子とて容赦はせぬわ。』と言って、姉貴たちに容赦なく往復ビンタを続けたのだ。
そのうち、兄貴の物凄い剣幕に恐れをなした姉貴たちが、泣き叫んで逃げ惑ったのだがな、姉貴たちの着物の裾を踏み、黒髪を引き据えてな、ひたすらビンタをかまし続けたのだ。もちろん、殴る蹴るは決してしなかったがな。
姉貴たちの両頬は腫れ上がり、鼻血は出ておるし、口の中も切ったと見えて口元から血も流しておった。」
「姉貴たちは大泣きしながら『お許しを、お許しを。』と繰り返しておったがな、兄貴はまったく容赦せず、徹底的に打ち据えた後、最後には脇差を抜いてな。」
「え?」おいおい、穏やかじゃねぇな。
「わしらもあのときは焦ったがの、兄貴の剣幕に腰が抜けて動けなんだわ。」
「で、親父どのはどうしたの?」
「姉貴たちふたりの自慢の長き黒髪を脇差でバッサリ切って、イガ栗頭にしてしもうた。そして『髪が伸びるまで尼寺に入っておれ!』と一喝したのだ。」
「姉貴たちふたりは抱き合ったままぶるぶる震え、声も出なんだ。余程恐ろしかったのだな、ふたりともその場で失禁しておったのだ。」
「ひでぇな。いくらなんでもそこまでやることはないだろ。しかしあの親父どのがそこまでやるかね?ちょっと信じられねぇな。」
「うむ、そのことよ。われらも後にも先にも、あんな兄貴を見たのは最初で最後だった。
後で兄貴に聞いたのだがな、あのときちょうどトノベどのとヤクシどのに姉貴たちを嫁がせて、婚姻同盟を結ぶ話が進んでいたのだ。『我儘放題やりたい放題のままでは、いずれトノベどのやヤクシどのに愛想をつかされて離縁されよう。さすれば婚姻同盟解消だけでは済まなくなり、両家との間にしこりが残る。そうならないために、徹底的に懲らしめた。』と、兄貴は言っておったわ。」
「その後、いつも一緒だった姉貴たちふたりは、兄貴によって別々の尼寺で蟄居させられてな、会話する相手もおらず、ひたすら読経と写経による反省の日々よ。
半年近く経ってようやく黒髪が肩口に掛かる程度の長さになり、尼寺を出て来たときにはな、ふたりともすっかりしおらしくなっておったわ。」
「蟄居を解かれた礼に姉貴ふたりが兄貴の元を訪れるとな、兄貴は『面を上げよ。』とは言わず、ふたりを平伏させたまま『動はトノベへ、静はヤクシへ、それぞれ嫁げ。嫁ぎ先で此度のような粗相を致せば、俺が乗り込んで次は黒髪ではなくそのそっ首を跳ね飛ばすゆえ、左様心得よ。下がれ。』と一方的に言ってな。姉貴たちは平伏したまま表座敷から出て行ったのだ。」
「その後、俺たち3人は、姉貴たちから『御屋形様はまだわらわたちのことをお怒りじゃ。御屋形様に取り成してたも。』と泣きながら頼まれたのだ。それ以来、姉貴たちは兄貴のことを『御屋形様』か『統領様』としか呼ばなくなったけどな。」
「で、叔父貴どのたちは親父どのに、伯母御どのたちのことを取り成したのか?」
「ああ、もちろん取り成したぞ。そしたら兄貴はな、『あのふたりを増長させぬためには俺は不機嫌を装い続けるしかない。大好きな姉貴たちを笑顔で嫁ぎ先に送り出したいのは山々だが、それができぬ。せめてそなたたちは、姉貴たちの味方になってやってくれ。』とな、涙を零しながら言うのだ。」
「われらは、不覚にももらい泣きよ。」
なるほど、それで叔父貴たちは伯母御たちに甘いのか。
「アタル、此度の粗相だがな、姉貴たちが頭を丸めて尼寺に行ったと言うことは、兄貴が生きていたらそっ首を跳ね飛ばされる程の粗相だと思っているからに他ならぬのだ。それゆえ、姉貴たちは心底反省しているに違いない。」
「なるほど、相分かった。されば俺は親父どのの方針を引き継ぎ、伯母御どのたちには、今後も強面で行くとしよう。叔父貴どのたちは、引き続き逃げ道の慰め役を頼む。よろしいか?」
「「「応。」」」
その後も、数日掛けて様々な段取りを詰め、就任式を半年後に行う様に決定した。統領に就任したら、早速、帝居渡りの儀の手配を始めねばな。
だからこそ統領就任までに、最後の七神龍、翠樹龍を攻略するのだ。
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設定を更新しました。R4/12/25
更新は月水金の週3日ペースでしたが、11月中旬にストックが尽きてしまい、1か月ちょっとの間、自転車操業で更新していました。
このため、後からの付け足しなど、修正改稿が増えてしまいました。
次週より、しばらく更新をお休みして、ストックを増やしてから再開いたします。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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