射手の統領

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射手の統領157 古の大工事と各地の名物料理

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№157 古の大工事と各地の名物料理

 ポイカの温泉街を出て東向かって山を下り、麓まで下りるとそこはシブカの町だ。シブカの町では、ルナハの山に登り出すまで、北の河岸を歩いて来たアツマの河が流れて来ており、シブカの町で本流であるネトの河に合流する。

 ネトの河は、和の国第2位の長さの大河で、古くは東都湾に注いでいたが、その河口を東都からシチョの港町に変えると言う大工事を経て、現在はシチョに注いでいると言う、とんでもない経歴を持つ大河だ。

 そもそも東都ができる以前の、古の東都一帯の地域は、ネトの河の他にもいくつもの河が流れ込んでいたため、大雨の度に河があふれて水浸しになる湿地帯であった。
 東都を本拠に定めた当時の為政者=武家の統領将軍家は、東都の開発にあたり、東都に流れ込む一番の大河のネトの河の流れ先を、東都からシチョの港町に変えると言う一大プロジェクトを立ち上げたのだ。

 このプロジェクトの骨子は、ネトの河と、ネトの河の東を流れていて、シチョに河口を持っていたヌキの河を繋ぎ、ネトの河とヌキの河を合流させて、ヌキの河の流れ先であるシチョに流そうと言うものだ。
 まったく昔の人は、大河の河口を別の場所に変えるとか、考えることが突拍子もない。しかもそれをやってのけるのだから大したものだ。

 大工事の地として選ばれたのは、ネトの河とヌキの河が隣接するハネナマの原野。ハネナマの原野に、東に向かう水路を掘って、ネトの河とヌキの河を繋げ、ついにはネトの河の河口をシチョに変えてしまった。
 この大工事のおかげで古の東都一帯は湿地から平地になり、東都として大発展を遂げ、今や西都と、帝の御代替わりの度に首都を交代する和の国の二大首都のひとつとなったのだ。

 シブカの町で進路を南南東に転じ、ネトの河の西岸を流れに沿って進み、しばらく行くとエマシーバの町である。

 エマシーバは、コップの戦国大名とカナカの原野で死闘を繰り広げたジョエツーの戦国大名が、和国海側の領地から、越山してカントの大平原に覇を唱えに来た際に、根拠地とした場所だ。
 カントの大平原は、オダーラの戦国大名も覇を唱えようとしていたから、当然ジョエツーの戦国大名と激しい勢力争いとなった。
 軍神とも言われたジョエツーの戦国大名は、天才的に戦上手だったため、彼がエマシーバに出張って来ると形勢は一気にジョエツーに傾き、彼が帰国するとオダーラが盛り返すと言う構図の繰り返しだったと言う。

 エマシーバに町に着くと。まず、山髙屋エマシーバ支店に寄り、ミズサーうどんの乾麺とこの辺り特産の麦豚の豚肉と加工品を購入した。麦豚とは、飼料に麦を多く用いて飼育するこの辺りのブランド豚だ。
 日持ちのしない食品は、めったに買わないが、サブ車両には寒冷石を使った冷蔵・冷凍機能があるから、レイの氷撃矢で凍らせてサブ車両の冷凍庫に入れておけば東都までは余裕だ。東都ではいくらでも捌けるだろう。

 その後、鳥めし弁当屋に行った。この辺りの名物料理には、特産品の豚肉を使った料理があるのだが、ポイカの湯宿の仲居さんに、エマシーバの鳥めし弁当は旨いと聞いていたので、その店に行って、鳥めし弁当を購入したのだ。
 エマシーバを出て、南東の向かって進みつつ、交代で鳥めし弁当を食った。
甘辛のタレがしっかり浸み込んだ薄切りの鳥の胸肉に、タレのたっぷり掛かったご飯。そこに刻み海苔と、グリンピース数粒のアクセントがいい。確かに旨いわ。これ。
 教えてくれた仲居さんに感謝だな。

 そのまま北斗号はネトの河に沿って南東に進み、今日の宿泊予定地であるジョンホーの農村に着いた。
 行商の許可を取りに村長宅に行くと、村人が集まって何やら揉めている。
「馬鹿野郎、手配を忘れたじゃすまないだろう!」怒号が飛んで来た。
「いや、こいつが手配したと思ってて。」
「俺の方こそ、こいつが手配したものとばかり…。」
「確認してれば済んだことだろうに。」
「困った。祝いの宴は今宵だと言うのに、つみっこが材料不足とは…。麦豚なしで作るしかないのか?」

「あのー、お取り込み中のところを申し訳ない。行商の者なのだが、村の端っこで…。」
「行商?麦豚はあるか?」話の途中で村長が食い付いて来た。
「エマシーバ産の麦豚ならあるけど…。」
「おお、天の助け。全部買うぞ。」
「えー?全部?」いやいやかなりの量があるんだけどな。

 村長以下、村の面々を北斗号まで案内すると、
「すまん、全部だとちょっと多過ぎる。まさかこんなにあるとは思わなかった。」バツが悪そうに村長が詫びて来た。
「いいよ、いいよ。必要なだけ買ってくれ。」
「他には何があるんだ?」
「麦豚の加工品とミズサーうどんの乾麺だな。」
「それなら、それらも分けてもらおう。」
 結局、村として、仕入れた麦豚肉の半分、麦豚加工品の2割、ミズサーうどん乾麺の2割のお買い上げだった。俺たちはホクホクである。
 ついでに行商の許可ももらったが、村人たちがこぞって買いに来て、ミズサーうどんが2割、麦豚加工品が1割も売れた。俺たちはさらにホクホクである。

 行商終了後、大いに感謝してくれた村長に、祝いの宴に招待され、名物料理のつみっこを振舞われた。
 つみっこは、豚肉、油揚げ、人参、牛蒡、椎茸などを細かく切って入れたしょうゆベースのスープに、小麦粉、鶏卵、大和芋で作った生地をひとつまみずつ千切って投入して作った、いわゆる水とん汁である。
 ソーセージ、ハム、ベーコンなどの麦豚加工品や、ミズサーうどんも宴の席で出されていた。
「村長、ご招待、ありがとう。ところで今日は、村人総出で何の祝なんだ?」
「もう何百年も続いてるがな、この村ができた祝いだよ。」
「へぇ、それは凄いな。村の誕生日ってことか?」
「村の誕生日か。そいつはいい。今までは何となく祝いの宴と言っていたが、これからは村誕祭と呼ぶか?」え?
「村長、そりゃいいな。」え?え?
 なんかそう言うことになってしまった。まぁ酒も入ってるし、ノリノリなんだろう。笑

 その晩はジョンホーの村外れに泊めた北斗号で1泊した。北斗号のメイン車両は、左右にセミダル部の二段ベッドなので、ベッドには嫁ふたりずつに寝てもらい、俺はメイン車両の通路に寝た。
 最近メンバーに加わったシノブが、申し訳なさそうに、
「私は忍びゆえ、野宿には慣れてござる。通路には私が寝るでござる。」と言うので、
「は?何言ってんの?嫁を床に寝かせて俺がベッドに寝ることなんでできる訳ねーだろ。」と言って譲らなかった。
 もちろんこれは紛れもなく本音ではあるのだが、ちょっぴり打算もある。これで嫁たちの評価は上がるはずのだ。案の定、上がったけどな。笑

 翌日、ジョンホーの村を出ると、今まで俺たちの針路と並行して流れて来たネトの河は、この後、徐々に東に流れを転じて行くが、俺たちは東都を目指して南東に進む。ネトの河とはこれでお別れだ。

 俺たちはそのままひたすら南東に進み、今日の宿泊地であるワカエゴの町を目指した。
 途中、キラーホースと遭遇した。馬が妖化した魔獣で、異常に大きく、後脚での蹴り上げを使う。これをまともに食らうと、北斗号でも一撃で粉砕されるだろう。
 盾槍士のホサキが前面に出て自在の盾を展開し、スキルも発動させて防御態勢を敷き、ウキョウが各種バフの術を皆に掛け、サキョウが各種デバフの術をキラーホースに掛けた。
 突進して来るキラーホースの前に、シノブが撒菱を撒いて待ち構えていると、撒菱をまともに踏んだキラーホースが棹立ちになった。
 キラーホースは棹立ちしたことによって、ちょうどこちらへ無防備な腹を晒すことになったのだが、その腹にシノブが苦無を連続で投げ込んだ。
 何本もの苦無を腹に受けたキラーホースはその場にうずくまったが、その隙を逃がさずにサヤ姉が一気に間合いを詰めて、一刀両断、首を落とした。
 俺の出番、ねぇじゃん。苦笑

 もちろんこの後の解体には、俺に出番が回って来たけどね。

 夕刻には、今日の宿泊地のワカエゴの町に着いた。ワカエゴは、その街並みから小古東都こことととも呼ばれている。小さな古の東都と言う意味で、将軍家が東都を治めていた頃の、古き良き東都の街並みを再現したような一画があるのだ。
 俺たちは、キノベ陸運のワカエゴ営業所に北斗号を預け、近場の宿屋を取った。そして、小古東都の由来になった街並みの一画にある鰻屋へ行った。小古東都ワカエゴは鰻の産地でもある。
 俺たちは鰻丼を堪能したのだった。ちなみに、鰻は古来よりスタミナ付けると言う。鰻で付けたスタミナは、この後のむふふタイムにて存分に発揮してやるのだ。笑

 その宵の相手は、ホサキとシノブ。サヤ姉とサジ姉はセット、アキナとタヅナもセット、キョウちゃんズは元から一心同体、で、余った者同士がホサキとシノブなのだが、閨におけるふたりに連携はかなりよかった。
 ホサキは、初期メンバー繋がりでサヤ姉やサジ姉とも仲がいいし、同じ年のアキナとタヅナとも仲がいい。シノブは、派遣先の雇い主に合わせる訓練を積んでいる。もっともシノブの雇い主は俺だけだったけどな。
 要するに、ふたりとも誰とでも合わせることができるのだから、連携がよかったのかもしれない。
 ホサキとシノブをイカしイカされ、夜遅くまでふたりを堪能したのだった。もちろん一昨日の反省を生かし、最後の一線越えは堪えた俺なのだった。

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設定を更新しました。R4/12/18

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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