射手の統領

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射手の統領150 殿下のお使いの完了

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射手の統領
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№150 殿下のお使いの完了

 長湯で湯あたりを起こし掛けたアタルが、特別室の居間で、水枕をしつつ大の字になって昼寝をしていると、移動店舗で今日の分を売り切った嫁たちが帰って来た。

「アタル、そんなところで寝て。風邪引きますよ。」
「ああ、お帰り。ふあぁぁぁ。」大あくび一発、湯あたり気味だった症状は、水枕の効果ですっかり抜けている。

「アタル…、次ノ宮殿下には…会えた…?」
「ああ。会えたぞ。」
「はぁ、アポなしで殿下に会って頂けるなんて、ほんと、アタルは特別待遇よね。」
「そうは言ってもさ、殿下のお使いな訳だしな。」
「その通りだけどぉ、それでもぉ、特別待遇よねぇ。」
「一応、腹心だしな。」
「しれっと…、凄いこと…、言ってる…。サヤ…?」
「そうよ。サジの言う通りよ。アタル、あんた、その自覚ある?」
「んー、確かにそうかもな。」

 それから嫁たちは露天に入って行った。当然俺もついて行ったが、つい先程、長湯で湯あたり仕掛けたので、湯には浸からず、湯船の脇に胡坐をかいて、繰り返し、掛け湯だけをしていた。
 もちろん、湯に浸かる嫁たちのせいで、マイサンはドラゴン化してしまっていたのだが、嫁たちがちらちらとマイドラゴンを見ているのが、何とも微笑ましい。笑
 例によってイチャコラタイムに突入したのは言うまでもない。いや、ホントに奮発して特別室にしてよかった。これも皆、ガノラッパ一家のお陰だな。

 じきに仲居さんたちがやって来て、夕餉の準備を始めた。今宵も豪勢な特別料理である。もちろん昨日とは献立が違う。
 俺たちは特別料理を堪能したのだった。

 そして今宵はサヤ姉とむふふ部屋で同衾である。サヤ姉もノリノリで、むふふタイムを、ふたりでとことん楽しんだのであった。

 翌朝、心地よく目覚めると、すでにサヤ姉の姿はなかった。朝風呂にでも行ったかな?
 俺も目覚めの朝風呂に行くと、すでに先客がいた。サヤ姉とサジ姉だ。やっぱりか。笑
 俺も遠慮なく朝風呂にお邪魔すると、ふたりが両サイドに寄り添って来たので、両手に花でふたりの肩を抱き、弓手でサヤ姉、馬手でサジ姉の頂を弄った。まったく朝っぱらから何やってんだか。苦笑

 3人でイチャつきながら、セプト結成当時のことに思いを馳せた。
 俺、サヤ姉、サジ姉は、セプトの結成メンバーだ。黄金龍ライの攻略は、セプト結成前にこの3人で達成したんだよな。しかし、まぁ、よくこの3人で成し遂げたものだ。

 セプトを結成した直後に、東都でホサキを仲間に加え、山髙屋の商隊に護衛で参加して、アキナとタヅナと出会った。東都から商隊の目的地であった商都まで陸路を行き、終点の商都に無事に荷を届けて山髙屋の商隊が解散すると、そのまま西都に行った。そこでキョウちゃんズ=サキョウとウキョウに出会った。
 桁外れに優秀な陰士のキョウちゃんズを助っ人で雇って、蒼碧龍ウズを攻略した後、キョウちゃんズを助っ人から正式な仲間に迎え入れ、東都へ帰還。そしてひと足先に東都に帰っていたアキナとタヅナもセプトに加わった。

 それからずっと8人で、和の国を巡りつつ、西和のトリトの大砂丘で橙土龍シン、二の島のシカオの大雪原で藍凍龍レイ、三の島のアゾの活火山で紅蓮龍エン、四の島のズリの断崖岬で紫嵐龍ノワと、次々と攻略して来た。後は東北和のニアの大森林にいる翠樹龍を残すのみだ。
 この間ずっと働き詰めだったので、次ノ宮殿下の勧めもあり、殿下の使いを兼ねて、ここマザの温泉街に湯治に来た。
 そして、嫁たちとの湯治をすっかり堪能している。

 今日の午後は、シノベのお頭と会って、今上帝から帝太子殿下への御代替わりにおける、一連の儀式での供奉の人事を内々に伝える。
 シノベのお頭には、御代替わりの最大の儀式である帝居渡りの儀、すなわち帝太子殿下改め新帝陛下が、東都から西都にお渡りになられる大行列において、前半の行程の先陣を務めてもらうのだ。これを正式発表前に、内々に伝えるのが、次ノ宮殿下から任されたお使いの内容だ。

 名誉ある先陣のお役目に、否やがあろうはずはない。すんなりシノベどのの内諾を取って、次ノ宮殿下のお使いは終了。後は、マザの湯でしっかりと英気を養えばよい。

 物思いに耽りながら、しかし両手はしっかり、サヤ姉とサジ姉の頂を弄り続けていた。ふたりの息が荒くなっていて、眼はとろんとしている。あれ、その気にさせちゃったかな。

「あー、ずるーい。アタル兄ったら、サヤ姉とサジ姉とだけ、イチャイチャしてはる。」
「うちらともイチャイチャしてぇな。」
 昨日の優雅な湯への入り方はすっかり忘れたのか、ふたりはドボンと湯に飛び込んだ。まったくもう。
「朝風呂に来たら、ふたりがもう入ってたんだよ。昨日はお前らと一緒だったじゃないか。」
「そやったっけー?」「どやったかなー。」こいつら…。苦笑

「交代…。」「そうね。」キョウちゃんズの乱入でわれに返ったサヤ姉とサジ姉は、俺の隣をキョウちゃんズに譲ったのだが、その直後に、ホサキ、アキナ、タヅナも入って来た。
 なんだよ、結局、皆で混浴じゃん。朝から至福だなー♪

 今日も、手間の掛かった薬膳料理の朝餉を摂り、午後のシノベ本拠訪問までは、特別室で、気が向いたときに湯に浸かりながら、ゆったり過ごすのであった。もちろんイチャイチャしっ放しだったけど。苦笑

~~シノブ視点、シノベ本拠~~

「父上、お呼びでござりまするか?」
「午後のアタルとの面会だがな、断れ。」アタルどのを呼び捨て?シノブは、父上はどうされたのだろう?と訝しんだ。
「は?何ゆえにござりまするか?」
「アタルの奴め、そなたとの婚姻同盟の交渉に、奥方どもを引き連れて来ているのみならず、湯宿の特別室でやりたい放題やっておるわ。」
「父上…、いえ、お頭様、それはいささか短慮ではござりませぬか?アタルどのは、次期とは言え、実質上のユノベの統領でござりまする。そのアタルどのが、がわざわざマザまで、お頭様を訪ねて来たものを、門前払いにしては、ユノベと拗れまするぞ。それにユノベは当家のお得意先ではござりませぬか。」
「うぬぬ…、しかしだな。」
「しかも昨日報告しましたように、アタルどのは、ガノラッパ一家との戦で得た戦利金の一部を、われらに分け前として下さったのでござりまするよ。しかも大金貨3枚と言う大金でござりまする。」
「それはそうだが…。」
「アタルどのにお気に召さないことがござるのであれば、お会いになった折に直接問い質せばよろしいのではござりませぬか?」

 腕を組んで考え込むお頭。シノブの言い分はもっともだが、一の姫であるシノブとの婚姻を持ち掛けて来るのに、他の女たちを引き連れて来ているのが、シノブが蔑ろにされているようで、なんとも気に食わないのである。
 年頃の娘の父親の心理としては当然ではあるのだが、しかし、シノベのお頭としてはいささか短慮と言わざるを得ない。シノブはそこを窘めたのだ。

 だが、アタルの用件は、実のところ、まったく違う。

 そして運命の午後を迎えたのだ。

~~アタル視点~~

 アタルは単身、シノベ本拠を訪れた。
 嫁たちはと言うと、今日もギルド脇で移動店舗を開いている。マザの滞在中に、西都、商都、古都の西三都で仕入れた商品を売り切ると張り切っていた。

 シノベ本拠の大手門では、頭巾を被っていないシノブどのが迎えに来ていた。
 うーんシノブどのはやはり飛び切り美しい。ぜひ嫁に欲し…じゃなかった、シノベとの婚姻同盟を持ち掛けてみるか?と真剣に考えるアタルであった。

 この間、アタルは不覚にもシノブに見惚れて立ち尽くす格好となっていた。
「主様、どうされたのでござりまするか?」
「あ、いや、大事ない。正直に申さば、シノブどのの美貌に見惚れておった。」
「な、な、何をおっちゃい…痛っ。」いきなりのド直球な攻めに、カーっと真っ赤になりながら、思わず噛んでしまったシノブである。
 アタルとしては、別に攻めてるつもりはない。美しいから美しいと言ったまでだ。これがアタルの素なのだ。
 ちなみにサヤとサジは、このアタルの素直過ぎる言動を、天然の女誑しの天与の資質と見て、警戒している。

 シノブに案内され、本拠の敷地内のシノベ館の表座敷に通された。
 アタルが客の座に着くと、シノブは重臣3名がいる主の座の脇に、重心と並んで座り、待機した。程なくしてシノベのお頭が現れ、主の座に就いた。

「ユノベ・アタルでござる。本日は、時間を割いて頂き、忝い。」
「遠路ようこそ。シノベでござる。」フルネームで名乗らないな。これでマウントを取ったつもりか?それなら、存外小者だな。アタルはそんなことを考えながら、シノベのお頭を観察している。

 シノベのお頭も、アタルに掛けた些細なちょっかいに対し、アタルがまったく顔色を変えず、すましてこちらを値踏みするように見ていることに対し、少々迷いが出た。こちらの仕掛けに、気付いてないうつけか?あるいは気付いていて平然と流す器量の持ち主か?と、アタルの値踏みを始めた。

 互いに沈黙の時間が続くと、なぜかシノブが板挟みになったように動揺し出した。
 アタルはもう少し、駆け引きの沈黙で粘ろうかと思っていたが、シノブどのがこうなっては頃合いか?と感じて沈黙を破った。

「本日罷り越したのは、次ノ宮殿下のご意向を内々に伝えるためでござる。」
「「へ?」」と、間抜けな声がシノベのお頭とシノブから出た。婚姻同盟の話ではないのか?

「されば、次ノ宮殿下よりシノベどのへの文でござる。」
 シノブどのがすすーと客の座に来たので、俺は殿下からの文をシノブどのに渡し、シノブどのはその文をシノベのお頭に渡した。
 シノベどのが一瞬ギョッとしたのは、殿下からの文に付いている菊の御紋を見たからであろう。菊の御紋は、帝家の御紋である。その証拠に、シノベどのは殿下からの文を、一旦恭しく押戴いてから開封した。

 シノベどのが目を通す。そして俺を見た。
「アタルどの、次ノ宮殿下の命令とは?」
「されば、極秘の命令ゆえお人払いを。シノブどのは構わぬ。」
 シノベどのが軽く手を上げ、重臣たちが席を外した。俺から残っていいと言われたシノブどのは緊張の面持ちだ。

「では次ノ宮殿下の命令をお伝えする前に、その背景からお話しする。重臣どのたちにですら、この場を外して頂いた重大事項ゆえ、情報を漏らすのは必要最低限の者たちにして頂きたい。この点、よろしいか?」
「もちろん承知しておる。」シノベどのが答えた。

「今上帝陛下の体調が優れず、帝太子殿下にご譲位遊ばされる。」
「なんだと?」「ええっ?」シノベどのとシノブどのが、それぞれに驚きを口にした。俺は続けて話を進めた。
「帝太子殿下より、ご譲位の準備の密命を受けた次ノ宮殿下は、すでに西都へ赴き、西の公家衆と段取りを付けて来ている。」
「なるほど、次ノ宮殿下がユノベとオミョシ分家の婚姻同盟に出向いた真の目的はそこか。」ほう。間髪入れずに看破したか。なかなかやるではないか。

「いかにも。そして、次ノ宮殿下は、東の公家衆の機先を制するために、東都での譲位の儀、皇太子殿下改め新帝陛下の帝居渡りの儀、西都での即位の儀に供奉する武家の人事も、すでにお決めになっておられる。
 次ノ宮殿下は、譲位の儀から、帝居渡りの儀のママツまでの前半行程の先陣を、シノベどのに仰せ付けたいとのご意向だ。」
「なんと、忍びの衆たるシノベが、先陣の栄誉を賜ると言うのか?アタルどの、それは真のことか?」
「いかにも。」
「なんと…、感激で言葉も出ぬ。」出てるじゃん。笑
「お頭様、おめでとうござりまする。」シノブどのがお祝いの言葉を述べた。

「して、他の人事は?総大将はやはり年功でタテベどのか?」
「いや、総大将は俺が拝命致した。」このひと言にシノベどのとシノブどのが目を見開いた。
「なんと、そなたはまだ統領には就いていないではないか。」そなた…ねぇ。シノベどのは、俺の総大将拝命に泡食ってやがるな。笑
「いかにも。それゆえ、俺は近々正式にユノベを相続する。さらに副将はキノベのトウラク、参謀長はタテベのシルド。このふたりも今は世継ゆえ、近々、それぞれの御家を相続する。」
「なんと、ユノベだけでなく、キノベもタテベも代替わりするのか?」
「左様。これも次ノ宮殿下の遠謀深慮。」
「なんだと?どういうことだ?」あれ?さっきは鋭いと思ったけど、今はちょっと鈍いな、こいつ。
「東の公家衆の横槍封じだ。」
「あ、なるほど、そうか。そう言うことか。」やっと合点が行ったシノベどのであった。

 しばらく考え込んでいたシノベどのは次の質問をして来た。
「後半の先陣はどなたかな?やはりエノベどのか?」
「オミョシ西家のシエンだ。」俺は分家とは言わず、西家と言った。御代替わりで本家になるし、分家と言う呼び方だと本家の下のような印象を持つからな。
「なんと、それではエノベから不満が出ようぞ。」
「出ぬ。エノベどのには、シエンが後見を頼むだろうからな。」
「ではトノベやヤクシは…。」
「すでにおふたりには、俺の後見を承諾して頂いている。」
「オミョシ本家はどうなるのだ?」
「オミョシ東家は干す。シエンに敵対したからな。俺たちの同盟は、当然シエンを支持する。」シノベどのは本家と言ったが、俺は東家と言い直した。
「それでは、次ノ宮殿下もユノベの同盟を支持していると言うことか。」

「まぁ、そう言うことだ。ところでシノベどの、ご返答は?」
「もちろん先陣は、喜んで務めさせて頂く。」
「では今後ともよろしく。未熟な総大将ゆえ、支えて欲しい。気付いたことがあれば、遠慮なく言ってくれ。
 それと、この件に関する殿下からの正式の令旨は、供奉人事の正式発表の後に出る手筈になっている。」
「うむ。分かった。」
「ではこれにて。」

「待たれよ。」話が終わって席を立とうとした俺に、シノベどのが待ったを掛けた。

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設定を更新しました。R4/12/4

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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