射手の統領

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射手の統領143 次ノ宮殿下の遠謀深慮とコネハの湯

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射手の統領
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№143 次ノ宮殿下の遠謀深慮とコネハの湯

 大型廻船の貴賓室での、御代替わりについての話が一段落したところで、俺はしばしの暇をもらい、サヤ姉とサジ姉の様子を見に行くことにした。
 サヤ姉が言っていたが、確かに最新の大型廻船だけあって揺れは少ない。それにヌーマから東都は潮帆を張らないから、そもそもの揺れ自体も少ない。

 トノベとヤクシの部屋は、それぞれ数部屋ずつ横並びで、トノベとヤクシのエリアの境目が、サヤ姉、サジ姉、カナタ、クリスの、名代・後見部屋だった。実は往路も、ふたりの伯母御が同室を希望し、カナタとクリスも一緒で、部屋割りはこの配置だったそうだ。

 名代・後見部屋をノックすると、クリスが出て来た。
「あ、キャプン。いらっしゃい。どうぞ。」ここでもキャプンかよ。笑
「おう、お邪魔するぞ。」
「はい。キャプン。」クリスはビシッと敬礼した。ブレない。笑
 中に入ると、サヤ姉もサジ姉も起きていた。
 船室は、俺たちが好んで使う和室ではなく、ベッドの洋室だった。

「いらっしゃい。キャプン。」ビシッとカナタが敬礼する。こいつもブレない。笑
 おう、とカナタに応えて、
「サジ姉、サヤ姉、大丈夫そうだな。」
「そうね、潮帆も張ってないし、大型だから揺れが少ないし、それにサジから酔止の術を掛けてもらってるのが大きいわ。」
「それならよかった。」
「アタル…、ゆっくりして…行けるの…?」
「いや、そんなに長居はできない。殿下の貴賓室に戻らなきゃいけないんでな。」

 そこで俺は、貴賓室での話をした。
 御代替わりの時期とそれまでの準備のこと。
 シノベとのコンタクトのために、シノベ本拠のマザ行きを殿下から命じられたこと。
 帝居渡りの儀の供奉の総大将に任じられたこと。
 オミョシ分家とエノベの婚姻同盟のこと。

 なお、ふたりの義伯父上に後見をお願いすることはまだ伏せておく。これは俺から直接頼みたい。

「殿下って、私たちに休めって仰ってたわよね?それなのにマザ行きを命じるのね。相変わらず人使いが荒いわ。ね、サジ。」サヤ姉が溜息をつく。
 こくり。
「コネハは…お預け…。」サジ姉も幾分むっとしている。
「いや、コネハには行くぞ。今日のうちに北斗号でコネハをまわって予約を取ってる手筈だからな。」
 ふたりが、ぱあっと笑顔になった。

「それにさ、殿下がマザ行きを命じて来たのは、どうせ俺がろくに休みを取らないだろうからって気遣いからなんだよ。マザも有名な湯治村だからな。」
「そうなの?」「あら…そう…?」
「シノベの本拠行きは急ぐ使命でもないし、コネハで数日湯治をした後、マザまでのルートも温泉地を巡りながら、のんびり行こうや。で、マザでは半月ぐらいはゆっくりしよう。」
「いいわね。」「殿下に…、感謝…。」

「それとさ、明日のことなんだけど、義伯父上たちに御代替わりのことや、帝居渡りの儀のことも詳しく伝えといてくれな。俺たちも本拠と副拠の入れ替えがあるから、しっかり準備しないと、1年なんてあっと言う間だぜ。」
「そうね。」こくり。
 カナタとクリスが俺たちのやり取りをジーっと聞いている。割り込んで来ない。いやぁ、しっかり調教…じゃなかった、鍛錬されているな。
「じゃぁ俺、戻るからさ、カナタとクリスにもしっかり話しといてな。」

 この後、貴賓室に戻った俺は、東都まで豪華な貴賓室での船旅を、存分に楽しんだのだった。
 あ、二の叔父貴に会うのを忘れてた…。ま、いっか。苦笑

 翌日、大型廻船は順調に進み、昼前に東都港へ到着した。
 港には、山髙屋の社長が出迎えに来ていた。
「殿下、船旅、お疲れ様でございました。」
「山髙屋、貴賓室は素晴らしかったぞ。そなたの心尽くし、胸に刻んだ。」
「勿体のうございます。別室を用意しておりますので、ぜひ御休憩を。」
「すまぬ。急ぎ帝居に戻らねばならん。決済が溜まっておろうでな。気持ちだけ貰っておく。」
 殿下は社長の誘いをさらっと躱し、さっさと帝家の馬車に乗り込んでしまった。社長は取り付く島もない。俺は舅どのである社長に会釈して、東の武家勢とともに殿下に付き従った。

 東の武家勢は、そのまま次ノ宮殿下を帝居まで護衛して行って解散。
 二の叔父貴率いるユノベ勢はテンバヘ、サヤ姉後見のカナタ率いるトノベ勢はトコザへ、サジ姉後見のクリス率いるヤクシ勢はトマツへ、シルド率いるタテベ勢はコスカへ、トウラク率いるキノベ勢は一旦キノベ陸運東都営業所に入ってからミーブへ。
 なお、オミョシ本家勢は副将に率いられて、そそくさとツークへ帰って行った。

 俺は東都ギルドに寄った。
「チナツさん、土産な。それと、タケクラさんに繋いでくれないか?」
「いつもすみません。ちょっと待ってて下さいね。」例によって西都の千枚漬けである。チナツはご機嫌でギルマスのタケクラに繋いでくれた。

 まず手土産の千枚漬けを渡す。
「いつもすまんな。ところで豪勢な披露目だったそうじゃないか?」
「お陰様で。」
「殿下の商都と西都の往来も、武家勢がこぞって供奉して、華々しく演出したそうだな。」
「帝居渡りはさらに大掛かりになるがな。」俺のこのひと言に、タケクラの目がきらりと光った。
「殿下の調整は順調に進んだのだな。」
「向こうの公家連中に否やはない。こっちの公家連中が多少ごねるかもしれんがな。」
「まあ、首都から副都になれば、実質格下げだからな。」
「しかし、御代替わりの度の遷都は習わしだし、公家連中の都合でどうこうなるものでもないだろ。」

「表向きはな。だから裏でコソコソやるんだ。裏でのコソコソは公家連中のお家芸だからな。
 今回は、そうだな…、『帝太子殿下はまだお若いゆえ、今上帝陛下が在位したままで、しばらくの間は摂政をされて経験を積まれてはいかが?』などと言い出すだろうな。」
「いかにも言いそうだな。しかし西の公家衆が黙ってないのではないか?」
「だな。だから帝太子殿下の摂政云々は流れるだろうよ。それでも1~2年の時間稼ぎにはなる。」

「1~2年程度先延ばしにしても大して変わらんだろ?」
「その通り。だから、帝太子殿下の摂政云々の話が流れたら、次には帝居渡りの供奉の総大将決めで揉めさせるのだ。裏で手を組んで、別々の当主を押して、決まらないように画策する。
 ユノベは今現在、統領が不在だし、アタルが継いでも最年少だから、総大将には推されないだろうが、順当なら最年長のタテベ統領だな。対抗でやや年下のキノベ統領だろう。だから、さらに若いトノベの統領やヤクシの座主の人柄や実績をあげつらって、多くの公家どもが推すんだ。
 年功序列でタテベかキノベ、大勢が推すことでトノベかヤクシ。揉めさせて決定を長引かせるのだ。
 さらに副長、参謀長、先陣の人事でも同じことをやる。これでちょっこら10年は引き伸ばす。」

「なるほどな。それで次ノ宮殿下は先手を打った訳か。」
「先手?」
「ああ、総大将は俺、副将はトウラク、参謀長はシルド、先陣はママツまでがシノベどの、ママツから先がシエンだ。」
「なんだと?」
「俺たちには殿下から内示が出た。御代替わりの発表と同時に、次ノ宮殿下が俺たちを役職に任じる令旨を出す手筈だ。」
「しかし総大将、副将、参謀長は当主ではないではないか。」
「1年の間に継げばいい。問題ない。
 そうか!殿下の発表を受けて、ユノベ、キノベ、タテベの3家が代替わりする。こうなると、公家どもは横槍を入れられなくなる。殿下はそこまで見越しておられたか。」俺は、殿下の遠謀深慮にいたく感心させられた。

「なるほど、それなら東都の公家どもは何も言えなくなるな。これは確かに妙手。まあ、多少、心配なのは、トノベとヤクシが外されたことか?」
「タケクラさん、ふたりは俺の義伯父上で舅どのだぞ。ふたりには相談役として、俺の後見を頼むに決まってるだろ?」
「なるほど、盤石な手だな。いや、次ノ宮殿下には畏れ入った。見事な遠謀深慮だ。お家芸の影でコソコソを封じられた公家どもの、苦虫を噛み潰したような顔が眼に浮かぶわ。いやあ、こりゃ傑作だ。わっはっは。」
 ふむ、タケクラめ、さては公家の裏でコソコソに、何度か煮え湯を飲まされたことがあるな。笑

 タケクラとの話を終えた俺はギルマスルームを辞し、流邏石でテンバに飛んだ。そこで、嫁たちと合流して昼餉を摂った。
 昼餉の後、アキナが流邏石で、東都総本店に飛んで行った。山髙屋社長の舅どのに会い、御代替わりと遷都の情報を伝えるのだ。
 この情報を上手く生かせば、何かしらの儲け話に繋がるだろう。山髙屋は、アキナの実家と言うこともあるが、何かと便宜を図ってくれているので、その見返りに、儲け話のネタがあれば、なるべく提供してやりたい。

 山髙屋の商隊は、武家勢との提携に基づく武家勢の護衛によって、盗賊からの襲撃を一切受けなくなった。商隊が確実に商品を運び、流通の安定がもたらされたことで、民の生活が向上しており、徐々に税収も増えている。
 一方で武家勢は、商隊の護衛を他部家との連携の実践訓練と位置付けているが、商隊護衛の条件として、護衛中の食費や宿泊費は山髙屋持ちなので、大いに助かっている。
 要するに山髙屋と武家勢は、ウインウインの関係なのだ。

 俺は、ホサキから昨日のうちにコネハの温泉宿を登録してもらっていた流邏石を受け取り、コネハの温泉宿に飛んだ。そこで流邏矢の乙矢にコネハの温泉宿を登録し、テンバに戻った。
 その後、流邏矢を使って、第1陣でホサキとタヅナ、第2陣でキョウちゃんズを、コネハの温泉宿にピストン輸送した。

「お客様、いらしゃいませ。よくまたお出で下さいました。」
「おお、ご主人。久しぶりだな。ここの濃厚白濁硫黄泉が忘れられなくてな。」
「それはそれは。ぜひご堪能して行って下さい。」
「数日、厄介になる。」8名団体が数日連泊するのだから、宿の主人はホクホクである。

 で、早速この宿自慢の貸切風呂にいる。5人では若干狭いが、その分接近するのでそれはそれで嬉しい。
「何これ、凄いやーん。」「ひと掬いで両手がいっぱいやーん。」
 温泉好きのキョウちゃんズが、ここの湯の花の量の多さに大喜びしている。
「硫黄泉にはうるさいアタル兄が絶賛するだけのことはあるなぁ。」
「ホンマや。これは癖になってまうわぁ。」

「だろー。まずサキョウ。来い。」
 俺はサキョウを引き寄せ、後ろから抱き抱えて、たっぷりの湯の花を首、肩、胸と塗ったくってやった。特に胸には念入りに。薄赤茶色のふた花を指先でたっぷり愛でた。
「次、ウキョウ。」
 同様に、ウキョウにも湯の花を塗ったくった。ウキョウもサキョウと同様に、身を預けて来たので、やはり薄赤茶色のふた花を指先で十分に愛でまくった。
 そしてホサキのベージュのふた花、タヅナの栗色のふた花も、心行くまで指先で愛で、堪能したのだった。

 部屋に戻って涼みつつ、ゆったりとしたひとときを過ごす。骨休めには最適だ。

 夕方になったので、俺は一旦流邏石でテンバに戻った。サヤ姉、サジ姉、アキナのお迎えだ。
 サヤ姉とサジ姉は、それぞれトコザのトノベ本拠と、トマツのヤクシ本拠へ、カナタとクリスを送り届け、義伯父上ふたりに、御代替わりのことや遷都のことなどを告げて来た。また、伯母御ふたりの状況も確認して来ている。その報告は後でゆっくり聞く。
 アキナは、東都総本店で社長に御代替わりと遷都のことを告げて来た。社長は案の定、商機到来と大喜びだったそうだ。やはりな。

 弓手側にサヤ姉、馬手側にサジ姉、背中にアキナをハーネスで固定し、流邏矢でコネハの温泉宿に飛んだ。
 そして3人と例の貸切風呂に直行である。
 当然この3人とも、混浴湯の華プレイを堪能した。サヤ姉の桃色のふた花、サジ姉の桜色のふた花、アキナの紅色のふた花を、指先でじっくりと愛でたのだった。

 ここの夕餉は典型的な温泉宿のそれだ。豪勢な懐石である。もちろん楽しいひとときを堪能したのだが、サヤ姉とサジ姉からとんでもない報告を聞いた。

 なんと伯母御ふたりが尼寺で出家して、ご自慢の御髪おぐしをきれいさっぱり切り落とし、青々と反り上げていると言うのだ。これには流石に驚いた。
「廻船の…中で…、ふたりで…、決めた…そう…。」
「しかもそれぞれが本拠近くの尼寺だから、珍しくふたり別々よ。一緒だと反省にならないと考えたみたいね。」
「まじか…。」
 頷くふたり。他の嫁たちも流石にシーンとしてしまった。出家よりも、御髪を下ろしたのが衝撃的だったようだ。

「義伯父上たちの反応は?」
「父上は、事情が事情だけに、いい薬だと言っていたわ。出家してから、まったく声を掛けてないそうよ。」
「父上は…、性根を…叩き直すまで…帰って…来るなと…。」

 トノベどのもヤクシどのも、伯母御ふたりの報告を聞いて、呆れ返ったらしい。出家の申し出に、
「好きにせよ。下がれ。」
と、偶然にもまったく同じセリフを吐いたとか。しかも露骨に不機嫌そうな仕草を取ったのも一致していたらしい。仲良し双子の夫同士は、行動がリンクして来るのだろうか?不思議だ。
 でも…、義伯父上たちとしては、やはりそう言う反応になるよな。それに、伯母御たちもそこまで追い込まれているのなら、今度ばかりは十分反省しているだろう。いや、甘いか?しばらく尼寺に放置してやろう。

「で、それを聞いたカナタとクリスは?」
 サヤ姉、サジ姉によると、ふたりとも、義伯父上たちにきっぱりと言い切ったそうだ。
「切っ掛けを作って申し訳ありませぬ。されど、われらを窘めなかったは、後見であった母上たちの落ち度。この際、十分反省して頂きましょう。」
 これって、サヤ姉とサジ姉が予め入知恵していたに違いない。
「サヤ姉、サジ姉。ふたりとも事前に仕込んだろ?」
「後見の任を果たしただけよ。ね、サジ。」
 こくり。
 まあ、確かにそうだな。

 ちなみにカナタとクリスも、その日のうちに頭を丸めると言ってたそうだが、サヤ姉もサジ姉も後任としての仕事を終えたからと言うことで、カナタとクリスの丸坊主を見届けずに、とっととテンバに帰って来たそうだ。

 さて、今日の輪番はサヤ姉である。避妊具は原材料が入って来ないため、生産中断中なので最後までは行けないが、その分たっぷりとかわいがってやろう。

 翌日はサジ姉を心行くまで堪能。徹底的にかわいがってやった。

 翌々日はホサキを飛ばしてキョウちゃんズ。ホサキは、サヤ姉とサジ姉が後見で別行動のとき、輪番を詰めて、先にいたしてたからな。

 コネハ4日目の朝餉のときである。
「なあアタル、そう言えば、殿下のお遣いはよいのか?」
「あ…。」
「えぇ?このリアクションー、忘れてたでしょぉ。」
「うん、忘れてた。」

 結局この日の午前中までで、コネハの温泉宿での湯治を終了することにした。

 コネハの湯で、湯治を3泊も堪能し、その間、嫁たちとの混浴三昧で心身ともすっかりリフレッシュした俺なのだった。

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設定を更新しました。R4/11/20

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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