射手の統領

Zu-Y

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射手の統領136 呑み会

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射手の統領
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№136 呑み会

 ここはアーカのオミョシ分家本拠の表座敷。
 正面にシエン、シエンの横に姑どのがいるが、シエンの腹心の筆頭家老がいない。筆頭家老はオミョシ分家勢を率いて、西の武家勢の一角を担い、次ノ宮殿下を商都から西都に護衛した後、そのまま西都に詰めているのだ。
 それで、こちらは俺の左右にサキョウとウキョウのキョウちゃんズ。

「シエン、随分早かったな。」
「アタルからの情報のお陰や。数日もあれば準備はできるよってな。」
「それにしても見事な手際ではないか。」
「高級宿屋で拉致したんやないで。俺からの使いや言うておびき寄せたんや。ひとりでのこのこと来よったそうやで。まったくアホとしか言いようがないわ。」
「ったく、しょうがねぇなぁ。」
 左右では、キョウちゃんズも呆れている。

「今日の廻船に乗せる手筈やったさかい、もう海の上やな。」
「手の者を付けてるのか?」
「いいや、付けたんはエノベの衆や。ツークに着いたら伯父上の寝所に忍び込んでな、伯父上ともども父上を下帯1枚にしてふん縛り上げて、伯父上の寝所にふたり仲良く転がしとく算段や。翌朝、家来にどもに発見されたときが見ものやで。」
「えげつねぇな。」
「これでも母上が言うから抑えたんやで。俺の最初のアイディアはな、ふたりとも素っ裸にひん剥いて、互いの股座に顔を押し付け合うようにしてふん縛ったるつもりやったんや。おっさんのふたりの薔薇縛りや。そんで、蠟燭の蠟を体中に垂らしてな、ふたりのケツの穴には胡瓜でも…。」
「権座主っ!」姑どのがシエンの暴走を止めた。笑
「はいはい。分かったがな。
 まぁそれくらいやらんと、伯父上も父上もまた悪さして来よるやろ?一遍、どえらい目に遭わせたったら、諦めるやろと思うたんやけどな。」
「寝所に入られて縛り上げられるのですよ。ふたりとも十分懲ります。やり過ぎると恨みを買いますよ。」
「あいつらにそんな肝っ玉あるかいな。
 エノベの衆にはしばらくツークに居続けてもろて、伯父上の寝所への侵入を繰り返してもらうつもりや。」

「ん?と言うことは、ひょっとしてアーカにまで侘びに来させるつもりか?」
「分かるか?アタルはやっぱり鋭いなぁ。」
「すんなり来るかな?」
「来いひんやろな。伯父上は、最初は文を寄越すと思うんやが、その使いを途中で捕らえてな、文は封を切らずに伯父上の寝所に戻すんや。こりゃ不気味やで。そんで折を見て母上から伯父上に、俺がえらい怒っとるから一刻も早く詫びに来い、言う手紙を出してもらうんや。」
「心理戦か。」
「せやな。そんときは、今は伯父上が反対している、この婚姻同盟がえらい圧力になるやろ。伯父上が気付いたときは、本家は四面楚歌やがな。折れるしかないやろ。」
「しかしなんでこの同盟に反対するかね。シエンの伝で同盟に入ればよかろうに。」
「先の見えんお人やからなぁ。アタルの属性攻撃が、陽士の領分を侵したと思てんのや。」
「やっぱりな。ほんと、しょうがねぇなぁ。」

「ところでさ、例のこれ…。」俺は手酌の仕草をする。
「おう、シルドはんとトウラクはんやな。どないな感じや。」
「もちろん乗り気だよ。あいつらも好きだからなぁ。」
「ほんなら早速、今夜はどないやろ。」
「シエン、あなたは一応未成年ですからね。程々にするのですよ。」
「母上、何言うてはるの?武家の座主と統領が宴席を囲むんやで。れっきとした外交やがな。程々になんかできるかいな。それこそ相手に失礼やで。」
「まったくもう。」

 シエンや姑どのと話があるだろうから、キョウちゃんズを残して、俺はひとりで商都に飛んだ。今夜の呑み会のセッティングと、専務にオミョシ本家勢の大将=分家の隠居の失踪の真相を伝えなくてはならないからな。

 高級宿屋で、再びシルドとトウラクと合流した。
「いきなり今夜か。ふふ、シエンどのは相当好きなようだな。」シルドが笑ってる。
「ああ、10歳から呑んでたそうだ。」
「いいではないか。俺も似たようなもんだ。話が合いそうだ。」トウラクも笑っている。
「でさ、俺、あんまり商都の店を知らないんだよな。シルド、どこかお勧めある?」
「そうだなぁ。」考えるシルドに、
「商都名物のたこ焼きが食いてぇなぁ。」トウラクが提案したのだが、
「いや、シエンはアーカが本拠地だからなぁ。」と俺が微妙に難色を示した。
「ん?アタル、どういうことだ?」

 アーカの人が、アーカ焼きとたこ焼きを明確に区別するのは、キョウちゃんズで学習済みだ。キョウちゃんズによれば、アーカ焼きは卵料理、たこ焼きは粉物なんだそうだ。うっかり、同じじゃね?的な発言をしてしまった俺は、キョウちゃんズのアーカ焼き講座を、延々と聞かされる羽目になった。
 そんな話をすると、トウラクが、
「そりゃ面白い。実際に食べ比べようぜ。シルド、両方出す店はないのか?」
「まぁ、いくつか心当たりはあるな。」
「よし、決まりだ。」なぜかトウラクが張り切っている。

 その後、山髙屋西本店に、専務を訪ねた。細かいことは言わずに、今回の本家勢の大将の失踪は、実は失踪ではなくて、極秘任務で東都に帰った。と言ったのだが…。
「アタルくん、それ嘘よね。」見破られるよね、やっぱ。苦笑
「あんまり深く立ち入らない方がいいぞ。」
「そう。分かったわ。でも、極秘任務って変よ。もし本当に極秘任務なら、オミョシの本家勢の方々があんなに騒がないでしょ?」
「いや、本家勢にも知られたくない極秘任務なんだ。」ちなみにこれは嘘ではない。分家側と言うか、シエンからすれば、本家勢には極秘の任務なのである。
「何よ、それ。陰謀でもあるの?」おいおい、いきなり核心を言い当てるか?やっぱ専務は鋭いな。
「さあな。今のところは極秘任務で納得してくれ。ほとぼりが冷めたらほんとのことを話すよ。」
「んもう、分かったわよ。約束よ。」

 夕方になって高級宿屋に戻り、シルドとトウラクとともにシエンを待つ。程なく、キョウちゃんズと一緒にシエンが来て、ホサキとアキナとタヅナも合流した。

 サヤ姉とサジ姉は、カナタとクリスを徹底的に仕込むので、今夜の呑み会はパスだそうだ。えれぇ気合が入ってるじゃんよ。
 てか、俺がサヤ姉とサジ姉を誘いに行ったとき、奥にいたカナタとクリスは、おそらくこれで解放されると思ったのだろう。パッと笑顔になったのだ。しかし、サヤ姉とサジ姉が上記の理由で断った瞬間、茫然自失となったふたりの口から魂のような白いもやもやが…。笑
 くっくっく。シスコンどもめ、念願の姉上とマンツーマンでよかったじゃねぇの。ざ・ま・あ。大笑

 さて、呑み会の席だが、予想外の展開になって来た。と言うのも、シエンとキョウちゃんズがバトり始めたのだ。苦笑
 原因はもちろんアーカ焼き。
 アーカ焼きとたこ焼きの食べ比べに、キョウちゃんズがむくれたのがきっかけだった。
「食べ比べ?アーカ焼きとたこ焼きを同列に扱うやなんて…。」
「せや。正気の沙汰とは思われへん。」
「ふたりとも、何言うてんのや。似たようなもんやがな。」シエンが、言ってはいけないひと言爆弾を投下した。

「全然ちゃうがな!兄上、卵料理と粉もんの違いも分からへんの?」
「アーカ焼きとたこ焼きが同じやなんて、兄上、それでもアーカ人なんか!」
「大袈裟やっちゅーねん。そら。目ぇ瞑って食っても違いは分かるで。その程度はちゃう。せやけどな、焼きソバと一緒に3つ並べて食うて、ひとつだけちゃうの選べ。言うたら皆が皆、焼きそばを選ぶやろな。」そりゃ、確かに。
「「な、な、な…。」」反論できないキョウちゃんズ。
「すき焼きと、しゃぶしゃぶと、寿司を比べたら、寿司だけ別もんなのと一緒やがな。」これもまた然り。

「なんでそう言う話になるん?」
「お前らが全然別みたいに言うからやんか。そら確かに別もんやが、十分似てるで。全然別や。言うんは、ちゃうやろ。」
 だよなー、シエン、そうだよなー!よく言った。実は俺もそう思ってたんだよ。でもさ、キョウちゃんズの勢いに、言ってはいけないと思ったんだよ。流石、シエン。ふたりの兄上だけのことはある。
「「ぐっ…。」」キョウちゃんズ、旗色悪し…。珍しいこともあるもんだ。笑
「それにな、ビールには、ソーマヨで味の濃いたこ焼きの方がええしなぁ。」
「確かに、それはそうだな。」とトウラクが同意した。
「しかし、食べ比べると思ってた以上に違うのだなぁ。」とシルドが言うと、
「「せやろ?」」とキョウちゃんズがハモる。

「なぁ、焼きそばも頼もうか?」俺が場を和ませようとボケると、
「「アタル兄は黙っとき!」」おいおい八つ当たりかよ。
「何や、サキョウ、ウキョウ。アタルはボケただけやないかい。今のはツッコむところやろ。八つ当たりみたいな野暮ったいことすなっちゅーねん。」
「「むむむ…。」」言葉を失うキョウちゃんズ。
「戦もそうやで、旗色が悪なったとき、逆上したら大負けするやん。被害最小限で上手に撤退するような、気の利いたツッコミをかまさんかい。」
「うむ。それは含蓄のある言葉だな。」シルドが感心している。

「気の利いたツッコミて…。」「どないせい言うのん?」
「そら、アーカ焼きとたこ焼きと焼そば食うて、『焼きそばが一番別もんやないかーいっ!』って言って、バシッとアタルをどつけばええんちゃう?」
「え?俺、どつかれるの?」
「なんや、アタル、知らんのかいな?西ではな、ボケかましたら、どついてくれっちゅう意味なんやで。」

 こんな感じで、シエンはキョウちゃんズをやり込め、シルドとトウラクを感心させたのだった。いや、一番感心したのは俺かもしれない。
 なお、ホサキとアキナとタヅナは楽しそうに聞いていたが、3人とも自分たちの感想は言わなかった。多分、3人ともたこ焼き推しなんだと思う。笑

 結局この呑み会ではシエンが大いにポイントを稼いで存在感を示し、そんなこんなで俺たちは、アタル、トウラク、シルド、シエン、と呼び合う仲になっていた。

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設定を更新しました。R4/10/30

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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