射手の統領

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射手の統領133 試供品

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射手の統領
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№133 試供品

 流邏石でアーカのオミョシ分家に飛んで来た。

 シエンとキョウちゃんズは、姑どの=シエンとキョウちゃんズの御母上とともに庭の一画にいた。ちょうどキョウちゃんズが、シエンと姑どのに陽の術を披露しているところだったのだ。
 ふたりとも陽の術の出力は、相当抑えてたけどな。このふたりが庭で本気で陽の術を放ったら、飛んでもないことになる。笑

「アタル、よう来た。今見せてもろとったんやが、サキョウもウキョウも陰陽士になっとるやないか。しかも陽の術が3系統やで。いやほんま、魂消たで。」
 シエンがいきなり寄って来て俺の両手を取ってぶんぶんと握手して来た。シエンには、陽の術を身に付ける詳細なからくりを伝えていない。つまり、俺がふたりを抉じ開けたせいだとは知らないのだ。苦笑

「権座主、そんな軽々しく…。」姑どのがシエンを諫めたのだが、
「母上、何を言うんや。アタルは特別や。」
 そこへキョウちゃんズがさり気なく俺の両横にピタッとくっ付き、元シスコン、否、本当はシスコンではなく、妹想いだっただけのシエンが苦笑いしている。
「サキョウもウキョウも、相変わらずアタルにべったりやな。」
「そりゃそうや。旦那様やもん。な、ウキョウ。」
「せやで、愛しの旦那様や。な、サキョウ。」
「なんか照れる。妙にハズいんだが…。」

「はいはい。御馳走ごっそさん。それにしても背もまたようけ伸びよったな。」
「背だけやないでー。な、ウキョウ。」
「せや、でも兄上には見せられん。見せられるのはアタル兄だけや。」
「おいおい、際どいこと言うなよ。」
「アタル、見たんかいな?」ゴゴゴと怒りのオーラが、シエンから出たような。なんだよ、やっぱシスコンじゃねぇかよ。

「シエン、ふたりは俺の嫁だぞ。」
「俺の妹やっ。」
「いやいや、それは理由になってないんじゃないか?」
「はいはい、その辺にして。立ち話もなんですから、表座敷に参りましょう。」姑どのが絶妙のタイミングで入って来て助かった。苦笑

 場を表座敷に移し、正面にシエン、左右に姑どのと側近筆頭で筆頭家老の爺。俺の両横にはキョウちゃんズ。ふたりとも俺に腕を絡めて、手を握っている。しかも恋人握りで。これには、シエンは半ば呆れていたが、姑どのは何やら悟ったと見える。女の勘は鋭いな。苦笑

「アタル、三の島遠征の成功、御目出度おめっとさん。それと過分な手土産、おおきに。」
「いや、気にするな。それよりシエンに詫びねばならん。四の島のズリの断崖岬での紫嵐龍攻略では、サキョウとウキョウを間一髪の目に遭わせてしまった。この通り詫びる。申し訳なかった。」俺は頭を下げた。
「アタル、頭を上げぇな。サキョウもウキョウも武家や。紫嵐龍攻略は戦やで。戦に出たら常に危険は付き物や。それにふたりが無事やったんは身代わりのペンダントのお陰やそうやな。アタルがサキョウとウキョウにその手立てをしとってくれたお陰や。ほんまにおおきにな。」
「そう言ってもらえると少しは気が楽になる。本当にすまなかった。」

「もうええがな。で、今日は何用や?顔出しだけっちゅう訳やないんやろ?」
「サキョウ、ウキョウ、まだ話してないのか?」
「まずは兄上と母上に陽の術を見せたかってん。」
「せやからまだ披露目のことは話してないねん。」
 なるほどな。ふたりのその気持ちは分からんでもない。
「そうか。では俺から話そう。
 シエン、婚姻同盟の披露目にな、東都から次ノ宮殿下が来て下さることになった。」
「なんやて!」シエンが大層驚き、姑どのも筆頭家老の爺も魂消ていた。

「実は、殿下とは懇意でな。昨日の午前中に三の島遠征のご報告に行ったついでに誘ってみたんだ。そしたら来てくれるってさ。」
「アタル、お前、何やの?次ノ宮殿下にいきなり会いに行って会うて下さるんかいな?そもそも午前中言うたら、殿下は朝議のはずやろ?」
「三の島遠征自体が殿下からの依頼のようなもんだからな。殿下は朝議を中座して来て下さったんだ。」
「殿下が朝議を抜けて来られたんかいな?なんなんや、その破格の待遇は?」
「たまたまだ。今日の朝議の内容は公家たちに任せていい内容だって仰ってたからな。」
「そないなことがあるんかいな。」シエンが半ば呆れている。

「兄上、うちらも殿下に会うたことあるんよ。」「お話もしたことあるんよ。」
「なんですって?」これには姑どのが真っ先に反応した。
「姑どの、実はそうなのです。ふたりとも殿下から親しくお言葉を頂戴してます。」まぁそれは置いといて…。

「シエン、殿下が東都から商都にご来駕あそばすのに、山髙屋が最新鋭の大型廻船を用意することになってな、殿下の護衛には、帝居の衛士と東の同盟武家から10名ずつが付くことになった。
 ユノベからは統領代行の叔父貴3人のうちのひとり、キノベは世継のトウラク、タテベも世継のシルドがそれぞれ手勢10名を率いて来る。トノベとヤクシは、ともに嫡男が幼いので正式に世継にはなっていないが、トノベ嫡男のカナタには統領正室、ヤクシ嫡男のクリスには座主正室がぞれぞれ後見に就いて、手勢10名ずつを連れて来る。」

「ちょう待てや。殿下が来ることになったんは昨日の午前中やろ?たった1日で、なんでそないな手配ができるんや?」
「ああ、俺が依頼した。」
「はあぁ?」
「だから今言った手筈を申し入れるのに、嫁たちを実家に行かせたんだよ。遠征の手土産と一緒にな。それで俺が、ここに来る前に各家を回って、統領やら座主やらと話を付けて来たんだ。」
「「「…。」」」シエンと姑どのと筆頭家老の爺が絶句している。苦笑

「それでオミョシ本家なんだがな、俺は本家には伝がないんで、シエンから頼んでもらいたいんだ。分家の婚姻同盟締結だから、当然本家からも祝いの使者が来るよな?その使者に、殿下の護衛10名を兼ねさせてもらえんだろうか?」
「せやな。一応連絡はしてみるが、どうやろな?実は本家は、この同盟に乗り気ではないんや。祝いの使者自体を送って寄越すかも微妙なところやな。」
「そうなのか?何が気に入らないんだ?」まぁ薄々は予想が付くが…。

「ああ。アタルの弓矢での属性攻撃は、陽士の領分に踏み入っとるやろ?陽士を輩出する本家としては、面白おもろないんや。再三、この同盟は疑問やと言うて来よった。
 要するに、反対なんやが、面と向かって反対や言い切れんよって、しつこく疑問や言うて来よるんや。」
「つまりは、反対なのを忖度しろと言うことか?」
「せや。」
「しかしなぁ、そうは言っても、実際のところ属性攻撃は俺にしかできんのだぞ。」
「本家の座主の伯父上は小心者やからなぁ、心配でしゃーないんやろ。まったくケツの穴の小さい男やで。」

「権座主。お言葉が過ぎますよ。」姑どのがシエンを窘めた。本家出身の姑どのにしてみれば、本家の座主は兄にあたるからな。
「母上。黙っとき。今、重要なんはそこやおまへんやろ。」ピシャリと母親を黙らせ、シエンが続ける。これには、両横のキョウちゃんズが驚いていた。

「俺は、伯父上が直接反対や言うて来んことを逆手に取って、同盟の話を進めとるさかいな。おそらく手勢は出さんやろな。まぁ、殿下の護衛っちゅーんで渋々出すかもしれんがの。」
「正式に反対だと言って来たら?」
「そんなん聞くかいな。分家の権座主は俺やで。」
「なるほどな。では、本家が護衛を出すかについての交渉は、シエンに頼むわ。本家が断って来たら、それはそれで仕方ないから気にしないでくれ。」
「おう。引き受けたで。」

「ところでな、俺はキノベのトウラクとタテベのシエンと義兄弟の契りを結んでいるんだが、ふたりがこっちに来たら、シエンよ、お前も交えて4人で義兄弟の契りを結びたい。いいか?」
「そら願ったり叶ったりやがな。せやけど、タテベのシルドどの言うたらナワテのタテベ副拠を仕切っとったお人やろ?」
「そうだよ。面識あるのか?」
「ああ、父上のお供で西都に行ったときに一度会うたわ。結構年上やったと思うけどな?」

「そうだな、シルドは32、トウラクは18だ。シルドは俺たちより結構上だが、武家の統領同士、年は気にすることはない。シルドもトウラクも年上風を吹かせたりはせん。
 それにシエンはすでに権座主だからな。厳密に言えば、次期統領の俺よりも、世継のシルドやトウラクよりも、シエンの方が立場は上だぞ。」
「せやけどな。」
「大丈夫。ふたりともこれが好きなのでな…、」俺は手酌の仕草をした。
「さよか。」シエンの顔がぱっと明るくなる。シエンはまだ未成年のくせに、すでに酒豪なのだ。笑

「シエンも行ける口だから4人でひと晩呑み明かせばそれで十分だ。」
「そうかそうか。そら楽しみやな。で、トノベとヤクシの嫡男はどないするんや?」
「あのふたりはまだ子供だな。8歳だからな。ボンボンでわがまま放題だ。後見に統領と座主の御正室でふたりの母御が来るから、母御共々呼んでもいいかもしれん。」
「じゃぁそうしよや。相手がガキンチョでもトノベの名とヤクシの名を背負って来るんや。扱いは同じ方がええで。」流石、シエン。こう言うところは分かってるよな。

「ところで護衛だがな、各家の西の副拠からも10名ずつ出すことになるから東からの10名と合わせて各家とも20名だ。シエンとこはどうする?」
「他家が20名ならオミョシも20名がええやろ。本家が10名出したらうちは10名、本家が出さなんだらうちから20名出すわ。」
 じゃあうちは30名出すとは言わない。この辺もしっかり弁えてるシエンなのであった。やはりこいつは切れる。
「分かった。それでは半月後、よろしくな。」
 俺たちはアーカのオミョシ分家本拠を後にした。

 各家に派遣していた嫁たちと商都で集結し、商都西本店の店長室で専務と会っている。
「話は付けて来た。トノベとヤクシからはそれぞれ幼い嫡男と、その後見に統領と座主の正室が来る。タテベとキノベはそれぞれ世継だ。そしてどの武家も護衛を10名ずつ率いて来る。御座船は社長が手配をしてくれるそうだ。後は専務が正式に依頼書を出してくれればいい。」
「ほんとに1日ですんなり決めて来ちゃったのね。」専務は半ば呆れ、半ば感心していた。
「ああ。造作もないことだ。ところで専務、あんた、俺に重大な報告を忘れてやしないか?」

「え?何かしら。」
「ゴムの避妊具だよ。社長から聞いたけど、完成したらしいじゃねぇか。」
「あ、そうよ。忘れてたわ。でもアタル君が悪いのよ。いきなり無理難題を吹掛けるんだもの。」
「いやいや、全然無理難題じゃないよな。現にこうして話はまとまった訳だしさ。」
「そうね。こちらの常識の遥かに上よ。まったくもって規格外過ぎるわ。」規格外とか、やめてくれよ。苦笑

「で、避妊具は?」
「これよ。発売は来月を予定してるわ。」ふーん。どれどれ。
「ちょっといきなり何やってんのよ。」ズボンを脱ごうとしたら、専務がツッコミを入れて来た。
「いや、着け心地を試そうと思って。あ、そっか。専務、席を外してくれよ。
 アキナ、試すぞ。」
「え?ここで…ですか?皆もいるのに?」
「別に昨日だって、寝入った俺を、皆してひん剥いただろうが?」
「まぁそうですけど。」やっぱりか!
「ちょっと、アキナ!おやめなさい。」
 その気になり掛けたアキナを専務が止めて、今晩ガハマで試せと言うことになり、取り敢えず試供品を嫁の人数分貰った。

 その後、商都で夕餉を摂ることになり、お好み焼きの専門店に行った。やっぱ商都は粉ものでしょ。
 まずは豚玉から。それから海鮮、明太もちチーズなどなど、メニューを端から端まで片っ端から注文して、どろソースとマヨビームで仕上げ、そこに削り節をぱらぱらと。おっと、削り節が熱でチリチリ踊っているではないか。

 ガハマに戻って混浴で気分を高め、今夜は皆で試供品を試すことにした。
 まず最初に、商品開発に携わって来たアキナと試したら、他の嫁たちもスイッチが入ってしまい、結局サジ姉から回復の術を掛けてもらいつつ、嫁全員と致してしまった。もちろんその都度、試供品を交換したよ。
 初陣のとき以来、最後まで行くのは、ずーっと我慢して来たからな、互いに制御が効かなかったんだよね。

『七草を、まとめ食いした、ガハマかな。』

 うん、これならプレ賭場の俳句部門で「才能あり」の特待生確実だな。

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設定を更新しました。R4/10/23

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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