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射手の統領132 嫁実家との折衝
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射手の統領
Zu-Y
№132 嫁実家との折衝
久しぶりの自宅、ガハマの副拠でぐっすりと眠ったので、旅の疲れが一気に取れた。ただ、起きたらすっぽんぽんだったのが妙に気になる。俺が脱いだのだろうか?嫁たちに脱がされたのだろうか?
朝餉のときに嫁たちに聞いたが、コケティッシュな微笑みとともにスルーされてしまった。あ、これはひん剥かれて弄ばれたに違いない。
さて、朝餉を終えると俺は嫁たちに、三の島と四の島の手土産である、アマダイ紬の反物とマサツ切子の大皿と龍涎香の欠片を持たせて、それぞれの実家へと派遣した。
そして俺もテンバに手土産を届けてから、嫁たちの実家を順次回って来たのだ。
最初はミーブのキノベ本拠。正面にキノベどのとトウラクが並び座っている。そして左右にハミどのと家老たちが控えている。俺は、ちょうどタヅナが手土産を渡しているところに到着した。
「アタルどの、久しいな。同盟の披露目ではトウラクを次ノ宮殿下に引き合わせて頂いたがな、あれを切っ掛けに、殿下から直接、陸運のご用命もあったのだ。」
キノベどのが言ってるのは、今回のオミョシ分家との同盟ではなく、5武家同盟および山髙屋提携の披露目のことだ。
「トウラクはわが盟友。引き合わせるは当然です。」
「それに、二の島遠征に続いて此度の三の島遠征でも、過分な手土産を頂戴し、痛み入る。」
「大したものではありませぬ。ご笑納下さい。ところでキノベどの、オミョシ分家との同盟の披露目に次ノ宮殿下のご来駕が決まりましたゆえ、東都から商都への御動座の護衛に、キノベからトウラクを頭として10名の手勢をお借りしたいでのですがいかが?」
「なんと。次ノ宮殿下がオミョシ分家との同盟の披露目のために、わざわざ商都へ参られるのか?」
「いかにも。西都へも足を延ばされるご予定と承っております。」
「うーむ。アタルどのは余程次ノ宮殿下のお気に入りなのだな。」
「この道中、トウラクにも次ノ宮殿下のお側に侍ってもらいたいのです。そしてオミョシ分家との同盟の裏書もお願いしたい。いかがでしょう?
トウラク、頼めるか?」
同盟の裏書とは、証人と言うことだ。キノベとオミョシ分家は、ユノベを通して同盟関係になる。それを承認してもらう重要な役割だ。
当然、オミョシ分家の若き当主、新権座主のシエンとトウラクを繋ぎたい意図もある。
「無論だ。
父上、構いませんな?」おっと、トウラクの奴、いつの間にかキノベどのの顔色を窺わなくなってやがる。
「うむ。願ってもないこと。」
「姉上、構わんか?」トウラクは、ハミにも話を振った。
「キノベにとってはとてもいいお話ね。」トウラクが仕切ってやがる。これではまるで、当主はトウラク、キノベどのは隠居、ハミどのは軍師ではないか。いつの間に?
「では決まった。アタル、よろしくな。ところで、タテベのシルドも誘うのだよな。」
「おう。そのつもりだ。この後、タテベへ行く。」
「トノベとヤクシはどうするのだ?キノベとタテベが世継で、トノベとヤクシが当主だとバランスが悪くないか?」
「ああ、双方とも幼いが嫡男に外交デビューをさせ、それぞれの正室に後見を頼むつもりだ。」
「やはりそうするよな。しかしアタルは相変わらず、クルクルとよく小知恵が回るなぁ。」
「おい、トウラク。お前だってそうするよなって言ったってことは、同じことを考えてたんだろうが!」
「むぅ、アタルが兄上とぉ、全部決めちゃったからぁ、私の出番がぁ、全然なかったわぁ。」皆がクスりと笑う。タヅナよ、まぁいいではないか。笑
それにしてもこのタイミングで場を和ませたのはグッジョブだぞ。
次に俺はコスカのタテベ本拠に飛んだ。正面にタテベどのとシルド。左右に側近の家老たちが居並んでいる。
キノベのときと同様に、タテベどのから切り出して来た。
「アタルどの、久しいな。遠征の過分な手土産、いつものことながら痛み入る。また、先立っての披露目の席では、シルドを次ノ宮殿下にご紹介頂き、誠に忝い。間が空いてしまったが、直接礼を言いたかったのだ。」
「いえいえ。大したものではございませぬゆえご笑納下さい。また、シルドはわが盟友ですから、引き合わせるのは当然です。」
「あらましはホサキから聞いた。シルドを大将に10名の護衛の派遣については喜んでお引き受けする。しかしよくもまぁ、次ノ宮殿下が商都までお運びになるものよ。余程、アタルどのへの覚えが目出度いのだな。」
「恐れ入ります。シルドには、道中は、次ノ宮殿下のお側に侍って欲しいのです。また、オミョシ分家の権座主シエンを引き合わせ、同盟の裏書もお願いしたいと思っています。
シルド、頼めるか?」
「もちろんだ。しかしまさかこんなに早く西へ戻る機会が来るとはなぁ。」
シルドは、つい先頃までナワテのタテベ副拠を取り仕切っていた。近々タテベの家督を継ぐ準備のために、コスカに戻って来たばかりなのだ。
「タテベ副拠からはバクラも呼んでいるぞ。」
「そうか、バクラの奴、副拠の代官になって少しは貫禄が付いたかな?シヅキの尻に敷かれてそうで心配だよ。」
「まぁ、間違いなく尻に敷かれてるだろうな。」
俺とシルドが大笑いすると、ホサキとタテベどのが苦笑いをしていた。
3件目はトコザのトノベ本拠に来た。ここでもサヤ姉が大方の話を通している。正面には、トノベどの、両横に動の伯母御と嫡男カナタ。今年8歳だったか。まだ幼いな。サヤ姉が俺の隣に移ると、カナタは明らかにムッとした。
「アタルどの、よう参られた。まずは三の島遠征の成功、お祝い申し上げる。また過分な手土産を頂戴して忝い。そして此度はわが嫡男カナタの晴舞台をご提案頂き、御礼申し上げる。奥のカナタ後見と護衛10名の派遣もしかと承知した。後見がいささか心配だがよしなに。」
「御屋形様!」動の伯母御がムッとする。
「伯母御どの、義伯父上は戯れを申されただけです。そう言うところですよ。」
「これはとんだ粗相を。申し訳ありませぬ。平にご容赦下さりませ。」動の伯母御は俺に平身低頭詫びた。大袈裟だってばよ。
「奥はアタルどのには頭が上がらんのだなぁ。」
「はい。つい最近までは平気でしたが、成人してから先代統領の弟と生き写しのようになりまして…。正直に申さば、御屋形様よりも怖うございます。」
「何と、伯母御どのは親父どのが苦手だったのか?初耳だな。」
「静とふたりで調子に乗ると、お説教をされましてな、一度、静とふたりで先代を懲らしめようとしたら、逆にまったく容赦のない折檻をされました。あのときのことを思い出すと今でも震えが来ます。」
「伯母御どの、俺は伯母御どのたちに折檻などせぬからご安心召されよ。」
「されたではありませぬか!」あ、あれね?
山髙屋の商隊護衛のとき、進路妨害をして来た伯母御どのたちの馬車を大破させて、東都まで歩いて帰らせただけじゃん。あの程度が折檻と言うのだろうか?それなのに伯母御たちは余程懲りたと見える。苦笑
「まぁまぁ、あれはもう水に流しておりますゆえ、いつまでも気にすることはござらん。伯母御どの、お分かりか?」
「…はい。」動の伯母御を黙らせてやったら、トノベどのが尊敬の眼差しで見て来た。笑
「ところでカナタ、久しいな。俺のことを覚えているか?」俺はカナタに話を振ったのだが…。
「アタル兄様なんか嫌いだ。姉上を返せ!」おいおいシスコンかよ。
「カナタ、何てこと言うのよ!」サジ姉がたしなめる。
「姉上、なんでも言うこと聞くから帰って来て。」
「そう?じゃぁアタルに謝りなさい。」
「え?」
「何でも言うこと聞くんじゃないの?」
「でも…。」
「おい、カナタ。男ができないことを口にするんじゃねぇ。子供だからって何でも許されると思うなよ。」
「う、うう。」
「で、泣くのか?情けねぇな。」
「泣くもんか。」眼にいっぱい涙を溜めて説得力ねぇな。ま、いいか。
「サヤ姉は返さん。俺が嫁さんにしたからな。取り戻したきゃ、いつでも来い。ただし、一切、手加減はしねえぞ。泣き喚こうがどうしようが、とことん折檻してやるからその覚悟で掛かって来い。」
カナタの眼から涙が零れ落ちた。一生懸命歯を食いしばっている。
トノベどのは面白そうに眺めているのに、なぜか動の伯母御はおろおろと狼狽えていた。
4件目はトマツのヤクシ本拠に来た。正面にヤクシどの、両横に静の伯母御と嫡男クリス。トノベのカナタと同じ8歳だったな。
サジ姉が俺の横に移動するといきなりクリスが絡んで来た。
「姉上、戻ってよ。」
「ん…?アタルは…旦那様…。」
「戻ってってば。」こいつもシスコンかよ。面倒臭ぇなぁ。
「おい、クリス、黙れよ。俺はヤクシどのと話しに来たんだ。世継にもなってねぇたかが嫡男のお前が、ヤクシどのを差し置いて発言するんじゃねぇ。」
俺の切り返しに絶句するクリス。なるほど、切り替えされたことがないのか。統領の嫡男でちやほやされて来たのかな?カナタと一緒だ。
「クリス、控えるのじゃ。
アタルどの、子供のことゆえ平にご容赦を。」
「伯母御どの、それは合点が参りませぬな。クリスはヤクシの嫡男としてこの場にいるのです。子供であることは関係ない。分も弁えず、座主の義伯父上を差し置いて発言するなど不届千万。」
「ひぃっ。仰せの通りです。妾が浅慮でした。平にお許し下さいませ。」静の伯母御が深々と頭を下げ、ヤクシどのが、ひと言、「ほう。」と感嘆の声を上げた。
「奥よ、随分遜るではないか?」
「いえ、その…。」
「義伯父上、伯母御どのたちは、伯母御どのたちにまったく容赦のなかった亡き親父どのが昔から苦手でしてね、俺がその親父どのに似て来たので、苦手だった親父どのを思い出すようなのです。」
「アタルどの、なぜそれを…。は!トノベで動に聞いたのですね。」
「左様。しかし伯母御どの。俺は親父ではない。親父のように、伯母御どのたちに折檻などせぬからご安心召されよ。」
「されたではありませぬか!」やっぱ双子だなぁ。まったく同じ反応だよ。笑
「まぁまぁ、あれはもう水に流しておりますゆえ、いつまでも気にすることはござらん。伯母御どの、お分かりか?」
「…はい。」静の伯母御を黙らせてやったら、ヤクシどのが尊敬の眼差しで見て来た。これも同じ展開だ。笑
「母上、いつものようにお叱りになればよいではありませぬか?」
クリスがそんなことを静の伯母御に言っている。ははぁ、伯母御を焚き付けるつもりか。
「おい、クリス。自分じゃ敵わねぇから母上を焚き付けようってか?」
「なんだと?」図星を指されたクリスが目一杯虚勢を張る。
「サジ姉は返さん。俺の嫁さんだからな。文句があるなら掛かって来い。ただし、手加減は一切しねぇぞ。ビービー泣き喚いてもとことん折檻してやる。」
「う、うう。」クリスは半泣きになった。ヤクシどのは成り行きを見守っているが、静の伯母御は気が気ではないようだ。
「アタル…もう…いい…。
クリス…聞き分け…なさい…。めっ…、ですよ…。」めっ、ですよって…、何それ?笑
「姉上~。」クリスの眼から涙が零れ落ちた。
ここでヤクシどのが割って入ってクリスを抑えに掛かった。
「ところで、アタルどの。三の島遠征の成功、お祝い申し上げる。また過分な手土産、いつも忝い。そしてわが嫡男クリスの晴舞台のご提案、ありがたい限りじゃ。もちろん披露目にはご提案通り、奥の後見と護衛10名も遣わすゆえよしなに。」
「早速のご承引、ありがとうございます。」
「奥よ、道中、動どのと一緒に、クリスとカナタにしかと言い聞かせよ。よいな。」
流石だな。カナタのことまで見抜いておられる。笑
東の最後は山髙屋本店だ。社長が揉み手をしながら出て来た。
「アタルどの、特上品のアマダイ紬とマサツ切子の大皿、上物の龍涎香と高級品ばかりを頂戴してよろしいのですか?」流石商人、この話題からなのな。笑
「もちろんです。価値の分かる方に喜んで頂けるとなおのこと嬉しいですよ。」
「それと、三の島遠征の御成功、お祝い申し上げます。」
「ありがとうございます。」
「そして御用命の御座船もしかと承りました。最新鋭の大型廻船をご手配させて頂きます。しかし次ノ宮殿下がわざわざ商都までお出掛けになるとは、いやはやアタルどのには恐れ入りました。」
「それも舅どのが先の披露目に殿下をお呼びしたからではありませぬか。」
「何を仰せられます。あの折は殿下に冷や汗を掻かされました。そうそう、あのときも殿下をお引止め下さいまして、ありがとうございました。」
「いや、もうその話はいいですよ。」
つーか、あれは殿下の芝居に付き合わされただけだ。前回の披露目に殿下を呼んで得意気な社長に対し、殿下が帰ると言って社長を大慌てさせたに過ぎない。もともと悪戯好きの殿下が、やや増長していた社長を、少々懲らしめただけなのだ。
落としどころとして、殿下は俺が取り成したから残ってやると言って騒動を納めたのだが、その話を真に受けた社長は、俺に感謝することしきりなのだ。俺はどうも社長を騙しているようで落ち着かない。まぁ、今更真相は言えないけどな。
「そう言えば、専務が例の避妊具の開発に成功しましてな。近々売り出す予定なのです。」
「え?そうなの?」俺は思わず、いつもの言葉遣いになってしまった。われながら、まだまだ修行が足らん。苦笑
「おや、まだ聞いていませんか?」
「はい。専務からは聞いておりませぬ。」
次ノ宮殿下のことでテンパった専務は、この話が飛んだと見える。まったくしょうがねぇなぁ。一番大事な報告を忘れないで欲しい。あとで専務に確認しようっと。
山髙屋本店で、東の嫁実家巡りは終わった。次は西だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/10/23
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№132 嫁実家との折衝
久しぶりの自宅、ガハマの副拠でぐっすりと眠ったので、旅の疲れが一気に取れた。ただ、起きたらすっぽんぽんだったのが妙に気になる。俺が脱いだのだろうか?嫁たちに脱がされたのだろうか?
朝餉のときに嫁たちに聞いたが、コケティッシュな微笑みとともにスルーされてしまった。あ、これはひん剥かれて弄ばれたに違いない。
さて、朝餉を終えると俺は嫁たちに、三の島と四の島の手土産である、アマダイ紬の反物とマサツ切子の大皿と龍涎香の欠片を持たせて、それぞれの実家へと派遣した。
そして俺もテンバに手土産を届けてから、嫁たちの実家を順次回って来たのだ。
最初はミーブのキノベ本拠。正面にキノベどのとトウラクが並び座っている。そして左右にハミどのと家老たちが控えている。俺は、ちょうどタヅナが手土産を渡しているところに到着した。
「アタルどの、久しいな。同盟の披露目ではトウラクを次ノ宮殿下に引き合わせて頂いたがな、あれを切っ掛けに、殿下から直接、陸運のご用命もあったのだ。」
キノベどのが言ってるのは、今回のオミョシ分家との同盟ではなく、5武家同盟および山髙屋提携の披露目のことだ。
「トウラクはわが盟友。引き合わせるは当然です。」
「それに、二の島遠征に続いて此度の三の島遠征でも、過分な手土産を頂戴し、痛み入る。」
「大したものではありませぬ。ご笑納下さい。ところでキノベどの、オミョシ分家との同盟の披露目に次ノ宮殿下のご来駕が決まりましたゆえ、東都から商都への御動座の護衛に、キノベからトウラクを頭として10名の手勢をお借りしたいでのですがいかが?」
「なんと。次ノ宮殿下がオミョシ分家との同盟の披露目のために、わざわざ商都へ参られるのか?」
「いかにも。西都へも足を延ばされるご予定と承っております。」
「うーむ。アタルどのは余程次ノ宮殿下のお気に入りなのだな。」
「この道中、トウラクにも次ノ宮殿下のお側に侍ってもらいたいのです。そしてオミョシ分家との同盟の裏書もお願いしたい。いかがでしょう?
トウラク、頼めるか?」
同盟の裏書とは、証人と言うことだ。キノベとオミョシ分家は、ユノベを通して同盟関係になる。それを承認してもらう重要な役割だ。
当然、オミョシ分家の若き当主、新権座主のシエンとトウラクを繋ぎたい意図もある。
「無論だ。
父上、構いませんな?」おっと、トウラクの奴、いつの間にかキノベどのの顔色を窺わなくなってやがる。
「うむ。願ってもないこと。」
「姉上、構わんか?」トウラクは、ハミにも話を振った。
「キノベにとってはとてもいいお話ね。」トウラクが仕切ってやがる。これではまるで、当主はトウラク、キノベどのは隠居、ハミどのは軍師ではないか。いつの間に?
「では決まった。アタル、よろしくな。ところで、タテベのシルドも誘うのだよな。」
「おう。そのつもりだ。この後、タテベへ行く。」
「トノベとヤクシはどうするのだ?キノベとタテベが世継で、トノベとヤクシが当主だとバランスが悪くないか?」
「ああ、双方とも幼いが嫡男に外交デビューをさせ、それぞれの正室に後見を頼むつもりだ。」
「やはりそうするよな。しかしアタルは相変わらず、クルクルとよく小知恵が回るなぁ。」
「おい、トウラク。お前だってそうするよなって言ったってことは、同じことを考えてたんだろうが!」
「むぅ、アタルが兄上とぉ、全部決めちゃったからぁ、私の出番がぁ、全然なかったわぁ。」皆がクスりと笑う。タヅナよ、まぁいいではないか。笑
それにしてもこのタイミングで場を和ませたのはグッジョブだぞ。
次に俺はコスカのタテベ本拠に飛んだ。正面にタテベどのとシルド。左右に側近の家老たちが居並んでいる。
キノベのときと同様に、タテベどのから切り出して来た。
「アタルどの、久しいな。遠征の過分な手土産、いつものことながら痛み入る。また、先立っての披露目の席では、シルドを次ノ宮殿下にご紹介頂き、誠に忝い。間が空いてしまったが、直接礼を言いたかったのだ。」
「いえいえ。大したものではございませぬゆえご笑納下さい。また、シルドはわが盟友ですから、引き合わせるのは当然です。」
「あらましはホサキから聞いた。シルドを大将に10名の護衛の派遣については喜んでお引き受けする。しかしよくもまぁ、次ノ宮殿下が商都までお運びになるものよ。余程、アタルどのへの覚えが目出度いのだな。」
「恐れ入ります。シルドには、道中は、次ノ宮殿下のお側に侍って欲しいのです。また、オミョシ分家の権座主シエンを引き合わせ、同盟の裏書もお願いしたいと思っています。
シルド、頼めるか?」
「もちろんだ。しかしまさかこんなに早く西へ戻る機会が来るとはなぁ。」
シルドは、つい先頃までナワテのタテベ副拠を取り仕切っていた。近々タテベの家督を継ぐ準備のために、コスカに戻って来たばかりなのだ。
「タテベ副拠からはバクラも呼んでいるぞ。」
「そうか、バクラの奴、副拠の代官になって少しは貫禄が付いたかな?シヅキの尻に敷かれてそうで心配だよ。」
「まぁ、間違いなく尻に敷かれてるだろうな。」
俺とシルドが大笑いすると、ホサキとタテベどのが苦笑いをしていた。
3件目はトコザのトノベ本拠に来た。ここでもサヤ姉が大方の話を通している。正面には、トノベどの、両横に動の伯母御と嫡男カナタ。今年8歳だったか。まだ幼いな。サヤ姉が俺の隣に移ると、カナタは明らかにムッとした。
「アタルどの、よう参られた。まずは三の島遠征の成功、お祝い申し上げる。また過分な手土産を頂戴して忝い。そして此度はわが嫡男カナタの晴舞台をご提案頂き、御礼申し上げる。奥のカナタ後見と護衛10名の派遣もしかと承知した。後見がいささか心配だがよしなに。」
「御屋形様!」動の伯母御がムッとする。
「伯母御どの、義伯父上は戯れを申されただけです。そう言うところですよ。」
「これはとんだ粗相を。申し訳ありませぬ。平にご容赦下さりませ。」動の伯母御は俺に平身低頭詫びた。大袈裟だってばよ。
「奥はアタルどのには頭が上がらんのだなぁ。」
「はい。つい最近までは平気でしたが、成人してから先代統領の弟と生き写しのようになりまして…。正直に申さば、御屋形様よりも怖うございます。」
「何と、伯母御どのは親父どのが苦手だったのか?初耳だな。」
「静とふたりで調子に乗ると、お説教をされましてな、一度、静とふたりで先代を懲らしめようとしたら、逆にまったく容赦のない折檻をされました。あのときのことを思い出すと今でも震えが来ます。」
「伯母御どの、俺は伯母御どのたちに折檻などせぬからご安心召されよ。」
「されたではありませぬか!」あ、あれね?
山髙屋の商隊護衛のとき、進路妨害をして来た伯母御どのたちの馬車を大破させて、東都まで歩いて帰らせただけじゃん。あの程度が折檻と言うのだろうか?それなのに伯母御たちは余程懲りたと見える。苦笑
「まぁまぁ、あれはもう水に流しておりますゆえ、いつまでも気にすることはござらん。伯母御どの、お分かりか?」
「…はい。」動の伯母御を黙らせてやったら、トノベどのが尊敬の眼差しで見て来た。笑
「ところでカナタ、久しいな。俺のことを覚えているか?」俺はカナタに話を振ったのだが…。
「アタル兄様なんか嫌いだ。姉上を返せ!」おいおいシスコンかよ。
「カナタ、何てこと言うのよ!」サジ姉がたしなめる。
「姉上、なんでも言うこと聞くから帰って来て。」
「そう?じゃぁアタルに謝りなさい。」
「え?」
「何でも言うこと聞くんじゃないの?」
「でも…。」
「おい、カナタ。男ができないことを口にするんじゃねぇ。子供だからって何でも許されると思うなよ。」
「う、うう。」
「で、泣くのか?情けねぇな。」
「泣くもんか。」眼にいっぱい涙を溜めて説得力ねぇな。ま、いいか。
「サヤ姉は返さん。俺が嫁さんにしたからな。取り戻したきゃ、いつでも来い。ただし、一切、手加減はしねえぞ。泣き喚こうがどうしようが、とことん折檻してやるからその覚悟で掛かって来い。」
カナタの眼から涙が零れ落ちた。一生懸命歯を食いしばっている。
トノベどのは面白そうに眺めているのに、なぜか動の伯母御はおろおろと狼狽えていた。
4件目はトマツのヤクシ本拠に来た。正面にヤクシどの、両横に静の伯母御と嫡男クリス。トノベのカナタと同じ8歳だったな。
サジ姉が俺の横に移動するといきなりクリスが絡んで来た。
「姉上、戻ってよ。」
「ん…?アタルは…旦那様…。」
「戻ってってば。」こいつもシスコンかよ。面倒臭ぇなぁ。
「おい、クリス、黙れよ。俺はヤクシどのと話しに来たんだ。世継にもなってねぇたかが嫡男のお前が、ヤクシどのを差し置いて発言するんじゃねぇ。」
俺の切り返しに絶句するクリス。なるほど、切り替えされたことがないのか。統領の嫡男でちやほやされて来たのかな?カナタと一緒だ。
「クリス、控えるのじゃ。
アタルどの、子供のことゆえ平にご容赦を。」
「伯母御どの、それは合点が参りませぬな。クリスはヤクシの嫡男としてこの場にいるのです。子供であることは関係ない。分も弁えず、座主の義伯父上を差し置いて発言するなど不届千万。」
「ひぃっ。仰せの通りです。妾が浅慮でした。平にお許し下さいませ。」静の伯母御が深々と頭を下げ、ヤクシどのが、ひと言、「ほう。」と感嘆の声を上げた。
「奥よ、随分遜るではないか?」
「いえ、その…。」
「義伯父上、伯母御どのたちは、伯母御どのたちにまったく容赦のなかった亡き親父どのが昔から苦手でしてね、俺がその親父どのに似て来たので、苦手だった親父どのを思い出すようなのです。」
「アタルどの、なぜそれを…。は!トノベで動に聞いたのですね。」
「左様。しかし伯母御どの。俺は親父ではない。親父のように、伯母御どのたちに折檻などせぬからご安心召されよ。」
「されたではありませぬか!」やっぱ双子だなぁ。まったく同じ反応だよ。笑
「まぁまぁ、あれはもう水に流しておりますゆえ、いつまでも気にすることはござらん。伯母御どの、お分かりか?」
「…はい。」静の伯母御を黙らせてやったら、ヤクシどのが尊敬の眼差しで見て来た。これも同じ展開だ。笑
「母上、いつものようにお叱りになればよいではありませぬか?」
クリスがそんなことを静の伯母御に言っている。ははぁ、伯母御を焚き付けるつもりか。
「おい、クリス。自分じゃ敵わねぇから母上を焚き付けようってか?」
「なんだと?」図星を指されたクリスが目一杯虚勢を張る。
「サジ姉は返さん。俺の嫁さんだからな。文句があるなら掛かって来い。ただし、手加減は一切しねぇぞ。ビービー泣き喚いてもとことん折檻してやる。」
「う、うう。」クリスは半泣きになった。ヤクシどのは成り行きを見守っているが、静の伯母御は気が気ではないようだ。
「アタル…もう…いい…。
クリス…聞き分け…なさい…。めっ…、ですよ…。」めっ、ですよって…、何それ?笑
「姉上~。」クリスの眼から涙が零れ落ちた。
ここでヤクシどのが割って入ってクリスを抑えに掛かった。
「ところで、アタルどの。三の島遠征の成功、お祝い申し上げる。また過分な手土産、いつも忝い。そしてわが嫡男クリスの晴舞台のご提案、ありがたい限りじゃ。もちろん披露目にはご提案通り、奥の後見と護衛10名も遣わすゆえよしなに。」
「早速のご承引、ありがとうございます。」
「奥よ、道中、動どのと一緒に、クリスとカナタにしかと言い聞かせよ。よいな。」
流石だな。カナタのことまで見抜いておられる。笑
東の最後は山髙屋本店だ。社長が揉み手をしながら出て来た。
「アタルどの、特上品のアマダイ紬とマサツ切子の大皿、上物の龍涎香と高級品ばかりを頂戴してよろしいのですか?」流石商人、この話題からなのな。笑
「もちろんです。価値の分かる方に喜んで頂けるとなおのこと嬉しいですよ。」
「それと、三の島遠征の御成功、お祝い申し上げます。」
「ありがとうございます。」
「そして御用命の御座船もしかと承りました。最新鋭の大型廻船をご手配させて頂きます。しかし次ノ宮殿下がわざわざ商都までお出掛けになるとは、いやはやアタルどのには恐れ入りました。」
「それも舅どのが先の披露目に殿下をお呼びしたからではありませぬか。」
「何を仰せられます。あの折は殿下に冷や汗を掻かされました。そうそう、あのときも殿下をお引止め下さいまして、ありがとうございました。」
「いや、もうその話はいいですよ。」
つーか、あれは殿下の芝居に付き合わされただけだ。前回の披露目に殿下を呼んで得意気な社長に対し、殿下が帰ると言って社長を大慌てさせたに過ぎない。もともと悪戯好きの殿下が、やや増長していた社長を、少々懲らしめただけなのだ。
落としどころとして、殿下は俺が取り成したから残ってやると言って騒動を納めたのだが、その話を真に受けた社長は、俺に感謝することしきりなのだ。俺はどうも社長を騙しているようで落ち着かない。まぁ、今更真相は言えないけどな。
「そう言えば、専務が例の避妊具の開発に成功しましてな。近々売り出す予定なのです。」
「え?そうなの?」俺は思わず、いつもの言葉遣いになってしまった。われながら、まだまだ修行が足らん。苦笑
「おや、まだ聞いていませんか?」
「はい。専務からは聞いておりませぬ。」
次ノ宮殿下のことでテンパった専務は、この話が飛んだと見える。まったくしょうがねぇなぁ。一番大事な報告を忘れないで欲しい。あとで専務に確認しようっと。
山髙屋本店で、東の嫁実家巡りは終わった。次は西だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/10/23
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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