射手の統領

Zu-Y

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射手の統領097 キラートレント討伐

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射手の統領
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№97 キラートレント討伐

 トヨサに戻り、嫁たちと合流。嫁たちは十分午睡を取って、これから夕餉で野営料理の準備に取り掛かるところを、夕餉は村長宅に呼ばれたそうだ。
 母屋に行くと村長がにこやかに、
「大したもてなしでできねぇけろも、たんと食うて行きなっせぇ。」と言うことだった。

 村長宅にお邪魔すると、大きな居間の真ん中には、これまた大きな囲炉裏があって、鍋がぶら下がっている。辛みそ仕立ての鍋の具は、ふんだんな野菜とキノコ、そして鶏肉。
「夏だったら、泥鰌鍋が一番なんらろも、あいにく今は冬らすけ、これで勘弁してくらっせや。」
「いやいや、村長。とんでもない御馳走だ。ありがたく頂くよ。」

 一緒に囲炉裏の席に着いたのは、おそらく30代の村長と村長夫人、村長の子供の少年と幼女と乳児。そして女中さんが給仕をしてくれる。

 鍋と一緒に笹団子と粽が出て来た。
 笹団子はこの辺りの名物で、もち粉にヨモギを練り込んで、中に小豆餡を詰め、3枚の大きな笹の葉を縦に揃えて巻き、上下と真ん中をスゲのヒモで縛る。これを蒸して出来上がりだそうだ。ヨモギをふんだんに練り込んでいるので、色は濃い緑色で、噛み切ったときの、中の小豆餡のエンジ色との対比が、見た目にもきれいだ。小豆餡の甘みが程よくて実にいい。
 粽は大きな笹の葉を漏斗状に巻いて、そこにもち米を詰めて、蒸したものだ。この辺りではきな粉を付けて食べるそうで、きな粉との相性が抜群だ。

 キョウちゃんズは、どちらも完全にツボにハマった様で、交互に何個もぱくついている。笑
 ふたりは、成長のために、相変わらずよく食べている。この努力のおかげで、最近になって、ぼちぼち成長が始まって来たのだ。

「うちで造った自慢のどぶろくら。あんた、行ける口らろ?」
「いやいや、村長、俺たちは今夜、魔物狩りだぜ。呑む訳には行かねぇよ」
「何、糞真面目なことを。腹ん中から温めねぇと、夜はしばれるよ。ほれ。」
少しならいいか?ぐい呑みを差し出すと、
「「「「「アタル!」」」」」「「アタル兄!」」俺はぐい呑みを引っ込めた。
「あっはっは。おめさんも嫁御にゃ頭が上がらんか?俺と一緒らなー。」
「すまん、村長。せっかくだが退治してから改めて頂くとしよう。」
 村長夫人も快活に笑い、うちの嫁たちは苦笑いしている。

 存分に夕餉を馳走になり、俺たちは北斗号で田んぼへと向かった。
 今日の午後は、嫁たちは午睡を取っていたが、俺は東都とガハマに行ってたので、北斗号の中で仮眠を取らせてもらった。

 夜中になると、田んぼの北の森からぞわぞわと移動して来る影がある。村長の言う通り、20体ほどの人面樹だ。今夜は満月なので月明かりが強い上に、根雪に月明かりが反射するので、夜だがそこそこ見渡せる。ラッキーだ。
 このまま雲が出て来ないことを祈るばかりだ。

「来たぞ!サキョウ、ウキョウ。」
「「はーい。」」
 皆が身構える中、ウキョウが皆に各種バフの術を掛け、サキョウが人面樹の群れにデバフの術を放った。人面樹の群れが混乱したところで、俺が雷撃矢を連射する。人面樹の攻撃は枝による近距離攻撃なため、間合いを取った上での遠距離攻撃ならば圧倒的に有利だ。
 雷撃矢の直撃を受けた人面樹は、雷が落ちた樹木のように、次々と黒焦げになった。

 群れの半数を黒焦げにしたとこで、人面樹は北の森に撤退し出したので、俺たちは北斗号でその後を追った。
 御者席にはタヅナ、正面から反撃が来たらすぐに馬たちを守れるように、ホサキが助手席に着いた。戦闘用の装甲馬具もそのうち用意した方がいいな。
 キョウちゃんズとアキナが式紙を飛ばし、人面樹の群れを上空から監視している。

 俺は見張台に上がっていた。
 人面樹の動きはさほど速くない。人面樹はキーキーと軋む音を立てていたが、これはどうも仲間に助けを求めるSOSだったらしい。
 式紙で上空から偵察していたキョウちゃんズとアキナから次々に情報が入って来た。北の森から倍する50体近くの人面樹と、ひときわ大きな1体が出て来たようだ。
「アタル、ひときわ大きい個体が出て来ました。群れの最後尾にいます。」
「それがボスだな。キラートレントかもしれないぞ。」
「アタル兄、キラートレントなら眠花粉を蒔くんやないの?」サキョウが指摘した。
「そうだな。ウキョウ、睡眠耐性の強化を頼む。」
「任せてんか。」ウキョウにより、皆の睡眠耐性がさらに強化された。

 新手を迎え撃つために、十分に距離があるところで馬車を反転させて停め、馬たちを馬車の影に隠した。
 俺の雷撃矢を警戒した新手の人面樹たちは、広く散開しつつ両翼で俺たちを包囲する陣形を取り、全体がVの字になった。いわゆる鶴翼の陣だ。
 ならばこちらは蜂矢の陣で手薄なところを突破するのみ。よし、騎馬による攪乱戦法を試そう。
「サヤ姉、サジ姉、ホサキ、タヅナ、騎馬で出られるか?」
「いいわよ。」こくり。「うむ。」「はいぃ。」

「ホサキ、先陣しつつ反撃に備え盾をいつでも展開できるように準備。サヤ姉とタヅナは、ホサキのすぐ後ろの左右に並走。殿はサジ姉。
 北斗号から俺の属性弓矢で援護するから、広がった敵の手薄なところを突破して反転、縦横無尽に敵を攪乱してくれ。ただし、最後尾の大きい奴は、キラートレントで眠花粉を蒔くから、耐性強化したとは言え、接近するなよ。」
「任せて。」こくり。「承知した。」「分かりましたぁ。」

「アキナ、サキョウ、ウキョウ、俺たちは北斗号から騎馬隊の援護だ。」
「はい。」「「はーい。」」
 馬たちを轅から解放し、手際よく鞍を取り付けて、サヤ姉はダーク、サジ姉はヴァイス、ホサキはノアール、タヅナはセールイに騎乗した。

 俺たち北斗号部隊は全員が見張台に上がっている。退却して行った先発隊の残りが敵陣の中央に吸収され、中央部の厚みが増した。

 ウキョウが、出撃して行く騎馬隊に各種バフの術を掛け、サキョウが新手に対して各種デバフの術を放った。
 アキナは遠矢を中央部に射掛けて敵を牽制している。敵中央部には、退却して行った先発隊の残りが合流しているので、アキナの弓矢による攻撃に対して、先程の俺の雷撃矢の記憶を想起し、すっかり怯えてしまっているようだ。
 アキナの通常矢で、キラートレントの前に陣取る人面樹たちが、連鎖的に足止めされ、結果的にキラートレントの進出を遅らせた。

 俺は北斗号の見張台から、月明かりで映し出された敵の陣形を眺め、比較的手薄な中央左に狙いを定めた。まず震撃矢で大きな地震を起こすと、人面樹たちは足=根でがっちり土を掴み、必死に耐えている。この状態で、防御もままならぬところへ雷撃矢を撃ち込むと、その一画の人面樹は何体も黒焦げになり、さらに手薄になった。

 騎馬隊がそこを狙って突撃して行く。
 敵に遭遇する手前で、殿のサジ姉からが何やら状態異常の術が飛び、敵の動きがさらに緩慢化した。
 先陣のホサキが如意の槍を伸ばして振り回し、人面樹を殴り倒した。
 サヤ姉が雷神の太刀を一閃する度に、人面樹が袈裟懸けに真っぷたつになった。
 タヅナが偃月の薙刀を旋回させて、人面樹を輪切りした。

 あっという間に、薄くなっていた敵の陣を突破した騎馬隊は、突破位置から見ると馬手側の、敵の陣の中央後部にいるキラートレントを避けて、反対の弓手側に転進し、敵の右翼を根元から先端に向けて殲滅して行く。
 俺は騎馬隊が進んで行く先の人面樹に、震撃矢と雷撃矢を降らせ、騎馬隊を援護した。
 こちらから見て弓手側になる敵の右翼は完全に崩壊し、騎馬隊4人で殲滅戦を行っている。これで敵の数の残りはおよそ40体だ。

 敵陣中央の部隊が押し出して来たので、俺は水撃矢を敵の手前に放って一帯を水浸しにした。これにより、地面がぬかるんだため、人面樹は足=根をぬかるみに取られてもたついた。
 中央部がもたついている間に、敵の左翼が俺たちの馬手側から迫って来たが、敵の右翼の殲滅を終えて戻って来た騎馬隊が、敵の左翼を迎撃しに再び出動して行った。
 右翼をあしらったときと同様に、俺は震撃矢と雷撃矢で騎馬隊を援護し、馬手側から迫る敵の左翼を撹乱したところで、騎馬隊が突入を敢行し、サジ姉の状態異常攻撃、ホサキのぶん回し、サヤ姉の馬上剣舞、タヅナの旋回切りで、敵の右翼も先端から根元に向かって次々と切り崩されて行った。

 騎馬隊は、敵陣中央最後尾のキラートレントへ接近し過ぎることを警戒して、切りのいいところで引き揚げて来た。敵の右翼も殲滅し、残るは中央の人面樹20体とキラートレント1体。キラートレントがぬかるみでもたつく人面樹をかき分けて進出して来て、一気に眠花粉をこちらに向けて撒き散らし出した。
 上体をスイングして風を巻き起こし、眠花粉をこちらに向けて吹き飛ばして来る。
「ウズ、シン、5倍ずつ頼む。」
 俺は5倍の水を5倍の振動でミスト状にして撒き散らし、重厚なミストカーテンを構築した。こちらの狙い通り、ミストカーテンに眠花粉が吸着されて行く。
「ライ、5倍だ。」
 トドメの5倍雷撃矢がキラートレントを襲い、眩い閃光を上げてキラートレントを黒焦げにした。

 キラートレントが黒焦げになり、残りの人面樹20体が退却を開始したが、逃がしはしない。みたび、騎馬隊が出動して、逃げる人面樹をことごとく屠った。一方的な勝利である。

 黒焦げになったキラートレントと人面樹は良質な木炭となり、殴り倒したり切り倒したりした人面樹は良質な材木となるだろう。これらは嵩張るので、被害を受けていたトヨサの村に寄付するとしよう。

 3回の突撃で疲労した馬たちに、サジ姉が回復の術を掛け、北斗号がトヨサの大農村に戻ったのはまだ薄明の時分だったが、村の中央広場では明々と篝火が焚かれており、相当数の村人が集まっていた。中心に村長がいる。

「おお、無事に戻りんさったようらな。すんげえ音やら光やらがあちこちでしてたすけ、心配しとったんらよ。」
「村長、もう大丈夫だ。親玉はキラートレント1体、人面樹は60体ぐらいだ。」
 村人たちの間からどよめきが起こる。俺は続けた。
「黒焦げなのは木炭、切り倒したり殴り倒したのは木材になるぜ。そのままトヨサに寄付するから、夜が明けたら村人総出で回収してくれ。」
「なんらって!ええのか?」
「ああ、昨日の夕餉の礼だ。それと、祝杯に例のアレを振舞ってくれ。」
「お安い御用ら。」村長も村人も大喜びだ。

「ささ、アタルさん、たんと呑んれくんろ。」村長がぐい呑みになみなみと注いでくれたどぶろくを、俺はひと口、腹に流し込む。
「くーーー、旨ぇ。」
「そうらろ。俺が仕込んらすけなー。」
 俺は、夜明け前から村長宅で、昨日お預けになったどぶろくを馳走になり、糠漬を肴に祝杯を挙げている。
 一方、村長は夜が明けたら戦利品の回収の陣頭指揮があるので呑めないそうだ。
「村長、昨日は『腹の中から温める。』って言ってたじゃないか?」と言ってどぶろくの徳利を差し出す。
「じゃ、一杯らけ…。」村長がぐい呑みを差し出したのだが…、
「おめさん!」村長夫人からのひと言で村長はぐい呑みを引っ込めた。
 昨夜と逆である。俺と嫁たちが笑い、村長夫人が苦笑いして、村長が頭を掻いた。

 どぶろくの肴に出て来た糠漬が非常にいい塩梅で、どぶろくとの相性が抜群だ。女中さんは何か作ると言ってくれたが、この糠漬けで十分である。夜の戦闘で冷えた体に、囲炉裏の火とどぶろくが何ともいいではないか。村長が言った通り、本当に体の芯から温まる。
 嫁たちは、流石に夜明け前から酒は呑めないと言い、女中さんが作ってくれた甘酒を飲んでいる。嫁たちの、コリコリと立てる音が何ともいい。
「この糠漬、本当においしいわね。甘酒とぴったりだわ。ね、サジ。」
 こくり。
 ホサキも、アキナも、タヅナも糠漬と甘酒の取り合わせが気に入ったようだ。一方、キョウちゃんズは、糠漬よりも干し柿が気に入っている。
 その後、昨夜の夕餉で大好評だった笹団子と粽も出て来て、結局夜明け前の朝餉となった。

「じゃあ、ゆっくりしてけな。」
 夜が明けると村長は村人総出の戦利品~木炭と材木~の回収へ、村長夫人は女衆を指揮しての炊き出しに出掛けて行った。と言っても、村長宅のすぐ前が中央広場なんだがな。
 起きて来た子供たちは女中さんが面倒を見ている。

 朝餉を食い終わった俺たちは、ゆっくりしてけと言う村長の言葉に甘えて、囲炉裏の前で食後のお茶をすすっていた。
 俺は昨日の帝居での次ノ宮殿下への拝謁と、ガハマでの叔父貴たちへ近況報告して来たことを語り、嫁たちにもそれぞれの御父上へ近況報告をして来て欲しいと頼んだ。
 ガタニにいるうちは、流邏石で東都周辺の嫁たちの実家と往復できるが、廻船の修理が終わって出航したら、次の寄港地のアタキからでは行き来ができない。俺は、昨日のガハマからの帰り掛けに、ガタニギルドに登録して来た流邏石を嫁たち全員に配った。
 今日の午前中は休養して、昼餉の後、嫁たちに実家に飛んでもらう。その間、俺とキョウちゃんズで北斗号をガタニに運び、実家で報告を済ませてガタニに帰って来た嫁たちと合流する。

 よし、段取りが決まったら早速北斗号で睡眠だ。まぁいつもの雑魚寝なのだがな。

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設定を更新しました。R4/7/31

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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