射手の統領

Zu-Y

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射手の統領093 夜行軍

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射手の統領
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№93 夜行軍

 ガハマから隠居を送り届けた流れで、オミョシ分家の御用宿に、4人部屋をふた部屋を取った。

 今宵は、嫁会議の日ということもあって、日中に購入した透け透けネグリジェのご披露はなし。
 嫁会議は男子=俺禁制なので、嫁全員はもうひとつの部屋に行き、俺はボッチになった。同室の3人はいつ帰って来るか分からん。ふん!とっとと寝てやる。と、半分いじけて、この夜はぐっすり眠ったのだった。

 翌朝、朝餉では、アーカに戻ると言う側室を、隠居が執拗にツークに誘って、奥方からたしなめられていた。笑
 朝餉を共にしたオミョシ分家一行と別れを告げ、俺たちは北斗号で西都に向かった。西都での交易品の仕入れや、武器・防具・道具のメンテナンスと、サンキへの現状報告のためだ。

 夕刻になる前に西都に着き、交易品として西都織の反物と千枚漬けを、製造元で大量に仕入れた。その後、装備屋で武器と防具のメンテナンスに通常矢の購入、道具屋で流邏石と流邏矢への気力補充をして、新たな流邏石20個と薬品の購入。長旅に備えて万全の準備を終えた。
 宿屋では、デラックスダブルもツインもいっぱいで、4人部屋2部屋となり、昨夜の嫁会議に続き、今夜もむふふな展開はなしになってしまった。

 嫁たちを宿に残して自由行動にし、俺は西都ギルドへ西都ギルドのギルマスのサンキを訪ねることにした。
 するとキョウちゃんズが、チフユと会いたいからと言ってついて来た。西都ギルドの受付のチフユは、俺とキョウちゃんズが出会う前からキョウちゃんズをかわいがってくれていたので、キョウちゃんズもチフユには懐いている。

 西都ギルドに着くと、居合わせた冒険者のひそひそ話が聞こえて来た。
「おい、あいつら濃紺の外套を着てるで。まさかセプトかいな?」
「いや、ちゃうやろ?なよっちい男と、ガキんちょふたりやないか。」
「せやな。流石に濃紺の規格外っちゅうくらいやから、もっとごっつい奴らやろ。」
「じゃあ、あいつらはなんで濃紺の外套を着とんねん?セプトの真似かいな。」
「せやろな。どうせ駆け出しやろ?セプトの真似なんぞ10年早いで。ちょっとシメたろか?」おもしれぇじゃねーか!

「アタル兄、あんなの相手にしたらあかんよ。」
「せやで。弱い者いじめはやめとき。」
「いや、そんなつもりはないぞ。」
「そら嘘やろ。バレバレやで。」
「せやね。いけずな笑みを浮かべとるやん。」
 ははは、バレテーラ!

「あー、アタルさん!それにサキョウちゃんにウキョウちゃん!3人だけ?セプトの他のメンバーはいないの?」
 たった今、シメたろか?とかほざいてた冒険者がぎょっとして、そそくさと退散した。ちっ、チフユの奴、今のはわざとバラしやがったな。
「なんだよ。奴らからシメに来てくれりゃぁ、楽しめたのによ。」
「ダメですよ。キョウちゃんズの言う通りですからね。」
「まぁいいか。ところでチフユさん、サンキさんに取り次いでくれ。あと、しばらく遠出をするんで、サキョウとウキョウがチフユさんに挨拶したいんだってさ。俺がサンキさんとの面会を終えるまで、ふたりの相手を頼むわ。」
「承知しました。」
 俺はギルマスルームに通された。

「サンキさん、もう知ってると思うが、次ノ宮殿下からの指名依頼で北の島に行くことになった。藍凍龍を攻略しに行く。」
「聞いとるで。アタルは次ノ宮殿下の信頼をしっかり取り付けとるやんけ。」
「次ノ宮殿下にはいろいろよくしてもらってるよ。ほんとに感謝している。でも、どうしてこんなに良くしてくれるのかは分からないけどな。」
「あの殿下はおべっかを使う臣より、親身に意見してくれる臣を好むよってな、いつぞやのアタルが次ノ宮殿下をやり込めたんがお気に召したんやろな。」

 古都の帝家宝物殿にある金剛鏑を提供してもらうために、俺が東都の帝居まで勅許をもらいに行ったとき、ライ鏑とウズ鏑を所望した次ノ宮殿下をやり込めたことがある。あれを根に持つどころか、あれで俺を信頼してくれたと言うなら、次ノ宮殿下は信頼に足る人物だ。
「うーん、だとすると次ノ宮殿下はなかなかの人物だな。」
「まぁ、そう言うことになるの。それにしてもアタルが殿下とこんなに懇意とはの。わしも、分家のアホに肩入れせんでホンマによかったで。」

 サンキはオミョシ分家の隠居と懇意にしていた時期があり、俺が隠居に追い込みを掛けようとしたときに、隠居を庇って俺に対して険悪になり掛けたことがある。
 そのとき俺は、「公家は帝家第一だろう?俺は次ノ宮殿下と良好な関係だぜ。」と言って、サンキが暴走するのを思いとどまらせた。
 その後しばらくしてから、サンキの隠居に対する態度は急変し、あれだけ庇った隠居をアホと呼び出したので、ふたりの間に何かしらの諍いか、サンキが隠居を見放すような事件があったと、俺は見ている。
「俺もサンキさんの分別に感謝してるよ。サンキさんとは敵対したくなかったからな。」
「アタルと敵対などするものかえ。下手したらどこぞに流されてしまうがな。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。
 サンキは、俺とシエンが共謀して、隠居をツークのオミョシ本家に幽閉することを当てこすっているのだ。

「流すと言えば隠居だがな、今日、商都から廻船で東都に向かったぞ。」
「しかし、よく隠居は本家行きに同意しよったな。」
「まあな。最初はシエンからの、正使に任ずるとの命令書に腹を立ててたがな。」
「それをなんで受け入れたんや?アタル、なんか細工したやろ?」
「大したことはしてないぜ。まあ、当たり障りのないことだな。『隠居どのを正使にし、奥方を副使にしたのは、隠居どのを分家に見立て、奥方を本家に見立てて、分家は本家の風下に立たぬと言う、シエンから本家へのメッセージだ。見る者が見たらこの謎掛けの意味は分かるが、表面上はいかようにも言い逃れができる。この役は隠居どのでなければ務まらぬ。』と吹き込んでやっただけだよ。そう焚き付けたら隠居はその気になりやがった。意外とチョロかったぞ。」
「なんやて!シエンはホンマにそんなことを考えとるんか?」

「さあな。しかしシエンは、少なくとも本家の座主の器量を大して評価してないな。『決断ができぬ事なかれ主義。』とバッサリだ。流石にこれには、隠居の奥方が穏やかではなかったようでな、シエンのことをたしなめてがな。」
「せやろの。あの奥方はなかなかの人物やからの。」
「その奥方すら、シエンは意にも介しておらん。本人を前にして俺に『俺は母上にだけは頭が上がらん。一番怖いのは母上や。』と抜かしやがった。それで奥方は、すっかり毒気を抜かれてな、あとは苦笑いよ。」

「そりゃホンマかいな?うーん、やはりシエンの奴は、単にシスコンのガキではなかったようやの。」
「なんの、なんの。シエンの奴はかなりのやんちゃで強かだぜ。サンキさんも油断してると足元を掬われるぞ。気を付けろよ。」
「さよか。アタルはシエンに一目置いとるのやな。」
「ああ、隠居の供でガハマに来ていた隠居の重臣どもを早々にそっくり自分へ寝返らせたしな。隠居から引き抜いたシノベもあっという間に掌握して、しかもすぐにシノベを使いこなしてるのだ。」
「…。」サンキが黙ってしまった。今後のシエンへの対応を考えているのだろうな。

「シエンは人心掌握が上手い。これはシエンが情に厚いせいだ。サキョウやウキョウだって勘当されて不憫だという情で庇っていたのだ。まわりからシスコンと陰口を叩かれてるのを知っても、それにじっと耐えて否定もせずに、親身になってふたりの面倒を見ていたからな。」
「うーむ、ほんまにシエンの見方を改めんといかんようやの。」
「あれで成人前の14歳だからな。末恐ろしいわ。敵に回すと厄介至極、味方に付けとくに限るぜ。」
「さよか。シエンの奴はそんなにか。わしは、シエンがこまい頃から知っとるさかい、ついつい子供扱いしてしもとったんやな。」
 サンキにシエンを散々売り込んでから、俺はギルマスルームを辞した。

 ギルドのロビーに戻ると、それまでチフユと話していたキョウちゃんズが俺にまとわりついて来たので、チフユが俺をジト目を向けて来た。苦笑
「ふたりはアタルさんにべったりね。」
「そらそうさ。身内だからな。」ふたりの肩に腕を回し…、
「え?」両腕でふたりを抱き寄せるとチフユがギョッとした。
「そのうち嫁に迎えるつもりだ。」頭を撫でる。そしてキョウちゃんズにアイコンタクト!
「え?えー!」驚くチフユ。
「アタル兄はうちらのええ人や。そんでそのうち旦那様になるねん。」
「そやねん、うちら、むっちゃラブラブやねん。」
 見事に俺に話を合わせて調子に乗るキョウちゃんズ。笑
「じゃ、行くか?」
「「ふーちゃん、またなー。」」
「私よりひと回り下なのに。まだ子供なのに。私はひとりなのに。」何かチフユがぶつぶつ言っている。笑
 呆然としているチフユを尻目に、俺たちはギルドを後にした。

 宿で大人嫁と合流し、夕餉を摂りに街に繰り出した。西都とも今宵でしばらくお別れだ。皆で楽しもう。

 翌朝、西都を発ち、オツから湖船でガハマに渡る。夕刻にガハマに着いたが、副拠には寄らず、町で夕餉を摂ってそのまま北北西へ。目指すはガルツの港町だ。
 湖船では、馬たちを十分休ませたし、俺たちも仮眠を取ったから、夜行軍で一気にガルツまで行き、明日の廻船に乗るつもりだ。

 丑三つ時にゴーストが数体出たが、陰士のキョウちゃんズと、巫女の技を使えるアキナが、除霊をしてあっさりゴースト数体を撃退。ゴーズとの残滓を回収した。その後は何も出なかった。
 そして明け方にはガルツへ着いたのだった。

 朝餉は港の食堂で海鮮丼を食い、昼過ぎに出航する廻船の乗車券を購入した。和の国の海運は山髙屋の廻船が牛耳っているので、アキナのお陰で8割引きという夢のような身内価格だ。
 俺たちは例によって皆で一緒に泊まれる和室6人部屋に追加布団2人分で8人1部屋とした。雑魚寝になるがこれが楽しい。

 そしてガルツの港で俺用の流邏石を登録した。ガルツは、函府と結ぶ北航路と、宰府の最寄港のハタカを結ぶ西航路の起点で、重要な港なのだ。
 北航路は、ガルツを出て、ワジ、ガタニ、アタキを経由し、函府。西航路は、ガルツを出て、トリト、雲府、ギーハを経由し、ハタカ。北航路と西航路で、和国海わぐにかい側の主要港のほとんどを結んでいる。

 廻船での食事用に、船着場待合所の土産物店で、ガルツ名物の鯖寿司弁当と焼鯖寿司弁当をごっそり買い込み、後は酒やジュースを仕入れて、快適な船旅の準備を着々と完了させた。

 その後、ガルツの冒険者ギルドに寄って、ガハマからガルツへ来る途中で退治したゴーストの残滓を素材として換金し、出航の1時間前の乗船開始から廻船に乗り込んで、部屋で寛いだ。
 何と言っても昨夜は徹夜の夜行軍だったからな。船に揺られてうつらうつらというのもまた格別だ。

 俺は早速布団を敷いて、ごろりと横になった。するとすかさずキョウちゃんズが両横に潜り込んで来た。俺を5人の大人嫁たちが微笑ましそうに眺めている。落ち着く。いかにも一家団欒と言った感じではないか。

 俺は3歳のときに流行病でお袋を亡くし、顔もよく覚えていない。そして7歳のときには、ライとの死闘に敗れて深手を負った親父を亡くした。もちろん3人の叔父貴たちや家来どもがいたから寂しくはなかったが、それでも一家団欒には憧れているのだ。

 両横のキョウちゃんズの頭を撫でていると、ふたりは寝息を立て始めた。昨夜の夜通しの夜行軍では、ふたりはずっと式紙を飛ばして警戒していたからな。交代で休めと言っても、大丈夫、船で休む。の一点張りだった。
 そのまま俺もうつらうつらとなって来て、大人嫁たちのピーチクパーチクが何とも心地よい。女3人寄れば…というが、5人だからな。

 大人嫁たちのたわいもない会話をBGMに、両腕にほころび掛けた蕾を掻き抱きつつ、俺は贅沢なまどろみを堪能したのだった。

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設定を更新しました。R4/7/24

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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