射手の統領

Zu-Y

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射手の統領075 馬の気持ち

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射手の統領
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№75 馬の気持ち

 昨夜のアキナのメガネっ娘は実によかった。
 キョウちゃんズによる、ロリ化促進もそうだが、最近の俺の嗜好は、確実に特殊な次元に足を踏み出そうとしている気がしてならない。
 いわゆるわが道を行く人たちの仲間に入ってしまうのだろうか?そのうち、平気で「萌え~」とか口走るんだろうか?

 嫌だ嫌だ嫌だ。と嫌悪する自分と、好きなものは好きでいいんじゃね?と開き直る自分との狭間で揺れ動く今日この頃。
 うん、決めた。メガネっ娘はギリセーフだ。メガネを掛けてる成人の女だからだ。ロリはアウトだ。未成年だからだ。萌え~は論外だ。理屈ではないのだ。

 朝餉を摂って、俺だけ流邏矢で山髙屋ミャーツ支店に飛び、北斗号を受け取りに行った。
 近付いて行くと、俺を見てノアールとヴァイスが反応した。
 ノアールは、他の奴らが俺に反応しない中、前から反応してくれていた愛い奴だ。ヴァイスは、ここ最近になって反応してくれるようになった。
 ダークとセールイは、こちらからアプローチしないと反応してくれない。しかし、アプローチをすれば必ず反応してくれるので、関係は悪くはない。そのうちさらに良くなるだろう。

 曳馬たちに寄って、今日も頼むな。と、順に首をポンポンやって挨拶する。最後のセールイのとき、やたら俺に首をこすり付けて来た。
 おっと、何これ、急に甘え出してやんの。いつもはツンの癖しやがって、とうとうデレましたか?なんか嬉しい。

 俺は気分よく御者席に乗ってミャーツ支店を出て、そのまま中心街を抜け、西へ。しばらく進んで、天の浮橋前の宿屋で皆を拾った。
 曳馬たちの、サヤ姉、サジ姉、ホサキ、アキナに対する反応は、俺への反応と大差ない。しかしながら、当然のことだが、曳馬たちは、タヅナとキョウちゃんズには、よく反応する。そりゃそうだ。この3人は思念で曳馬たちと会話ができるんだものな。

 タヅナは馬たちと互いに思念でやり取りをする。この能力は姑どのから受け継いだ力だ。
 初めてキノベ本拠で姑どのと会ったとき、おとなしい方だと思ったが、タヅナ曰く、姑どのはおしゃべりらしい。思念で馬たちとしょっちゅう会話をしているのだそうだ。
 姑どのは、タヅナより思念の能力が強く、館の中にいても、館近くにいる馬ならば、思念での意思疎通ができるとのことだ。タヅナは、今のところ目の前の馬としか思念が通じないが、範囲は少しずつ広がっているらしい。
 しかし、タヅナも姑どのも、思念での会話は、馬に限られるとか。

 一方、キョウちゃんズは、曳馬からの思念が分かるだけだ。自分たちからは普通に話し掛けるのだ。馬は、キョウちゃんズの喋りをそれなりに理解しているように見える。キョウちゃんズは、自分から思念を飛ばせない分、馬以外の動物の思念も結構分かるらしい。
 キョウちゃんズのこの能力は、桁違いの気力量の多さがもたらす恩恵なのだが、その仕組みについては、ほとんど理解できなかった。
 と言うのも、この仕組みについては、以前、ライとウズに説明してもらったのだが、その内容が俺にはまったくチンプンカンプンだったのだ。
 まぁ、いい。とにかく今は事実として、受け入れている。

 さて、そのまま俺の御者で北斗号は出発だ。
 最近、何となく皆の配置が決まりつつある。アキナとキョウちゃんズは、式神が飛ばせるので、メイン車両屋上の見張台にいる。
 タヅナは御者台で御者をするか他の御者のサポート、サヤ姉、サジ姉、ホサキは御者台か後部座席にいて、普段は交代で御者をしつつ、戦闘時にすぐ飛び出せるようにしている。
 俺は御者台と見張台の両方を行き来する。御者もやるし、見張台では指揮を取る。と言うのは建前で、偏ることなく、嫁たちと幅広くコミュニケーションを取っているのだ。

 馬たちに指示を出して、川に沿って西へ向かいながら、横のタヅナに軽くドヤった。
「なぁ、さっきタヅナにもやってたけどさ、セールイのやつ、俺に甘えて来てさ。やっぱ俺にも懐いて来たのかな。」
「甘えるってぇ、どういうことぉ?」
「いや、首をこすり付けて来てたじゃん。俺にもあれをやって来たんだよね。」
「…。アタルぅ、言いにくいんだけどぉ、あれは甘えてるんじゃなくてぇ、首が痒くて掻いてただけなのよねぇ。」
 は?なんですと?俺は、孫の手の代わりかい!

「そうだったのか…。」凹む俺。つーか、ドヤってしまって、超ハズいんですけど。
「馬は犬や猫みたいにぃ、座って後ろ肢で首を掻くことはしないからぁ、柱とか木とかに痒い所をこすり付けるのよねぇ。」
 まったく悪気はなく、天然で俺にトドメを刺すタヅナであった。泣

 やがて北西方面へ山越え、小さな盆地の農村を馬手側に見ながら、弓手側の山の裾野に沿って反時計回りに進む。再び進路は西に戻って山道へ。この間、獣も見掛けないし、非常に長閑である。
 山道は狭くて操作が難しいので、プロのタヅナが御者を代わってくれている。上手いものだ。

 俺は、見張台に上がって、指揮所に腰を下ろした。キョウちゃんズは見張台をちょこまか動き回りながら、式神3体ずつを常に飛ばして、警戒している。交代で休めばいいのに。
 アキナは式神を1体しか飛ばせないが、これが普通である。消耗すると困るので、1時間おきに休ませている。キョウちゃんズに悪いと言うが、式神初心者が規格外と競ってもしょうがないのだ。

「なぁ、サキョウとウキョウは交代で休まないのか?」
「「いらん。」」
「しかしいざというときに大丈夫か?」
「式神は気力をほとんど使わんよって、休む必要はないねん。」
「いろんなとこが同時に見れるやろ。おもろいねん。」
「さぁ、私も頑張ります。」アキナが休憩を切り上げる。
「アキ姉、まだ休んどき。」
「せや。無理したらあかんで。」
「え?」

「アキ姉、まさかとは思うけど、休んどったらうちらに悪いとか、思てへんやろね?」
 黙り込むアキナ。俺が助け舟を出した。
「そりゃ多少は思ってるんじゃないか?」
「アキ姉、うちらと競うたらあかん。アキ姉は十分ようやっとる。上出来や。」
「でも…。」

「あのなぁ、店を出したときのうちらの売上は、ふたり掛かりでもアキ姉に全然敵わんやろ?あれ、まずいやろか?」
「そんなことないですよ。ふたりは商いの経験があるのかな?ってびっくりするくらいよくやってます。」
「それと同じや。うちら、売上でアキ姉に挑もうなどとは思わん。」
「馬の扱いでタヅ姉に勝とうとも思わんし、アタル兄を弓矢で負かそうとも思わん。」
「せやで。まさかアキ姉は弓矢でアタル兄に挑むんか?」
「分かりました。私のペースでゆっくり休みながらやります。気持ちが凄く楽になりました。ありがとうございます。」
 参った。まったくその通りだ。これは俺が言わなきゃいかんかった。

「サキョウ、ウキョウ、ありがとう。そしてごめんな。」
「「何がや?」」
「今のは俺が言わなきゃいけなかったことだ。リーダー失格だな。」
「そんなことないで。」「アタル兄もようやっとる。」
「セプトのメンバーは、皆よくやってます。」
「だな。」いい仲間を持った。

 山を越えて下りに入った。曳馬たちも頑張ったしここらで休憩にしよう。曳馬たちを馬車から外し、ゆったり木に繋いで秣と水を与える。
 メイン車両の片側だけ、側壁を3パーツとも上げ拡げて、簡易テントを作り、皆でゆったり昼餉だ。湯を沸かして温かい茶を用意して寛ぐ。

 今日の昼餉は、天の浮橋前の宿屋のイチ押し、ばら寿司だ。
 俺が馬車を取りに行ってる間に、嫁たちが昼の弁当を何にしようか相談していたところ、宿の女将が、この地方独特の郷土料理として、ばら寿司を紹介してくれた。
 ばら寿司はちらし寿司の別名なので、どこにでもあるのでは?と思って聞いたそうだが、この地方独特のものだと言うので、試しに頼んだそうだ。

 折にすし飯を敷き、その上に、鯖を炒り炊きにしたおぼろ、干瓢を散らして、さらにすし飯を乗せる。その上に再びおぼろと干瓢、さらに、たけのこ、錦糸玉子、かまぼこ、椎茸、青豆、生姜を散らして盛り付ける。
 色のバランスもきれいだが、味のバランスはもっと凄い。個性のある個々の具材が何とも上手く調和しているではないか。なんか、セプトのようだ。笑

 昼餉を終えて、再び出発した。山を下り切って進路を西北西に取り、さほど広くない平野を突っ切る。
 馬手側に見えて来たのは海ではなくクミマ湖だ。
 湖といっても、砂州で入口を塞がれた元は海で、河川からの淡水の流入により、海水が薄められた汽水湖である。カキの養殖が盛んだということだ。

 あー、それにしても昨日の夕餉の生ガキは旨かったなー。そうだ、焼ガキも食いてぇ。カキ食い放題のカキ小屋とかないかな。
 と、思ってたら、あるじゃないか!カキ小屋!早速焼ガキを食おうと提案したのだが…、
 しかし、味方はキョウちゃんズだけ。さっき、昼餉を食べたばかりではないかと、大人嫁全員から却下された。泣
 あー、さようなら。クミマ湖よ。クミマの湖港町よ。そして、香ばしい焼ガキたちよ。素通りする俺を許しておくれ~。大泣
 クミマ湖の焼ガキに後ろ髪を引かれる断腸の思いの俺を乗せ、北斗号は無情にも西へと進む。東へと徐々に遠ざかる焼ガキたち。さよ~なら~。

 いよいよ今日の行程の最後の山越えであるが、たいして高い山でもなく、あっさり越えてなだらかな下りを、川に沿って進む。
 この川は支流で、本流の結構大きな河に合流したところに橋もあり、橋を渡って対岸に行くと、そこはもう、今夜の宿泊地、キサキの温泉街であった。

 山髙屋キサキ支店に北斗号を預け、アキナが店長から支店近くのお勧め温泉宿を聞いてそこに行く。そしたら何と和室で10人までOK、露天風呂付きの大部屋があるじゃんか!ひゃっほーい。
 キサキの温泉は塩化物泉だ。ユノベ本拠の赤湯の、鉄分を含まないやつだ。鉄分がないから赤く濁らないで澄んでいる。
 塩化物泉は保温性に優れ、出た後もポカポカが続く。
 キサキ七湯と呼ばれる外湯もあり、七湯巡りもこの温泉街の名物だそうだ。実に魅力的だが、流石にその時間はない。

 部屋に行くと、ひと間だが8人には十分の広さ。部屋の露天風呂は、ふたりは十分行けるな。しかし、嫁たちは大浴場へ行く準備をしている。
「部屋の露天に入ろうぜ。」
「ごめんねぇ。私たちは大浴場に行くわぁ。」
「え?なんで?」
「大浴場は掛け流し、部屋風呂は循環では、比べるまでもなかろう。」そりゃそうだが。
「広くて…のびのび…できる…。」確かにそうだが。
「皆で一緒に入れますから。」いや、俺はボッチなんだが。
「アタルも悠々ゆったりと入って来なさいな。」皆とがいい。泣
 嫁たちはとっとと行ってしまった。
 ま、言われてみればそうだよな。掛け流しで広い方がいいに決まってるわな。ということでせっかくだから温泉を悠々と堪能した。他のお客さんもいたけどね。

 やはり塩化物泉はポカポカする。しばらくは汗が引かない。やっぱり温泉は普通の風呂じゃないって実感するね。
 帯を外して浴衣を羽織っただけにして、部屋の窓から外気を取り込んで涼んでいると嫁たちも帰って来た。
「ポカポカやー。」
「部屋やからいいやろー。」キョウちゃんズ、帯を解いてほっぽり投げ、浴衣を肩に羽織っただけって、前が開いてるじゃないか!パンツ穿いてるけど。
「そうね。アタルしかいないしね。」大人嫁たち、帯はしてるけど、両肩出すのやめろ。

「ちょっとその格好やめて。生殺し、やめて。」前屈みになって、文句を言う俺。結構情けない格好かもしれない。
「汗が…引く…まで…。」
「アタル、今更ですよ。」
「うちらはアタル兄と同じ格好やで。」「そやでー。」
 ちくしょう、こいつら!ふざけんなよ、もう、前屈みやめて、全員をガン見してやる!
 大人嫁はさすがに苦笑いをして浴衣を整えた。キョウちゃんズは、浴衣をチラっとかやって挑発して来るが、その程度の膨らみではまだまだである。笑

 皆でバカやってたら、夕餉の時間になった。いわゆる温泉宿の豪華な夕餉だ。昼に食いそこなった焼ガキが出て来た。ひとりひとつだけだが、大きくて旨かった。くそう、やっぱ、クミマのカキ小屋に寄っときゃよかったぜ。

 その夜、焼ガキを食いまくる夢を見た。

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設定を更新しました。R4/6/12

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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