射手の統領

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射手の統領067 赤飯と次ノ宮殿下の返礼

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射手の統領
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№67 赤飯と次ノ宮殿下の返礼

 食い過ぎの腹痛を起こしたキョウちゃんズを、サジ姉の部屋に連れて行き、サジ姉が診察した。

 しばらくして出てきたサジ姉は満面の笑みだった。
「大丈夫…心配…ない…。」
「でもかなり痛がってたよな?」こういうとき、サジ姉の言葉数が少ないのはもどかしい。
「あの…痛み…には…そのうち…慣れる…。」
「慣れるって…、じゃあ痛みは引いてないんだろ?薬は飲ませたのか?」
「大丈夫よ。アタル、心配ないって言ってるでしょ。男のあんたは引っ込んでなさい。」
「サヤ姉、男とかは関係ないだろ!」
「アタル、関係あるのだ。この痛みは男には分らん。つまり、明日は赤飯ということだ。」
「え?…そう言うこと?双子って同時に来るの?」
「そんな訳ないわよぉ。たまたまよぉ。」
「食中毒とかではなくて、安心しましたわ。」

 モジモジ×2&真っ赤っか×2のキョウちゃんズが部屋から出て来た。
「サキョウ、ウキョウ、おめでとう。痛みは大丈夫か?」皆からも次々とおめでとうを言われ、
「「おおきに。」」ふたりの声はかすれそうだった。

 早々に追い払われた俺は、部屋でひとり。
 キョウちゃんズはとうとう成長モードに入ったな。一生懸命食っていた努力が報われたか。何にしてもよかった。
 ライとウズによると、この後、成長が一気に加速するんだったよな。今は俺の脇の下にすっぽり収まるくらいだが、これから一気に伸びて、俺を抜いたりするんだろうか?キョウちゃんズを見上げる?そんな訳ないか。笑
 そんな訳あるのだった。それをアタルが思い知るのはもう少し後。

 ところで、マイドラゴンは暴走直前だ。宿屋に泊まって、輪番制が停止してから、今夜でもう1週間か。かなりやばい状況になって来た。
 テンバのユノベ本拠の最後の晩に、サジ姉にお世話になって以来だから、ホサキで止まってる。
 これから海路で商都に行くから、廻船の中では我慢だよな。やはり、今夜はホサキにお願いしよう。もしダメなら仕方ないから抜くか。マイドラゴンが俺の心を読んで牙をむいて来やがった。

 嫁の部屋へホサキを呼びに行く。出て来たホサキに事情を話すと、こんな日にと呆れているが、生理現象だからしょうがない。皆に断って来ると、一旦、中に入ってから、ホサキが出て来た。
 輪番制になった最初の夜は以前の従順なホサキだったが、回を追うごとに肉食化し、今夜のホサキは俺好みの超肉食だった。ホサキの一点集中攻撃と、俺の多面同時攻撃の戦いだ。夜中まで一騎討を繰り返した俺たちは、心地よい眠りに就いた。
 もちろん本番は抜きでだ。

 翌朝、朝餉はお祝いの赤飯。流石にキョウちゃんズは恥ずかしそうに食べるかと思っていたら、元気いっぱい、朝からガッツリ食っていた。キョウちゃんズの成長への飽くなき欲求は凄まじい。

 さて、今日の俺は、朝イチでアキナを同道して、タテベの御用宿でシルドを誘い、商都への廻船を予約しに東都総本店へ行く。明日の便がベストだな。
 キョウちゃんズの体調を考え、嫁たちは今日はオフ。そのまま御用宿へ泊る。二の叔父貴たちは、今日で御用宿を引き払ってテンバへと発つ。

 タテベの御用宿でシルドと合流し、アキナと3人で東都総本店の廻船チケット売り場へ行った。運よく明日の昼に出航する商都行があった。黒海流に逆らうので商都行は東都行より1泊多い4泊、寄港地は、ズオカ、名府、タイチ、そして商都だ。大型の廻船だから、北斗号も運搬できる。そうか、名府へも寄港するのか。

 シルドと話してこの便に決めた。シルドたちはもちろん商都まで行くが、俺たちは商都まで行くのは取りやめて、名府で下船することにした。名府からガハマの副拠に寄って、西都に行くことにしたのだ。西都では、交易品を仕入れ、可能ならサンキに会って、それからトリトを目指す。

 シルドは家来5人と帰るので、ツインを3部屋予約した。
 俺は例によって6人部屋だ。8人はギリ行ける広さだったので、布団2組の追加で予約した。
 1泊あたり、6人部屋大銀貨1枚と銀貨2枚に、布団2組追加でプラス銀貨4枚、大人6人で大銀貨3枚、子供2人で銀貨6枚、馬4頭飼葉付きで大銀貨4枚、北斗号大銀貨3枚、合計で金貨1枚、大銀貨2枚、銀貨2枚。名府まで2泊なので、総額金貨2枚、大銀貨4枚、銀貨4枚だ。結構な金額だ。
 しかし、アキナが一緒にいたのが幸いした。身内価格でなんと8割引だ。俺は、大銀貨4枚、銀貨8枚、大銅貨8枚を支払った。

 タテベ統領一行の出立を見送りに御用宿へ戻るシルドと別れて、俺はアキナと総本店の中に向かった。交易用品を仕入れるためだ。
「アタル、何を仕入れますか?」
「そうだなぁ、食品は腐るから除外。嵩張るのもパスだな。小物でいくらでも積めて、東都産としての付加価値がある物がいいな。簪や櫛や指輪などの装飾品や、紅や白粉の化粧品がいいと思うぞ。女にも売れるが男にも売れる。プレゼント用としてな。」
「アタル、目の付け所がいいです。私のイチ押しもそれですよ。他にはありますか?」俺の着眼を、アキナが嬉しそうに褒めてくれた。
「あとは、保存の効く食品かな。東都の佃煮は、古都でサンキたちが、商都に行かないと手に入らないと言って喜んでたしな。非常用として、食糧にもなる。」
「正解です。アタル、素晴らしいですよ。」

 アキナがそれぞれの売り場を回って、仕入値で相当な量を買い付けた。明日、北斗号のサブ車両に積み込むらしい。
「なぁ、アキナ、なぜ仕入値で買えるんだ?」
「ああ、それは、昨日パパと交渉して、北斗号を山髙屋の移動店舗扱いにしてもらったからです。」
「え?」

「次ノ宮殿下を送り出す前に、パパが、アタルのおかげで次ノ宮殿下が披露目に出てくれたから、アタルに何か礼がしたいと言うので、北斗号で交易する商品を仕入値で回してくれるようにお願いしたんです。そんなことでいいのか?とあっさりOKでした。」
「それで昨日、真相を聞いたときにあんなに笑い転げてたのか?」
「そうです。だから真相はパパには絶対に内緒ですよ。」
「なんか申し訳ないなぁ。」
「いいんですよ。そもそも宣伝に帝家を利用するなどと、大それたことを考えたこと自体が、不敬なのです。」

 その後、社長室を訪ねた。
「舅どの、仕入値で商品を分けて頂いて、ありがとうございます。」
「何の、お安い御用です。それよりこれをお持ちください。」社長は上機嫌だ。
 社長から渡されたのは、北斗号を山髙屋移動店舗に指定する証明書だった。
「これを提示すれば、すべての店舗で、仕入値で商品を分けてもらえます。また、緊急時にはアキナの決済により、無利子・無担保で大金貨100枚まで短期貸付ができます。さらに、各営業所で北斗号の一時預かりも可能です。」
「何から何まで本当に申し訳ない。」
「いえいえ、次ノ宮殿下を説得して頂いたほんのお礼ですよ。」心が痛む。苦笑
「パパ、そう言えば、義姉さんとマスマを、アタルに紹介したいんですが。」
「おお、そうでした。これから自宅までご足労頂いてもいいですか?」社長の自宅は山髙屋総本店と隣接している。

 社長宅では、美人だがケバいお姉さんが出迎えてくれた。まさかこの人?
「アタルどの、紹介します。家内です。」社長デレデレだぞ。互いに挨拶を交わして、居間に通された。
「あー、ねぇねー。おかえりー。」ちっちゃい子がアキナにダイブして来た。
「マスマ、元気にしてましたか。」アキナがマスマを抱き上げて話し掛けている。絵になるなぁ。

 マスマはすぐに俺に打ち解けた。まだ3歳だというのにこの子は利発だ。奥さんは見た目の第一印象とは異なり、話題が豊富で非常に理知的だ。社長、奥さん、マスマは、親子と言うよりは、親子3代に見える。まぁ、それは言わないでおこう。笑
 社長も忙しい人なので、社長と俺は30分程度で社長宅を出た。アキナはもうしばらくいると言うのでここで別れた。

 それから俺は、キノベ陸運の東都営業所へ向かった。トウラクに会いたかったのだ。この時間だと御用宿にはもういまい。キノベへ発つとしても営業所には寄るだろう。
 案の定、キノベの一行は営業所にいた。
「トウラク、これからミーブへ出発か?」
「おう、アタルか。どうした?」
「見送りだよ。俺たちも西へ発つから、しばらく会えないだろ。」
「そうか、すまんな。それと昨日は、次ノ宮殿下に引き合わせてくれてありがとうな。父上も大層喜んでいたぞ。」

「あらぁ、アタルぅ、どうしたのぉ?」
「トウラクの見送りにな。タヅナも来ていたのか。」
「えへへぇ。これ見てぇ。」タヅナは、何やら証明書のようなものを出した。
「キノベ陸運営業所特別優遇利用許可証?」
「山髙屋さんには全然及びませんがぁ、キノベ陸運も主要な町には営業所があるのでぇ、馬と北斗号のメンテや一時預かりをぉ、お願いできるようになりましたぁ。特別優遇なのでぇ、曳馬の飼料も格安で欲しいだけ手に入りますぅ。」
「おお、それは凄いな。でも陸運の責任者ってハミどのだよな?ハミどのはミーブだろ?流邏石でミーブを往復して来たのか?」

「父上の決済ですぅ。陸運は姉上に任せてるのでぇ、父上はめったに決済を出しませんがぁ、昨日のアタルへのお礼だそうですぅ。」
「昨日のお礼って?」
「兄上を次ノ宮殿下にぃ、莫逆の義兄弟とぉ、紹介してくれたことですぅ。」
「それは、実際にそうだからな。とにかく、舅どののところへお礼に行こう。」

 俺は、トウラクとタヅナと一緒に、営業所のキノベどのの控室に向かった。すぐに中に通された。
「おお、アタルどの、此度はトウラクを次ノ宮殿下に引き合わせて頂いて忝い。次ノ宮殿下の帰り際にな、『そなたがユノベ統領の莫逆の義兄弟なら、そなたも帝家の忠臣。よろしく頼む。』との勿体ないお言葉を、トウラクが次ノ宮殿下から直接賜ったのだ。」
「こちらこそ、営業所の特別優遇利用許可証を頂きまして、ありがとうございます。旅の最中、心強いです。」
「なんの、なんの。ほんの礼じゃ。些細なことよ。」
 それからしばらく談笑し、トウラクたちの出発を見送った。

 タヅナと一緒に御用宿へ帰ると、まもなく山髙屋でいったん別れたアキナも帰って来た。
 昼餉の後に、皆で装備屋に行って、それぞれの武器のメンテナンスや、矢の補充を行った。それから、収納腕輪を持っていなかった、サヤ姉、サジ姉、サキョウ、ウキョウに収納腕輪を購入した。これで皆、武器や防具の一部を収納できるので、嵩張らないで済む。
 その後、道具屋へ行って、皆の流邏石に気力をチャージし、サジ姉の薬嚢に種々の薬を補充した。航海に備え、酔止薬を多めに買い込んだ。

 明日は西へ発つから今夜は東都最後の夜。とくれば、やっぱり東都前寿司だよなぁ。そうだ、シルドも誘おう。タヅナをタテベの御用宿に迎えに行かせた。
「らっしゃい。」
「大将、またしばらく西に行くことになったんで、最後の夜はここに来た。」
「お、嬉しいねぇ。じゃぁ、飛び切り旨いとこを食わせてやるよ。」
「「大将、いつもの!」」キョウちゃんズのいつものとは、穴子一本握りだ。
「嬢ちゃんたちともしばらくお別れか。さみしくなるぜ。」
「うちらもな、いつものとしばらくお別れなのは辛いやんかー。」
「せやからな、今夜はいつものをいっぱい食べるんや。」
 大将がずっこけた。キョウちゃんズにとっては、大将よりも、穴子一本握りとの別れの方が辛いらしい。笑

 しばらくしてホサキがシルドを連れて来た。
「シルド、急な誘いですまなかったな。」
「もう少し遅かったら家来たちと食事に出ていたとこだった。
 それとな、父上がくれぐれもよろしくとのことだ。」
「ああ、そうか。今朝はシルドと合流してすぐ出発したから、舅どのにはご挨拶できなかったな。」
「そのことよ。アタルと別れて早々に帰ったので、父上の出立の御見送りには間に合ったのだがな、『アタルどのが迎えに来たときになぜ知らせんのだ?直接、礼を言えなかったではないか!』と、大目玉を食らったわ。」

「礼?何の礼だ?」
「アタルが、次ノ宮殿下に俺のことを獏額の義兄弟と紹介してくれただろ?あのおかげでな、次ノ宮殿下がお帰りの際に、『そなたがユノベ統領の莫逆の義兄弟なら、そなたも帝家の忠臣。よろしく頼む。』とのお言葉を直接賜ったのだ。
 披露目から帰る馬車の中で父上から『殿下は何と仰せだったのだ?』と聞かれたのでその話をしたら、父上がそれにえらく感激されてな。」
「そうだったのか?」
「次ノ宮殿下からあれだけの信頼を勝ち得ているとは、わが婿ながら天晴。只者ではないと仰せであった。」
「いや、そう言うことではないのだがな。」次ノ宮殿下め、山髙屋といい、キノベといい、タテベといい、完全に外堀を埋めて行きやがった。ここまでやらなくても、約束は守るつもりだったのにな。
 次ノ宮は、アタルが約束を守ることは分かっている。実はこの一連の動きは、次ノ宮にしてみれば、北斗号に乗せてもらった細やかな返礼に過ぎなかったのだ。

 それから俺たちは、東都前寿司を堪能した。シルドは「旨い。」とひと言だけしか言わなかったが、その食いっぷりが、相当気に入ったことを示している。
 やはりここへ誘ってよかった。
 今夜は二次会はなしだ。
「最後の夜は、家来どもとも付き合わにゃいかんからな。」と言ってシルドは御用宿へ帰って行った。

 明日はいよいよ商都へ出航だ。御用宿では、俺はシングルである。昨日、ホサキにご奉仕してもらったし、今夜はゆっくり眠ろう。

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設定を更新しました。R4/5/22

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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