射手の統領

Zu-Y

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射手の統領056 朝駆と騎射

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射手の統領
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№56 朝駆と騎射

 警戒していた夜討がなく、安心して眠ったら朝駆に遭った。ふたりの気配に目覚めると、両横にニマニマしているキョウちゃんズがいた。裏を掻かれてしまった!

「アタル兄、ドラちゃんはうちらに反応しとるんやろ?」
「嘘はあかんよ。正直に言うてみ。」
「ふたりとも、何てかわいいんだー。」と言ってギューっと抱き締めたが、返ってきたのはジト目×2だった。おい、13歳でジト目を使いこなすんかい。

「「正直に、言うてみ。」」はい、すみません。
「正直に言うとな、先一昨日までは確実に違った。昨日からは正直分からん。違うとは思うんだが、そう言い切る100%の自信がない。確かに風呂では、マイドラゴンに変身したからな。
 なぁ、ひょっとして、俺が酔い潰れた夜に何かあったか?」
「ドラちゃんの操縦法を教わっただけや。」やっぱりか!
「そしたらドラちゃんが懐いて来よったんや。」そうなのか!

「マジか?操縦法ってなんだよ?」
「「頭なでなで、喉こちょこちょ、耳裏こりこり、口れろれろ。やな。」」
「何だ、その童歌みたいのは?」
「ドラちゃん操縦の極意や。」「サヤサジ流奥義や。」
 最後の口れろれろが妙に気になるが、子供には聞けない。というか、子供の口からその答えを聞きたくない!それとサヤサジ流ってなんだよ。

「ひょっとしてだが、いろいろ描いたのにも加わったのか?」
「うん、うちはドラちゃんの顔描いたんよ。上手やったやろ?」
「うちは胴体の鱗を描いたんよ。なかなかの自信作や。」
 俺、口パクパクの酸欠金魚。詰んだ…。
「まさか、ふたりは嫁会議に加わったのか?」
「「うん。」」
 はあああ、すべては酔い潰れた俺の失態。しかし大人嫁は5人もいながらなぜだ。ひとりくらい止めてくれてもいいだろ。子供を巻き込むなよ!

 しかしマイドラゴンがキョウちゃんズに懐いたということは、やはりキョウちゃんズに反応してるということになるよな。であるならば、やはり俺はロリコンのカテゴリーに入ってしまうのであろうか?それだけはなんとか回避したい。と、考え込んでいたら、とんでもないことが起きた。

「おい!お前らいきなり何してんだ。」
「ドラちゃんと遊ぶんや。」
「アタル兄、じゃませんといて。」
「いやいや、子供のすることじゃないから。それに俺のだから。勝手に弄らないでくれ!」
「「えー、いけずー。」」
 俺は危うくズリ下ろされかけたズボンを引き上げた。まったく油断も隙もありゃしない。
「さあ、朝餉に行こうぜ。」俺は跳ね起きた。

 皆で朝餉を摂った後は、それぞれの稽古だ。
 今日の馬の技の稽古だが、俺は馬場で、タヅナのマンツーマン指導のもと、ひたすら駈歩である。
 サヤ姉、サジ姉、ホサキ、キョウちゃんズは、ギャロと外乗に出た。アキナとロップは弓の技の稽古で的場に向かった。

 午前中の俺の相棒は、キノベのフォレストだ。こいつはいたって素直で、昨日のキングのような悪戯はしないが、歩幅が大きく、駈歩の際に上下動がややきついので、そこに順応して欲しいそうだ。
 左手前、右手前の順に、駈歩を行った。フォレストの上下動は、それほどでもなく、歩幅が広くてぐいぐい進むので、俺は気に入った。商都から戻るときの廻船でもそうだったが、俺は揺れには強いのかもしれない。

 駈歩に慣れて来たら、手放し駈歩の稽古に入る。騎射をするには両手を空けねばならぬから手放しは必須だ。
 鐙をしっかり踏み、踵を落として両下脚で馬体を挟むようにし、駈歩による馬体の上下動を、膝をクッションにして吸収し、上体を安定させる。腰はやや前傾させて丹田を押し出しつつ反って上体を垂直にし、顎を引いて脳天の延長は天空の遥か上方へ。そのまま駈歩の馬上で、徒手の八節~足踏み・胴造り・弓構え・打起こし・引分け・会・離れ・残心~を繰り返す。
 馬上では地上以上に胴造りが重要だ。馬上での縦線の維持は今の俺には至難の業だが、繰り返しの鍛錬によって必ず身に着くとの手応えを感じた。ひたすら稽古あるのみだ。フォレストのきつい上下動が、またとない騎射の鍛錬となっていた。

「アタルぅ、凄ぉい!乗れてるぅ、乗れてるわぁ。その調子よぉ。」タヅナは褒め上手だ。ついつい乗せられてしまう。
 その繰り返しで午前の稽古を終えた。俺はフォレストに首ポンポンをして、感謝の意を伝えて下馬した。腰から下、特に膝がガクブルだ。

 外乗組も帰館し、弓の稽古のアキナも合流し、皆で昼餉だ。

 昼餉の話題は、互いの午前の稽古のことだ。アキナは、午前中はずっと巻藁稽古だったそうだが、射がだいぶ安定して来たようだ。的前での射込稽古に上がるのも近いかもしれない。
 外乗組は駈歩と速歩を繰り返してたそうだが、景色が変わるので気分がいいらしい。しかし俺は、外乗よりも、午前の稽古の駈歩の馬上での八節を、徒手ではなく、弓矢を用いてやりたい。

 午後の稽古は、俺の希望通り、ユノベの流鏑馬稽古用の直線路で実射することになった。
 午後の相棒はキノベから購入したノアールだ。漆黒の青毛が美しい。こいつとは旅を共にすることになるからしっかり馴染まないとな。

 外乗組は、午前は弓の稽古だったロップとともに出発した。午後は襲歩をやるそうだ。さすがにユノベの狭い馬場では襲歩は無理だからな。アキナは、ギャロと弓の稽古に行った。

 まずは、通常の馬場でノアールとの駈歩。午前中、上下動のきついフォレストで鍛えられたせいで、癖がない走りをするノアールは、非常に乗りやすかった。昨日のキングのような悪戯もしない。

 さて、いよいよ直線路に移動して騎射だ。
 騎射用の矢は筈が八の字に開いている。確かにこうしないと、揺れる馬上で筈に弦を噛ませるのは無理だ。そして弦にも矢止めの珠を噛ましている。こうしておけば矢の八の字の筈を上から弦にはめて下げれば、弦の適性位置で矢が止まる。騎射ならではの工夫だ。
 直線路の弓手側には、流鏑馬稽古用の的があるから、それを狙ってみよう。イメージ的には、こちらが動いているせいで的が動いて見えるから動き的、駆け抜ける馬のせいで的が次から次へと来るから速射、そして的心を射抜く精密狙い、馬上で3つの奥義が要る訳だ。

 最初から上手く行く訳がないのは分かっていたが、始めてしばらくは散々だった。
 まず矢が的をかすりもしない。矢番えにもたついて二の矢が継げない。まぁ、気長にやるさ。そのうち慣れれば何とかなる。繰り返し稽古をするのみだ。弓に気を取られて、馬の技が雑にならないように、タヅナには馬の技だけを見てもらった。

 踵が浮く。揺れの吸収が乱れる。上体が動く。的に向かって重心がずれる。などなど、タヅナに指摘された修正点に気を付けると、やはり馬上で安定して、的中も出るようになって来た。
 だんだん図星に入る率が向上して来て、いち早く、動き的と精密狙いはクリアしつつあったが、速射がイマイチ間に合わない。矢番えがどうしてももたつくのだ。素早い矢番えだけなら、それこそ部屋でも稽古できるから、今日からやろう。

 午後もみっちり稽古に励み、下半身の負担はピークに達していた。お礼の首ポンポンをして下馬すると、地面に立つと同時に、腰砕けになってへたり込んでしまったのだ。くそう、軟弱な足腰だ。情けない!しかし、実際のところは、今日丸1日、スクワットしてたようなものだからな。
 タヅナに助け起こされ、何とか立ち上がって、よたよたしながらノアールを馬房に連れて行き、感謝を込めて手入れを行った。飼葉をやると大喜びする。それが嬉しい。

 外乗組も帰って来た。俺の下半身、特に尻と太ももとふくらはぎがパンパンで、すでに筋肉痛も出始めていた。帰ってきたサジ姉を捕まえた。
「サジ姉、帰って早々悪いけど、回復の術をお願い。下半身がパンパンで筋肉痛が出始めているんだ。」
「それは…明日…丸1日…休んで…自力で…回復…した方が…いい…。」
「なんで?」
「筋肉痛は…筋肉が…あちこちで…痛んでる…証拠…。」
「だから回復の術を掛けてよ。」
「回復の…術は…壊れた…所を…元に…戻す…だけ…。」
「だから元に戻してよ。」
「自力の…回復は…損傷を…治して…補強…する…。」
「え?そうなの?」
「筋肉を…とことん…イジメたら…翌日は…休ませる…。筋トレの…基本…。」
「知らなかった。」
「今日は…冷泉が…お勧め…。炭酸の…マッサージ…効果と…、炎症を…ゆっくり…冷却…。」
「ありがとう!」俺は冷泉へ向かった。

 ユノベの冷泉は、冷泉と言っても冷たくはない。温泉に対して冷泉と呼んでいるが、湧水のカテゴリーでは、冷鉱泉ではなく、低温泉の部類に入る。いわゆるぬる湯だ。
 冷泉に浸かっていると全身が気泡に包まれ、気泡がプチプチとマッサージ効果をもたらし、血行を促進する。酷使により傷んだ筋組織は、炎症を起こしていたとしても、心地よい涼感により癒されていく。

 そろそろ来る頃であろうか?… … … … …、来ないな。
 あれ、なんだか、がっかりしてないか?俺。ここんとこ頼られてたから、情が移ったかな。決してロリではないぞ。
 そのまま気泡のマッサージを堪能した。のぼせないで長時間浸かってられるのがいい。
 冷泉から上がるとき、バキバキの筋肉痛でひと苦労だった。

 何とか夕餉の席にたどり着くと、皆はもう揃っていたが、食べずに待っていてくれた。
「ごめん。待たせたな。」
「相当…きつそう…。」
「うん、特に腰から下がバキバキだ。」
「仕方ないわぁ。今日は1日中、スクワットだったものぉ。」

 それにしても、1日外乗に行ってた皆は大丈夫のようだ。俺だけか。微妙に凹む。
 外乗組は、午後に襲歩をしたそうだが、5人ともまったく問題なかったという。
 アキナは午後の最後に初めて的前に立ち、いきなり初矢から的中したそうだ。まぐれでいきなり的中することは稀にあるのだが、二の矢も入って、指導していた二の叔父貴が大層驚いたらしい。
 俺は初めて騎射をやったことを語った。
 こういう身内で食卓を囲っての団欒はやはりいいな。両親を早く亡くしたひとりっ子の俺には特にありがたい。

 夕餉を終え、部屋へ戻るにも体がバキバキである。
「アタルがこんなだから、今夜はゆっくり休ませましょう。今夜は嫁会議でいいかしら?」
「私たち…から…ひとつ…提案も…ある…。」
「うちらも行ってええの?」
「もちろんだ。先一昨日、ふたりは正会員になったからな。」

 嫁会議の議題が気になるが、今日、ひとりでゆっくり休めるのは助かる。それにしても、この体のバキバキは何とかならんものか。

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設定を更新しました。R4/5/1

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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