射手の統領

Zu-Y

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射手の統領054 古都でひと暴れ

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射手の統領
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№54 古都でひと暴れ

 夜の帳が下りて来た頃、ようやく俺は古都に着いた。
 俺は古都の冒険者ギルドに着くと、新品の流邏石1個に古都ギルドを登録し、ギルドの中に入った。

「ですからこれではダメなんですよ。大猪じゃないですか。このクエストは猛猪なんです。」
 ここの受付のお姉さんもなかなかの美人さんだ。でもケバいな。それに巨乳だ。俺はパスだな。
「何言うてんねん。この大きさはどう見たって猛猪やろ。」そうだそうだとまわりの3人が騒ぐ。この4人はパーティかな?どれどれ。…、小っさ!
「おい、お前ら猛猪を見たことないのか?」
「なんやと?」
「こんな小ちぇえのが猛猪の訳ないだろ。猛猪ってのはな…。」
 俺は収納腕輪から猛猪を出した。でーん!ゴロツキどもが主張する猛猪(仮)のちょっこら倍の大きさがある。息を飲むゴロツキ4人と受付嬢。
 まだあるよ。でーん、でーん、でーん。ゴロツキ4人も受付嬢も無言…と言うかフリーズしてる。笑

「西都で受けたクエストは、猛猪3頭だったんだが、番いが2組出て来たんで、4頭狩ることになった。」
 俺が受付嬢に依頼書を見せると、受付嬢はゴロツキ4人に向かって言い放った。
「シカセンベの皆さんが受けていたクエストは、こちらの方が先に達成しました。」
「西都と古都に同じクエストを出してたのか。すまんな、報酬で1杯奢るから勘弁してくれ。」

「あんた、仲間はどこや?」
「今日はソロだよ。」絶句するシカセンベの4人と受付嬢。
「それとこれもな。」俺は大烏4羽も収納腕輪から出して、もう1枚の依頼書も見せた。引きつるシカセンベの4人と受付嬢。

「そう言えばお名前を聞いてませんでしたね。私は受付のチアキです。」
「アタルだ。」
「では、報酬を算定しますのでしばらくお待ち下さい。」
「それとな、宝物殿の館長を兼ねているというギルマスに会いたい。勅許があるのだ。」俺はチアキに勅許を見せた。
 チアキは血相を変えて出て行った。ギルマスルームに飛んで行ったに違いない。
「おい、お前ら、これで一杯やってくれ。」
 俺は、勅許を目の当たりにして固まっているシカセンベのゴロツキ4人組に大銀貨1枚を渡す。4人は喜んでバーカウンターに向かった。
 ギルドにはちょっとした酒場も併設されているのだ。

 しばらくしてギルマスルームに通され、ソファーを勧められた。
「ギルマスのダイワや。勅許を持っとるそうやな。偽物やないやろな。」随分ご挨拶だな。
「アタルだ。本物か偽物か自分の眼で確かめろ。あんたは帝家宝物殿の館長も兼ねてるんだから、勅許の真贋くらい見抜けるだろう?」俺は勅許を渡した。

 チラチラと俺を見ながら、勅許に眼を通していたダイワは、勅許を俺の前に置き、ふうと溜息をついて言い放った。
「本物には見えんの。」この野郎。サンキが会ってのお楽しみと言ってたがこう言うことか。偽物と難癖付けていたぶる気だな。とんだ曲者だ。今後のために少し懲らしめといてやろう。
「そうか、ならば東都に帰り、この偽勅許を寄越した次ノ宮を締め上げるだけだ。あんたに偽物だと言われたと言ってな。」
 俺は勅許を持って立ち上がり、踵を返した。

「待ちいな。」待たねーよ。今日はこんなのばっかだ。
 シカトしてギルマスルームを出ると、ダイワが追って来た。
「待てと言うとるやろ。」
「真贋も見抜けぬ無能に用はないな。時間の無駄だ。」
「戯言や。」
「お前は畏れ多くも勅許に戯言をかますのか?そんな不敬な奴が帝家宝物殿の館長とは聞いて呆れる。」
「やり過ぎたわ。この通りや。堪忍せい。」ダイワが頭を下げたので、俺はギルマスルームのソファーに戻った。

 ふざけた態度を取ったダイワを懲らしめるために、俺は敢えて横柄に振舞うことにした。
「勅許の内容は見たな。金剛鏑をすぐ持って来い。」
「明日までに用意させてもらうわ。」
「ふざけるな。すぐ持って来い。できぬならこのまま東都の次ノ宮に怒鳴り込むだけだ。お前に偽物だと言われたと言ってな。」
「くっ。」予想外の展開なのだろう。苦虫を噛み潰したような顔になるダイワ。
「30分だけ待ってやる。すぐに取りに行け。」俺はわざとソファーにふんぞり返り、シッシッと追い払う仕草をした。

 ダイワが出て行ってしばらくすると、ごっついのが3人入って来た。冒険者か?
「おのれか、調子に乗っとるガキは。」
「世間っちゅーものを教えたるわ。」
「覚悟せいや。」

 俺はすぐに雷撃矢と水撃矢を部屋中に放って、ギルマスルームを無茶苦茶にしてやった。3人はずぶ濡れになって感電し、その場にひっくり返った。3人とも白目をむいてぴくぴくしている。
 ダイワが部屋に飛び込んで来て、ギルマスルームの惨状に絶句した。
「早いな、こんなに早く持って来られるなら、明日来いとか、勿体付けるんじゃねーよ。」
「何てことしてくれたんや。」
「それはこっちの台詞だな。真贋も見抜けぬ無能は、所属する冒険者の躾もできないと見える。で、金剛鏑はどうした?」
「宝物殿はもう閉めとるんや。せやから明日て言うたんや。」

「お前、館長だろ?これ以上拗らせたくないなら早く取って来い。それとも、もう少し暴れてやろうか?」
 ダイワの表情が引きつった。こいつ、すぐに顔に出るな。タケクラやサンキに比べると、明らかに見劣りする。性格も腹の据わり方も二流だ。
「残りはあと20分だ。5分ごとに暴れるからなるべく早くしろ。
 ライ、3倍。」
『くくく。アタル、分かって来たではないか。』ライが嬉しそうだ。

 俺は壁に3倍雷撃矢を放ち、ギルマスルームの壁一面を吹き飛ばして、外が見えるようにしてやった。ダイワはお口パクパク酸欠金魚。
 壁をぶち抜いたので外がよく見える。
「ほう、あれが宝物殿か。いっそ直接打ち込んで崩壊させ、俺が探しに行くかな。」
 ダイワは踵を返すと、猛ダッシュで宝物殿に向かって行った。
 宝物殿を眺めているとギルドから出た人影が宝物殿に走って行き、護衛らしき数名も出て来て、正面玄関に集っている。鍵を開けているようだな。そろそろ5分経つな。
「ウズ、3倍。」
『そうだ。どんどん追い込め。さすれば言いなりになる。』ウズも嬉しそうだ。
 俺は宝物殿の外塀に3倍水撃矢を放ち、水流で外塀の一部を崩壊させた。
「やめてくれー。」ダイワの悲痛な叫び声が聞こえる。これはもっとやれと言うフリか?フリなのか!笑

 しばらくして宝物殿から出て来た人影が、ギルドに向かってダッシュで走って来る。すぐに、ダイワが息を切らしてギルマスルームに駆け戻って来た。

「これや。」箱を差し出して来たので開けて中身を確認した。金剛鏑だ。
「確かに受け取った。ハナから素直に出せばいいものを。」
「弓矢で属性攻撃って、いったいどないなカラクリや?」
「無能のギルマスに話すつもりはないな。」
「くっ。こんなことして、ただではすまんで。」虚勢を張ってやがる。

「勅許を蔑ろにした不敬者を懲らしめただけだ。これが表沙汰になれば、あんたこれだけでなく…、」俺は首切る仕草をした。
「…下手すりゃお縄だぜ。」目の前で手首と手首を合わせてお縄のポーズをとってニヤリと笑う。
「くっ。」
「自腹で修理して、黙ってもみ消すのがいいんじゃないか?まぁ、身から出た錆だな。ところで、次に小細工を仕掛けてきたらとことん潰す。古都から冒険者ギルドと宝物殿が消えることになるぜ。分かったか?」
「はい。すみませんでした。」顔面蒼白になったダイワは、その場に土下座して、頭を床に擦り付けた。
「おいおい、男が容易く土下座するんじゃねーよ。みっともねぇ。」俺はギルマスルームを後にした。

 ロビーに戻るとチアキが怯え切った声で話し掛けて来た。
「報酬は金貨2枚と大銀貨8枚です。」
「ああ、すまんな。それと、調子に乗ってるギルマスを少し懲らしめただけだ。チアキさんたちには危害を加えるつもりはないから、そんなに怯えないでくれよ。」
 俺はチアキに微笑んだ。ほっとしたチアキはブンブンと頷いた。巨乳も一緒にブンブン揺れた。笑

 ロビーでは、シカセンベの4人が呑んでいた。挨拶をして来たので、俺は軽く手を上げて応え、古都ギルドを出た。
 このままテンバに帰ることも考えたが、やはり、西都のサンキには金剛鏑が手に入ったことを報告して行くのが筋だな。手頃な宿屋を探してシングルひと部屋を取った。

 さて、夕餉を食うか。
 やはり古都と言ったら柿の葉寿司だな。塩漬けにした鯖や鮭を酢飯と一緒に柿の葉でくるんで重しを載せてひと晩おいたものだ。
 柿の葉寿司を扱ってる居酒屋に入り、軽く一杯やりながら、柿の葉寿司をつまむ。うん、旨い。酒のアテにいいな。しばらく手酌で呑んでいると、居合わせた客の会話が聞こえて来た。

「ギルドがとんでもないことになりよったで。」
「宝物殿の外塀も壊れとったな。」
「ギルドには落雷が直撃したようなんやが、今日は雷の出る天気とちゃうで。」
「宝物殿の外塀は何や水浸しで、流された様な壊れ方らしいの。水はどこから来たのやろ?」

「ちょっといいか?それならな、ギルマスのダイワが帝家の勅許を蔑ろにして、制裁を受けたとばっちりだぞ。」
「ん?あんたは誰や?」
「旅の者だ。」
「東のお人やな。どこからその情報を仕入れたんや?」
「クエスト報告でたまたまギルドにいたんだよ。」
「そうなんか!どないな感じやった?」
「よく分からんが、上の階でバリバリドッカンと凄ぇ音がして、そのあとザッパーンって音が外でしたな。」
「やはり落雷と激流なんやろか?」
「音だけで直接見てないんで何とも言えんな。」実は俺がやったんだがな。笑

「よう分からんが、まあ、あのギルマスは根性悪で調子乗っとったさかい、ええ薬やで。」
「勅許を蔑ろにして制裁を受けたんやったら、自腹で修理してもみ消すやろの。」
「これだけ大騒ぎになって、もみ消せるかの?」
「どやって誤魔化すか、楽しみやな。くくく。」

 その後もいろいろギルマスの話を聞いた。違法なことやあくどいことはしなかったが、ちょっとした意地悪や嫌がらせをちょくちょくしてたから評判は悪い。
 意地悪や嫌がらせは、憂さ晴らしなのだろうか?やはり小者だ。

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設定を更新しました。R4/4/24

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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