射手の統領

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射手の統領044 三方よし

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射手の統領
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№44 三方よし

 俺たち6人は山髙屋の東都総本店に着いた。

 受付でアキナを呼んでもらう。アキナはすぐにやって来た。
「アタル、お帰りなさい。早かったですね。」
 アキナは俺だけを見てぐいぐい近付いて来た。俺に抱き付きそうな勢いで、まとわりついてるキョウちゃんズを轢きそうになる。キョウちゃんズがムッとした。
「危ないやないの!」「何やの、この人?」
「あら、すみません。大丈夫でしたか?」腰を屈めてキョウちゃんズ目線になって詫びるアキナ。
「大丈夫やったけど、気を付けてぇな。」「ホンマやで!」

「アタル、この子たちは?」
「西都で仲間にしたサキョウとウキョウ、とても優秀な陰士だ。
 サキョウ、ウキョウ、この人はアキナ。セプトの商人だ。ゆくゆくは俺の嫁になる。」
「アタル兄、嫁は何人おるの?」
「サキョウとウキョウを入れて7人だな。」
「「え?うちらも。」」真っ赤っか×2。モジモジ×2。

「嫁7人でセプトなん?」
「いや、違うぞ。セプトは七神龍の七だ。」
「じゃあ、まだ増やすん?」
「それは分からんが、当面は増やす予定はないぞ。」
 お前ら、瓦版屋かい!と突っ込みたくなる。タジタジの俺に、アキナを含めた大人嫁4人は笑っていた。

「アキナ、小父さんとの話はどうなった?」
「大筋で渋々合意と言うところです。
 当たり前ですが、ユノベとの提携には大いに乗り気です。アタルのゴムのアイディアには完全に惹かれてます。マスマと義姉さんを迎え入れるのも大歓迎です。でも、私が山髙屋から離れるのがどうしても嫌なようです。何とか山髙屋に残る道を残せないかと渋っています。」
「上出来だ。」
「あとはアタルと直接話したいそうです。私について、何とか妥協を引き出したいのでしょう。遠慮なくパパをやり込めて下さい。」

~~アキナ目線・4日前~~

 廻船は今日の午前、無事、東都港着いた。そこでタヅナ隊、サンファミと別れ、アキナは、山髙屋社長=パパに、商隊任務完了の報告に行った。
 昨夜、廻船の船室でアキナは、山髙屋社長との交渉について、あれこれ考えていてなかなか眠れなかった。
 アタルが言うように、義姉さんとマスマを交渉材料にすることも考えたが、これは切り札としてギリギリまで取っておいた方がいい様に思えた。
 結局、小細工はやめて、損益をそれぞれ説いて、益が大きいことを認めさせればよい。と言う結論に達した。なんたってパパは生粋の商人なのだから。

 商隊任務完了の報告を終えたアキナは、山髙屋社長に切り出した。
「パパ、重要なお話があります。引き続きお時間を頂けますか?」
「おやおや、改まってなんだね。」
「今回護衛して頂いたセプトのリーダーのアタルですが、ユノベの次期統領です。」
「なんだって?」驚く社長。

「セプトが結成後すぐに急成長したのと、あのタケクラさんが新米パーティを商隊護衛に推すので、何かあると思って調べさせてはいたんだよ。ユノベで地位がある者らしいと言うところまでは掴んでいたのだが、まさか次期統領とは…。
 ん?ユノベの次期統領なら、最近立て続けに婚約したはずだな。ということは他のメンバーも?」
「そうです。それぞれトノベ、ヤクシ、タテベの姫です。」
「そうか、ユノベ、トノベ、ヤクシの同盟は先代からだが、そこにタテベも加えるのか。一大勢力だな。」
「その同盟に山髙屋も加わりませんか?もちろん山髙屋は商家ですから、同盟ではなくて提携と言う形になりますが。」
「なんだって?」

「アタルは、ユノベの同盟に山髙屋が提携すれば、販路の安全確保に貢献できると言っています。護衛費用は要らず、山髙屋では食費と宿泊費だけ持てばいいそうです。」
 願ってもない好条件に、社長はめまぐるしく頭を回転させる。
「その条件なら、うちは願ったり叶ったりだが、提携によるユノベの利はなんだ?」
「それはアタルに聞いて下さい。」

 それからアキナは、
 アタルがフジの霊山の黄金龍を眷属としたこと。
 その結果、アタルが属性攻撃を得たこと。
 黄金龍のような神龍が和の国のあちこちにいて、黄金龍を含めて7体いるので七神龍ということ。
 アタルはそれらすべてを攻略する旅に出るつもりでいること。
 山髙屋の商隊護衛で商都に赴いたのは、ビワの聖湖の蒼碧龍を攻略するのが目的であること。
 アキナとタヅナの話を聞いて、今後の七神龍攻略の旅に、交易の要素を入れることにしたこと。
 その流れで山髙屋との提携とキノベとの同盟にもアタルが意欲的であること。
これらを社長に告げた。

「パパ、私はセプトに加わってアタルの七神龍攻略の旅を交易と物資調達で助けるつもりです。それが山髙屋とユノベ同盟との提携に最も貢献できることだと思います。」
「アキナ、お前の山髙屋での役割はどうするのだ。」
「パパ、大局を見て下さい。どちらが山髙屋のためになるか、一目瞭然ですわよ。」

「七神龍攻略はいつまで掛かるか分からんのだ。その間、ずっとお前をセプトに貸し出せと言うのか。」
「パパ、分かってらっしゃるくせにお惚けにならないで下さいな。私はアタルのもとへ参ります。山髙屋へは戻りません。」
「それはだめだ。お前は山髙屋の跡取なのだぞ!」
「マスマがいるではありませんか。あの子はとても利発です。すぐに手元に呼び寄せて、パパが鍛え上げればどんどん吸収して立派な跡取になりますわよ。」
 アキナの爆弾投下に社長は、お口パクパク酸欠金魚。

 やっとのことで、なんとか体勢を立て直した。
「知っていたのか。」
「はい。パパのいい人とは、義姉さん、お嬢と呼び合う仲です。マスマは私のことをねぇねと呼びます。
 私が山髙屋を出れば、パパは私に気兼ねせず、ふたりを迎え入れることができますでしょう?」
「だからと言って、お前が出て行かなくてもいいではないか。」
「ホントにそう思ってます?ならばなぜ今まで義姉さんとマスマを外に囲ってたのですか?」
 アキナは、一定の距離があるからこそ、自分と義姉さんとが良好な関係でいられることを、言外にちらつかせた。

「ハンジョーをお前の婿にして、ふたりで山髙屋を切り盛りしてもらおうと思っていたのだ。」
「パパ、それは選択肢のひとつに過ぎなかったのではなくて?
 ハンジョーは私ではなく、山髙屋の婿が望みだったのです。私はそんなの御免です。」
 アキナはわざと過去形で言った。
 社長はそれを聞き逃さなかった。アキナめ、すでにハンジョーを取り込んだか。

「でもハンジョーはとても優秀です。もしパパがハンジョーを身内に取り込みたいのなら、マスマの守役に抜擢なさって、マスマの後見にしてはいかがですか?パパとハンジョーでマスマを鍛えたら、マスマはどれほどの商人になることか。楽しみですわね。」
「当事者のハンジョーにも聞いてみよう。」社長はハンジョーを呼んだ。

 ハンジョーが社長室にやって来た。
「社長、なんでしょうか?」
「ハンジョー、お前、アキナの婿になって山髙屋を切り盛りする気はないか?」
「あら、いきなり切り札ですの?パパらしくもないですわね。」アキナが釘を刺した。例の目力でハンジョーを威圧する。
「そのお話ですか。以前の私なら一も二もなく飛び付きました。
 社長、大変光栄なお話ですが、お嬢はアタルに惚れています。私の妻で収まるとは思えません。入婿でありながら、その妻が他の男に惚れているなど、私は御免被ります。
 それにアタルは有能です。悔しいですが、それは認めざるを得ません。」

「それは、武家としてであろう?商人としてお前が負けるとは思えんぞ。」
「お嬢、社長にゴムの話をされてないのですか?」
「まだよ。」
「やはり。」ハンジョーはひとりで納得した。社長は???である。

 アキナは、商都西本店で西本店長=社長の従妹で専務から紹介された新素材、ゴムの話をした。当然社長はゴムのことを知っていた。アキナは、アタルが風船をヒントに避妊具への応用を思い付いたことを話した。社長の眼が見開かれる。
「その発想は思い付かなかったな。」
「社長、私もです。護衛の旅の間、アタルの戦闘能力や着眼点に対して、確かに目を見張ることはたびたびありましたが、西本店でのこの発想には、正直、脱帽しました。
 あの、やり手の専務ですら、大したものだと諸手を挙げてベタ褒めなのです。」
「なんだと、専務がか。うーむ…。
 アキナ、一度、アタル様に直接会って話がしたい。」

~~アタル目線・現在~~

 俺はアキナに連れられて社長室にいる。嫁3人とキョウちゃんズは、山髙屋でいろいろな商品を見て回っている。

「アタル様、提携の件、アキナから聞きました。こちらとしてはありがたい話ですが、アキナは山髙屋の有望な人材です。何とかなりませんか。」
「社長、アキナが優秀だからこそ、俺もアキナが欲しい。特にブレない信用第一という信念が気に入っている。
 それに単なる提携より、婚姻が絡む提携の方が互いの信用の厚さが違う。縁がある間は、悪意のある裏切りを除いて、関係が切れないからな。」
「確かにそうですが、アキナの損失は山髙屋としては計り知れないのです。」

「社長、提携の利を考えてもらいたい。
 販路の護衛にユノベの者を食費と宿泊費の実費のみで差し向ける。護衛の手当はいらん。われらユノベは、家来どもの実践訓練として山髙屋の護衛を引き受けるからだ。同意が得られれば、トノベ、ヤクシ、タテベからもだ。
 こちらの要求は、平時は必要物資の調達だ。もちろん対価は払う。そちらにしっかり儲けが出る範囲で、割り引いてもらえると助かるがな。有事の際は軍資金の提供をお願いする。有事がなければ、軍資金の負担はそちらにはない。
 有事の軍資金の財源の一端となろうが、ゴムのアイディアは山髙屋で有効に使ってくれ。俺へのアイディア料は不要だ。」
 社長は、俺の真正面からの切込みに対して、ムムムと考え込む。それでもアキナのことをなかなか諦められないらしい。ま、当然っちゃあ、当然だけどな。

「アキナとの婚姻がなくては、この提携はなりませんか?」
「社長、あなたも商人なら、自分だけ欲を掻かないことだ。山髙屋に利があり、ユノベに利があり、和の国の民に利があるのが、ウィン、ウィン、ウィンの三方よし、これこそ商いの極意であろう?」
「うーむ。確かに。」
「社長、アキナが惜しいのは分かる。しかし山髙屋には、俺が知っているだけでも、あなたがいて、専務がいて、ハンジョーがいる。他にも有能な人材がいるはずだ。それに、アキナの他にもうひとり、利発で有望な跡取候補もいるのだろう?」

 急所を突いてやったら、社長が矛先を変えて来た。
「アタル様、先程仰っていらした和の国の民の利とは何ですか?」
「販路が安全になれば流通が安定する。流通が安定すれば消費が盛んになる。消費が盛んになれば生産が盛んになる。消費と生産が相乗効果を起こせば取引が活発になる。取引で金銭が活発に動けば、和の民は潤い豊かになる。民が豊かになれば、統治する側にも納められる税が増える形で返って来る。金銭は国の血液だ。滞れば国は病み、回れば回るだけ国は元気になる。」
 社長の眼が大きく見開かれた。

「アタル様、あなたはいつどこで商いの極意を学んだのです?」
「護衛の旅の間にアキナからだ。アキナから商いの話をいろいろ聞いていて、この結論に達した。」
「いっそのこと山髙屋に婿入りしませんか?」
「ならばそなたはユノベの家来となるか?」
「ぐうの音も出ない断り方ですね。
 もはや交渉の余地はありません。何も譲歩を引き出せませんでした。交渉で完膚なきまでに負けたのはいつ以来やら。アキナを末永くよろしくお願いします。」
「舅どの、承知しました。
 しかし、舅どのは負けたのではありません。ウィン、ウィン、ウィンを選択したのです。流石だと思いますな。」
 俺は社長への言葉を改めた。

 俺と社長は立ってガッチリと握手した。アキナは横から俺に抱き付いて来た。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/4/3

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。


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