射手の統領

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射手の統領042 海路東都へ

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射手の統領
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№42 海路東都へ

「サキョウ、見てみぃ。とうとう、うちらに反応しよったで。」
「ほんまや。昨日寝るとき、ちゅーもされたしな。」
 ふたりの会話で目が覚める。
「あー、言いにくいんだが、これは朝の生理現象だ。ふたりに反応した訳ではない。」
「「そうなん?」」明らかに落胆するふたり。ちょっとした朝の笑い話だ。

 廻船の出航は昼。朝餉を摂り、チェックアウトして、土産に西都の漬物を買った。千枚漬と言う西都の名物だそうだ。
 俺は、叔父貴たちの他、東都ギルドのギルマスのタケクラと受付のチナツ、そしていつもサービスしてくれる東都前寿司の大将に買った。嫁3人はそれぞれ実家に買っていた。

 西都ギルドに行くと、受付のチフユの所に行った。
「チフユさん、おはよう。」
「おはようございます。蒼碧龍攻略の査定が終わりました。
 アタルさんはAランク昇格、サヤさんとサジさんはBランク昇格、ホサキさんはCランク昇格、キョウちゃんズはDランク昇格です。皆さん冒険者カードを提出して下さい。セプトは、キョウちゃんズが加盟したので、Cランクのままです。」
「うちら、2ランクも上がるん?」
「凄いなぁ。アタル兄のお陰や。」
「蒼碧龍攻略は、ふたりの陰の術のお陰だからな。当然だ。」
 このひと言に、キョウちゃんズは、両サイドから俺の服をぎゅっとつかみ、涙目で見上げて来た。

 かわいい。マジ、かわいい。最近、このふたりのかわいい仕草スキルは、確実に上がってるぞ。
 俺と嫁3人は、新しいカードに変えてもらい、キョウちゃんズは内容を書き換えてもらった。
 その後、ギルマスのサンキと受付のチフユに出立の挨拶をしてから、昨日、登録して来た商都の流邏石をサキョウとウキョウに渡して商都へ飛んだ。

 山髙屋商都西本店に行き、廻船の待合所で早めの昼餉を摂った。売店で夕餉用の弁当や、酒類やジュースといった飲み物、つまみをいろいろ買い込んで出航時刻を待つ。しばらくしてから乗船案内が始まり、乗船してそのまま6人部屋に行った。畳の和室だ。

 ちゃぶ台があり、嫁3人はその周りに座布団を敷いて座る。俺は座布団をふたつ折にして枕にし、ゴロンと横になった。すかさずキョウちゃんズが、寝転んだ俺に乗っかって来る。
 まるでおとぎ話の、ロトトとメイメイのようだ。笑

 お!揺れ出したぞ。廻船が出航したようだ。キョウちゃんズが海を見たいと言うので、俺は一緒に甲板に出た。嫁3人は船室で寛いでいる。
 廻船は帆を張り、滑るように海上を南西に進んで行く。後ろを見ると航跡の向こうへ商都がだんだん小さくなって行った。潮風が心地よい。

 キョウちゃんズは3時の方向を指さしていた。
「アーカはあっちやろか?」
「多分、そうやと思うわ。」
 アーカはオミョシ分家の本拠地だ。寂しかろうな。俺は後ろからふたりを抱き締めた。

「遠くへ嫁ぐお嫁さんの心境かな?」
「えー。そんなんやないよー。」
「うちら、いったいどこへ嫁ぐん?」
「俺のとこ。」
「「…」」ふたりは真っ赤っかになってモジモジし出した。
「部屋へ戻ろうか?」
「「うん。」」手を繋いで船室に戻った。

 廻船は商都を出て南西に進路をとる。馬手には、和の島と南の島の間にあるワージ島が見える。ワージ島は、大四島以外の無数にある子島の中ではトップクラスに大きい。
 夜には、廻船は進路を南に変え、西三都(西都、商都、古都)の南に位置する、和の島最大のキノ半島と南の島の間を、キノ半島を弓手に見ながら南下する。そして、キノ半島に沿って、反時計回りに半周して行くのだ。

 甲板から船室に戻って、ちゃぶ台を嫁3人と俺の4人で囲んだ。キョウちゃんズは、俺の、胡坐を組んでる脚に腰掛けたり、背中にぶら下がったり、左右からしなだれて来たり、とにかく俺にまとわりついている。こう言うところはほんとに子供だ。微笑ましい。

 俺たちは改めて、互いの生い立ちや家族関係を話した。キョウちゃんズは、俺がユノベの次期統領と言うことは知っていたが、サヤ姉がトノベ、サジ姉がヤクシ、ホサキがタテベの姫と聞いて驚いていた。

 キョウちゃんズは、オミョシ分家の出であることや、最初の陰の術を3歳で取得し、神童と言われてチヤホヤされたこと、その後、もう1つの陰の術を取得できずに、いつの間にかお荷物扱いされていたこと、を語った。
 単一能力を嫌う家風により13歳で勘当されてからおよそ4ヶ月、兄シエンの援助もあって、ふたりで頑張って来たそうだ。
 ヤマホウシのクラマ達とはデビューのときから組んでもらったりして、確かに世話にはなったが、ふたりでひとり分扱いをされ続けて来た。

 クラマに、四半値に値切られて揉めてたときに、アタルにふたり分の分け前をもぎ取ってもらい、優秀な陰士だと評価されて、心底嬉しかったこと。
 蒼碧龍攻略に、戦力として評価されて雇ってもらったこと。
 自分たちの陽の術の資質を見付けてもらい、蒼碧龍攻略では活躍できて、そのお陰でセプトにも入れてもらったこと。
 などなど、アタルと会ってから急に運気が上がったと、ふたりは力説する。もう、俺とは離れないそうだ。

「アタル兄にな、俺の所に嫁入りしろと言われたさかいな、そうすることに決めてん。」ウキョウ、そうは言ってないんじゃないかなー?
「ちょっと…アタル…。」サジ姉のジト目が来たので、とぼけた。
「ふたりとも、アタルにはいつ口説かれたのだ?」ホサキ、煽るな。そもそも俺は、口説いてねーし。
「商都を出航した後、3人で甲板に行ったときや。うちら、プロポーズされてしもた。」いや、サキョウ、プロポーズとは違うんじゃないかなー?
「アタル!あんたねぇ。」サヤ姉のジト目が来たので、スルーした。
 否定するとキョウちゃんズを傷付けるので、これまでのやり取りの間は、とにかく黙ってた。それに、どうせ将来的にはそうなるしな。

「2年後に成人したふたりを抉じ開けて、それで終わりと言うのは男としてあまりにも無責任。俺は責任を取る男だ。」
「物は…言い…よう…。」
「やっぱりそうなるのね。」
「アタルのその責任の取り方、潔いぞ。流石だな。」
「え?流石なの?」相変わらずホサキだけは、わが道を行ってるな。苦笑

 その後、夕餉どきになったので、買い込んで来た鯖寿司を皆で食べた。その後、持ち込んだ飲み物とつまみで宴会を始めた。俺と嫁3人はビールやサワー、キョウちゃんズはジュース。
 キョウちゃんズがアルコールに興味を示したので、ビールをひと口ずつ飲ませたら、
「「苦ーい。」」と言うテンプレな反応。笑

 サワーでアルコール度数の低いものは、ジュースと同じようなものなので、大丈夫だった。しかしすぐに顔が赤くなって来て、ふたりともコテっと眠ってしまった。布団を敷いてふたりを寝かせ、あとは4人でいろいろな話をして、夜が更けていった。
 そろそろ寝るか。キョウちゃんズはぐっすり眠っているので、サヤ姉、サジ姉、ホサキと、お休みのキスした。ふたりを起こすといけないので、キスのみであるが、その分、嫁3人とのキスをじっくり堪能した。

 夜中、キノ半島を弓手に見ながら、廻船が進路を南東に転じると、そこはもはや外洋の大海原おおうなばらだ。大海原は外海とつみとも言い波が荒い。
 大海原に出てしばらくしてから、廻船は帆で風を捉えつつ、海中に潮帆を張った。潮帆は、西の島、南の島、中和の順に、南の沖を、東に向かって流れる黒海流を掴むためのものだ。潮帆を海中に投入すると、船足は一気に増すが揺れもきつくなる。
 嫁3人は揺れに起こされたそうだ。キョウちゃんズも右へ左へと転がってたらしい。俺だけ爆睡だったんだとか。

 結局尋常な揺れじゃないと思った嫁3人に俺は起こされ、コロコロ転がるキョウちゃんズを確保した。キョウちゃんズは、眠ったままなのだが、船酔いでぐずっていた。やっぱり子供である。
 この揺れで、嫁3人とキョウちゃんズは完全にグロッキーだ。俺はなぜか全然平気だった。

 サジ姉が堪らず酔止の術を皆に掛けると回復はしたが、絶えず続く揺れのため、揺れが平気な俺を除いて、皆、起き上がることができない。俺は皆に濡れタオルを配るなど、翌朝まで介抱してやった。
 皆は、定期的なサジ姉の酔止の術で、気分悪くはならないが、横になってるしかないようだ。
 廻船は、黒海流に乗ったまま、進路を東から北東に変え、やがて、翌朝になると、潮帆を回収してキノ半島に寄せ、黒海流から出た。シグの港町に寄港するためだ。
 揺れは収まり、皆は落ち着いた。酔止の術を定期的に掛けていたサジ姉が、皆から物凄く感謝されていた。

 朝餉は、俺以外は無理のようなので、俺ひとりで廻船の食堂に入って朝餉を摂った。廻船は10時過ぎにはシグの港町に入港した。
 サジ姉の酔止の術で復活した5人と、平気だった俺の6人は、シグの港町に上陸した。嫁たちとキョウちゃんズは、揺れない大地を踏みしめ、ひと心地着いたようである。
 すると、朝餉を摂っていないこともあり、5人は空腹を訴えた。俺はシグに来たら、名物のさんまの熟れ寿司を食べたかったので、熟れ寿司の専門店に行った。さんまを割いて丁寧にした処理し、飯を詰めて寝かせると、発酵して熟れ寿司になる。流石に専門店である。とても旨かったので、たらふく食べた。

 さらに凄いことに、この店には30年物のさんまの熟れ寿司があるそうだ。大将に聞くと、俺達が食べた熟れ寿司とはほとんど別物で、酒の肴と言った方がいいそうだ。注文すると、大将に大丈夫か?食えるか?と聞かれ、それでも食いたいと言うと、出て来た30年物はどろどろの物体だった。さんまの形も飯の形もない。発酵臭はあるが、臭いと言うほどではない。
 舐めてみると、酸っぱくてしょっぱくてほんのり甘い。糠漬けのような、ウォッシュタイプのチーズのような、かなり行ける味である。これは酒の肴として最適だ。昼前だが、俺は地酒を頼んで、30年物をアテにちびちびやった。嫁3人は俺が一杯やり出したのに呆れているし、キョウちゃんズは匂いが無理と言うが、旨いものは旨いのである。
 さんまの熟れ寿司の店を出て、もうひとつのシグ名物、めはり寿司の店に行った。めはり寿司は麦飯を高菜で巻いたシンプルなものだ。これは、今日の夕餉用である。

 昼にはシグ港へ戻り、そのまま乗船した。すかさずサジ姉が酔止の術を掛ける。しばらくして廻船は出航。明日はヌーマだ。
 帆を張って大海原に出ると、廻船は間もなく黒海流に乗り、潮帆を張ったので、船の揺れは大きくなったが、出航前にサジ姉が酔止の術を皆に掛けていたため、未明のようなグロッキー状態にはならないで済んだ。
 しかし揺れはきつい。船室では皆、布団を敷いて横になっている。定期的なサジ姉の酔止の術がなければ、ひどい状態なのだろう。

 夕餉どきになっても、皆は食べることができない。俺はひとり寂しく夕餉用にシグで買っておいた、めはり寿司をつまみつつ、手酌で焼酎を飲んでいた。
「うー、お腹が空いとるのに、食べる気がせえへん。」
「それでも、頑張って食べなあかんのや。」
 キョウちゃんズは、ライから成長したければたくさん食べろと言われている。子供体型を気にしている13歳のふたりは、何としても遅れている成長期に入りたいのだ。でも船酔いでふらふらじゃないか。
「今日はもうしょーがねーだろ。」
「じゃあ、アタル兄、いつもの、やってぇな。」
「そんなんじゃ無理だろ。」
「昨日もお酒で寝ちゃったからやってもろてへんし、このままじゃ大きゅうならんやないの。」
「じゃあ、テンバに着いたら、まとめてやってやるよ。」
「それと、3日分食べたる!」なぜ3日分なんだろ?
「お腹壊すぞ!」
「「うー。」」

 キョウちゃんズが手を握ってとせがむので、ふたりと手を繋ぎながら、結局ふたりの間で眠ることになった。子供の我儘は無敵だ。苦笑

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

設定を更新しました。R4/3/27

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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