射手の統領

Zu-Y

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射手の統領035 西都のギルドマスター

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射手の統領
Zu-Y

№35 西都のギルドマスター

 サキョウとウキョウと別れて、俺たちは指名依頼書を書き、受付に行った。
 受付のお姉さんが愛想よく微笑み掛けて来た。そこそこの美人で巨乳だ。しかも両腕で巨乳を挟んでさらに盛り上げ、巨乳をアピールしてる。俺はパスだ。眼をそらすと、勝ち誇った笑みを浮かべた。どうやら俺が巨乳に照れたと思ったらしい。こいつ、肉食系だな。注意しよう。

「指名依頼と、ギルマスのサンキさんへの取次ぎを頼む。東都のギルマスのタケクラさんからの紹介状がある。」
「あら、さっきのお話はハッタリじゃなかったんですね?」
「聞いてたのか?」
「聞こえたんですよ。うふふ。私は受付のチフユ。皆さんはふーちゃんって呼んでるわ。お好きな方でどうぞ。」首を傾げて微笑む。
 くー、このポーズ、あざとい。こいつ、ぜってー、肉食だわ。

「俺はアタル、こちらは仲間のサヤ、サジ、ホサキ。
 ところで、聞こえてて野放しにしてたのか?」
「そうですね、実はいい加減にしなさいよ!と言おうとしたらアタルさんが仲裁に入ってくれたんです。
 あの冒険者はクラマと言うんですが、キョウちゃんズの足元を見て、今までもいい様にコキ使ってたんですよ。今まではふたりでひとり分の半値でしたが、今日は四半値でしたからね。」
 サキョウとウキョウでキョウちゃんズか、上手い呼び名だな。でも俺は、本人たちを前にしたら、まとめ呼びはしないな。

「半値は許してたのか?」
「半値はキョウちゃんズが納得してましたから仕方ありませんよ。でも今日のクラマはさらに調子に乗ってましたね。クラマを凹ませてくれてスッとしました。特にあの、『今の悔しい気持ちを忘れるな。ピンハネは相手をそう言う気持ちにさせるんだ。』って啖呵が痺れました。本当にありがとうございました。」
 深々と頭を下げるチフユ。あ、こいつ、案外いい奴かも。

「ではチフユさん、まず指名依頼。サキョウとウキョウをこの条件で雇いたい。クエスト達成までの短期だな。」
「どんなクエストですか?」
「ビワの聖湖の蒼碧龍を狩る。討伐ではなくて俺の眷属にするんだ。」
「却下です。」
「なんでだよ?」
「あの子たちはまだFランクなんですよ。こんなに危険なクエストの指名依頼に許可は出せません。」
「なるほどな。それはまっとうな言い分だ。チフユさんは冒険者の安全を第一に考えているんだな。あんなにきっぱり断るとは見事だ。正直見直したよ。受付がみんなチフユさんみたいな人だといいのにな。
 ではギルマスに取り次いでくれ。」
 カーッと赤くなるチフユ。あれ?何で赤くなってるの?チフユはバタバタと奥に引っ込んだ。

「アタル、またやったわね?」
「何がだよ。」
「チフユ…さんを…ドキッと…させた…。」
「何でドキッとするんだよ?」
「依頼を断って文句を言われるかと思ってたところを、ベタ褒めされたからに決まってるでしょ。」
「だってそうじゃないか。」
 ホサキだけはキョトンと首を傾げていた。うーん、流石ホサキ、マイペースだ。俺のオアシスだ。

 チフユが戻って来た。俺たちは案内され、ギルマスルームへ連れて行かれる。1階を奥まで行き、突き当りの階段を上る。東都ギルドと同じ作りだな。
 中に入ると神経質そうな男がいた。
「西都まで遠路ようお運びで。まぁ、遠慮せんと掛けなはれ。
 チフユ、ご苦労さん。仕事に戻ってええで。」チフユが一礼して出て行った。
「じゃ遠慮なく。
 俺はアタル、それから仲間のサヤ、サジ、ホサキだ。」
「西都のギルマス、サンキや。タケクラは元気かえ?」
「元気だな。サンキさんによろしくとのことだ。」

タケクラからの紹介状に目を通したサンキが、
「タケクラは豪快に見えて細心、なかなか動じぬ男なんやが、随分とあんさんのことを買うとる。ベタ褒めや。ここに書いてあることは掛け値なしのホンマのことなんか?」
「俺は人の文を盗み見する趣味はないんでな、すまんが、何て書いてあるかは知らんよ。」
 サンキは頷いて、紹介状を放って寄越した。俺は目を通した。

「これならすべて本当だな。確かにこのベタ褒めは面映ゆいが、書いてあることは事実だ。」
「ライ鏑は見せてもろても?」
「もちろんだ。」俺は懐から黄色に輝くライ鏑を取り出した。
「黄金龍の形態は取ってないやないか?」
「普段は大体黄色く光ってるだけだ。まれにライが鏑内で黄金龍の姿をとることがある。」
「さよか。」サンキは考えている。

『疑り深い男だな。』ライの念話が飛んだ。
「え?」驚くサンキを尻目にライがライ鏑の中で黄金龍の形態をとった。
「ホンマや!なんちゅーこっちゃ。ホンマに黄金龍を眷属にしたのかえ?」
「眷属と言うよりは、もはや仲間であり師匠だな。」
「師匠やと?」
「そうだ。俺はライからいろいろ学んでいる。」
「学ぶて…、ホンマかいな。」

『おい、男。貴様、なかなか疑り深いな。しかしその慎重さ、好い資質だ。大事にせよ。』
「はは。」サンキが思わず最敬礼をする。大袈裟だな。
「サンキさん、雷撃矢も見るか?」
「せやな。見せてもらおか。ここでいらん言うたら、慎重さを褒めてもろたライはんに怒られてまうがな。」茶目っ気たっぷりの返事だ。
 神経質かと思ったらお道化もするのか?さっきの最敬礼もお道化かな。なかなか尻尾を掴ませない奴だ。

 俺たちはギルドの訓練場に移動した。
『アタル、少し余分に力を込めてやろう。』
「普段通りでいいんじゃないか?」
『いや、あの男の度肝を抜いておけ。さすれば、あのふたりの子供を仲間にせよと交渉しやすくなる。こちらの力を示せば、あのふたりが安全であることの証となろう。5倍もあればよいか。』
「なるほど。ライ、流石だな。」

『おい、男。施設の強度は大丈夫であろうな?』
「ライはん、ご心配には及びまへんえ。属性防御も施してあるよってな。」
『念のため、加減はしてやる。』
「そら、おおきに。」
 上手い!サンキの言質を取った。さすが師匠だ。

 俺は雷撃矢を訓練場の的目掛けて放った。黄色い閃光とバリバリと言う轟音、地響き…的を中心に大きく抉れて、クレーターができている。練習場の向こう側の防御壁は半分崩壊していた。訓練場のおよそ1/4が滅茶苦茶だ。
「ライ、やり過ぎたようだ。」
『ふん、これくらいでよいのだ。』

「サンキさん、一応加減はしたのだがな。」
 サンキ、お口パクパク酸欠金魚。

 中から職員と居合わせた冒険者が飛び出して来て、練習場の有様を見て全員が絶句している。
「いや、大丈夫や。何でもあらへん。チフユ、修理の手配を大至急。」
「サンキさん、ホントに属性防御は施してあったのか?」
「そのはずなんやが…、ひょっとすると手違いがあったのかもしれん。
 アタルは修理のことは気にせんでええで。わいが許可したよってな、わいの責任や。」ほう、肝が据わってるな。
「もう十分やさかい、戻って話の続きをしようや。」

 それから、ギルマスルームに戻って俺たちは話を詰めた。
「ええもん見せてもろた。西都の金剛鏑はアタルに渡そう。保管庫から出さなあかんから、受け渡しは明日やな。」
「すまん。感謝する。
 それと、蒼碧龍攻略にあたり、優秀な陰士がほしい。サキョウとウキョウだ。」
「ほう、なぜにキョウちゃんズを知っとるんや?」
 アタルは、ギルマスルームに来る前にあったことをかいつまんで話した。

「そうか、クラマの奴め、相変わらず狡すっからい奴ちゃ。しかし、今回はよい薬になったやろ。ええ気味や。」
 扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。この雰囲気はまるでお公家さんだな。

「そこで、キョウちゃんズに指名依頼を出したんだが、チフユさんにきっぱり断られた。ふたりは蒼碧龍攻略などできるレベルではないから、危険な依頼は取り次げぬと言うのだ。」
「アタル、チフユに悪気はないのや。堪忍しとくんなはれ。」
「いや、堪忍どころか、素晴らしいと思うぞ。冒険者の安全を最優先で考えている。ああ言う受付ばかりだといいのだがな。
 しかし俺たちの力量は先程の通りだ。優秀な医薬士のサジ姉もいるし、鉄壁の盾槍士のホサキもいる。ホサキで完全ガードして、万が一負傷したらサジ姉がすぐ回復できる。こちらの防御を上げたり、蒼碧龍の攻撃を下げたり、キョウちゃんズの陰の術も大いにあてにしている。」

「私は?」サヤ姉が不満そうに聞いて来る。
「サヤ姉はアタッカーだろうが。」
「これアタル、女心を学びなはれ。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。またお公家さんモードだ。西都の人はみんなこうなんだろか?
「サヤ姉ももちろんあてにしてるぞ。」俺はサンキのアドバイスを素直に受け入れた。
「ほな、わいから直々に許可を出そう。依頼書を出しなはれ。」
 俺は依頼書を渡すとサンキはスラスラとサインした。

「キョウちゃんズやけどな、実はちょっと訳ありでの。詳しくは言えんのやが、絶対に無事に返して欲しいんや。怪我したらわいの首が…。」
 サンキは扇子でポンと自分の首を叩いた。
「それなのにサインしてもらってすまないな。
 つまり、ふたりはオミョシ分家の出身と言うことか?」
「「「え?」」」サヤ姉、サジ姉、ホサキが同時に驚いた。

「ほう、なぜそう思うんや。」サンキの目が細くなる。肯定も否定もしない。
「そうだな、まずは、オミョシ本家は陽の術から、分家は陰の術から学ぶ。そして本家は陽の術を、分家は陰の術を2系統使えるようになったら、3つ目で初めて本家は陰の術、分家は陽の術を学んで陰陽ともに使える陰陽士となる。
 サキョウはデバフ、ウキョウはバフしか使えん。分家の陰士としては半人前だ。俺は、効果5割弱なら単一能力に特化した優秀な陰士だと思うがな。
 そしてふたりは訳あって家から勘当されてると言っていた。オミョシでは、本家も分家も2系統を得ぬまま13歳になったら、成人の15歳までに3系統取得は無理だから、勘当されると聞いた。
 分家の跡取りは14歳の嫡男だったはずだ。と言うことは次男と三男と言うことか?ふたりが分家の御曹司なら、何かあったときはサンキさんの首が飛ぶのも頷ける。」

「アタル、見事な推察やなぁ…。ほぼ当たりやで。タケクラが入れ込むだけのことはあるなぁ。脱帽や。そう言うことなんでくれぐれもよろしゅう頼んまっさ。」にんまりと微笑む。にんまりがなぜか妙に気になった。
「ほぼ?どっか違うのか?」
「些細なことや。気にすることあらへん。まぁ、わいの負け惜しみやな。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。

「それと最後にもうひとつ。他の金剛鏑の行方を知らないか?タケクラさんは古都の帝家宝物殿にあるかもしれんと言っていたのだが、はっきりしないそうだ。」
「おう、あるぞよ。しかしな、宝物殿を開けるには御上の勅許が必要なんや。」
「それは…八方塞がりだな。」
「わいが御上に文を認めて勅許を願うたるがな。」
「は?御上って帝のことでいいんだよな?帝ってそんなに簡単に接触できるのか?」
「できんの。」扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑う。

 お公家さんか!サンキは帝に接触できる高位の公家に違いない。俺が驚いたのを見て、俺が悟ったことを確信したサンキは、しばらくの間、扇子を半開きにして、口元に当て、ホホホと笑っていた。

 俺たちはギルマスルームを辞して、西都ギルドからも出た。

 例によって、割引の利く道具屋や装備屋を、サンキから紹介してもらい、道具屋で流邏石20個を購入した。
 東都で購入した流邏石の残り1個と、西都で購入した20個のうちの5個の計6個を西都ギルド前で登録した。俺たち4人とキョウちゃんズの分だ。サヤ姉、サジ姉、ホサキには、その場で西都の流邏石を渡した。
 その後、装備屋に行き、通常矢の補充、サヤ姉の両刀の研ぎ、ホサキの槍の研ぎと言ったメンテを行った。明日、もう1回来て、キョウちゃんズの装備を整えよう。

 俺は、商隊でネビコの湖港町に宿泊した際に、ちょこっと抜け出して登録しておいたガハマの流邏石を使って、ガハマのユノベ副拠に飛んだ。

「これは若。」
「おう、ご苦労。先日寄ったときにも伝えたが、蒼碧龍攻略の拠点としてガハマを使う。俺のパーティは6人、今日は4人で、明日から残りのふたりも合流する。すまんが、そのつもりで準備を頼む。これから西都に戻って夕餉を摂るので、到着予定は一刻後だ。よろしくな。」
「承知しました。」てきぱきと伝令が飛ぶ。
 俺は自分の流邏石の他に、西都で購入したうちの5個を、副拠のユノベ館で登録した。
「では後程。」俺は流邏石で西都に飛んだ。

 西都で3人と再合流しガハマの流邏石を渡した。
 さて、西都で夕餉だ。西都の名物はやはり西都懐石せとかいせきだろう。値は張るがその分とても旨いと言う。ギルド近くで、チフユがお勧めの懐石料理屋に来た。
 西都懐石は、素材の味を引き出すと言うことで、味付けが薄いと聞いていたのだが、全然違った。ダシ汁だから色は薄いがダシの旨味がしっかり出ていて、決して味が薄いと言うことはない。
 どれも旨かったが、俺は湯葉が非常に気に入った。サヤ姉もサジ姉もホサキもご満悦だ。確かにその分、値は張った。しかしたまにはいいだろう。

 西都懐石を堪能した俺たちは、流邏石でガハマのユノベ副拠に飛ぶと、すぐに表座敷に通された。表座敷では、副拠の代官を任せている重臣3人が出迎えてくれた。
「若、お久しゅうございます。」
「先日は留守にしており、申し訳ありませんでした。」
「ご婚約とのこと、お祝い申し上げます。」
「皆の者、達者のようでなにより。先日の訪問は急なことゆえ、気にすることはない。
 それと、婚約者を紹介する。トノベのサヤ姫、ヤクシのサジ姫、タテベのホサキ姫だ。」

 重臣3人と嫁3人で互いに挨拶が済んだ後、嫁3人を先に下がらせて、俺は重臣3人と旅の目的などを詳細に話し、最近の蒼碧龍の動向を聞いた。
 蒼碧龍は、この夏に対岸の湖西域で暴れ、大雨を降らせてかなりの被害を与えた後に、ビワの聖湖の北部中央にあるタケオ島で眠りに就いていると言う。早速明日から蒼碧龍の巣の位置の特定作業に入ろう。

 重臣3人との打ち合わせの後、俺は湯に向かった。ユノベ副拠にも、ユノベ本拠と同じく温泉があるが泉質はまた違う。ユノベ副拠には冷泉はなく、どれも温泉である。
 ユノベ副拠の地下深くから湧出しているのが、太古に堆積した海藻の成分が染み出ているヨウ素泉でヨウ素臭がある。濁り湯ではないが湯は濃いオレンジ色で、浴槽にためると黒く見えることから、黒湯と呼んでいる。
 東の山から引いているのが明礬泉。基本は薄濁りで日によって薄緑になることもあるので翠湯と呼んでいる。傷に効くので先頭集団ユノベとしては重宝している。それに、俺の大好きな硫黄の匂いがするのだ。
 北の山から引いているのが無色透明の炭酸水素泉。アルカリ性でトロトロしている。いわゆる美肌の湯だ。トロ湯と呼んでいる。

 おそらく3人は美肌の湯のトロ湯だろう。当然俺はトロ湯…ではないぞ!翠湯だ、翠湯。硫黄の匂いを堪能するのだ。湯に浸かり、体を伸ばして至福のときを過ごす。

 さあ、明日から蒼碧龍攻略だ!

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設定を更新しました。R4/3/13

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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