射手の統領

Zu-Y

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射手の統領031 セキガの原野の野盗退治

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射手の統領
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№31 セキガの原野の野盗退治

 暴発寸前のマイドラゴンに起こされた。外はうっすら暗い。もう夕暮れか?あれ、3人ともぐっすり眠ってるじゃん。なんで?

 枕元にメモがある。なになに…。
「ぐっすり眠ってるので、私たち3人とアキナとタヅナの5人で夕餉に行きます。宿屋の食堂に行くので、起きたら合流して下さい。」
 なんですと?夕餉に行ったのにぐっすり眠ってると言うことは…ひょっとして、今は明け方か?なるほど、それでマイドラゴンがブイブイ言ってるのか。俺はいったい何時間爆睡してたんだ?今、午前4~5時として、13~14時間か?
 ふむ、一昨日の完徹の前日も、微睡んだだけだったからな。丸2日もろくに眠ってなきゃこうなるか。

 取り敢えずシャワーでも浴びよう。昨日、チェックイン後に浴びただけだもんな。シャワーを浴びて出て来ると3人とも起きてた。外も明るくなってる。
「おはよう。」
「アタル、昨日はぐっすりだったわね。」
「うん、ナルーで徹夜、トバシでもぐっすり眠ってなかったからな。」
「疲れも…溜まって…来る頃…。」
「そうだな。」
「昨日はその、大丈夫だったのか?」
「いや、ぶっちゃけた話、皆のご奉仕を楽しみにしてたからこそ、ちょっと仮眠をと思ったんだが、爆睡しちまった。さすがに、今からは無理だから今夜こそ頼む。でないと、マイドラゴンが何をやらかすか分からん。」
「そうなのか。よし、今夜こそ、サヤとサジの教えをふんだんに…。」
「ちょっとホサキ、朝っぱらから何を口走ってるのよ!」
「そう言う…会話は…夜に…しなさい…ね…。」
「はい。」シュンとするホサキ。かわいい。

「まぁまぁ、その辺で。
 ところでさ、昨日の夕餉は結局女子会だった訳?」
「そうよ。」
「何の話?」
「セプトのことね。」
「アタル…、セプトの…ことは…、私たちにも…話して…欲しい…。」
「え?」
「陰士の…こととか…、荷馬車の…こととか…、キノベへ…馬の技を…学びに…行く…こととか…。」
「あー、ごめんごめん。
 中央車両でいろいろ話が弾んじゃってさ。馬のことや荷馬車のことや交易のことだったから、専門家のアキナとタヅナの意見を聞いてたら話がどんどん膨らんで、いろいろなアイディアが出て来たんだよ。
 でもサヤ姉や、サジ姉や、ホサキの意見を聞いてからじゃなきゃ、決めないから。何だか、ああしたい、こうしたいって言うアイディアだけが次々浮かんじゃったんだけど、まだ固まってる訳じゃないんだ。
 でも、3人がいないところで話を進めたのは、ホントに悪かった。ごめんな。」
「まぁ、分かればいいわ。」
「今夜あたり、皆で話をすればいいのではないか?」
「え?でも今夜は…。」
「ちょっとアタル、一晩中ご奉仕させるつもりなのかしら?」
「あ、そうか。」頭を掻く俺。笑う嫁3人。

 朝餉を終え、商隊は定刻通りオーガの町を出発した。今日は山峡の道を抜け、ビワの聖湖畔へ出て、少し南に下ったところにある、ネビコの湖港町まで行く。
 山峡の道は、セキガの原野のど真ん中を抜ける。セキガの原野は、天下分け目の大戦があったところだ。この大戦だけが有名なせいで、意外に知られてないが、その前の時代にも、天下分け目につながった戦があった。ライから聞いたんだけどな。

 セキガの原野のような山峡の道は、両の山から挟み撃ちで攻め下られるとひとたまりもないから、商隊としては一番危険な場所だ。こう言うところではオミョシの式神による偵察が非常に有効だ。
 早々に先頭車両が停車し、サンファミが戦闘態勢に展開した。ジュピが各種上昇の術をメンバーに掛け出した。アオゲが伝令に来て、
「ジュピの式神が右手の山に10名弱の人影を発見した。プルの式神が左手の山を、マズの式神が進行方向を探索している。」
 全員で探索してたか。さすがサンファミ、分かってる。
 やがて、先頭車両のすぐ後ろに中央車両を止めた。おれはジュピのもとへ行く。
「状況は?」
「右手の山、1時の方向に9名いる。プルの式神が探してるが、左手の山の対になる位置にも人影があれば非常に危険だ。」
「威嚇してみるか?」
「いや、左手の山が分からんし、もう少し様子を見よう。」

 後尾車両が停止し、サヤ姉とサジ姉とホサキも展開した。そのときだ。
「ジュピ、いるぞ。左手の山11時の方向に10名いる。」プルからの報告が来た。すぐさまジュピが俺に攻撃力強化の術を掛ける。
「ライ、2倍で頼む。一定間隔で取り敢えず5本射るぞ。」
『承知』
 俺が右手の山、1時の野盗に向けて15秒間隔で2倍雷撃矢5本を次々に放った。
「アタル、何人かが感電して倒れた。奴ら混乱してるぞ。」ジュピが式神を通して見たことを伝えて来た。
 そこへマズから連絡が来た。
「前方にいた馬車が1台、動き出してこっちに来る。どう言うことだろうな?」

「おーい、助けてくれー。この先に野盗がいるー。襲われたー。」前方から来る馬車が叫んでいる。
「嘘だ!気を付けろ。止まってた馬車だぞ。」マズが警戒を促し、威嚇の火炎の術を、近付いて来る馬車に放った。その馬車はそのまま商隊には近付かず、離れたところをすれ違い、商隊の右をすり抜けて通り過ぎて行く。
 おかしい!
「ライ、3倍」
『承知』

 通り過ぎた馬車はすぐに反転し、反転のタイミングで野盗5名が飛び降りた。馬車はそのまま、手薄な商隊の後部へ馬車ごと突っ込もうとしたが、突っ込む前に3倍の雷撃矢で大破。御者の1名は感電して大破した馬車から放り出された。
 反転したところで、ホサキとアシゲは迎撃態勢を取っていたため、アシゲが騎乗からの刀剣で野盗2名を蹴散らし、ホサキが如意の槍の長さを変えて野盗2名を突き倒し、さらに1名を殴り倒した。

 野盗の作戦は周到だった。囮の馬車が野盗被害を装って前方から商隊に接近し、商隊の注意を前方に向けたところで、一度すれ違ってから反転、手薄な後ろから襲撃する。商隊が前に逃げても、後ろからの襲撃を迎撃しても、両前方の山にそれぞれ隠れていた部隊が山を下りて包囲殲滅する。と言うものだ。

 しかしその周到な作戦は既に破綻している。馬車隊はすべて殲滅、そうとは知らず、左の山に潜んでいた10名の部隊は、突撃を仕掛けて来てサンファミの餌食となった。内訳は火傷3名、凍傷3名、槍の突きと殴打で昏倒4名。
 右の山に潜んでいた9名の部隊は、先制の2倍雷撃矢5連発で6名が感電、うち2名は矢の直撃、残り3名は突撃に加わって来たが、サヤ姉の二刀流剣舞の餌食となった。

 右の山で感電していた6名も引きずりおろして全員確保。右の山9名、左の山10名、馬車隊6名の合計25名のうち、3倍雷撃矢で感電した御者1名と、右の山で2倍雷撃矢の直撃を受けた2名の、計3名は即死。火傷のうちの1名、サヤ姉の斬撃を受けた3名、ホサキの突きを受けた2名は瀕死の状態であったが、サジの回復の術で全員一命を取り留めた。
 例によって武器と装備と有り金は没収し、半裸に剥いた状態で、感電により即死した3名を埋葬させた。埋葬が終わると、生き残った22名を手枷足枷数珠つなぎにした。アジトの場所は、右手の山の山頂近くだったので、今回は盗品などを確保に行かず、22名を連行する。アジトの接収はネビコの湖港町の衛兵隊に任せることにした。なお、今回は、感電死の様子が無残だったので、サボタージュなどの反抗を見せる野盗はいなかった。

 山峡地を抜けるとビワの聖湖が見えて来た。そのまま西進し、ビワの聖湖に突き当たったところがマイバの原野、商隊はここを南に折れて南下し、ネビコの湖港町へ行く。
 ちなみにマイバの原野を北に折れて北上すれば、わがユノベ副拠のあるガハマの湖港町である。
 俺は、ここマイバの原野で流邏矢の乙矢を登録した。ここでの流邏矢の登録は、あとでタネを明かすが、ちょっとした工夫だ。

 やがてネビコの湖港町に着いた。
 商隊は山髙屋ネビコ支店へ直行したが、セプトは途中で分かれて衛兵詰所への野盗22名の連行を任された。ヌーマの町でもそうだったが、半裸の男22名を手枷足枷数珠つなぎにして町中を練り歩くのだから大層目立つ。野次馬もついて来る。
「セキガの原野の野盗どもを山髙屋の商隊が退治して来た。」と、何回説明させられたか分からないが、説明するたびに「おおきに、おおきに。」と西の言葉で大層感謝された。
 そのうち、早いうちからついて来た野次馬が、新たに加わった野次馬に、なぜかドヤ顔で説明してくれるようになったので、俺の説明の手間は省けた。野次馬が野次馬に説明する内容に、だんだんと尾鰭腹鰭がついて大袈裟になって行くのが面白かった。

 衛兵詰所で、野盗22名の引き渡し、襲撃と撃退の状況を説明し、野盗から聞き出したアジトの位置を伝えた。すると、アキナがネビコ支店の副支店長と一緒に、武器と装備と野党の所持金を持って来たので、あとは任せた。
 ヌーマのときと同じように、被害者救済に充てるために、山髙屋は野盗から奪った戦利品の権利を一旦放棄し、1年経って持ち主が出なかったら受け取ることにした。その条件は、山髙屋が退治したと宣伝してくれるだけでいい。と言うものだ。
 アキナは相変わらず、山髙屋の信用重視のスタンスでまったくブレがない。非常に頼もしく、好ましい。

 衛兵詰所から出て、宿屋にチェックイン、臨時戦闘手当も出たので、今日は、商隊の皆で戦勝祝の夕餉だ。
 俺は夕餉の前にちょっと時間をもらった。流邏矢の甲矢をネビコの宿屋の前で登録すると、乙矢を引いてマイバの原野に飛んだ。さっき仕込んでおいたひと工夫を実行に移すのだ。
 ここから急いでユノベ副拠のあるガハマへ向かう。しばらくたってガハマのユノベ副拠に着いた。門番が驚いている。
「若ではおまへんか!どないしはったのです?」
「いきなりですまん。それより門番のお勤めご苦労。」
「はっ、ありがとうございます。」
「代官は誰かいるか?」
「いえ、お三方とも公用で外出されております。申し訳ありまへん。」
「よい。急な訪問ゆえ、こちらに非がある。代官へ伝言を頼みたい。」
「はい。何なりとお申し付け下さい。」

「されば、ビワの聖湖の蒼碧龍を攻略する。その拠点としてしばらくここを使う。3日後からになる予定。宿泊は俺を含めて4人。部屋の用意と滞在期間の食事の用意を、よろしく頼む。と伝えてくれ。」
「承知しました。」
「では俺は、館を流邏石に登録してすぐ戻る。くれぐれも皆によろしくな。」
「はっ。」と言って敬礼する門番。対応が小気味よい。

 俺はそのまま副拠の敷地内に入り、館に着くまで何人かの家来に声を掛けられ、その都度家来にひと言声掛けた。夕餉時でよかった。そうでなければ何人と話すことになったか分からない。苦笑
 俺は副拠ガハマのユノベ館で流邏石を1個登録した。4人分登録しようかとも思ったが、この後、西都や商都、場合によっては古都もまわるので最低限の1個でいいだろう。登録は後からでもできる。東都で購入した。流邏石は、これで残り5個になった。

 俺は流邏矢で、ネビコの宿屋に飛んだ。

 皆での夕餉は、非常に楽しいひとときだった。明後日には商都へ着き、解散となる。今日で10日目だが、いいチームになったと思う。

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設定を更新しました。R4/2/27

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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