射手の統領

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射手の統領026 初野営

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射手の統領
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№26 初野営

 ぐっすり眠った後の目覚めは爽快だ。例によって朝の生理現象でマイドラゴンは今日も元気だ。結局悶々と眠れなくなるのは、生殺しのせいではなく、溜まってたせいなのだと分かった。これは思わぬ収穫だ。

 朝餉を終えて出発する。今日も俺は中央車両の御者をやらせてもらった。もちろん隣にはタヅナがいて、いろいろと甲斐甲斐しくサポートしてくれている。
 俺は中央車両で、タヅナやアキナと日に日に親しくなって行った。日中、3人でずーっと一緒に過ごすのはとても大きい。ひょっとすると今なら混浴OKかもしんない♪

 俺たちの話題の中心はこの旅の後のことである。そう、俺たちの七神龍攻略の旅に、荷馬車を導入して交易の要素を加える計画についてだ。
 商隊が無事に商都に着いたら、名残惜しいがアキナとタヅナとは一旦分かれる。と言うのも、俺たちセプトは西都に戻って、西都のギルマスから金剛鏑を得た後、ユノベ副拠を拠点としてビワの聖湖の蒼碧龍を攻略する。一方、アキナとタヅナは山髙屋の廻船で東都に戻ることになる。そしてふたりはそれぞれ、御父上を説得して、セプトに加わる許可を得るのだ。

 セプトは蒼碧龍の攻略を終えたら、ユノベ本拠に帰還し、東都で先に帰っていたアキナとタヅナとコンタクトをとる。ふたりによる御父上説得がうまく行ってればよいが、不調なら俺も説得に加わる。
 昨夜の夕餉でアオゲたちに誘われた通り、しばらくキノベで馬の技を学ぶのもよい。俺のキノベへの留学は、タヅナによる御父上の説得のバックアップとして、大いに効果を発揮するだろう。
 山高屋の小父さんの説得には、ユノベと提携がもたらす利を説くだけでなく、何か新商品のアイディアでも出せればいいのだがな。後妻の件は、山髙屋内部のことだから、身内ではない俺は関わらん方がいい。アキナの最後の手段としておいて、とどめのタイミングで効果的に使うのがベストだ。

 道中、俺の御者の技の訓練とともに、3人での話で、今後のセプトの方向性が見えて来た。できれば東都帰還後の早いうちにそれぞれの了承を取り付け、婚約発表と行きたいものだ。
「アタル、私たちに嫁ぐ許可が下りたら、どんな規模の交易にするつもりですか?」
「荷馬車での交易は、あくまでも七神龍攻略の旅のおまけみたいなもんだからさ、そんなにすごい規模じゃなくてもいいと思ってるんだ。」
「それならぁ、この荷馬車ぐらいの大きさかしらぁ?」
「いや、もっとずっと大きいのにしたい。」
「「?」」

「まぁ、まだイメージは何となくしか固まってないけどね。
 そういえば、今夜はマエザの漁村で野宿だよな。野宿のときはテントだけど、天気が悪いと、テントでは安心して休めないじゃない?
 大きめの荷馬車ってのは、皆が馬車の中で眠れるようにしたいんだよね。大きな小屋って感じの馬車かな。それを数頭の馬で引くんだよ。
 前半部分は寝室スペース、後半部分は倉庫のような荷台。そこに必要物資や交易品を積む訳さ。だから交易品は嵩張らないやつがいいね。」
「それはなかなか面白い発想ですね。」

「馬は4頭立てかな。なるべく1頭に負担が掛からないようにしつつ、戦闘になったら轅から外して騎馬として用いる。
 馬車はそのまま防衛拠点、つまりは基地だね。
 最大4人が騎乗出撃できる訳だけど、馬車に残る側は、騎馬隊の援護に遠距離攻撃ができるといいね。」
「それでしたら私は、ユノベへ弓の技を学びに行きます。」
「そう言えばタヅナは、今回は御者に徹してるけど、戦闘時の得物は何なの?」
「薙刀、刀剣、長槍を使いますがぁ、一番得手なのは薙刀ですぅ。」
「うちの嫁3人にも馬の技は身に着けて欲しいな。
 タヅナの軽騎兵に加えて、サヤ姉も軽騎兵、サジ姉は機動ヒーラーか馬車でヒーラー、ホサキは槍での重騎兵か馬車なら本来のタンク。
 俺は騎射か馬車からの遠距離攻撃、アキナも馬車からの遠距離攻撃。そんな感じかな。」
「とてもバランスがいいパーティーですね。」
「なんかとてもワクワクするわぁ。」

 アキナやタヅナと話してると、どんどん構想が具体化して来る。とてもいい傾向だ。

 今日も順調に進み、夕刻前にはマエザの漁村に着いた。ここは宿泊施設がないので野営だ。商隊長のアキナが村長宅を訪ね、商隊が野営する旨報告しに行ったのだが、村長は留守だった。
 それよりも浜が騒がしい。野営場所を探しがてら行ってみると、かなりの村人が集まって大騒ぎしている。何人かは、銛か何かを海に投げている。
 浜を見渡せる小高い丘で、先頭車両が止まり、後続の中央車両、後尾車両も止まった。荷馬車3台を並列させる。野営場所としてはなかなかいいところだ。

「ここで野営したいですが、村長さんに話を通してないので勝手に野営しない方がいいですね。」
「あの中にいそうだな。」ジュピが浜の大騒ぎを指さす。
 アキナとタヅナがアイコンタクト。
「アオゲぇ、お願いぃ。」
 アオゲは騎馬のまま浜へ駈歩で行き、しばらくして戻って来た。
「野営は構わんが、鮫が居座ってるので加勢してくれるとありがたいとのことだ。大鮫もしくは猛鮫のようだ。妖化まではしていない。」
「今回は俺たちでいいかい?」とジュピ。
「サンファミの皆さんで加勢をお願いします。セプトの皆さんは商隊の護衛をして下さい。」
 ジュピが各種上昇の術をサンファミに掛け、全員が物凄い速さで浜を駆け下りて行った。

 しばらくすると結構な範囲で海が凍結した。プルの氷結の術だ。村人がその上を移動して、身動きが取れなくなった大鮫もしくは猛鮫をフルボッコしだした。
 一段落ついて、村人が浜に引き上げて来た。お、いつの間にか血まみれになった獲物に縄を括りつけてるぞ。
 マズが火炎の術で氷を溶かしている。もうもうと水蒸気が立ち上がる。村人たちは一斉に綱を引き、あっと言う間に獲物を浜に引き上げた。
 引き上げてみて、改めてだが、でけぇ。もともと海の生物はでかいが、巨大化してるからなおさらだ。これが沖に居座って、ちょこちょこ浜まで近付いて来たら漁には出れないよな。ジュピたちが村人に囲まれている。
 あ、こっちに向かって手を振り出した。俺たちは手を振り返す。村人の一部は、獲物の解体をはじめ、何人かがこちらに向かって上がって来た。

 上がって来たのは村長たちで、加勢のお礼を言われ、ぜひ村長宅に泊まれと勧められた。
「村長さん、お心遣い感謝いたします。でも、この人数ですし、夜通し交代で荷の警備もありますので、お気持ちだけ頂いておきます。ここで野営をすることだけ、お認め下さい。」
「野営ならいくらでもしてくれてええずら。そんなんじゃぁ、加勢の礼にならねぇずらよ。」
「それでは、山髙屋でお買い物をして下さいね。それで十分です。」
 ちゃっかりしてる。さすがアキナだ。
 村長もそれ以上は何も言わず、「分かったずら。」と言い、深々と頭を下げて引き揚げて行った。

 俺たちはすぐに野営の準備に入った。
 夜間警戒は俺たちセプトとサンファミの担当だ。商隊長と副長はもちろんだが、日中の商隊移動を受け持つタヅナ隊も夜警は免除である。マエザ漁村へ加勢したサンファミは疲れているだろうから、前半は俺たちセプトが受け持った。夜中の1時に交代だ。

 秋なのでまだ夜の寒さはなく、心地よい気候だ。真冬だと寒さがきついなと思い、やはり、七神龍攻略の旅では、荷馬車内での就寝は大切だと思った。4人で起きていて定期的に2人組で荷馬車のまわりを周回する。商隊の荷馬車を箱型で、扉を閉じれば荷が完全に防御できるので対野盗には都合がいい。幌の荷馬車もあるが箱型の方がよいだろう。

 夜空の星もきれいである。快晴でよかった。雨など降っていたらたまったものではない。それこそ台風ときが来たらどうなるのだろう。そうか、荷馬車を曳く馬が雨に濡れない工夫がいるな。これも考えよう。
 明日、タヅナやアキナに相談してもいい。なんたってあのふたりは、ふたりで組んで交易して回ってたと言うからな。俺とほとんど違わない年齢なのに大したものだ。

 初めての野営は、緊張と興奮のせいか、まったく眠くならずにあっと言う間に終わってしまった。サンファミと交代して俺たちのテントに入る。いつもより近いが、昨日嫁3人に抜いてもらったおかげでモヤモヤせずに、すぐ眠りに就くことができた。

 警笛がなる。敵襲か?ばっと飛び起き、テントの外に出て辺りを窺う。浜の方が騒がしい。漁村から松明も出て来た。
 アキナもタヅナも起きて来た。
「ジュピ、どうした?何事だ。」
「よく分からんが、浜が大騒ぎになっている。寝ている皆にはすまないが。早目に警笛を鳴らしたんだ。」
「いえ、ジュピさん、賢明なご判断です。状況が分かるまで皆で警戒しましょう。」
「アオゲとアシゲぇ、浜の状況を見て来てぇ。」
「承知。」アオゲとアシゲはすぐに騎乗して浜に向かった。
「それと、カゲとクリゲぇ、荷馬車に馬を繋いでぇ、すぐに荷馬車を避難させられるようにしてぇ。中央車両もよろしくぅ。」
「え?逃げる準備?」ネプが思わず口走った。
「そんなの当たり前よぉ。私たちの任務はぁ、商隊の荷を目的地まで届けることぉ。人助けをして荷を失ってはぁ、キノベ陸運の信用に関わるわぁ。」
「その通りだ。人助けは余力ですることだ。」ジュピがきっぱりと言い切った。
「でもな、ネプ。できる限り助けようぜ。」
「おう!」
 ジュピがサンファミの連中から慕われてるよく理由が分かる。こう言うところだ。見習おう!

 アオゲが戻って来た。
「キラークラブが3体だ。酸の泡を吐いてるから間違いない。泡の直撃を食らった村人が何人か殺られた。」
「サンファミさん、加勢をお願いします。ただし状況が不利な場合は迷わず撤収して下さい。それと、こちらで引き揚げる判断をしたら警笛を鳴らします。そしたら速やかに撤収して合流して下さい。撤収の警笛は長3の繰り返しです。」
「了解。行くぜ。みんな。」
 ジュピが各種上昇の術をサンファミに掛け、全員が物凄い速さで浜を駆け下りて行った。

 入れ替えでアシゲが来た。
「1体がこちらに来る。急ぎ迎撃態勢を。」
「距離は?」
「100mだ。」
 俺は雷撃矢を放った。雷撃矢着弾の閃光でキラークラブを確認できた。そのまま雷撃矢を速射で連射する。およその狙いで10本放ったうち、3本が命中し、キラークラブの動きを止めた。サヤ姉が疾風の靴で瞬間的に移動し、見事な二刀流剣舞を見せる。星明りのもと、雷撃矢の点滅が織りなす光の中で、非常に美しく妖艶な舞だ。

「取り敢えず動けなくして来たわ。」サヤ姉はもう戻って来ていた。息も切らしていない。
 浜では紅蓮の竜巻が起きている。マズの火炎の術と、プルの竜巻の術の合わせ技だろう。紅蓮の炎にキラークラブが、1体、また1体と飲まれて、浜は静かになった。

「アオゲは状況の確認ねぇ。アシゲは怪我人をここまで運ぶように伝えて来てぇ。」
 しばらくして浜から松明が続々と上がって来ると、サジ姉が忙しくなった。

「ああ言う仕事を見習えよ。せっかくの高級食材が真っ黒焦げじゃねーか。」
「いや悪ぃ。まあでも外は丸焦げだが、開いたら中はいい塩梅かもしれないぜ。」
 サンファミが帰って来た。会話はジュピとマズのようだ。
「あの仕事はサヤさんかい?」ジュピが聞いて来た。
「肢を切り落としたことを言ってるなら私よ。でもアタルの雷撃矢で痺れてたから、据物切りと一緒でどうと言うことはないわ。」
「かー、言うことが違うねぇ。」とアステ。
 ちなみにサヤ姉が肢をすべて落として身動きできなくしたキラークラブは、プルが凍結させて来たそうだ。

 夜が明けた。村人の犠牲者は酸の泡の直撃の3名だけで、重軽傷者はすべてサジ姉が回復の術で治した。それこそ村民一同土下座のような勢いのお礼だったが、アキナは犠牲者を悼んで、香典を包んでいた。
 その後、野営地近くで、村の女衆による炊き出しが始まり、海藻のみそ汁と塩にぎりが妙に旨かった。なぜか男衆による酒盛りも始まっていた。キラークラブ撃退のお祝いと、仲間3人の黄泉送りのためだそうだ。

 浜の黒焦げキラークラブ2体は、1体が中も黒焦げだったが、もう1体がいい塩梅の焼加減だったので、酒盛りの肴になった。凍結させたキラークラブは高級食材として捌けるので、マエザの漁村に寄付して来た。村長は、最寄りのズオカのギルドに商隊の功績を報告することと、今後、村に必要な物資はすべて山髙屋で買うことを、神に誓うと言っていた。

 炊き出しで朝餉を済ませた俺たちは、村人たちに惜しまれつつ、マエザの漁村を後にした。

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設定を更新しました。R4/2/20

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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