射手の統領

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射手の統領016 お預け同盟

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射手の統領
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№16 お預け同盟

「アタル、朝だぞ。」優しく揺り起こされた俺。目を開けると、そこには天使のような笑顔のホサキがいた。思わず抱き締めた。
「あ、アタル。寝ぼけているな。」
「寝ぼけてないぞ。」
と言って、俺はホサキに軽くキスをすると、ホサキは赤くなった。昨夜のことを思い出したか?

 朝の生理現象でドラゴン化しているマイサンを、ホサキが恥ずかしそうにチラ見していた。もう他人じゃないものな。笑

 ホサキもまだ昨夜のままの裸だ。本当にホサキは引き締まったいい体をしている。
「ホサキ、先にシャワーを浴びてくれ。一緒だと朝からまた襲ってしまいそうだ。」
 ホサキは笑顔でシャワーを浴びに行った。

 イキり立つマイドラゴンを見つめ、
「おい、今朝はお預けだからな。」と言うと、牙をむきやがった。生意気な奴め。

 しばらくしてホサキが出て来たので、入れ替わりにシャワーを浴びる。生意気なマイドラゴンに冷水シャワーを浴びせていたら、じきに落ち着いて変身を解き、マイサンに戻った。

 食堂で朝餉を済ませ、チェックアウトして出発だ。
 昨日、手前まで行ったガミサの河を渡り、しばらく西に行ったところで、流邏矢の乙矢をその場で登録し直し、流邏矢の甲矢を射ると、今度はユノベ館に飛べた。
 家来に、ホサキと帰還すること叔父貴たちに伝えるように命じ、新品の流邏石4つにテンバのユノベ館を登録した。それから、ホサキを固定するハーネスを用意して流邏矢の乙矢でホサキのところに戻った。

「あ、アタル、お帰り。」
「チガサの港町は、流邏矢の有効距離のギリギリ外だったようだ。ホサキ、流邏矢で飛ぶぞ。これをつけろ。」
と言って、ハーネスを渡す。流邏石で飛ぶことも考えたが、ホサキには流邏矢のパーティ移動も経験させておきたかったのだ。

 ホサキは重鎧で重いので、バランスを取るためにも定位置は、俺の背中にした。しっかり抱き付いてもらい、金具でハーネス同士を固定して流邏矢を放つと、俺たちはユノベ館に飛んだ。

 俺とホサキはそのまま表座敷に行った。間もなく叔父貴たちも表座敷にやって来た。
「叔父貴どのたち、ただいま戻った。早速だが、こちらはタテベの末の姫、ホサキ姫だ。
 ホサキ、俺の叔父貴たちだ。こちらが二の叔父貴、こちらが三の叔父貴、こちらが末の叔父貴だ。俺が統領に就くまで、代理を務めてもらっている。」
「お初にお目に掛かります。タテベ・ホサキと申します。よろしくお願いします。」
「「「こちらこそよろしくな。ホサキどの。」」」叔父貴たちは本当によくハモる。笑

「さて、顔合わせは済んだな。早速本題に入ろう。」
 俺はこれまでの経緯を叔父貴たちに話した。一連の話を、叔父貴たちは黙って聞いている。
「…と、言う訳なのだ。
 叔父貴どのたち、ホサキはタテベどの意を受けて、わがユノベと婚姻同盟を結ぶために俺の所に参った。俺はホサキを第3夫人として迎えたいと思うがどう思われる?」
「タテベが3家同盟に加わるのだな?」と二の叔父貴。
「それは願ってもないことだ。」と三の叔父貴。
「わしも賛成だが、トノベとヤクシに話を通してからだな。サヤやサジと婚約したてで、さらにタテベと婚約となると、それなりに慎重に事を運ばねばならんぞ。」と末の叔父貴。

「それなら大丈夫だ。すでに、トノベの義伯父上と、ヤクシの義伯父上には直接会って話は通しておる。ホサキもおふたりと面会済みだ。」
「アタル、相変わらず手回しがいいの。頼もしいぞ。」
「しかし姉貴たちはまだご存知ないであろう?」
「そういえば、伯母御どのたちはどこだ?こちらにいらしていると聞いたが?」
「それがな、今朝方、お帰りになったわ。」
「何とまたもや入れ違いか?しかし、ふたりの知らないところで話が進んだとなると臍を曲げそうだな。そういえば武者修行の件も文句を言って来たのだろ?」
「そうなのだ。最初は孫を抱くのがいつになる分からなくなると、ふたりとも大層な剣幕での。」
「アタルを焚き付けたのは、サヤとサジだと言ってやったら、目をぱちくりさせておったわ。」
「くくく、思った通り見ものであったぞ。久々に痛快であった。」
 俺は苦笑いをした。叔父貴たちは伯母御たちに頭が上がらんからな。

「ホサキとの婚儀は政略ゆえ、伯母御どのたちに口は出させん。トノベの統領とヤクシの座主に話を通して来たのだ。いくら統領や座主の正妻でも横槍を入れるのは筋が違う。
 武者修行の件も、反対の理由が早く孫を抱きたいからなどとは、話にならん。俺からふたりへ、その辺のところを上手く手紙に書いておく。」
「うむ、それが無難だの。」
「ところで伯母御どのたちは、あいかわらず流邏石は使わんのだな?」
「ああ、姉貴たちは供も連れているし、ゆるりと馬車で旅をされるのがお好きだからな。そもそも流邏石での移動を毛嫌いされておる。」

 それならば東都への到着は明後日の夕刻だな。ちょうどその日の早朝に商隊が東都出発だから、街道ですれ違うかもしれんな。やはり、顔を合わすより手紙の方がよかろうな。

「ところでタテベとの同盟の件に話を戻すが、叔父貴どのたちのどなたかに、タテベへの同盟のお使者に立って頂きたい。」
「同盟はタテベから申し入れて来たのであろう?」
「そうだが、タテベと同盟したいのはユノベとて同じ。タテベはホサキを差し出して来たのだから、ユノベから同盟を申し入れねば、世間は対等な同盟とは見ず、タテベがユノベを含む3家同盟の傘下に入ったと思われよう。
 こちらから、辞を低くして同盟に誘った体にして、タテベの顔を立てたい。対等な同盟の方が長続きするからな。」
「なるほど、よい思案じゃ。」
「その方がタテベもわれらに感謝し、より友好的になろうの。」

「では早速だが、兄貴たちよ。わしが行こうかの?」末の叔父貴が名乗り出た。
「末の叔父貴どの、タテベへは結構な手土産を持ってな。先日はアタルが手ぶらで参って申し訳なかったと。奴はまだそう言うところに気が回らん未熟者ゆえ、今後も引き立てて欲しい。と付け加えておいてくれ。」
「引き受けた。」叔父貴たちは訳知り顔でほほ微笑んだが、ホサキはこのやり取りを聞いて唖然としていた。

 この日の午後は、主だった家来を招集し、ホサキとの婚約披露となった。本来なら改めて後日に披露すべきなのだが、明日の夜には商隊との顔合わせがあるし、明後日は商隊の護衛として早朝から商都に向けて出発だ。
 さすがに明日、お披露目の酒に酔った状態で商隊との顔合わせはできないから、今日のうちに、取り敢えずでもお披露目をするしかない。

「若ー、今度の嫁御も別嬪じゃのー。」
「若ばっかり、ずるいのー。こっちにも回してくれんかのー。」
「お前は先日、結婚したばかりであろ?さんざん口説きに口説いて口説き落としたと自慢してたではないか。」
「若の嫁御に比べたら霞むのー。」
「そんなことを言ってると、周りから面白半分に告げ口されようぞ。」
「いや、それは困る。これは若への軽口じゃからの!」
 わっははは。一同爆笑である。ホサキも笑みを絶やさない。

 そろそろ東都に飛んで、サヤ姉とサジ姉と合流せねばな。
「皆の者、今日はありがとう。俺たちはそろそろ引き上げるので存分に呑んで行ってくれ。」
「若ー、酒呑んで風呂に入るとのぼせるからのー、気を付けるんじゃぞー。」
「若ー、のぼせたところを嫁さんに介抱されたら、一生頭が上がらなくなるぞー。」
「若ー、今夜は同じ失敗をしてはならんぞー。」
「おい、なんでバレてんだ?」焦りまくる俺。
 どぅっわっははは。一同さらに大爆笑である。

「アタル、真にそうだったのか?
 今の話は、先日の婚約披露で、お前たちが引き揚げた後に、アタルならこうなりそうだと、残った家来どもが話していた内容なのだぞ!」
「え?そうなの?」
「アタル、すでにサヤとサジに尻に敷かれているのか?」
「いや。そのなんと言うか…。」
「うーむ、サヤもサジもさすがに姉貴たちの子じゃな。」
 ちーん、家来どもにカマ掛けられたのね。しかも、家来どもは、あれをしっかり予想してたのね。泣

「まぁ、若、男は一生修行じゃ。わしらも嫁さんには頭が上がらないからの。安堵してくれ。」
「そうじゃ、そうじゃ。若も尻に敷かれてて、わしらもひと安心じゃ。」
 俺は苦笑いをするしかなかった。それにしても、俺のことがよーく分かってて、いつも気に掛けてくれている、いい家来どもを持ったものだ。

 表座敷を引き上げると、ホサキが話し掛けて来た。
「アタル、ユノベはいつもこんな感じか?」
「いや、無礼講のときだけだ。普段はもっとまともだ。」
「そうか。それは素晴らしいな。アタルは皆から慕われているのだな。」
「家来どもは皆、俺が幼くして親父を亡くしてから特に気に掛けてくれている。」
「アタルも皆が好きなのだな。」
 そりゃそうに決まってるだろ。みんな身内だぞ。
 ホサキは溜息をついた。え?タテベは違うのだろうか?しかし、何となくだが、
それを俺から聞くのは躊躇われた。そのうちホサキから話してくれるだろう。

 ホサキと一緒に流邏石で東都に飛んだ。
 冒険者ギルドに行くと、サヤ姉とサジ姉がすでに待っていた。俺たち4人は合流し、俺たちの方の経緯を説明した。そして今日、ユノベでホサキとの婚約披露をして来たことも報告した。

「なるほどね。上々の首尾ね。ところでホサキ、アタルに襲われなかった?」
「え?あの…。」助けを求めるように俺を見るホサキ。それでは白状してるようなもんだろ。
「やっぱり…そう…なった…のね…。」
「襲った訳ではない。合意の上だ。」
「ごめんなさい。」消え入るようにふたりに謝るホサキ。
「ホサキが…謝る…ことは…ない…。安心…して…。」
「俺も謝ることじゃないよね?」
「アタル、婚約披露は今日よね。ホサキに手を付けたのは昨夜よね?」
「…ごめんなさい。」

「アタル、私たち3人の誰かが妊娠しても、私たちのパーティは戦力の大幅ダウンなのよ。」
「私たちも…戦力…維持の…ために…我慢…してる…。」
「ごめんなさい。…自重します。」
「あの、私も…。」
「ホサキは、今回はいいわよ。初陣でしょ?」カーっと真っ赤っかになるホサキ。
「私たちも…一緒…。初陣は…特別…。」
「取り敢えず、ビワの聖湖で蒼碧龍を眷属にしたら、いったんユノベに戻るから、そのときまではお預けね。ホサキもいい?」
「はい。」

 ホサキが、お預け同盟に加盟した瞬間だった。

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設定を更新しました。R4/1/23

更新は月水金の週3日ペースを予定しています。

2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/121143041/836586739

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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