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プラチナリング
2-②
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「………それは、何のジョーク?」
「情報に関しては嘘は言わないよ。君は知ってくれていると思っていたけど?」
少しアーネストの視線が、冷ややかになる。
「…………それはっ。知ってるよ!でもさ、なんで資料を見ただけでそんなことがわかるのさ。アーネストが取材したわけじゃないのに。しかも!僕昨日帰るってメールしたよね!なのにこの仕打ちは何!?」
情報のことは、聞きたかった。それでも言いたいことは言わないと、言葉巧みに誤魔化されてしまう!それをショーティは十分に知っていた。自分の怒りなんか、簡単に丸め込まれてしまう!
しかし、その言葉にアーネストの体温が少し下がった……気がした。
「—————それは…僕のセリフじゃないかな、ショーティ?」
溜息をつきながら、アーネストは語った。
やばい。また溜息……………。今回の溜息の共通項は“ショーティのパートナーに対するダメダメ”だった………。それは、少しは…自覚している、ために、弱い………。
「約束の1週間目には帰らず、僕がメールして初めてメールを返し……」
「それはっ。ぼ…僕もうっかりしてたけど、アーネスト、ピアスで僕の状況わかってたよね!?」
「君の脈拍や血圧がわかって、それがどうして君が無事だという証拠になると?1日1回電話くらいできただろう?」
本当に、本当に冷ややかにアーネストはそう言った………。
………やっぱり僕が悪いのかな………?
ちらりとアーネストの方を見ると、少し疲れたような表情が見えた。
もしかして……と思う。心配…していた………?
「………アー…」
「君は僕のことは思い出さなかったようだね」
「そんなことは!けど時差あるし、アーネストは寝ているかも…」
「普段の僕の眠りは浅いよ?知っているだろう?」
…………そうだった、と今更ながらに思う。お茶会後しばらくは昏々と眠っていたアーネストであったが、日本から帰国してからは少し元気になってきて。少しずつ……生活パターンが戻っていたのだった。朝は早くショーティが起こされるくらいだし、寝る時間もショーティより遅い。実際いつ寝ているのだろうと思うくらいだった。けれども完全なそれは、社長業をしている時のことで。今のアーネストが時間に追われることはないはずだが、彼らしい生活リズムだった。
「…………だけど…アーネストから電話がほしいって言われたら……」
「僕と違って、君は緊張を強いられた仕事中だろう?それこそ邪魔して機会を奪うことは本意じゃないよ」
「もしかして…それで怒ったの?」
「それで?怒る?—————当り前だろう!ここ2か月近く傍にいたのに急にいなくなって。仕事から戻るかと思いきや、その連絡さえ忘れられて!じゃあなんのためのリングなんだと、心底思ったよ」
アーネストが、本当に怒っていた……。
…………………ああ、本当に心配かけたんだ………。これは、僕が悪かった。
「ごめん、アーネスト………。
本当に、ごめん。今回は、僕が悪かったよ。これからは気を付けるから。中東だろうとどこだろうと、アーネストが送り出してくれてるんだってこと、もっと自覚するよ。——————けどさ、だけど、アーネスト。リング外して置いていくのはやめてほしい。追いかけるな、ってことかと思うし。
………僕さ、置いて行かれないように、けっこう頑張ってると思うんだよね」
少し俯き加減で神妙な表情を見せるショーティにアーネストは軽く息を吐き出すように、
「—————ショーティ……」
そう名を呼んだ。
さらりとした栗色の髪が、誘うように揺れている。握りしめた手の中にはアーネストがつけるべきプラチナリングがあるのだろう。
「……だからさ」
そんなことを考えていたアーネストの前で、ショーティの口調が変化する。
「ショーティ?」
「データが違うって、どういうこと?どこで何を見たの!?一緒にいた時に気付いたのならすぐ教えてくれるよね?ていうことは、気付いたのここ3週間のことでしょ?でもアーネストニューヨークを離れてないよね?何をどこで仕入れてきたの?
それに引っ越しって、何!?」
愁傷な態度はどこへやら、アーネストに詰め寄るショーティは一気に畳み掛けた。とにかく反省はした。謝罪も、心からは不明だが、いや、いや、ちゃんとした。さあもうこれでいいだろうと言わんばかりの勢いだった。
が、敵もさるもの。
「ショーティ?……謝罪かい?それとも情報を得たいのかな?」
「………………両方。両方だよ!」
「あれ?謝罪は一瞬だった気も……」
「そんなことないよね!」
まっすぐに見上げるショーティが、必死になって告げた時だった。
「ああ、そうだね……」
ショーティの肩を軽くおさえ、アーネストが唇に触れるだけのキスをしてきた。
ショーティは目を開いたままだったが、目の前にあるのは………少し困ったような、おかしそうな表情の、アーネスト………。
「お帰り、ショーティ……」
その言葉に…ショーティは破顔した。
「ただいま、アーネスト」
そうしてアーネストの首に腕を回し、ショーティからキスをしたのだった。
「情報に関しては嘘は言わないよ。君は知ってくれていると思っていたけど?」
少しアーネストの視線が、冷ややかになる。
「…………それはっ。知ってるよ!でもさ、なんで資料を見ただけでそんなことがわかるのさ。アーネストが取材したわけじゃないのに。しかも!僕昨日帰るってメールしたよね!なのにこの仕打ちは何!?」
情報のことは、聞きたかった。それでも言いたいことは言わないと、言葉巧みに誤魔化されてしまう!それをショーティは十分に知っていた。自分の怒りなんか、簡単に丸め込まれてしまう!
しかし、その言葉にアーネストの体温が少し下がった……気がした。
「—————それは…僕のセリフじゃないかな、ショーティ?」
溜息をつきながら、アーネストは語った。
やばい。また溜息……………。今回の溜息の共通項は“ショーティのパートナーに対するダメダメ”だった………。それは、少しは…自覚している、ために、弱い………。
「約束の1週間目には帰らず、僕がメールして初めてメールを返し……」
「それはっ。ぼ…僕もうっかりしてたけど、アーネスト、ピアスで僕の状況わかってたよね!?」
「君の脈拍や血圧がわかって、それがどうして君が無事だという証拠になると?1日1回電話くらいできただろう?」
本当に、本当に冷ややかにアーネストはそう言った………。
………やっぱり僕が悪いのかな………?
ちらりとアーネストの方を見ると、少し疲れたような表情が見えた。
もしかして……と思う。心配…していた………?
「………アー…」
「君は僕のことは思い出さなかったようだね」
「そんなことは!けど時差あるし、アーネストは寝ているかも…」
「普段の僕の眠りは浅いよ?知っているだろう?」
…………そうだった、と今更ながらに思う。お茶会後しばらくは昏々と眠っていたアーネストであったが、日本から帰国してからは少し元気になってきて。少しずつ……生活パターンが戻っていたのだった。朝は早くショーティが起こされるくらいだし、寝る時間もショーティより遅い。実際いつ寝ているのだろうと思うくらいだった。けれども完全なそれは、社長業をしている時のことで。今のアーネストが時間に追われることはないはずだが、彼らしい生活リズムだった。
「…………だけど…アーネストから電話がほしいって言われたら……」
「僕と違って、君は緊張を強いられた仕事中だろう?それこそ邪魔して機会を奪うことは本意じゃないよ」
「もしかして…それで怒ったの?」
「それで?怒る?—————当り前だろう!ここ2か月近く傍にいたのに急にいなくなって。仕事から戻るかと思いきや、その連絡さえ忘れられて!じゃあなんのためのリングなんだと、心底思ったよ」
アーネストが、本当に怒っていた……。
…………………ああ、本当に心配かけたんだ………。これは、僕が悪かった。
「ごめん、アーネスト………。
本当に、ごめん。今回は、僕が悪かったよ。これからは気を付けるから。中東だろうとどこだろうと、アーネストが送り出してくれてるんだってこと、もっと自覚するよ。——————けどさ、だけど、アーネスト。リング外して置いていくのはやめてほしい。追いかけるな、ってことかと思うし。
………僕さ、置いて行かれないように、けっこう頑張ってると思うんだよね」
少し俯き加減で神妙な表情を見せるショーティにアーネストは軽く息を吐き出すように、
「—————ショーティ……」
そう名を呼んだ。
さらりとした栗色の髪が、誘うように揺れている。握りしめた手の中にはアーネストがつけるべきプラチナリングがあるのだろう。
「……だからさ」
そんなことを考えていたアーネストの前で、ショーティの口調が変化する。
「ショーティ?」
「データが違うって、どういうこと?どこで何を見たの!?一緒にいた時に気付いたのならすぐ教えてくれるよね?ていうことは、気付いたのここ3週間のことでしょ?でもアーネストニューヨークを離れてないよね?何をどこで仕入れてきたの?
それに引っ越しって、何!?」
愁傷な態度はどこへやら、アーネストに詰め寄るショーティは一気に畳み掛けた。とにかく反省はした。謝罪も、心からは不明だが、いや、いや、ちゃんとした。さあもうこれでいいだろうと言わんばかりの勢いだった。
が、敵もさるもの。
「ショーティ?……謝罪かい?それとも情報を得たいのかな?」
「………………両方。両方だよ!」
「あれ?謝罪は一瞬だった気も……」
「そんなことないよね!」
まっすぐに見上げるショーティが、必死になって告げた時だった。
「ああ、そうだね……」
ショーティの肩を軽くおさえ、アーネストが唇に触れるだけのキスをしてきた。
ショーティは目を開いたままだったが、目の前にあるのは………少し困ったような、おかしそうな表情の、アーネスト………。
「お帰り、ショーティ……」
その言葉に…ショーティは破顔した。
「ただいま、アーネスト」
そうしてアーネストの首に腕を回し、ショーティからキスをしたのだった。
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