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夏のコテージ ②
しおりを挟むある日の、夕刻の市場だった。
え?ショーティ?
夕刻の市場の賑わいは、想像以上だった。前は朝のうちに足りない水や酒を買いだしていたが(本来はネットで申し込めるが、住所を知られるのが嫌だった)、今日は今の今までないことに気付かず、またその日は気分も体調もよかったため、珍しく出てきたのだった。
そんな人ごみの中で。
ショーティの後ろ姿に、すぐに気付いた。
一瞬なぜ彼がここに…と思う。取材というにはラフすぎる格好だった。それでも取材の一環でここにきたのだろう。そうでなければこんな片田舎にくるはずない。
…まさか?と思う。僕を訪ねて?
しかしすぐに、それはあり得ないと否定する。見つけられないために様々な細工をしたのだ。自分が出国して2週間。そんな短期間でわかるとは思えなかった。
声をかける必要性は感じなかったので、そのまま踵を返そうとした時だった。
一人の男が、怪しげな足取りでショーティの傍に寄ろうとしていた。
スリだよ、ショーティ。
そう呟くが、ショーティが気づく気配はなかった。それは……彼らしからぬ事だった。体力は人並み程度だが、敏捷で感覚は鋭いのだ。
おかしいと思い、ショーティの傍に寄る。
その時男が後ろからおもむろにぶつかり、次の瞬間防犯ブザーがショーティの時計から鳴り響いた。それと同時にショーティの体が店側へと大きく傾いた。
危ないと思ったのと、彼を後ろから支えたのは同時だった。
思わず安堵の息を漏らす。
『ぼーっとして、何をしているんだ……』
『アー……』
振り返る前に、ショーティはそう囁いていた。
『スリなんかにやられて』
アーネストを仰ぎ見るショーティは、驚きのために目が丸くなっていた。ショーティもここで自分に遭うとは思っていなかったのだろう。
彼を立たせて、そのまま帰ろうとした時だった。
『知ってて助けてくれなかったの、アーネスト?』
—————言葉と裏腹に、安心したようなショーティの笑顔が印象的だった。
キャッシュが盗まれるところを見て見ぬふりをした責任は大きいと言い張るショーティをアーネストは嫌そうに見つめたが、彼を助けたのはアーネストである。仕方ないとため息をつき、コテージに案内したのだった。
コテージに着いても、特にショーティは驚いた表情を見せなかった。
相変わらず賢明だなと思った。
市場からコテージに戻る車内で、ショーティはずっと外を見たまま何も喋らなかった。訊きたいこともあったろうに、彼はただ景色を見ていた。
そのショーティが驚いた事といえば、一つだけだった。
『食事どうしてるの?ハウスキーパーくらい…』
『誰も雇っていない。食事はその辺のもので間に合っている』
『その辺って…』
ショーティは、今日買い込んだ酒をただただ見ていた。
『アーネスト、お腹すかないの?』
『別に……』
そう答えると、ショーティは長めの前髪をいつものようにかき上げた。何がショーティを考えさせているのかと考え、彼が少なくとも3日間は一文無しであったことを思い出した。
『このカードで生活すればいいよ。サインレスだし』
それからコテージの間取りを説明し、車の説明もした。ショーティの生活も保障したから、もう自分に用はないだろうと思った。昔からショーティはアーネストの部屋に来ても、アーネストの流れのようなものを乱すことはなかった。その辺りの信頼からきているのか、今回もショーティであったから連れてきたのである。
だから、もうここからはショーティは関与してこないだろうと思っていた。同じ住居にいる、別々の暮らしをする人間たち。そうなるだろうと思っていたし、それが当然だと思っていた。
『じゃあ』
呆れたようなショーティを残し、アーネストは自室へと引きこもったのだった。
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