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契約 ショーティver. ⑧
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1世紀前のスリのように、とは言っても掏られるのは財布などではなく、通りすがりにデバイスからキャッシュコードを抜き取るスキャニングが行われることがあった。当然デバイスにはセキュリティが組み込まれ、その動作が行われると警告ブザーが鳴るのだが、それ以外にも確認のためにデバイスのキャッシュ関係は3日間封じられるシステムとなっていた。
『僕、キャッシュないよ。当然責任とってくれるよね?』
わざとそう告げて、無理やりアーネストについていった。
しかし、そこでのアーネストの生活に唖然とした。
これが本当にアーネストの生活?と思うほどの生活を送っていたのだった。
いや別に放蕩の日々を送っているというわけではないが、何というか…本を読んでいるか、寝ているか、酒か煙草を楽しん(?)でいるか…なのだ。しかも酒にはつまみがなかった!
あまり他人に説教できる生活を送っているわけでもないショーティでも、この状況はまずいだろと思う。身体にもよくはない。
そのため、朝昼晩と食事を用意しアーネストに食べさせたのだった。ここのキッチンに料理機能がなかったので、レトルトや市場から惣菜を買ってきて、何とか作ったのだ。
けれどもショーティのしたことはそれだけで、アーネストの空間を邪魔することはなかった。
食事の準備はするけれど、仕事があったため、朝コテージを出て夕方戻るという生活。
夕食の短い間、表情の変わらないアーネストを相手に今日の出来事を話し、その後は互いに自室に戻るといった単調なものだった。
それでも、明らかにアーネストの顔色は良くなっていき、ショーティは安心した。
何しろ流れでここに上がりこんだとはいえ、それをアーネストがどう思っているのかわからないのである。今のところはショーティがいることで気を遣っている様子はないが、何と言うか、いつものアーネストと違うことは否めなかった。それは貧血による顔色の悪さだけでなく。いつも以上に喋らないし、話も聞いているかいないかわからないし、常に笑みを絶やさない人物だったが、今は表情が一切なかった。
けれどスリにやられた時、呆れた表情はしていたから、反応できないということではないと思う。
おそらく表情が一切ない今でも、自分の存在が迷惑ならそれなりにリアクションはあるだろう。
出ていくのはいつでもできる。アーネストが嫌がっていないならいいよね。
そう自分にも言い訳をしながら、日々は過ぎていった。
そんなある日のこと、取材先で気に入られて夕食まで御馳走になり、更に待っている人がいるからと切り上げる口実を伝えたところ土産まで持たされるという歓待を受け……結局帰宅は日付が変わる時間だった。
アーネストが、心配だった。
彼が自分の帰りが遅いと心配しているとは全く思わなかったが、食事をしたかは心配だった。
けれど。
『—————アーネスト!?』
車から降りたショーティは、コテージの玄関に寄りかかったまま座り込んでいるアーネストに気付き驚いた。しかもコテージには明かりが一切ついていない。
『どうしたの!?電気もついてないし』
『……ショーティ………?』
そばに駆け寄りその肩を掴む。いくら夏の地中海とはいえ、その体は冷えていた。
『どうしたの?なんでここに…。電気もついてないし…もしかして誰か来た!?』
『……ひとりの時に、電気はつけたこと、ない』
だからかと思った。あの電気量の低さは。
しかしそれとは別に少し反応の鈍いアーネストを訝しく思い、膝をついて腕を掴む。
『アーネスト!』
すると、初めて瞳を開いて気付いたように…アーネストと目が合った。
『………ショーティ?』
『そうだよ、僕だよ。ショーティ・アナザーだよ。わかる!?』
反応が鈍いのは冷えた体のせいなのか。早く温めないととそう急くショーティとは反対に、アーネストはそこから動かなかった。
『ア…』
『なぜ‥……?』
『え?』
『どうして…あの時、僕とわかった?あの日僕はサングラスをして………』
囁くような声に、耳を傾ける。
再会した日のことだなと、すぐにわかった。
そんなの……。
『………わかるよ、アーネストだもん』
ショーティはそのまま支えるように、アーネストをただ優しく抱きとめた。
『ね、部屋に戻ろう……?』
アーネストを支えて立ち上がろうとした時、
『……もう君は、帰ってこないと、思っていた…』
『え?』
『もう僕の傍には二度と来ないだろうと………』
『ぼく、が……?』
その言葉に…ショーティは、ただただアーネストの肩を抱き寄せた。そして自分の胸元に深く閉じ込めるように抱きしめる。
『馬鹿だなぁ、アーネスト』
この時は、冷え切ったアーネストを、心から温めたかった。誰にも傷つけられないように、守りたかった……。
疲れ果てた、この人を。
『僕、キャッシュないよ。当然責任とってくれるよね?』
わざとそう告げて、無理やりアーネストについていった。
しかし、そこでのアーネストの生活に唖然とした。
これが本当にアーネストの生活?と思うほどの生活を送っていたのだった。
いや別に放蕩の日々を送っているというわけではないが、何というか…本を読んでいるか、寝ているか、酒か煙草を楽しん(?)でいるか…なのだ。しかも酒にはつまみがなかった!
あまり他人に説教できる生活を送っているわけでもないショーティでも、この状況はまずいだろと思う。身体にもよくはない。
そのため、朝昼晩と食事を用意しアーネストに食べさせたのだった。ここのキッチンに料理機能がなかったので、レトルトや市場から惣菜を買ってきて、何とか作ったのだ。
けれどもショーティのしたことはそれだけで、アーネストの空間を邪魔することはなかった。
食事の準備はするけれど、仕事があったため、朝コテージを出て夕方戻るという生活。
夕食の短い間、表情の変わらないアーネストを相手に今日の出来事を話し、その後は互いに自室に戻るといった単調なものだった。
それでも、明らかにアーネストの顔色は良くなっていき、ショーティは安心した。
何しろ流れでここに上がりこんだとはいえ、それをアーネストがどう思っているのかわからないのである。今のところはショーティがいることで気を遣っている様子はないが、何と言うか、いつものアーネストと違うことは否めなかった。それは貧血による顔色の悪さだけでなく。いつも以上に喋らないし、話も聞いているかいないかわからないし、常に笑みを絶やさない人物だったが、今は表情が一切なかった。
けれどスリにやられた時、呆れた表情はしていたから、反応できないということではないと思う。
おそらく表情が一切ない今でも、自分の存在が迷惑ならそれなりにリアクションはあるだろう。
出ていくのはいつでもできる。アーネストが嫌がっていないならいいよね。
そう自分にも言い訳をしながら、日々は過ぎていった。
そんなある日のこと、取材先で気に入られて夕食まで御馳走になり、更に待っている人がいるからと切り上げる口実を伝えたところ土産まで持たされるという歓待を受け……結局帰宅は日付が変わる時間だった。
アーネストが、心配だった。
彼が自分の帰りが遅いと心配しているとは全く思わなかったが、食事をしたかは心配だった。
けれど。
『—————アーネスト!?』
車から降りたショーティは、コテージの玄関に寄りかかったまま座り込んでいるアーネストに気付き驚いた。しかもコテージには明かりが一切ついていない。
『どうしたの!?電気もついてないし』
『……ショーティ………?』
そばに駆け寄りその肩を掴む。いくら夏の地中海とはいえ、その体は冷えていた。
『どうしたの?なんでここに…。電気もついてないし…もしかして誰か来た!?』
『……ひとりの時に、電気はつけたこと、ない』
だからかと思った。あの電気量の低さは。
しかしそれとは別に少し反応の鈍いアーネストを訝しく思い、膝をついて腕を掴む。
『アーネスト!』
すると、初めて瞳を開いて気付いたように…アーネストと目が合った。
『………ショーティ?』
『そうだよ、僕だよ。ショーティ・アナザーだよ。わかる!?』
反応が鈍いのは冷えた体のせいなのか。早く温めないととそう急くショーティとは反対に、アーネストはそこから動かなかった。
『ア…』
『なぜ‥……?』
『え?』
『どうして…あの時、僕とわかった?あの日僕はサングラスをして………』
囁くような声に、耳を傾ける。
再会した日のことだなと、すぐにわかった。
そんなの……。
『………わかるよ、アーネストだもん』
ショーティはそのまま支えるように、アーネストをただ優しく抱きとめた。
『ね、部屋に戻ろう……?』
アーネストを支えて立ち上がろうとした時、
『……もう君は、帰ってこないと、思っていた…』
『え?』
『もう僕の傍には二度と来ないだろうと………』
『ぼく、が……?』
その言葉に…ショーティは、ただただアーネストの肩を抱き寄せた。そして自分の胸元に深く閉じ込めるように抱きしめる。
『馬鹿だなぁ、アーネスト』
この時は、冷え切ったアーネストを、心から温めたかった。誰にも傷つけられないように、守りたかった……。
疲れ果てた、この人を。
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