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契約 ショーティver. ⑦

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 ………アーネストは、地中海沿岸のコテージにいた。

 出国時、名前すら変えて。

 当初、ここにアーネストがいるとは思わなかった。電気量が極端に低かったからである。アーネストは護身術も使えたが、社長である自分の立場も理解しセキュリティには厳しかった。確かに今回はアーネスト・レドモンここにありなどの宣伝はしたくなかっただろうけれど…普通セキュリティを組めば電気代はかかるだろう。いくら自然光発電があっても、ここまで使われていないのは不自然であった。

 様々な思いが交錯する中、ショーティは近場の仕事を片手に地中海へと向かった。

 調べた限りでは、人を雇ってないようであった。しかし普段、アーネストは生活の一切を他人の手に委ねて暮らしているのだ。

 本当に……アーネスト、かな?

 疑問が駆け巡るが、とにかく自分がここだと思った場所の確認をしないと、次に動けない。

 そんなショーティが山深い簡素なコテージで見つけたものは、密やかだったとはいえ侵入者に気づかないほど昏々と眠り続けているアーネストの姿だった。
 髪が幾分か伸びていたが、無精している姿ではなかった。寛いでいる中でも、きちんとしているところは彼らしくきちんとしている。

 なのに。

 …………………痩せたね、アーネスト……。

 ショーティが思ったのは、それだけだった。

 それ以上に、衝動に駆られそうだった。狂おしい程に抱きしめたかった。

 人の気配さえ届かないこんな山深い場所でしか、安息を得られないアーネストが切なすぎて。

 初めて……アーネストの孤独に触れたような気がした。はじめて、孤独が型どっているアーネストというものに、気付いた気がした。

 —————たまらない。

 涙が、止まらなかった。
 切なさも、止まない。
 そして……愛しさも次から次に込み上げてきた。どんどん溢れてきた。
 そのまま踵を返し麓へ帰る途中で、ふと、気付く。

 —————僕……、アーネストのことこんなに好きだったんだ。

 いつもの癖で、前髪を上にかきあげる。その時、一陣の風がショーティの髪を揺らし、その涙の露も誘った。





 —————まいったなぁ。

 ここ1週間ショーティは、そんな言葉とため息を友にして過ごしていた。片手間に持ってきた仕事はとうに片付き、厚かましくも次の依頼を押しの一手で頼まれ、こんなことしている場合じゃないんだけどと思いつつ地中海沿岸にいてもいい理由になるため受けたりしていた。

 その日は何をする気も起らず、宿泊してあるホテルの近くにある市場へとむかった。やはり人々の華やかな活気の中にいると、不思議と気分が落ち着いてくる。

 アーネスト……。

 あの日から考えない時は一刻もなかった。ただちょとやそっと調べたくらいではわからないように細工したのは、アーネストである。たぶん弱っている姿を誰にも見せたくはないのだろう。そこはショーティもわかった。だったら……と思う。
 会わない方がいい?そう思う反面、あのアーネストを残していく不安も強く、結果ここを離れられないのである。

 なんだかなぁ……。月の時の方が、アーネストらしかったよ……。

 負け惜しみとそんな感情ではなく、地球に降りてからのアーネストを見て、ショーティはそう思う。

 うん、そう。人を脅すくらいがアーネストらしい。

 ぶらぶらと歩いていると、思考はいつの間にかアーネストのことを考えるようになっていた。

 その時。

『お、悪ぃな』

 後ろから思い切りドンと押される。

『わっ』

 押されると同時に、時計型デバイスのブザーが鳴った。スキャニング!?そうも思うが、あまりに突然のことにショーティは無理やり現実に引き戻され、自分が果物の屋台に突っ込みそうだと悟る。やばいと思うが、自分での方向転換はできなかった。

 しかし。

 突然ふわりと支えられる。

『ぼーっとして、何をしているんだ……』

 後ろから、明らかな呆れとため息の混ざった声。でも、何よりも、掴まれた瞬間に香る……。

『アー……』

 倒れる寸前のところを後ろから抱き留めてくれた相手を振り返ると、サングラスに長めの金髪、服はこんなの着るんだと思うくらい別人のものだった。

『しかもスリなんかにやられて』

 久し振りの会話だというのに、容赦のない台詞である。それでもその“らしさ”に思わず笑みが零れた。アーネストがこういう言い方をするのもショーティだからこそであって、お客様には決して言わないだろう。
 そう思うだけで、泣きたくなるほど喜びが溢れてきた。

『………知ってて、助けてくれなかったの、アーネスト?』

 だから、そう軽口で返したのだった。




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