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騒がしい彼らの日常
~時と場合に……?
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「紹介は…して貰えそうにないようですな」
二人の…というより軽い舌打ちをしてしまったショーティの視線をくみ取り、けれど今やそんなことはどうでもいいようにふくよかな体格に似合う微笑みを浮かべながら、
「もし、かの方が株を売るようなら即買い取りますのでご心配なく」
ゴールドマンはそのように楽しそうに伝えてきた。そのまま少しずつ距離を詰めようとするが、
「いえ、そこまでして頂かなくても大丈夫です」
アーネストはキッパリと首を振った。今日はもうその話をしたくはなかった。
隣にいるショーティが口を開くかと思われたがここはトレイシーの顔で素知らぬふりを決め込むようだった。舌打ちは聞こえていたが、アーネストは躱すように足を踏み出す。しかしこれほど面白いものを逃す手はないとでも言いたそうにゴールドマンは逃がさない。
「いやいや、今回のことであなたのクライアントの会社は衆目を集めた。ましてやあなたが体を張って守っているとくれば十分にアピールになりましょう。ですから株価は上がる。今が買い時だと思いますよ?」
「…さあ、私には結果はわかりかねますが」
「わからない?アーネスト……アナザーともあろう者が?ご謙遜を」
「あなたほどではありませんよ、ミスター・ゴールドマン」
「これは。お褒めにあずかり光栄ですな」
褒めてない…。嫌味も通じないというか下手に解釈されて、珍しく腹立たしかった。空気のように扱われるのが嫌だとしても、ここまで憎まれ口を叩かなくてもいいだろうにと苦々しく思う。しかもこれでは相手の思う壺で、年の功かと思ってしまうとそれを認めるのも腹立たしい。
なので、そのままゴールドマンの横を二人で過ぎた。
その時、ふ…と思った。自分はこんなに感情が動く人間だったかな…と。久し振りに会った他人の言動にこんなに心が揺れるとは。
だから、隣のショーティを見た。散ったとはいえ、リードとのやり取りは衆目を集めていたために、ちらちらと視線を向けてくる輩もいる。けれど、そんな中でもアーネストの腕に手をかけて、白いドレスで颯爽と立ち向かうショーティ。その強さが本当に魅力的で隣に居てくれることがこれほどに心強く感じられて……。
「……君が、僕を変えてくれたね?」
不意に落とされる言葉に、ショーティはじっとアーネストを見上げていたが、すぐに前を向く。アーネストが会場をリードしているとはいえ、人波は自身でもかわしていくためだ。しかしあんなことがあったにも関わらず、相変わらずアーネストに挨拶したがる人は多い。ダンスホールまでは、時間がかかりそうだなと思う。
そしてショーティは視線だけをアーネストに向けた。
「……僕が?————基本は、変わってないんじゃない?アーネストは」
アーネストは挨拶相手に軽い会釈で済ませながら、会話は続く。
「———そうかな…?」
「うん。秘密主義のところとか」
「別に秘密主義なわけではないよ。必要な時にはショーティに話してるし。ただ敵を欺くためには味方からと言うだろう?」
「味方を欺く必要ある?」
「時と場合に寄るかな」
「じゃあ、今回は時と場合だったわけだね?」
「ショーティ?」
そこで二人はホールに着いた。向かい合いにっこりと笑みを向けるショーティは、やはり容姿が女性のそれであるために、可愛らしくアーネストの目に映る。そしてホールドして、滑るようにステップを踏み始めた。やや明るめの音楽に、開き直れば強いショーティの度量にアーネストは少しだけ苦笑をこらえ、問いかけを置き去りにしたまま、しばらくは互いにダンスに酔いしれることにした。
二人の…というより軽い舌打ちをしてしまったショーティの視線をくみ取り、けれど今やそんなことはどうでもいいようにふくよかな体格に似合う微笑みを浮かべながら、
「もし、かの方が株を売るようなら即買い取りますのでご心配なく」
ゴールドマンはそのように楽しそうに伝えてきた。そのまま少しずつ距離を詰めようとするが、
「いえ、そこまでして頂かなくても大丈夫です」
アーネストはキッパリと首を振った。今日はもうその話をしたくはなかった。
隣にいるショーティが口を開くかと思われたがここはトレイシーの顔で素知らぬふりを決め込むようだった。舌打ちは聞こえていたが、アーネストは躱すように足を踏み出す。しかしこれほど面白いものを逃す手はないとでも言いたそうにゴールドマンは逃がさない。
「いやいや、今回のことであなたのクライアントの会社は衆目を集めた。ましてやあなたが体を張って守っているとくれば十分にアピールになりましょう。ですから株価は上がる。今が買い時だと思いますよ?」
「…さあ、私には結果はわかりかねますが」
「わからない?アーネスト……アナザーともあろう者が?ご謙遜を」
「あなたほどではありませんよ、ミスター・ゴールドマン」
「これは。お褒めにあずかり光栄ですな」
褒めてない…。嫌味も通じないというか下手に解釈されて、珍しく腹立たしかった。空気のように扱われるのが嫌だとしても、ここまで憎まれ口を叩かなくてもいいだろうにと苦々しく思う。しかもこれでは相手の思う壺で、年の功かと思ってしまうとそれを認めるのも腹立たしい。
なので、そのままゴールドマンの横を二人で過ぎた。
その時、ふ…と思った。自分はこんなに感情が動く人間だったかな…と。久し振りに会った他人の言動にこんなに心が揺れるとは。
だから、隣のショーティを見た。散ったとはいえ、リードとのやり取りは衆目を集めていたために、ちらちらと視線を向けてくる輩もいる。けれど、そんな中でもアーネストの腕に手をかけて、白いドレスで颯爽と立ち向かうショーティ。その強さが本当に魅力的で隣に居てくれることがこれほどに心強く感じられて……。
「……君が、僕を変えてくれたね?」
不意に落とされる言葉に、ショーティはじっとアーネストを見上げていたが、すぐに前を向く。アーネストが会場をリードしているとはいえ、人波は自身でもかわしていくためだ。しかしあんなことがあったにも関わらず、相変わらずアーネストに挨拶したがる人は多い。ダンスホールまでは、時間がかかりそうだなと思う。
そしてショーティは視線だけをアーネストに向けた。
「……僕が?————基本は、変わってないんじゃない?アーネストは」
アーネストは挨拶相手に軽い会釈で済ませながら、会話は続く。
「———そうかな…?」
「うん。秘密主義のところとか」
「別に秘密主義なわけではないよ。必要な時にはショーティに話してるし。ただ敵を欺くためには味方からと言うだろう?」
「味方を欺く必要ある?」
「時と場合に寄るかな」
「じゃあ、今回は時と場合だったわけだね?」
「ショーティ?」
そこで二人はホールに着いた。向かい合いにっこりと笑みを向けるショーティは、やはり容姿が女性のそれであるために、可愛らしくアーネストの目に映る。そしてホールドして、滑るようにステップを踏み始めた。やや明るめの音楽に、開き直れば強いショーティの度量にアーネストは少しだけ苦笑をこらえ、問いかけを置き去りにしたまま、しばらくは互いにダンスに酔いしれることにした。
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