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騒がしい彼らの日常
~もはや何を取り繕えば
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時は10分ほど、遡る。
テーブル席に座り、ショーティはいつもの癖で人波を観察していた。誰かを集中して見るのではなく、ただぼうっと踊る人の群れを見ていた。
その時、不意にワイングラスがタン!とテーブルに置かれた。勢い余って…ワインの表面は揺れ、テーブルに一つ赫い染みができる。
え?
ショーティは不意に現実に戻されたように、目を瞬かせ、ワイングラスを掴むその人物へと視線を移す。だが急に現実に引き戻され、少しぼうっとしていた。何が起こったか、すぐに判断できなかったのである。
しかし。
「あなたが、トレイシー・リスキー?」
そんな、冷ややかな響きが降ってきた。おかげでショーティも、しっかりと目覚めたのだった。
そして、げっと思う。なぜリードがここにいるのかと。
この人どうすんの、アーネスト!?などと思うが、この場にいない相手に相談できるはずもない。アーネストは、あまりこの女性とトレイシーを会わせたくないようであった。端から会わせる気がなかったりしてなどど思ったりもしたが、まさかねと否定する。それは、意味のないことだった。この女性とは一度きっちりと話をつける必要があると…何かが囁くのだ。
だいたいルシードから聞いた話では(情報料は取られた)、アーネストに無理を言ってきたのは草月の1回だけではないようだった。会社は何してるんだと思う反面、アーネストがこの仕事を続ける限りこの女性が声をかけるチャンスはいくらでもあるのだ。前はエメラーダというバックがいてそれなりに牽制されていたが、今はフリーである。止められるはずもない。
そしてそこまで考えた時に、胸がちくりとした。
どうしてこの人とけりをつけるのが、僕じゃ…ショーティ・アナザーじゃ駄目なわけ?
別に…女性を相手に力づくでけりをつけるつもりはなかった。
『トレイシーくらいでいいんだよ』
ある日真面目にアーネストに告げたら、そう返された。
ショーティが出るまでもないと言っているのはわかっているが、いつでもアーネストを守るのは自分でありたいのだ。そんな思いを、おそらくアーネストは知らないのだろうし知らせるつもりもなかった。そう……アーネストが知る必要などないのだ。それは、ショーティの勝手な思いなのだから。それに何より、そんなことを伝えたらアーネストが無茶しようとする時にショーティに一切何も言わないだろうことは目に見えていた。今でさえ半分そんな状態なのに、これ以上など絶対にごめんだった。アーネストに隠し事をされると、本当にわからないのだ。深謀遠慮そのもののアーネストには一つ一つが意味のあることで、だからその時に話されることが全てではなかった。
そこまで考えた時、ショーティの中で何かが弾けた。
なんで僕が、蚊帳の外にいないといけないわけ!?
よくよく考えなくても、アーネストは自分のものなのである。少なくとも、1度は愛を囁かれている。なのに、本来不毛であるはずのアーネストの隣の座を巡る戦いで、なぜ自分が主張してはいけないのか!?
そう考えると同時に、ショーティはにこりとしてミズ・リードを見た。
それはトレイシーの笑みではなく、ショーティの笑みであった。
「?」
それは今まで遠くから見ていたトレイシーの幸せそうな笑みとは違っていて、リードは一瞬不審に思う。
……少女(公開されている年齢は20代であるが)世の中の綺麗なものだけを見て、それが世界の全てだと言われ育ってきた印象しかなかった。それは決して上流階級の家で育ったとかそういう意味ではなく…ただ世の中の苦しみも何も知らず順調な人生を歩んできた者というものだった。そこには、だから愚かな小娘という意味が含まれていた。……のだが。
「……ええ。私がトレイシー・リスキーです。けれど……あなたは?」
「まぁ。あたくしのこと、アーネストから聞いていないのかしら?」
「すみません。…彼からは全く」
無邪気なふりをして、トレイシーは語った。当然余裕の笑みである。
「彼は、自分の交友関係を無理して覚える必要はないからと、それで良いと言ってくれてますわ」
「そうね、お飾りの関係には必要ないことだわね」
「そうですね。目移りしないでと、誰にも見せたくない、君は天使だと毎日優しく囁いてもらっていますし」
「!」
「彼はしっかりと家庭を守ってくれればいいと言ってくれました。私は彼の望む通りになれるかしら」
席を立ち、にっこりと笑みを浮かべるトレイシーはリードを見つめた。それは、何も知らない少女の瞳ではなかった。
「ど、どこの馬の骨ともしれないくせにっ」
「それは関係のないことでしょう?アーネスト・レドモンも元を辿れば『馬の骨』だもの」
これはアーネストの受け売りであった。アーネストから言われると『いやいやいやそれだけではないでしょ』と言いたくなるが、当然この場ではそんあことは噯にも出さない。
「レドモン家を馬の骨ですって?」
「わたしは別に、レドモン伯爵家のアーネストを好きになったわけではないので」
——————これは、真実。
「では、今あなたがしている指輪の出所を知っていて?」
「指輪?」
………この時になり左手薬指に嵌められた、ルビーの指輪の存在を思い出す。そして…ショーティはまさかと思う。
これって……レドモン家のやつ?
「……い…いえこれは、もう…君にあげたものだから…。ガラス玉だから…気にする必要は…ないって」
声が…怒りで震えた。
しかし…、今は知らぬ存ぜぬで通すしかない。謂れを知る必要はないと、ただ渡したいだけだからと優しく諭されただけだと。
~~~~何…馬鹿にしてるの!?アーネスト!?
可愛さ余って憎さ100倍とは、このことだと心底思う。
なんのつもりで、こんな謂れのある指輪を渡したのさ!?意図があったのなら、なんで教えてくれないのさ!?
その時に、パシャというやや小気味よい音がした。
立っているトレイシーのオーガンジー部分に、赫いしずくが滴っていた…。
テーブル席に座り、ショーティはいつもの癖で人波を観察していた。誰かを集中して見るのではなく、ただぼうっと踊る人の群れを見ていた。
その時、不意にワイングラスがタン!とテーブルに置かれた。勢い余って…ワインの表面は揺れ、テーブルに一つ赫い染みができる。
え?
ショーティは不意に現実に戻されたように、目を瞬かせ、ワイングラスを掴むその人物へと視線を移す。だが急に現実に引き戻され、少しぼうっとしていた。何が起こったか、すぐに判断できなかったのである。
しかし。
「あなたが、トレイシー・リスキー?」
そんな、冷ややかな響きが降ってきた。おかげでショーティも、しっかりと目覚めたのだった。
そして、げっと思う。なぜリードがここにいるのかと。
この人どうすんの、アーネスト!?などと思うが、この場にいない相手に相談できるはずもない。アーネストは、あまりこの女性とトレイシーを会わせたくないようであった。端から会わせる気がなかったりしてなどど思ったりもしたが、まさかねと否定する。それは、意味のないことだった。この女性とは一度きっちりと話をつける必要があると…何かが囁くのだ。
だいたいルシードから聞いた話では(情報料は取られた)、アーネストに無理を言ってきたのは草月の1回だけではないようだった。会社は何してるんだと思う反面、アーネストがこの仕事を続ける限りこの女性が声をかけるチャンスはいくらでもあるのだ。前はエメラーダというバックがいてそれなりに牽制されていたが、今はフリーである。止められるはずもない。
そしてそこまで考えた時に、胸がちくりとした。
どうしてこの人とけりをつけるのが、僕じゃ…ショーティ・アナザーじゃ駄目なわけ?
別に…女性を相手に力づくでけりをつけるつもりはなかった。
『トレイシーくらいでいいんだよ』
ある日真面目にアーネストに告げたら、そう返された。
ショーティが出るまでもないと言っているのはわかっているが、いつでもアーネストを守るのは自分でありたいのだ。そんな思いを、おそらくアーネストは知らないのだろうし知らせるつもりもなかった。そう……アーネストが知る必要などないのだ。それは、ショーティの勝手な思いなのだから。それに何より、そんなことを伝えたらアーネストが無茶しようとする時にショーティに一切何も言わないだろうことは目に見えていた。今でさえ半分そんな状態なのに、これ以上など絶対にごめんだった。アーネストに隠し事をされると、本当にわからないのだ。深謀遠慮そのもののアーネストには一つ一つが意味のあることで、だからその時に話されることが全てではなかった。
そこまで考えた時、ショーティの中で何かが弾けた。
なんで僕が、蚊帳の外にいないといけないわけ!?
よくよく考えなくても、アーネストは自分のものなのである。少なくとも、1度は愛を囁かれている。なのに、本来不毛であるはずのアーネストの隣の座を巡る戦いで、なぜ自分が主張してはいけないのか!?
そう考えると同時に、ショーティはにこりとしてミズ・リードを見た。
それはトレイシーの笑みではなく、ショーティの笑みであった。
「?」
それは今まで遠くから見ていたトレイシーの幸せそうな笑みとは違っていて、リードは一瞬不審に思う。
……少女(公開されている年齢は20代であるが)世の中の綺麗なものだけを見て、それが世界の全てだと言われ育ってきた印象しかなかった。それは決して上流階級の家で育ったとかそういう意味ではなく…ただ世の中の苦しみも何も知らず順調な人生を歩んできた者というものだった。そこには、だから愚かな小娘という意味が含まれていた。……のだが。
「……ええ。私がトレイシー・リスキーです。けれど……あなたは?」
「まぁ。あたくしのこと、アーネストから聞いていないのかしら?」
「すみません。…彼からは全く」
無邪気なふりをして、トレイシーは語った。当然余裕の笑みである。
「彼は、自分の交友関係を無理して覚える必要はないからと、それで良いと言ってくれてますわ」
「そうね、お飾りの関係には必要ないことだわね」
「そうですね。目移りしないでと、誰にも見せたくない、君は天使だと毎日優しく囁いてもらっていますし」
「!」
「彼はしっかりと家庭を守ってくれればいいと言ってくれました。私は彼の望む通りになれるかしら」
席を立ち、にっこりと笑みを浮かべるトレイシーはリードを見つめた。それは、何も知らない少女の瞳ではなかった。
「ど、どこの馬の骨ともしれないくせにっ」
「それは関係のないことでしょう?アーネスト・レドモンも元を辿れば『馬の骨』だもの」
これはアーネストの受け売りであった。アーネストから言われると『いやいやいやそれだけではないでしょ』と言いたくなるが、当然この場ではそんあことは噯にも出さない。
「レドモン家を馬の骨ですって?」
「わたしは別に、レドモン伯爵家のアーネストを好きになったわけではないので」
——————これは、真実。
「では、今あなたがしている指輪の出所を知っていて?」
「指輪?」
………この時になり左手薬指に嵌められた、ルビーの指輪の存在を思い出す。そして…ショーティはまさかと思う。
これって……レドモン家のやつ?
「……い…いえこれは、もう…君にあげたものだから…。ガラス玉だから…気にする必要は…ないって」
声が…怒りで震えた。
しかし…、今は知らぬ存ぜぬで通すしかない。謂れを知る必要はないと、ただ渡したいだけだからと優しく諭されただけだと。
~~~~何…馬鹿にしてるの!?アーネスト!?
可愛さ余って憎さ100倍とは、このことだと心底思う。
なんのつもりで、こんな謂れのある指輪を渡したのさ!?意図があったのなら、なんで教えてくれないのさ!?
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