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騒がしい彼らの日常
~開始の合図は華やかに
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「何?」
多少引き気味になるショーティであったが、そのそら豆大の赤い石のついた指輪が薬指に収められた。
「…………これ、ガラス玉?」
そう、アーネストに問うた。あのアーネストが贈ろうとするものである。いくら透明で…通常より大きな石だとて、それはありえない。ありえないと思うが…そう思わないとつけられないと思いそうな品物だった。
しかし、アーネストは
「そう、ガラス玉」
ショーティの質問になんでもないもののように、答える。
「…………アーネスト…、これ、借り物?」
「いや、君への贈り物」
「………ガラス玉って…冗談?本気?」
「もう君のものだから、どちらでも」
「これもらっても、二度と使わないよ。だから別に」
「今回の件がおわったら、スーツにつけられるブローチにでも加工しようか」
「だから…僕はアーネストからもうもらってるからいらないよ。それにブローチはつけないし」
そう薬指を見ながら…ショーティはアーネストへと視線を移した。
「アーネストは?アーネストは、指輪、どうしてる?」
ショーティは無くさないように、家に置いてきたのだ。アーネストもそうなのかな…と思って、聞いただけだったが
「ここにあるよ、ショーティ」
そうしてショーティの手を取ると、アーネストは自分の胸元へと持っていく。シャツの向こうに、鎖につながれたリングがあった。
「…いつもここにあるよ、ショーティ」
今回はショーティとの件をリセットしているため、アーネストは結婚指輪を外していた。
「これじゃ駄目かな?」
ショーティは…指輪に気付いて、ただただアーネストを見つめた。
「…違う…そうじゃなくて……キスしたい」
「だめだよ。せっかくのルージュが落ちる……」
そうしてアーネストは、トレイシーの額や頬にそっとキスをした。
不思議と…この空間は、二人の気持ちが重なっているようで…神聖めいたものに思えた。
しかし車の外に一歩出ると…、そこはフラッシュの嵐だった。
ああ、僕もあっち側なんだけどねぇ。ショーティは素直にそう思うが、このフラッシュは凄いとも思った。
まずはアーネストが降り、そしてエスコートされてトレイシー・リスキーが降り立ったのだった。その瞬間のフラッシュは夥しいもので、トレイシーは驚いたように呆然としていたが、アーネストが何やら耳元で囁くと微笑み返してアーネストに導かれるように歩き出した。
その初々しい反応に、周囲がさらにシャッターを切ったことは言うまでもない。
何を囁いたのか、これは後日までゴシップを賑やかすこととなるが、今はそんなことを気に掛けることもなく二人は緋色の絨毯を踏みしめてパーティ会場の扉をくぐった。
「すっごい顔ぶれ。インタビューして回りたいよ」
そう囁くショーティに
「トレイシー、浮気はしないようにね?」
アーネストは茶目っ気たっぷりに囁き返す。
当然中は、豪華絢爛。綺羅の世界であった。男性は黒のタキシードであるが、女性群はここぞとばかりに綺羅に着飾っている。シャンデリアの光の加減か身に着けた宝石の加減かわからないほどのきらめきだった。それらが黒に映え、尚のこと彩り鮮やかな光を放つ。
しかしそんなものよりも何よりも、女性陣の視線の方が鋭い光を放っていたが。
「全く…刺されそうだね」
アーネストに極上の笑みを向けながら、そう語るトレイシーに
「それは…君への熱い視線のことかな?僕の天使…全く浮気性な人だよ」
「ちがっ……!!」
そんな軽口の応酬の果てに、勝利と言わんばかりにアーネストはトレイシーの頬にキスをした。
当然、周囲はざわりとした。……それから視線が厳しくなったのは気のせいじゃないと、ショーティは思う。
「アーネスト、正気?」
「見せつけておこうと思ってね」
「これ以上煽んなくて、いいんじゃない?」
「そう?まだ序の口だよ?」
だからおばさんだけじゃなく、周りも煽ってるんだってばという言葉は、トレイシーの作り笑いに消された。
会場に入るや否や、アーネストの前には次から次に人が挨拶に訪れるのだ。そして相手の視線は当然隣に立つトレイシーに向けられ、視線が合うたびに笑顔を返さなければならなかったのだ。もう引きつりそうなどと弱音すら吐く暇がないほどである。けれども全くショーティ収穫がなかったわけではない。数人ほどこの人物と知り合いだったんだと確認し、少し懐が温かくなった気がしたのだった。
そして、ワルツの音楽が流れ始める。それとともに軽やかな衣擦れの音も一斉に響きだす。
「踊っていただけますか?」
「Yes,Sir!」
楽し気にそう返すと、二人はそっと寄り添い踊り出したのだった。
人々の視線が、集中する気配が伝わる。
それでも二人は、まるで二人の世界を作るかのように優雅に踊り続けた。実際踊り出すと…ショーティは周囲の視線は気にならなくなった。いやそんなことを気にするタイプではないのだが、それでもアーネストの体温を感じ、その香りに浸ると……本当にどうでもよくなったのだ。まあこんなに寄り添ったのも久々である。それだけでも嬉しかったというのが、本音である。
アーネストが、完璧にリードしている。だからトレイシーは導かれるままに、アーネストを見つめながらステップを踏むだけでよかった。
だから二人への視線は、噂の興味本位のものだけでなかったのだ。
そんな中、二人を見つめる一つの視線に気づいたのは、アーネストだった。
ダンスを終えた後、トレイシーを壁際のテーブルへと誘い、ワイングラスを渡す。
「トレイシー、ここで少し待っていてくれないかい?」
「アーネスト?どこに?」
「ちょっとね、すぐに戻るよ」
「……傍にいるんじゃなかったの?」
訝し気に、ショーティが聞いてきた。さすがショーティと思うが、煩わしい虫を撃退しないことにはトレイシーを守り切れない。
「ごめん、ちょっとトイレ」
「え?あ、ああ!ごめん」
アーネストは、素のショーティに戻ったトレイシーにくすりと笑う。
「仮面をはがされないようにね、トレイシー。大人しく待ってておくれ」
そして頬にキスすると、アーネストはゆっくりとその場から離れたのだった。
多少引き気味になるショーティであったが、そのそら豆大の赤い石のついた指輪が薬指に収められた。
「…………これ、ガラス玉?」
そう、アーネストに問うた。あのアーネストが贈ろうとするものである。いくら透明で…通常より大きな石だとて、それはありえない。ありえないと思うが…そう思わないとつけられないと思いそうな品物だった。
しかし、アーネストは
「そう、ガラス玉」
ショーティの質問になんでもないもののように、答える。
「…………アーネスト…、これ、借り物?」
「いや、君への贈り物」
「………ガラス玉って…冗談?本気?」
「もう君のものだから、どちらでも」
「これもらっても、二度と使わないよ。だから別に」
「今回の件がおわったら、スーツにつけられるブローチにでも加工しようか」
「だから…僕はアーネストからもうもらってるからいらないよ。それにブローチはつけないし」
そう薬指を見ながら…ショーティはアーネストへと視線を移した。
「アーネストは?アーネストは、指輪、どうしてる?」
ショーティは無くさないように、家に置いてきたのだ。アーネストもそうなのかな…と思って、聞いただけだったが
「ここにあるよ、ショーティ」
そうしてショーティの手を取ると、アーネストは自分の胸元へと持っていく。シャツの向こうに、鎖につながれたリングがあった。
「…いつもここにあるよ、ショーティ」
今回はショーティとの件をリセットしているため、アーネストは結婚指輪を外していた。
「これじゃ駄目かな?」
ショーティは…指輪に気付いて、ただただアーネストを見つめた。
「…違う…そうじゃなくて……キスしたい」
「だめだよ。せっかくのルージュが落ちる……」
そうしてアーネストは、トレイシーの額や頬にそっとキスをした。
不思議と…この空間は、二人の気持ちが重なっているようで…神聖めいたものに思えた。
しかし車の外に一歩出ると…、そこはフラッシュの嵐だった。
ああ、僕もあっち側なんだけどねぇ。ショーティは素直にそう思うが、このフラッシュは凄いとも思った。
まずはアーネストが降り、そしてエスコートされてトレイシー・リスキーが降り立ったのだった。その瞬間のフラッシュは夥しいもので、トレイシーは驚いたように呆然としていたが、アーネストが何やら耳元で囁くと微笑み返してアーネストに導かれるように歩き出した。
その初々しい反応に、周囲がさらにシャッターを切ったことは言うまでもない。
何を囁いたのか、これは後日までゴシップを賑やかすこととなるが、今はそんなことを気に掛けることもなく二人は緋色の絨毯を踏みしめてパーティ会場の扉をくぐった。
「すっごい顔ぶれ。インタビューして回りたいよ」
そう囁くショーティに
「トレイシー、浮気はしないようにね?」
アーネストは茶目っ気たっぷりに囁き返す。
当然中は、豪華絢爛。綺羅の世界であった。男性は黒のタキシードであるが、女性群はここぞとばかりに綺羅に着飾っている。シャンデリアの光の加減か身に着けた宝石の加減かわからないほどのきらめきだった。それらが黒に映え、尚のこと彩り鮮やかな光を放つ。
しかしそんなものよりも何よりも、女性陣の視線の方が鋭い光を放っていたが。
「全く…刺されそうだね」
アーネストに極上の笑みを向けながら、そう語るトレイシーに
「それは…君への熱い視線のことかな?僕の天使…全く浮気性な人だよ」
「ちがっ……!!」
そんな軽口の応酬の果てに、勝利と言わんばかりにアーネストはトレイシーの頬にキスをした。
当然、周囲はざわりとした。……それから視線が厳しくなったのは気のせいじゃないと、ショーティは思う。
「アーネスト、正気?」
「見せつけておこうと思ってね」
「これ以上煽んなくて、いいんじゃない?」
「そう?まだ序の口だよ?」
だからおばさんだけじゃなく、周りも煽ってるんだってばという言葉は、トレイシーの作り笑いに消された。
会場に入るや否や、アーネストの前には次から次に人が挨拶に訪れるのだ。そして相手の視線は当然隣に立つトレイシーに向けられ、視線が合うたびに笑顔を返さなければならなかったのだ。もう引きつりそうなどと弱音すら吐く暇がないほどである。けれども全くショーティ収穫がなかったわけではない。数人ほどこの人物と知り合いだったんだと確認し、少し懐が温かくなった気がしたのだった。
そして、ワルツの音楽が流れ始める。それとともに軽やかな衣擦れの音も一斉に響きだす。
「踊っていただけますか?」
「Yes,Sir!」
楽し気にそう返すと、二人はそっと寄り添い踊り出したのだった。
人々の視線が、集中する気配が伝わる。
それでも二人は、まるで二人の世界を作るかのように優雅に踊り続けた。実際踊り出すと…ショーティは周囲の視線は気にならなくなった。いやそんなことを気にするタイプではないのだが、それでもアーネストの体温を感じ、その香りに浸ると……本当にどうでもよくなったのだ。まあこんなに寄り添ったのも久々である。それだけでも嬉しかったというのが、本音である。
アーネストが、完璧にリードしている。だからトレイシーは導かれるままに、アーネストを見つめながらステップを踏むだけでよかった。
だから二人への視線は、噂の興味本位のものだけでなかったのだ。
そんな中、二人を見つめる一つの視線に気づいたのは、アーネストだった。
ダンスを終えた後、トレイシーを壁際のテーブルへと誘い、ワイングラスを渡す。
「トレイシー、ここで少し待っていてくれないかい?」
「アーネスト?どこに?」
「ちょっとね、すぐに戻るよ」
「……傍にいるんじゃなかったの?」
訝し気に、ショーティが聞いてきた。さすがショーティと思うが、煩わしい虫を撃退しないことにはトレイシーを守り切れない。
「ごめん、ちょっとトイレ」
「え?あ、ああ!ごめん」
アーネストは、素のショーティに戻ったトレイシーにくすりと笑う。
「仮面をはがされないようにね、トレイシー。大人しく待ってておくれ」
そして頬にキスすると、アーネストはゆっくりとその場から離れたのだった。
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