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Birthday
scene.4
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scene.4
あ、と思ったのは後の祭りで、しばし腕のデバイスを睨みつけていたショーティだったが、そのまま打ち合わせの最中だったことを思い出し、小さな逡巡の後、部屋に戻った。
「お帰り~」
「無事解決?」
迎え入れる仲間たちが意味深に視線を送るが、それには答えず、小さく息を吐きながらイスに荒々しく腰を下ろす。アガサが入れたてのコーヒーを手ににっこりと笑いかけた。
「かなり不気味だけど?」
「いやいや、ショーティ自身、気付かぬうちにつけられたピアスの謎がなかなか解けなくてな?」
「モーセルは、どこぞの年上の女性につけられたって言うんだけど、」
「ほんとは、彼でしょう?」
「そうそう、イギリスの貴公子。アーネスト・レドモン様…っと今はアナザー氏よね」
「アガサはいつまで経っても彼の信者よね」
くすくすと笑う事務員とアガサの年齢差は20歳ほど、アガサはショーティよりも7歳年上だ。そしてショーティは思う。
まだまだアーネスト人気は健在だと。それは充分知り得ているのだが、
「ほんとのところ、どうなの?親しい友人だったわけでしょう?あんな記事書いちゃったけど、利害が一致したからだって言う人もいるし、ほんとのほんとにパートナーだって言う人もいるし」
はや2年が経過しているのにも関わらず仲間内でさえこんなことを聞いてくるのだ。他の親しくもない輩がどのように思っているのか察するに余りある。つまり通称マダムもそうなのだろうと思う。
「……どっちだと思う?」
素直に答えるのも癪に障るためにそう尋ねると、
「どっちでも、俺には関係ないけどな」
モーセルは軽く肩を竦めて言い放つ。
「私には関係あるわよ~!恋人だとしたら、このぐらい可愛くないと王子様ゲットできないってことでしょう?」
このぐらい、と指をさされたショーティは、小さくため息をついた。
20歳をとっくに越した青年に向かって可愛いの形容詞は嬉しくないし、アーネストはこの顔に惚れたわけではない。それでも……このエメラルドは…確かにいいと、思う。
悔しいけれど…。
~~~~
夜、気まずいながらも部屋へ戻ったショーティは、ほんの一瞬のあとほほ笑んで出迎えるアーネストに、
「ただいま…」と短く告げた。
「おかえり」
すぐに柔らかく答えられて、少しだけ自分の子供っぽさを確認する。
「…アーネスト、食事は?」
気を取り直して尋ねると、
「……仕切りなおしをしようと思ったんだけどね」
「ワン!」
答えるのは愛犬のかなんで、苦笑を見せるアーネストに、
「帰んないって言ったからね。それは、うん、ごめん。えっと……お礼、まだ言ってなかったから」
軽く視線を反らしたまま歩み寄り、手を伸ばせば届く距離でアーネストを見上げた。さらりとした金茶の髪がショーティの起こした風に揺れ、同じ色の瞳が優しさを含んで真っ直ぐに見つめてくる。
「これ…すっごい嬉しい。ありがとう」
ふわりと耳元の髪をかき上げ、ピアスに触れながらお礼を口にする。その時の恥ずかしさと言ったら。ほんのりと目元が赤くなったことに、アーネストが気付かないといいな、と思う。
「喜んで貰えてよかったよ。僕にもよく見せてくれるかな?」
穏やかな口調で更に距離を縮め、アーネストの指先が髪を梳く。瞬間、顔を小さく傾け、思わず目を閉じてしまったショーティは慌ててアーネストを振り返った。
「ワイン!飲みたい。確か、おいしい生ハムあったよね!キノコ、ソテーにして、…すぐ、準備するから……だから…」
「取っておきのシャンパンがあるよ。それに君の生まれ年のドイツの赤があったかな?それとも軽くカリフォルニア産?」
少しずつ距離を取りながら言い淀むショーティに、アーネストは笑みを浮かべながらそう促す。さくっとアルコールを嗜みたいショーティを十分に理解したアーネストの反応に、こういうところは本当に敵わないとショーティは思う。だからつい逃げてしまったけれど…。
「アーネスト」
「ん?」
呼びかけると振り返るアーネストの姿に、ああ、とショーティは深く頷いた。
こんなにも素直に振り返ってくれるようになったのは何時からだったんだろう、と小さく考える。
やっぱり誰にも譲りたくないし、渡したくない。今更だけれど、深くそう思う。
「言っておくけど…僕のほうが先に好きになったんだからね。
—————大好きだよ、アーネスト。誰よりも、何よりもアーネストが一番大切………だ、から………」
離れていた距離を詰めると、
「……うん。ありがとう」
キスが……降ってきた。
優しくついばむようなキス。
本当のところ、大切な人なんてできると思っていなかった。こんなにも何を置いても守りたいと思える人ができるなんて、なんて贅沢なんだろうと思う。
お腹が空いているし、アルコールを飲みたい気持ちもある。けれども………。
「………アーネスト」
肩越しに腕を回すと、うん、と微かに頷くようにアーネストの腕がショーティの腰に回される。
軽く背伸びをしながらアーネストの髪に触れるようにして頭を押さえ、その唇を覆う。薄く開いたアーネストの口腔内に忍び込み、その舌を思う存分に堪能しているはずなのに、声が溢れるのはやはりショーティの方で……。
「なんか…悔しいなぁ」
ギュッと抱きしめてくるアーネストの腕の中でショーティは小さくこぼした。
「ショーティ?」
「あ、ううん」
アーネストに覗き込まれて声になっていたことに気付いたショーティは、慌てて抱きついたままの腕に力を込めた。
もっと…もっと、もっと!!
アーネストが僕に溺れてくれればいいのに、と願う。
誕生日くらい、そんな贅沢なことを願っても良いのではないかと、今まで生きてきて初めてそう感じた。
「アーネスト…ごめん、やっぱり食事より先に………」
かーっと頬が熱くなる。けれども言わずにはいられない…。そして、それはきっと許されるはずで。
「抱いて、欲しい……かな」
ふんわりと空気が揺れた。思わず顔をあげると、その耳元にアーネストの手が触れる。
答えるように見つめてくるのは深く穏やかな瞳で、真っ直ぐにショーティを映す。
「いつでも…」
キスが落ちてくる。
「君がそう望むのなら」
心地よい声が身を包む。
それは11月末日、穏やかな夜のことだった……。
Birthday END
~・~・~・~・~・~・~
読んで頂き、ありがとうございます。presentのショーティ.verでした。案外アーネストには甘えまくりのショーティに自分でもちょっと驚きです。
あ、と思ったのは後の祭りで、しばし腕のデバイスを睨みつけていたショーティだったが、そのまま打ち合わせの最中だったことを思い出し、小さな逡巡の後、部屋に戻った。
「お帰り~」
「無事解決?」
迎え入れる仲間たちが意味深に視線を送るが、それには答えず、小さく息を吐きながらイスに荒々しく腰を下ろす。アガサが入れたてのコーヒーを手ににっこりと笑いかけた。
「かなり不気味だけど?」
「いやいや、ショーティ自身、気付かぬうちにつけられたピアスの謎がなかなか解けなくてな?」
「モーセルは、どこぞの年上の女性につけられたって言うんだけど、」
「ほんとは、彼でしょう?」
「そうそう、イギリスの貴公子。アーネスト・レドモン様…っと今はアナザー氏よね」
「アガサはいつまで経っても彼の信者よね」
くすくすと笑う事務員とアガサの年齢差は20歳ほど、アガサはショーティよりも7歳年上だ。そしてショーティは思う。
まだまだアーネスト人気は健在だと。それは充分知り得ているのだが、
「ほんとのところ、どうなの?親しい友人だったわけでしょう?あんな記事書いちゃったけど、利害が一致したからだって言う人もいるし、ほんとのほんとにパートナーだって言う人もいるし」
はや2年が経過しているのにも関わらず仲間内でさえこんなことを聞いてくるのだ。他の親しくもない輩がどのように思っているのか察するに余りある。つまり通称マダムもそうなのだろうと思う。
「……どっちだと思う?」
素直に答えるのも癪に障るためにそう尋ねると、
「どっちでも、俺には関係ないけどな」
モーセルは軽く肩を竦めて言い放つ。
「私には関係あるわよ~!恋人だとしたら、このぐらい可愛くないと王子様ゲットできないってことでしょう?」
このぐらい、と指をさされたショーティは、小さくため息をついた。
20歳をとっくに越した青年に向かって可愛いの形容詞は嬉しくないし、アーネストはこの顔に惚れたわけではない。それでも……このエメラルドは…確かにいいと、思う。
悔しいけれど…。
~~~~
夜、気まずいながらも部屋へ戻ったショーティは、ほんの一瞬のあとほほ笑んで出迎えるアーネストに、
「ただいま…」と短く告げた。
「おかえり」
すぐに柔らかく答えられて、少しだけ自分の子供っぽさを確認する。
「…アーネスト、食事は?」
気を取り直して尋ねると、
「……仕切りなおしをしようと思ったんだけどね」
「ワン!」
答えるのは愛犬のかなんで、苦笑を見せるアーネストに、
「帰んないって言ったからね。それは、うん、ごめん。えっと……お礼、まだ言ってなかったから」
軽く視線を反らしたまま歩み寄り、手を伸ばせば届く距離でアーネストを見上げた。さらりとした金茶の髪がショーティの起こした風に揺れ、同じ色の瞳が優しさを含んで真っ直ぐに見つめてくる。
「これ…すっごい嬉しい。ありがとう」
ふわりと耳元の髪をかき上げ、ピアスに触れながらお礼を口にする。その時の恥ずかしさと言ったら。ほんのりと目元が赤くなったことに、アーネストが気付かないといいな、と思う。
「喜んで貰えてよかったよ。僕にもよく見せてくれるかな?」
穏やかな口調で更に距離を縮め、アーネストの指先が髪を梳く。瞬間、顔を小さく傾け、思わず目を閉じてしまったショーティは慌ててアーネストを振り返った。
「ワイン!飲みたい。確か、おいしい生ハムあったよね!キノコ、ソテーにして、…すぐ、準備するから……だから…」
「取っておきのシャンパンがあるよ。それに君の生まれ年のドイツの赤があったかな?それとも軽くカリフォルニア産?」
少しずつ距離を取りながら言い淀むショーティに、アーネストは笑みを浮かべながらそう促す。さくっとアルコールを嗜みたいショーティを十分に理解したアーネストの反応に、こういうところは本当に敵わないとショーティは思う。だからつい逃げてしまったけれど…。
「アーネスト」
「ん?」
呼びかけると振り返るアーネストの姿に、ああ、とショーティは深く頷いた。
こんなにも素直に振り返ってくれるようになったのは何時からだったんだろう、と小さく考える。
やっぱり誰にも譲りたくないし、渡したくない。今更だけれど、深くそう思う。
「言っておくけど…僕のほうが先に好きになったんだからね。
—————大好きだよ、アーネスト。誰よりも、何よりもアーネストが一番大切………だ、から………」
離れていた距離を詰めると、
「……うん。ありがとう」
キスが……降ってきた。
優しくついばむようなキス。
本当のところ、大切な人なんてできると思っていなかった。こんなにも何を置いても守りたいと思える人ができるなんて、なんて贅沢なんだろうと思う。
お腹が空いているし、アルコールを飲みたい気持ちもある。けれども………。
「………アーネスト」
肩越しに腕を回すと、うん、と微かに頷くようにアーネストの腕がショーティの腰に回される。
軽く背伸びをしながらアーネストの髪に触れるようにして頭を押さえ、その唇を覆う。薄く開いたアーネストの口腔内に忍び込み、その舌を思う存分に堪能しているはずなのに、声が溢れるのはやはりショーティの方で……。
「なんか…悔しいなぁ」
ギュッと抱きしめてくるアーネストの腕の中でショーティは小さくこぼした。
「ショーティ?」
「あ、ううん」
アーネストに覗き込まれて声になっていたことに気付いたショーティは、慌てて抱きついたままの腕に力を込めた。
もっと…もっと、もっと!!
アーネストが僕に溺れてくれればいいのに、と願う。
誕生日くらい、そんな贅沢なことを願っても良いのではないかと、今まで生きてきて初めてそう感じた。
「アーネスト…ごめん、やっぱり食事より先に………」
かーっと頬が熱くなる。けれども言わずにはいられない…。そして、それはきっと許されるはずで。
「抱いて、欲しい……かな」
ふんわりと空気が揺れた。思わず顔をあげると、その耳元にアーネストの手が触れる。
答えるように見つめてくるのは深く穏やかな瞳で、真っ直ぐにショーティを映す。
「いつでも…」
キスが落ちてくる。
「君がそう望むのなら」
心地よい声が身を包む。
それは11月末日、穏やかな夜のことだった……。
Birthday END
~・~・~・~・~・~・~
読んで頂き、ありがとうございます。presentのショーティ.verでした。案外アーネストには甘えまくりのショーティに自分でもちょっと驚きです。
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