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Birthday

scene.3

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scene.3

「こ、これ、何!?」

 通話画面の向こうに現れたアーネストに、開口一番尋ねた言葉は微苦笑で受け止められ、

「何って…誕生日プレゼントだよ。誕生日おめでとう、ショーティ。気に入ってもらえたかな?」

 そのまま優雅にも、さも当たり前のように告げるアーネストに、やや拍子抜けしたショーティは、誕生日……と口内でつぶやいた。

 言われて見れば確かに誕生日だった。すっかり忘れていたショーティは、妙に自信ありそうなアーネストに、やられたと素直に思う。思うけれど、

「って言うか、こんな高価なものじゃなくても」
「………気にいらなかったかい?」

 そういう問題じゃなかった。アーネストは時折こう言う高価なものを先の理由で贈ってくれる。それはショーティ自身のことを良く考えてくれているのだから嬉しいことでもあった。けれど、ショーティは記念日を祝うことに慣れていない。両親も、

「そういえば、誕生日だったわね」とケーキを買うくらいだった。とは言っても月学園からこちら一緒に暮らしていないのだからそれは随分と幼い頃の話だ。

 ショーティ自身、アーネストに誕生日だからとプレゼントし始めたのは最近のことだった。それも過ぎた後になって(様々な諸事情と重なっていたのも事実)思い出し。そのため、アーネストに似合いそうで、自分にもわかりやすいもの、として贈ったのがクリスタルでできた楽器を演奏するキリギリスの置物。

 彫りが良くアーネストの生活の一部に似合いそうだなと思ったのが1つ。クリスタルの優雅さ、楽器を奏でるその姿をふとした空き時間に眺める、そんな余裕のある暮らしもいいなと思ったのも1つ。さらに言うなら、揃えるとオーケストラになるという一緒に暮らした年数を確認できる自分への褒美も兼ねて………。
 
 んんっ!わざとらしい咳払いを一つ交えたのは、自分の思考に少しだけ照れたからだったが、ふと、アーネストが声のトーンを落とし、更に溜息を一つつく。

 あ…。

「君に似合いそうだと思ってすぐに購入してしまってね…。やっぱりショーティの意見を聞いてからにすれば良かったかな」
「違う、違うよ、アーネスト。気に入ったよ。結構シンプルでかっこいいし。ルビーと違ってなんかこう、タイトに見せてくれるっていうか」

 それは事実。うん、間違いなく。と鏡の中の自分を思い出してみる。途端、嬉しいのだが、赤面した自身の情けない顔も思い出し、

「……本当に?」

 更に窺うようなアーネストの視線に、

「本当だって。周りに言われて…見たんだけど、自分でも自然で気に入ったよ。
たださあっ」

 思いきり肯定して、それからここからが本題だと言わんばかりに口を開くが、

「それは良かった。君に何を贈ろうかと、これでも必死に考えたんだよ」

 通話のその画面上で、見ため清廉な表情がにっこりと笑みを浮かべる。

 ルビーのピアスの時もそうだったが、それほど見た目を気にしないショーティだ。なのに、アーネストがこれほどの物を贈ってくれる……。これが他人に起きたことならば……。

『愛されてるねぇ』

 絶対にそう揶揄うはずで——————。

「!! ずるいよ、アーネスト!!」

「何がだい?」

 上気した頬を自覚して愛しい存在を睨みつけるが、アーネストは小さく笑いながら、

「今日は早く帰れるのかな?できればもう一度仕切り直しをしたいしね」

 などと言う。

 ——————仕切り直し!?

「~~~~『草月』も、僕へのプレゼントだったわけ?」
「そうだよ」

 勿論、という響きを否定せずに告げるアーネストは、

「だからショーティの好きなようにさせていただろう?」と続ける。

 先日の二人きりを満喫したデートがそのような事実を含んでいたとなると、

「何!? じゃああれ、僕の誕生日じゃなかったら即行、帰ってたわけ!?」
「多分……、ね。まあ、あれはあれで楽しませてもらったけど」

 なんだか、もう、どうしたいって………。

 深いため息がもれてきそうでしかし次の瞬間、ショーティは、はっとしたようにアーネストを見た。

 もしかして……。いや、だけど—————————!

「ショーティ?」

 その表情に気付いたのかアーネストが窺うように名を呼び、その響きに促されるまま、

「ね、アーネスト。……あの日…あ、愛してるって言ったのって、まさかと思うけど、僕の誕生日だったから…、とか?」

「————————————」

 初めての甘い囁き。何よりも身体の奥に触れ、心を満たしたその言葉…。が?

「……って言うか、その沈黙って、何?」

 ショーティの言葉には僅かながら怒気が含まれていた。しかし、

「いや、まあ…当たらずとも遠からずかな、とも思えて……」との答えは火をつけるには充分で。

「僕、今日帰らないからね!!」

 思った瞬間には、口から飛び出していた。

 そんなことないよ、とか。
 それもあるけどね、とか。
 もっと言葉はたくさんあるはずなのに、当たらずとも、遠からず!?

 じゃあ、じゃあ、誕生日じゃなかったら!?

「……そう。じゃあ、しょうがないね」

 怒り爆発のショーティに、しばしの沈黙の後告げるアーネストは深いため息をついた。そしてその響きのまま告げられて、ショーティ自身は思わず唖然としてしまう。

「……………アーネスト…?」
「『ショーティ・アナザー』が、帰ってくる気がないんだろう? じゃあ僕はお怒りが解けるまで待つしかないんじゃないかな。ね、かなん」

 アーネストの足元辺りで、妙に嬉しそうな「わん」という声がした。その声がなぜかさらにショーティの怒気に油を注ぎ、

「そうそうショーティ、そのピアスは外さないようにね。前と似たような細工がしてあるから」
「って言うかっっ!! いったい誰の誕生日だって!?」

 思い出したかのように告げる冷静なまでのアーネストに、ショーティは思わず通話を切っていた。

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