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Birthday
scene.2
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scene.2
先日のアーネストとのデートは久しぶりに2人の時間を満喫したものだった。ばたばたと忙しい日常の中で、ふっと腰を落ち着けたかのような安定した、そして充実した濃密な時間。けれど、ショーティには少しだけ気になる事があるのも事実だった。
通称マダムことミズ・リード。探偵を雇ってアーネストの動向を探らせていた女性だ。
『私が誰か知っているの!』
居丈高にそう聞かれて、噂だけ、と答えたらブチ切れそうになっていた割と年配の資産家の未亡人。
経済界に身を置くアーネストと全く関係ないとは言えない存在だった。そしてあの時アーネストは『直接的にはない』と言った。間接的にはあるのかもしれないし、今はない、と付け足されるのかもしれない。
どちらにしてもマダムがアーネストと繋がりを持ちたいことは目に見えている。
ショーティは、基本情報を思い返して軽くため息をついた。
時間と金を持て余した年配の女性。他に面白いものでも見つければいいのに、アーネストに目をつけた。
確かに、アーネストを知れば彼以上に楽しいものはないだろう。それはショーティも良く知っている。けれど、もっとスマートにこなして欲しいものだと思う。≪草月≫-あのような場所-で、喧嘩越し-あんな態度-をとればアーネストの対面に傷がつくじゃないか。
それとも—————それが狙いなのか。
アーネストを陥れて、そこを救おうという魂胆か。
—————まぁ弱っているアーネストは……実のところちょっとだけ可愛いとは、思う。
いやいや、そしてショーティは自分の思考を止めた。
マダムに関してはアーネストが対処すると言ったのだ。
ショーティとしては基本情報だけ押さえて、後は大人しくしておくつもりだった。気にならないと言えば嘘になるが、今年こそは穏やかな年末を過ごしたいというのが本音中の本音。
そもそもここ数年の年末年始は酷すぎた。
昨年は月から第一ステーションに渡り戻ってきたのは、年末ぎりぎり。その前は火星に行っていたし、さらに前はアーネストに徹底的に避けられていた……。
けれどそれも昔の話だった。
そう、今年こそは穏やかな年末を迎えたい。それには君子危うきに近寄らず。面白そうなネタでもスルーもありだと少しだけ方針転換をしているショーティだ。とは言え、まったく仕事をしないわけではない。
今日も今日とて、仕事の打ち合わせを兼ねて久しぶりに仕事仲間のオフィスを訪ねたショーティは、
「ね?」
「ああ、ほんとだ」
「え?」
事務員の女性と次の仕事で組むカメラマン2人の会話にようやく気付き顔を上げた。
「なに?何か、おもしろそうな事件?」
危うきに近寄らずではあるが、知りたいことは止められない。
「面白いって言うか、」
「事件って言えば事件よね」
「あれ?ショーティ、ピアス変えたのね?」
2人が意味深に顔を見合わせた時、入ってきた別の女性の一声に、
「え?」とショーティは大きな瞳をそのままに、思わず聞き返していた。
「あ~なんでそんな直球で聞いちゃうかなぁ」
ショーティ・アナザーを良く知る女性事務員が、だめねぇ、と言いながら頭を振り、
「で?それはやっぱり、プレゼントなのか?」
ショーティよりも10歳は軽く上だと言うカメラマンのモーセルも、冷やかすような口調で問い詰める。
「ちょっと、待って」
「紅もショーティらしかったけど、この色は…ナチュラルに綺麗ね」
「なんだかなぁ。私ならもっと軽ーいやつ贈っちゃうけどね」
絶対贈らないけどと付け足す女性に、
「どうして?」と事務員が聞き返す。
「だって、自分より色っぽくなっちゃうじゃない!だったら、ギャグで済ませちゃう」
「って、言うか、アカがなに?」
「…え?」
3人の楽しそうな会話が自分のことを示していると理解し、ショーティは怪訝に問い掛けた。途端、しん、と静まり返った室内でモーセルが低く声を上げながら、
「もしかして、ショーティ。気付いてない……なぁんてこたない、よな?」と軽く促すように問う。
「だから、何が?……そう言えばピアス、が、って……」
ふと思い、ショーティは自身の耳に指を伸ばした。そして既に馴染みきったピアスに触れながら、ガタン!とイスを鳴らすように立ち上がる。
「ショーティ、———————ピアスが変わったの、知らなかったの!?」
驚いたような、どこか楽しそうな響きを背にショーティは一路、洗面所へと向かう。
目の前にいたのは、相変わらず男性と言う精悍さとはかけ離れた面の自分で、それよりも何よりも少し長くなった栗色の髪から覗く耳元の…。
「ルビーじゃない……」
滅多に外すことないルビーのピアスはアーネストから贈られたものだった。特殊な趣向を持ちながら華やかさを失わない天然のそれは、ショーティ自身も非常に気に入っているものであったが、今その耳元を覆うのはグリーンの煌き。
「エメラルド…?」
装飾品は詳しくないが、有名な石、いや!そんなことよりも!
瞬間、頬がかーと音を立てて赤くなっていた。
赤面したまま栗色の髪の間に覗くグリーンの姿に、あの夜だ、と鏡の中のショーティが告げる。
明け方近くまで、解放求めたあの夜……。
いつにも増してアーネストの指先が優雅に泳いだあの夜。ついこの前のことだ。アーネストの一挙手一投足を思い出せるショーティとしては、目の前の鏡の中の自分の頬が、見なくても赤くなっているだろうことを知る。
だが、しかし、今はそんなことに現を抜かしている場合ではない。
ショーティは瞬時、デバイスに呼び出しを掛けた……。
先日のアーネストとのデートは久しぶりに2人の時間を満喫したものだった。ばたばたと忙しい日常の中で、ふっと腰を落ち着けたかのような安定した、そして充実した濃密な時間。けれど、ショーティには少しだけ気になる事があるのも事実だった。
通称マダムことミズ・リード。探偵を雇ってアーネストの動向を探らせていた女性だ。
『私が誰か知っているの!』
居丈高にそう聞かれて、噂だけ、と答えたらブチ切れそうになっていた割と年配の資産家の未亡人。
経済界に身を置くアーネストと全く関係ないとは言えない存在だった。そしてあの時アーネストは『直接的にはない』と言った。間接的にはあるのかもしれないし、今はない、と付け足されるのかもしれない。
どちらにしてもマダムがアーネストと繋がりを持ちたいことは目に見えている。
ショーティは、基本情報を思い返して軽くため息をついた。
時間と金を持て余した年配の女性。他に面白いものでも見つければいいのに、アーネストに目をつけた。
確かに、アーネストを知れば彼以上に楽しいものはないだろう。それはショーティも良く知っている。けれど、もっとスマートにこなして欲しいものだと思う。≪草月≫-あのような場所-で、喧嘩越し-あんな態度-をとればアーネストの対面に傷がつくじゃないか。
それとも—————それが狙いなのか。
アーネストを陥れて、そこを救おうという魂胆か。
—————まぁ弱っているアーネストは……実のところちょっとだけ可愛いとは、思う。
いやいや、そしてショーティは自分の思考を止めた。
マダムに関してはアーネストが対処すると言ったのだ。
ショーティとしては基本情報だけ押さえて、後は大人しくしておくつもりだった。気にならないと言えば嘘になるが、今年こそは穏やかな年末を過ごしたいというのが本音中の本音。
そもそもここ数年の年末年始は酷すぎた。
昨年は月から第一ステーションに渡り戻ってきたのは、年末ぎりぎり。その前は火星に行っていたし、さらに前はアーネストに徹底的に避けられていた……。
けれどそれも昔の話だった。
そう、今年こそは穏やかな年末を迎えたい。それには君子危うきに近寄らず。面白そうなネタでもスルーもありだと少しだけ方針転換をしているショーティだ。とは言え、まったく仕事をしないわけではない。
今日も今日とて、仕事の打ち合わせを兼ねて久しぶりに仕事仲間のオフィスを訪ねたショーティは、
「ね?」
「ああ、ほんとだ」
「え?」
事務員の女性と次の仕事で組むカメラマン2人の会話にようやく気付き顔を上げた。
「なに?何か、おもしろそうな事件?」
危うきに近寄らずではあるが、知りたいことは止められない。
「面白いって言うか、」
「事件って言えば事件よね」
「あれ?ショーティ、ピアス変えたのね?」
2人が意味深に顔を見合わせた時、入ってきた別の女性の一声に、
「え?」とショーティは大きな瞳をそのままに、思わず聞き返していた。
「あ~なんでそんな直球で聞いちゃうかなぁ」
ショーティ・アナザーを良く知る女性事務員が、だめねぇ、と言いながら頭を振り、
「で?それはやっぱり、プレゼントなのか?」
ショーティよりも10歳は軽く上だと言うカメラマンのモーセルも、冷やかすような口調で問い詰める。
「ちょっと、待って」
「紅もショーティらしかったけど、この色は…ナチュラルに綺麗ね」
「なんだかなぁ。私ならもっと軽ーいやつ贈っちゃうけどね」
絶対贈らないけどと付け足す女性に、
「どうして?」と事務員が聞き返す。
「だって、自分より色っぽくなっちゃうじゃない!だったら、ギャグで済ませちゃう」
「って、言うか、アカがなに?」
「…え?」
3人の楽しそうな会話が自分のことを示していると理解し、ショーティは怪訝に問い掛けた。途端、しん、と静まり返った室内でモーセルが低く声を上げながら、
「もしかして、ショーティ。気付いてない……なぁんてこたない、よな?」と軽く促すように問う。
「だから、何が?……そう言えばピアス、が、って……」
ふと思い、ショーティは自身の耳に指を伸ばした。そして既に馴染みきったピアスに触れながら、ガタン!とイスを鳴らすように立ち上がる。
「ショーティ、———————ピアスが変わったの、知らなかったの!?」
驚いたような、どこか楽しそうな響きを背にショーティは一路、洗面所へと向かう。
目の前にいたのは、相変わらず男性と言う精悍さとはかけ離れた面の自分で、それよりも何よりも少し長くなった栗色の髪から覗く耳元の…。
「ルビーじゃない……」
滅多に外すことないルビーのピアスはアーネストから贈られたものだった。特殊な趣向を持ちながら華やかさを失わない天然のそれは、ショーティ自身も非常に気に入っているものであったが、今その耳元を覆うのはグリーンの煌き。
「エメラルド…?」
装飾品は詳しくないが、有名な石、いや!そんなことよりも!
瞬間、頬がかーと音を立てて赤くなっていた。
赤面したまま栗色の髪の間に覗くグリーンの姿に、あの夜だ、と鏡の中のショーティが告げる。
明け方近くまで、解放求めたあの夜……。
いつにも増してアーネストの指先が優雅に泳いだあの夜。ついこの前のことだ。アーネストの一挙手一投足を思い出せるショーティとしては、目の前の鏡の中の自分の頬が、見なくても赤くなっているだろうことを知る。
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