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かなんの独り言
ワンワンワン!
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「え…!」
家のドアをくぐった瞬間の2の声に、ぼくは先に知ってたことを誇らしく思っていた。
「お帰り」
「ワン!(ボス!)」
だってね、だってね。ボスの匂いがしたんだ。ほんのりといい香り。2は気付かなかったみたいだけど。
なんかいいな。こんな早い時間にみんなが揃ってるって!
「アーネスト、早かったね。ちょうど良かった。ナダの店のパン。ほんとの焼き立て貰ってきたんだ。明日ぜひ店に寄って感想きかせてくれだって。アーネストが来ると客が増えるってもう、にっこにこ。明日の朝の散歩、僕もついていこうかな」
「ワォン?(朝の散歩に…2が?)」
見上げたぼくと同じようにボスが不思議そうな顔してる。
だってねぇ。朝の散歩、だよ?2が…ついてくるのかなぁ。ほんとにそうなら嬉しい、けど?
「朝の?…」
「なに?僕がついていくの、反対?」
「まさか。そんなはずはないよ?」
2の言葉にボスが柔らかい笑顔になる。やっぱりボスもみんながうれしい?
そうだよね!やっぱりそろってる方がいいよね!
「その笑顔かなぁ。やっぱり」
「え?」
「ナダがさ。パン屋のマスター。彼がアーネストのこと清廉だって」
「それは、嬉しいね」
「なんだかなぁ。ま、時々そうだけど、たまに、違うかなって…」
「ショーティ?」
「ワォン?」
なんだろ、なんだろ?
2ってばちょっと変だぞ?どうしたのかな?
「けど、皆そう思ってるんだよね。そして、目元も優しいその笑顔…。知ってる?あの通り、アーネストに出会える確立№1ってネットで流れたんだよ。熱烈ファンは未だ健在。言い寄られたりしてない?ちょっかい出してくるやつなんか、きっちり断ってよ?」
「そんなことは一度もないよ、ショーティ。君の杞憂こそ未だ健在だね」
キユウ…?なんかわかんない話になってきたなぁ。
「ワン(ね、ね、明日はみんなでお散歩なの?どーなの?)」
「自覚がないなぁ。かなんだって、そんなことないって言ってるよ?」
「ワン、ワン(そんなことないってなに??)」
2ってばすぐぼくの言葉作っちゃうんだから!ひどいよ。
あのね、ぼくが言いたいのは、明日のお散歩…。
「それなら、僕も確認したいことがあるよ?ショーティ」
「え?」
「ワン(ボス?)」
ボスの視線がまっすぐに2を見てる。
これってもしかして、野生の勘ってやつかな。
尻尾の先の毛一本を引っ張られた時のような、ぞわぞわって感じが背中を走った。その時引っ張ったのは2だったけど、今は引っ張られていないのにぞわぞわって。
バッハが言ってた。毛先がピリピリするのは良くないって。
なんだ、なんだ?
……なんか、なんかみょうな感じがする。
せっかくみんなそろってるのに…空気が変。
「ワォン」
2!きっと何かやったんだよ。さっさと謝った方がいいよ!
「…なに?」
ああ、それなのに、2ってばわざわざ聞いちゃった。
「公園なんかで寝ないでほしいと、僕は言ったよね?」
「!」
「ワン!ワン!(あ、そーだよ!それよくない!ぼく、すっごい心配するんだから)」
「……見た…の?」
「(!)」
2の元気のない声がちょっと珍しいなぁって、見上げた途端に目が合っちゃって。なんか怖いからそらしたんだけど…。
ペロンって、最後の水をなめ終わって、ボスを見る。
ボスはまっすぐに2を見てて。
う~ん。ぼくはどうしたらいいんだろう。
ちょっと考えたけど、しょうがないからそのまま足を投げ出して座り込んだ。う~ん。やっぱりもぞもぞ、感触が良くないなぁ。ソファに行こうかなぁって顔をめぐらせると。
「あ、れは…、ほんのちょっと。うっつらと…」
2の声に耳が立つ。
「ワン!(ウソだね)」
ちろりと2の視線がぼくを見るけど、ボスにウソついちゃいけないと思う。
やっぱりここにいて2のウソを暴かなきゃ。
「ショーティ」
「けど!セントラルパークなんて何人も寝てるし…」
うん。それは確かに。
「その間に誘拐なんてことにでもなったらどうするんだい?」
それも危ないよね。
「寝てる間に事件に巻き込まれるなんてこと」
「先日は、薬を盛られたね?事故で記憶を失ったこともあった。アルコールが入っていたとはいえ、ゴールドマンに簡単に連れ去られたね?」
「ワン!ワン!」
「そ、れは、けど!」
「事件が起きてからじゃ遅いんだよ?」
ほんとに不思議。
外じゃあんなに口が回る2なのに、ボスの前に来ると違う人みたい。口をパクパクさせて、けど、見てると2のこっわい視線がこっちにくるから知らないフリ。知らないフリ。
「…そんなに、信用ない?これでもそれなりに修羅場はくぐってきたよ。アーネストほどじゃなくてもね。ヘマはそりゃあったけど…」
2の声がポソポソと響く。ちろりとだけ見て、そしてボスを見上げると、あれ、ちいちゃなため息…?
「ワ…」
「言い方を変えようか?ショーティ」
どうしたのって聞きたかったんだけど、ボスの声にぼくは口を閉じた。なんだろ、何を言いたいのかなぁ。
「え?」
2もぼくと同じ顔してボスを見てる。
「ワ…」
ン……。
「君の寝顔を誰にも見せたくない」
「!」
うわっ。
2の顔が真っ赤。
こんなの初めて見る。だから、投げ出したまんまの足としっぽをしまうの忘れてて。
「ワウッ!!(いたぁぁぁ!)」
「ごめっ」
ボスに近づこうとした2がぼくのしっぽを踏んだ!!!!
ぞわぞわがいっせいに背中を走りぬけてお腹の方までたどり着く。
「(わ~~~ん!)」
「かなん」
2より先にボスに擦り寄ると、ふわふわって首元撫でられた。
もう、ほんとに落ち着きがないんだから!2ってば。
「そんなとこにのっそり寝てるからいけないんだよ」
なんで!ぼくのこと踏んどいてそれってあり???
ぼくは心配してたのに!
「……えっと。ねぇ。アーネスト。……パンよりも先にキスが欲しいんだけど?」
ぼくはキスよりもご飯がほしいけど。
ぼくを撫でたボスの手が2の首んとこに同じようにふわふわって寄せられた。
なんだか、パンよりもいい匂いがしてきたんだけど、それは食べ物じゃないみたい…?
ざんねん。
ん?んんんん?
2の手がボスの背中に回ってる………?
ボスの手が2の髪の毛、撫でてる…?
これって新しい、待ての合図だって最近気づいた。だからぼくはおとなしく隅っこの方で伏せて待つ。
けど、早めにご飯頂戴ね。
そして僕のブラッシングもよろしくね。
かなんの独り言 END
~・~・~・~・~・~・~
ちょっと視点を変えてみました!ちょっとでも楽しめたかなぁ。次は…ちらちら出てくるショーティの昔馴染みが集合?っぽい話です。短編なのに登場人物いっぱい…。
家のドアをくぐった瞬間の2の声に、ぼくは先に知ってたことを誇らしく思っていた。
「お帰り」
「ワン!(ボス!)」
だってね、だってね。ボスの匂いがしたんだ。ほんのりといい香り。2は気付かなかったみたいだけど。
なんかいいな。こんな早い時間にみんなが揃ってるって!
「アーネスト、早かったね。ちょうど良かった。ナダの店のパン。ほんとの焼き立て貰ってきたんだ。明日ぜひ店に寄って感想きかせてくれだって。アーネストが来ると客が増えるってもう、にっこにこ。明日の朝の散歩、僕もついていこうかな」
「ワォン?(朝の散歩に…2が?)」
見上げたぼくと同じようにボスが不思議そうな顔してる。
だってねぇ。朝の散歩、だよ?2が…ついてくるのかなぁ。ほんとにそうなら嬉しい、けど?
「朝の?…」
「なに?僕がついていくの、反対?」
「まさか。そんなはずはないよ?」
2の言葉にボスが柔らかい笑顔になる。やっぱりボスもみんながうれしい?
そうだよね!やっぱりそろってる方がいいよね!
「その笑顔かなぁ。やっぱり」
「え?」
「ナダがさ。パン屋のマスター。彼がアーネストのこと清廉だって」
「それは、嬉しいね」
「なんだかなぁ。ま、時々そうだけど、たまに、違うかなって…」
「ショーティ?」
「ワォン?」
なんだろ、なんだろ?
2ってばちょっと変だぞ?どうしたのかな?
「けど、皆そう思ってるんだよね。そして、目元も優しいその笑顔…。知ってる?あの通り、アーネストに出会える確立№1ってネットで流れたんだよ。熱烈ファンは未だ健在。言い寄られたりしてない?ちょっかい出してくるやつなんか、きっちり断ってよ?」
「そんなことは一度もないよ、ショーティ。君の杞憂こそ未だ健在だね」
キユウ…?なんかわかんない話になってきたなぁ。
「ワン(ね、ね、明日はみんなでお散歩なの?どーなの?)」
「自覚がないなぁ。かなんだって、そんなことないって言ってるよ?」
「ワン、ワン(そんなことないってなに??)」
2ってばすぐぼくの言葉作っちゃうんだから!ひどいよ。
あのね、ぼくが言いたいのは、明日のお散歩…。
「それなら、僕も確認したいことがあるよ?ショーティ」
「え?」
「ワン(ボス?)」
ボスの視線がまっすぐに2を見てる。
これってもしかして、野生の勘ってやつかな。
尻尾の先の毛一本を引っ張られた時のような、ぞわぞわって感じが背中を走った。その時引っ張ったのは2だったけど、今は引っ張られていないのにぞわぞわって。
バッハが言ってた。毛先がピリピリするのは良くないって。
なんだ、なんだ?
……なんか、なんかみょうな感じがする。
せっかくみんなそろってるのに…空気が変。
「ワォン」
2!きっと何かやったんだよ。さっさと謝った方がいいよ!
「…なに?」
ああ、それなのに、2ってばわざわざ聞いちゃった。
「公園なんかで寝ないでほしいと、僕は言ったよね?」
「!」
「ワン!ワン!(あ、そーだよ!それよくない!ぼく、すっごい心配するんだから)」
「……見た…の?」
「(!)」
2の元気のない声がちょっと珍しいなぁって、見上げた途端に目が合っちゃって。なんか怖いからそらしたんだけど…。
ペロンって、最後の水をなめ終わって、ボスを見る。
ボスはまっすぐに2を見てて。
う~ん。ぼくはどうしたらいいんだろう。
ちょっと考えたけど、しょうがないからそのまま足を投げ出して座り込んだ。う~ん。やっぱりもぞもぞ、感触が良くないなぁ。ソファに行こうかなぁって顔をめぐらせると。
「あ、れは…、ほんのちょっと。うっつらと…」
2の声に耳が立つ。
「ワン!(ウソだね)」
ちろりと2の視線がぼくを見るけど、ボスにウソついちゃいけないと思う。
やっぱりここにいて2のウソを暴かなきゃ。
「ショーティ」
「けど!セントラルパークなんて何人も寝てるし…」
うん。それは確かに。
「その間に誘拐なんてことにでもなったらどうするんだい?」
それも危ないよね。
「寝てる間に事件に巻き込まれるなんてこと」
「先日は、薬を盛られたね?事故で記憶を失ったこともあった。アルコールが入っていたとはいえ、ゴールドマンに簡単に連れ去られたね?」
「ワン!ワン!」
「そ、れは、けど!」
「事件が起きてからじゃ遅いんだよ?」
ほんとに不思議。
外じゃあんなに口が回る2なのに、ボスの前に来ると違う人みたい。口をパクパクさせて、けど、見てると2のこっわい視線がこっちにくるから知らないフリ。知らないフリ。
「…そんなに、信用ない?これでもそれなりに修羅場はくぐってきたよ。アーネストほどじゃなくてもね。ヘマはそりゃあったけど…」
2の声がポソポソと響く。ちろりとだけ見て、そしてボスを見上げると、あれ、ちいちゃなため息…?
「ワ…」
「言い方を変えようか?ショーティ」
どうしたのって聞きたかったんだけど、ボスの声にぼくは口を閉じた。なんだろ、何を言いたいのかなぁ。
「え?」
2もぼくと同じ顔してボスを見てる。
「ワ…」
ン……。
「君の寝顔を誰にも見せたくない」
「!」
うわっ。
2の顔が真っ赤。
こんなの初めて見る。だから、投げ出したまんまの足としっぽをしまうの忘れてて。
「ワウッ!!(いたぁぁぁ!)」
「ごめっ」
ボスに近づこうとした2がぼくのしっぽを踏んだ!!!!
ぞわぞわがいっせいに背中を走りぬけてお腹の方までたどり着く。
「(わ~~~ん!)」
「かなん」
2より先にボスに擦り寄ると、ふわふわって首元撫でられた。
もう、ほんとに落ち着きがないんだから!2ってば。
「そんなとこにのっそり寝てるからいけないんだよ」
なんで!ぼくのこと踏んどいてそれってあり???
ぼくは心配してたのに!
「……えっと。ねぇ。アーネスト。……パンよりも先にキスが欲しいんだけど?」
ぼくはキスよりもご飯がほしいけど。
ぼくを撫でたボスの手が2の首んとこに同じようにふわふわって寄せられた。
なんだか、パンよりもいい匂いがしてきたんだけど、それは食べ物じゃないみたい…?
ざんねん。
ん?んんんん?
2の手がボスの背中に回ってる………?
ボスの手が2の髪の毛、撫でてる…?
これって新しい、待ての合図だって最近気づいた。だからぼくはおとなしく隅っこの方で伏せて待つ。
けど、早めにご飯頂戴ね。
そして僕のブラッシングもよろしくね。
かなんの独り言 END
~・~・~・~・~・~・~
ちょっと視点を変えてみました!ちょっとでも楽しめたかなぁ。次は…ちらちら出てくるショーティの昔馴染みが集合?っぽい話です。短編なのに登場人物いっぱい…。
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