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英国の悪友たち

④ ~マリィ・ローズは優雅に微笑む

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「ねえ、賭けをしましょうか。」
「は?」
「アーネストが離婚するかどうかよ。結婚は…絶対するでしょう?アーサーはすぐに離婚するって言ったわね」
「すぐと言っても数年は」
「じゃあ何年?」
「せめて…2年かな?」
「いいわ。じゃあ結婚してから2年で離婚するかどうか賭けましょう?ただ待つにしても、賭けた方が楽しいわ」

 他人の人生を…楽しい?その感覚にヌーベルは眩暈を覚えた。しかし英国人であるアーサーは動じない。

「何を賭けるんだい?」
「そうね…。アーネストに会う順番はどうかしら。勿論電話がかかってきたら話していいわ。でも会うのはダメ。ペナルティありにするの」
「……ふむ、悪くない」

 少なくとも2年程度の、互いの牽制ができるのだ。1年で別れればアーサーに有利である。

「ヌーベル、あなたどうする?」

 嬉々として話を進めるマリィ・ローズに、どうするも何も、本当に決めてしまわれるのか冗談か見当がつかない。

「アーネストは別れる?別れない?」

 しかしここで自分の意見を言わないと、損することは間違えない。そのため、元からの自分の意見を伝えた。

「別れませんよ。偽装とは思えませんから」
「そうね。……私も誰か大切な人が出来たことに賭けたいわ。もうあの子が寂しがらないように」
「結婚したら…寂しくないわけじゃないだろう?自分を見たまえ」
「もう、空気を読んでちょうだい。今は私じゃないでしょ?自分だって一緒でしょ?」
「……ふむ。確かに。じゃあ、ペナルティは?」
「アーネストの前から姿を消す、で、どうかしら?もう一生アーネストに会えないの」
「それは厳しすぎます!わたしなんて会ったことすらないんですよ!仮に偶然遭ったとして、それもカウントされるんですか!?」

 さすがにヌーベルが悲鳴を挙げた。ムンクの叫びに負けない悲痛さだ。アーサーも眉間に皺を寄せ、難しい顔をしている。

「あら。これくらいしないと、約束胸に刻まれないでしょ?」
「いや…刻まなくていいから。君の感覚と我々を一緒にしないでくれるかい?」
「あ、では、宝石!宝石はどうですか?」

 ヌーベルが慌てたように提案した。

「宝石?」
「負けた方は、勝った方の望む宝石を差し上げるのです」
「まあ、いいの?嬉しいわ」
「いやマリィ、まだ君が勝ったわけじゃないから」

 アーサーがマリィに勘違いしないよう、釘を刺す。マリィ・ローズの恐ろしいところは、運を引き寄せる強さだ。それは空恐ろしいほどに。

 アーサーはぶつぶつと思う。アーネストの幸福を願うなら、わたしとの幸せも願っていいだろうにと。しかし彼女の第六感に引っかからないのか、そんな台詞は未だもって聞いたことがない。そう考えると、今回の賭けは自分の負けかもしれないなどと思ってしまうが、弱気は厳禁厳禁と自分を奮い立たせる。

「アーサー、ほしい宝石あるの?」
「……そうだね、わたしが勝てば原石をこの手にする手伝いをしてほしいね」
「あら、私ではないのね」

 ウインクして、茶目っ気たっぷりにマリィは言うが、

「……君は既に……宝石だろう」

 苦虫をつぶしたように、アーサーは告げた。

「………もしそれを叶えるために…あなたがアメリカ国籍にならざるをえなかったら?」
「かまわない」
「なら私が勝ったら、その時にほしい宝石を頂くわ。高いからって文句を言わないでね」
「ヌーベルは?」

 それぞれに十分な対価を払っている。ヌーベルは負けたら支払うくらいの感覚で『宝石』を提案したのだが、何かを言わないと信憑性に欠けそうな雰囲気である。

「………わたしも今思いつきませんので、その時にほしいもので」
「ふふ、あなたまで原石なんて言わないでね」
「それは…ないですよ」
「そうかしら?」

 妖しく微笑むマリィに見つめられドギマギしたが、話はそこまでで終わったのだった。



 そうしてマリィ・ローズは、淹れ直した紅茶を満足したように飲み干す。

「ふふ。会えるまでの楽しみができたわ」

 満面の笑みで、独りごちる。




 気まぐれの女神の采配は、皆様のご存じの通り——————。



   英国の悪友たち END


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