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turning point

限界 ①

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 そして、タクシーを降りた二人はコンドミニアムのエレベーターへと乗り込んだ。

 何かを言おうとショーティは思っていた。けれどまっすぐにアーネストを見られない。

 仕方がないじゃないか、と思う。

 言いたいことは山のようにあったのに、あんな風に抱き締められて……どうにかならない方がおかしい。

 見透かされないように、小さく息を吐きながら呼吸を整える。そうすることが逆に自分を苦しめているようで、ショーティは二人きりのエレベーターの中、重い沈黙ごと払拭しようと、

「……それで……?」と口を開いた。

「僕に言うことあるよね?」

 意を決したようにゆっくりと、強気の口調で、しかしやはり見据えるには恥ずかしさが拭えていないので…視線の端でアーネストを捉える。

「……ああ…うん。そうだね」

 すると、アーネストがやや落ち着いた様子で小さく頷いた。

 ショーティの姿がなく探していたことを考えるとこの状況は安堵でしかないのだが、ショーティからの言葉で、いやその姿を見た時から—————いや、送り出したあの時からずっと言いたかった言葉が今更にこみ上げてきた。言いたいことは一つだけだった。

「…お帰り、ショーティ」

 口元にだけわずかに笑みをみせる。

「!」

 その言葉に弾かれたように顔を上げたショーティは、アーネストの視線をまっすぐに受け止めてしまい、瞬間、身体の奥から湧き出す何かに翻弄されるようにかーっと赤面し、と同時に うわぁぁぁっ!と心の中で、叫んだ。

 10代でもあるまいし、今更アーネストの何にそれほど惹かれると言うのか!

 自分自身に言い聞かせるが、全てだよ、とも心の奥が告げる。

 けれどすぐに、制御できそうにないその全ての物をアーネストから隠そうと、

「……っ!…そうじゃなくて……仕事の話っ!」

 パーカーのフードの中に隠れるため深く被るように引っ張りながら叫んだ。
 妙に悔しくて、恥ずかしくて、けれど………すぐ傍にはアーネストが……いる。

 思わず安堵したかのように息をこぼすショーティは、いきなり腕を掴まれて反射的に顔を上げた。

「……っ」

 息を、飲む。
 至近距離でアーネストと視線が合い、動揺のまま一歩下がる。ただ目だけは反らすことが出来ずに……。

 ………距離が……近づいていた。

 まるでスローモーションのように、けれどそれは一瞬の間でしかない。逆らうはずもなく……逆らう気もなくて—————受け止める…。

 唇が…、重なった………。

 柔らかな、感触…。

「んっ…」

 逆らえる術がないように、避ける術を持ち得ていない。どころか誘うように唇を薄く開き、侵入してくる舌先に同じもので答える。

 何度も……重ねてきたキスだった。久しぶりのキス…。
 このキスがずっと欲しかった……!

 口腔内を自由に泳がせて……触れ合う—————。

 いつの間にかアーネストの指先が耳に触れて、パーカーのフードをするりとはぎ取っていた。栗色の髪が露わになり、その耳から首筋へかけてとアーネストの繊細な指先が進んでゆく。それだけなのに、ショーティは体の中心に生まれる熱を感じていた。脈動が身体中を揺らし、うまく立っていられなくなり………。

 ふと、アーネストがキスの角度を変えた時、目の端にエレベーターの階を知らせる数字が見えた。とたん、意識を取り戻す。そうだ!ここはエレベーターの中だ!と。

「ま、って…アーネ……人に…っ」

 見られたらと言いたいのに、アーネストのキスが止まることはなく、口腔に深く侵入してくるものに、舌が、…身体が反応しそうになる。

「ん…・・・・っ……んんっ————————」

 背がぞくぞくと疼きだしていた。快楽でしかない。その先を知っているからこそ、理性なんてものは存在しなくなる。けれど、身体のどこか片隅に、エレベーターの中だと言う事実が残って、さらにアーネストがそんな場所で、という背徳感とないまぜになり、何も考えられなくなりそうで、

「アーネストっ!」

 軽く離れた間際を狙ってその名を呼ぶが、すぐにキスで塞がれた。頭の後ろに回った手と、腰に回された腕で身動き一つできない。この密着は——————。

 5ヶ月の禁欲生活だった。身体の反応を抑えるだけで精一杯だ。

 ただ唯一考えたのが、このまま流されてたまるか、という思いだけで、ショーティは小さな苛立ちを持ってアーネストの背中を叩く。
 たとえそれがほんの僅かな抵抗だと知っていても……。
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